- はじめに
- 本書の使い方
- 第1章 オーセンティックな学びを取り入れた授業づくり 4つのポイント
- 1 カリキュラムづくり
- 1 なぜ社会科,地理を学ぶのか
- 2 オーセンティックな学び
- 3 知識の構築
- 4 学問に基づく(鍛錬された)探究
- 5 学校を超えた価値
- 6 学習者からみたオーセンティックな学び
- 7 地理学習でオーセンティックな学びを実現するために
- 2 単元・パフォーマンス課題づくり
- 1 単元全体の課題づくり
- 2 単元のデザイン
- 3 ポートフォリオづくり
- 3 授業・発問づくり
- 1 社会科の資質・能力の段階
- 2 発問の類型化
- 3 授業の組み立て
- 4 全員に力をつける(誰一人取り残さない)
- 1 環境のユニバーサルデザイン
- 2 学力のユニバーサルデザイン
- 3 意欲のデザイン
- 4 全員に力をつけるための授業デザイン
- オーセンティックな学びを取り入れた授業を成功させるためのチェックリスト
- 第2章 オーセンティックな学びを取り入れた授業展開&ワークシート
- 世界と日本の地域構成
- 単元1 世界の姿
- 単元2 日本の姿
- 世界の様々な地域
- 単元3 人々の生活と環境
- 世界の諸地域
- 単元4 アジア州
- 単元5 ヨーロッパ州
- 単元6 アフリカ州
- 単元7 北アメリカ州
- 単元8 南アメリカ州
- 単元9 オセアニア州
- 日本の様々な地域
- 単元10 日本の地域的特色@
- 単元11 日本の地域的特色A
- 日本の諸地域
- 単元12 九州地方
- 単元13 中国・四国地方
- 単元14 近畿地方
- 単元15 中部地方
- 単元16 関東地方
- 単元17 東北地方
- 単元18 北海道地方
- 単元19 身近な地域の調査,地域の在り方
- おわりに
はじめに
社会科に「本物の学び」を
社会科の授業は,社会の役に立つものになっているでしょうか。教科書の内容を理解させ,テストや受験で結果を出させることも,大事でしょう。しかし,現状として,そちらに重心が傾きすぎ,暗記教科という烙印を押されているのではないでしょうか。
社会科とは,本来「社会をよく理解し,より良い社会の形成者を育てる」教科であると言えます。そのような社会科を実現すべく,「本物の学び」=「オーセンティックな学び(authentic achievement)」が注目されています。
オーセンティックな学びの提唱者であるニューマンは,オーセンティックな学びの条件として,次の3つを挙げています。
・重要であること(importance):浅はかな活動主義でなく,学問の重要な概念や方法を扱うこと
・意味のあること(meaningful):断片的な知識の羅列でなく,課題に対して自分の意見を構築すること
・価値のあること(valuable):学校(テスト)以外の社会で役立つものであること
例えば,「東京などの大都市に,人口や産業などが集まることを何というか?」という課題は,3つのどれも満たしません。
「なぜ,東京に人口が集中するのだろう?」という課題になると,地理の重要な概念を用いるので,「重要さ」はクリアできそうです。しかし,後の2つは満たしません。
「東京への一極集中によって,どのような課題があるだろう?」という課題になると,「重要さ」と,自分の意見を持つために情報をまとめるので,「意味のある」の2つはクリアできそうです。しかし,残り1つは満たしません。
「東京への一極集中の課題を指摘し,解決策を提案しよう!」という課題になると,「重要さ」,「意味のある」,そして現代の政策の評価や決定にも活用できるので,「価値のある」もクリアできそうです。
このように,授業を劇的に変えるのでなく,普段の授業に「オーセンティックな学び」の要素を少し取り入れることで,社会で役に立つ学びにつながります。本書では,ニューマンの提唱するオーセンティックな学びを日本の社会科学習に取り入れるために,筆者がその要素を取り入れた社会科授業プランを提案します。
加えて,授業は楽しくあるべきです。テスト・受験重視の授業では,楽しくありません。楽しくなければ,学習者は学習に向かわず,無気力になるか,他のことをするか,授業を妨害します。楽しくない授業をして,授業が荒れる,学力がつかないのは,授業者の責任です。
「すぐできる!」「楽しく,力がつく!」,しかも「深くてタメになる」授業!
このようなことから,本書では,次の3つを重視した授業を提案します。
@オーセンティックな学びを取り入れ,「重要で,意味のあり,価値のある」学びに近づける
普段の授業を少し変えることで,オーセンティックな学びに近づける授業プランを提案しています。そのポイントは,理論編で解説します。
A学習者全員が参加できる,「楽しく,力がつく」授業デザイン
いくら学問的に優れたプランでも,学習者全員に力をつけない授業ではダメです。学習が苦手な子も楽しく学習に参加でき,全員に力がつく授業デザインを心がけて紹介しています。
Bすぐに実践できる,教科書ベースの授業展開 + ワークシート
大きく単元構成を組み替えることなく,一般的な教科書の流れを変えずに,オーセンティックな学びを取り入れた授業展開を提案しています。そのため,オーセンティックな学びという視点でみれば,不十分かもしれません。しかし,大事なことは普段の授業をオーセンティックな学習に近づけていくことです。そのため「すぐ実践できる」ことを優先しました。本書をベースに,ご自身でさらにより良い実践を開発していってください。
本書は,理論編と実践編で構成されます。
理論編は,次のように構成されます。まず,オーセンティックな学びの概要と3つの柱,地理学習でオーセンティックな学びをどのように取り入れるかを解説します。次に,単元レベルのデザインとして,単元全体の構成や単元全体の課題をつくるポイントなどを解説します。そして,授業レベルのデザインとして,社会科の資質・能力の階層に基づく発問の類型,それに基づく授業の組み立てを解説します。最後に,全員参加・全員に力をつける授業を行うためのポイントを解説します。
実践編は,地理学習を全19の単元で構成し,それぞれの単元を紹介します。各単元では,まず単元全体の構成を示し,後のページに単元内の授業を,展開案とワークシートで紹介します。
本書のウリは,「すぐできる!」「楽しく,力がつく!」,しかも「深くてタメになる」授業です。本書が,普段の授業づくりに悩まれている方,より良い授業を模索中の方の役に立てれば幸いです。
/梶谷 真弘
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- 明治図書
- 単元を貫く学習課題を考える上で参考になった。2024/6/2930代・中学校管理職