- はじめに
- 提言 資質・能力の明確化と教科の特質に応じた見方・考え方
- /北山 敦康
- 第1章 キーワードでみる学習指導要領改訂のポイント
- 〔共通事項〕の新設
- 主体的・協働的な音楽活動
- 実感しながら理解する知識の習得
- 創意工夫を生かした音楽表現をするために必要な技能
- 曲想と音楽の構造や文化的・歴史的背景などとの関わり
- 音楽表現の共通性や固有性
- 我が国や郷土の伝統音楽の充実
- 音楽科のカリキュラム・マネジメント
- 音楽によって生活や社会を明るく豊かなものにしていく態度
- 自分や社会にとっての音楽の意味や価値
- 第2章 事例でみる学習指導要領改訂のポイント
- 歌唱
- 音楽T 詩のリズムや語感を生かしてドイツ・リートを歌おう
- 音楽T イタリア歌曲の特徴や旋律の美しさを感じ取り,表現を工夫して独唱しよう
- 音楽T パートの特徴を生かして歌おう(混声二部合唱)
- 音楽U パートの関わりを生かして歌おう(混声三部合唱)
- 音楽V 表現の意図を生かして歌おう(ゴスペル)
- 器楽
- 音楽T 奏法による音色の違いを生かして箏を演奏しよう
- 音楽T バロック時代の表現を意識して演奏をしよう(リコーダー重奏)
- 音楽T ギターの二重奏で表現しよう
- 音楽U 奏でよう三線!味わおう沖縄!
- 創作
- 音楽T イメージをもってアレンジしよう
- 音楽T オノマトペのリズムや語感を生かしてリズム・アンサンブルをつくろう
- 音楽U テクスチュアを工夫してカノンをつくろう
- 鑑賞
- 音楽T 人々が音楽を愛好する理由
- 音楽T 音楽と物語の関わりから,自分の音楽の聴き方を見つけよう
- 音楽U 「祇園精舎」再発見
- 音楽V 音楽と人間との関わり〜音楽を通じて私たちができること〜
- 付録 教科の目標,各学年・各科目の目標及び内容の系統表
はじめに
平成26年11月の文部科学大臣による諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」を受けて,中央教育審議会に設置された教育課程企画特別部会は,新しい時代にふさわしい学習指導要領の基本的な考え方や,教科・科目等の在り方,学習・指導方法及び評価方法の在り方等に関する基本的な方向性についての審議を重ね,平成27年8月に教育課程部会としての「論点整理」をとりまとめました。平成27年の秋以降,その論点整理の方向に沿って教科等別・学校種別に専門的な検討が進められ,平成28年8月の「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」,同年12月の「幼稚園,小学校,中学校,高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」が出されました。そして,平成29年3月に幼稚園教育要領,小学校学習指導要領,中学校学習指導要領の改訂が告示され,続いて平成30年の3月30日には高等学校学習指導要領の改訂が告示されました。高等学校については,1年間の周知・徹底期間と3年間の移行期間ののち,平成34年度から年次進行で実施されることになっています。
昭和22年と26年の試案を経て,昭和33年に小・中学校の学習指導要領が現在のような大臣告示の形で定められるようになって以来,学習指導要領は,ほぼ10年ごとに全面改訂が行われて今日に至っています。実施時期については学校種ごとに若干の違いがあるものの,改訂に当たっては,時代の変化を先取りする形で教育目標やそれに応じた内容が明確に示されました。高等学校芸術科(音楽)においても,それぞれの時代ごとに次のような特徴が見られます。
芸術科(音楽)学習指導要領の変遷
告示・実施年/特徴
昭和35年告示(昭和38年実施)/試案では独立した領域であった「理論」を「表現」と「鑑賞」の中に含めて扱うこととし,学問的系統性をもった基礎的な学力を重視した。
昭和45年告示(昭和48年実施)/小・中学校と同様に新たな領域として「基礎」が加えられ,音楽的基礎知識(読譜,ソルフェージュ,楽典的な内容)が重視された。
昭和53年告示(昭和57年実施)/目標が総括的で簡潔な表現になり,指導内容が基本的事項に精選された。領域から「基礎」が外され,「表現」と「鑑賞」の2領域になった。
平成元年告示(平成6年実施)/小・中学校との系統性がより一層重視され,我が国の伝統音楽や世界の民族音楽,即興的な音楽表現などの指導事項が充実するようになった。
平成11年告示(平成15年実施)/学習に関する評価内容や方法が確立され,評価の観点を明らかにすることで「何を学ばせるか」が明確にされた。
平成21年告示(平成25年実施)/全ての音楽活動を支える基盤として「音楽を形づくっている要素」が示され,言語活動の充実が求められるようになった。
こうしてそれぞれの時代の特徴を見ていくと,学習指導要領は10年ごとに「刷新された」というよりも,それぞれの時代に求められていた学校教育への要請に応えつつ,それまでの成果に新たな視点を積み重ねながら改善されてきたということがわかります。そして,今回改訂された新学習指導要領の特徴は,「社会に開かれた教育課程」を実現するために学校教育の役割を見直し,各教科等の「見方・考え方」を明らかにして,未来の予測が困難なこれからの社会に対応できる能力を育成しようとする未来志向にあると言えるでしょう。それを具体化するために,新しい時代に必要となる「資質・能力」の育成を「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力等」,「学びに向かう力,人間性等」の「三つの柱」で整理し,教科の特性を生かした「主体的・対話的で深い学び」を通して,学んだことの意味や価値を自覚するとともに,それを生活や社会などと関連付けることで,心豊かな生活や文化的な社会の創造へとつなげていくことのできる力を養うこととしました。
本書では,そうした高等学校新学習指導要領の質的な展開をより明確にするために,まず第1章で芸術科(音楽)における「見方・考え方」や新たな時代への方向性を10項目のポイントに絞って論説し,第2章では,「主体的・対話的で深い学び」の実現,実感を伴った知識の習得,主体的に技能を活用する授業,協働的な活動を取り入れた授業などの実践的な授業事例を16の題材を用いて示しました。第2章の授業事例を構成するに当たっては,音楽Tから音楽Vまで(分野によっては音楽Uまで)の系統性を考慮して構成し,音楽Tの事例については,題材の異なる複数の事例を掲載して内容に多様性をもたせたり,新たに設定された〔共通事項〕を生かしたりして,領域や分野が横断的に構成されるように工夫しました。
また,巻末には小学校音楽科から高等学校芸術科(音楽)までの教科目標と指導内容等の系統表を見開きで掲載しました。今回の改訂では,小・中学校での学習の基礎の上に立って,それまでに学んだことをさらに深く,文化的・歴史的背景などと関連付けて指導が行われることが求められています。第2章の授業事例はこうした小・中学校からの系統性を意識して書かれており,実際に読者が授業を構想するに当たっても,この系統表が有益に働くことを期待しております。
最後になりましたが,本書の作成に関わってご執筆いただいた先生方と,企画の段階からご助言をいただいた明治図書出版の木村悠氏に心から感謝申し上げます。新学習指導要領の全てを網羅することはできませんでしたが,ここで取り上げた改訂のポイントや授業事例を芸術科(音楽)の教育に携わる教員の皆様のお役に立てていただけることを期待するとともに,この本がこれからの音楽教育の発展に寄与できることを心より願っております。
平成31年2月 /北山 敦康
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- 明治図書