- まえがき
- Chapter1 解説編 探究学習の質を高める情報活用型PBL
- 1 探究の質を読み解く
- 2 POINT1 教科を横断して学びを支援する
- 3 POINT2 探究を支える学習環境をデザインする
- 4 POINT3 探究の主体になる
- 5 POINT4 個別最適な学びで主体性を発揮する
- 6 POINT5 協働による学びの深まり
- 7 POINT6 ルーブリックで学びの質を言語化する
- Chapter2 実践編 ステップアップがわかる小・中・高等学校の情報活用型PBLプラン
- 1 小学校の情報活用型PBLプラン
- 1 2・3年・図画工作・国語「東別院小学校の小さな住人」
- 東別院小学校に住む小さな住人を1年生に紹介しよう
- 2 3年・国語「本をしょうかいしよう」
- 西ノ島小学校の友だちに読んでもらいたい本を選んで,ビデオレターで紹介しよう
- 3 4年・社会「住みよいくらしをつくる」
- みんなのごみを減らそう!
- 4 4年・体育・学級活動「リズムダンス」
- ダンスの魅力を伝えよう
- 5 5年・算数「帯グラフと円グラフ」
- あいさついっぱいの学校にしよう
- 2 中学校の情報活用型PBLプラン
- 6 1年・国語「話題や展開をとらえて話し合おう」
- 地域の活性化のアイデアを観光協会の方に伝えよう
- 7 1年・数学「平面図形の活用」
- ミウラ折りの新しいアイデアを提案しよう
- 8 2年・社会「日本の諸地域―近畿地方―」
- 近畿地方が「より良い」地域として,さらに発展していくためには,どのようなことを重視していくべきなのか
- 9 2年・美術「地域を紹介する皿」(オリジナル教材)
- 地域の良さや価値を伝える文様を探して作った作品の発表を通して,地域の魅力や良さを提案する
- 10 3年・数学「標本調査とデータの活用」
- 自分たちの睡眠時間をもとに,「疑問」や「問い」をさらに追究してみよう
- 11 3年・技術・家庭「B 生物育成の技術」
- 地域の自然環境に配慮した新たな視点の野菜づくりを提案する
- 3 高等学校の情報活用型PBLプラン
- 12 2年・公民「平等権の保障」
- 富士見Diversity Weekを開催しよう!
- 13 2年・外国語(英語コミュニケーションU)「Japan’s Secret Health Food」
- 自分にとっての「元気になるご飯」を世界の人に伝えよう!
- 14 2年・農業と環境「ハクサイ」
- 自分たちが栽培した野菜を売り出してみよう
- 15 3年・理科(化学)「高分子化合物」
- 身のまわりのプラスチックについて,ジブンゴトとして考えよう
- 16 3年・外国語(選択科目:時事英語)「クリエイティブ・ライティング」
- 英語でオリジナルの物語を書こう
まえがき
旅に出ようと思う,夕食の献立を考える,私たちは日々の生活で「どうしようかな?」とふと立ち止まることがあります。その度に,頭の中にあるものを引っ張り出し,スマホで調べたり,友だちに相談したりして考える材料(=情報)を集めます。集めた情報は,冷静に比較検討することもあれば,直観でこれだ!と選ぶこともあります。その結果,素敵な旅や美味しい食事を楽しめることもあれば,がっかりすることもあります。そして,余程の手痛い思いをしない限り,また出かけたいと思いますし,外食続きには罪悪感を覚えることもあります。
引っ越し,自分の将来のこと,人生で大きな決断をする際には,このプロセスをより慎重に,そして大きな勇気を持って行うことがあるでしょう。共通するのは,どれもが紛れもなく自分事であることです。唯一の正解はなくとも,自分の頭で考え,判断し,その結果を引き受けるのも自分自身です。そしてその行動は,旅をする仲間,旅先での出会い,食材の買い出し,食卓を囲む相手など,自分事であっても,常に周囲の人や環境に何らかの影響を及ぼします。
OECDラーニング・コンパス2030が提示した「生徒エージェンシー」は,生徒が学びを自分事として引き受け,周囲に働きかけ,より良い人生や世界をつくるための力です。これからの時代を子どもたちが生きていく上で大切な考え方だと思います。その一方で,子どもたちは日々,自分の人生を生きているはずなのに,授業になると急にお客さんと化してしまうのはなぜでしょうか。先生がOKを出すかどうかが基準になるのはなぜでしょうか。誰に伝えるわけでもない発表をこなしさえすれば,すべて終わったような顔をするのはなぜでしょうか。
前著『探究する学びをデザインする!情報活用型プロジェクト学習ガイドブック』では,探究学習の中でも,児童生徒が実現したい願い(=ミッション)を明確に持って課題解決に取り組むプロジェクト型学習の授業デザイン技法を提案しました。その際,次のようなツールを開発し,これらを用いた先生方向けの単元づくり研修・ワークショップを各地の学校現場,教育センター,セミナー等で展開してきました。
・児童生徒が探究する際に行う活動をカードにした「学習活動カード」
・単元全体の設計要素をまとめた「単元デザインシート」
・探究を遂行する際の学習スキルである「情報活用能力」の目標リスト
・探究の質を見極め,教科の目標達成と探究をつなぐ「思考×表現ルーブリック」
・主体的・対話的で深い学びにつながる手立てやICT活用を集めた「指導方略」集
先生方との対話を重ねていった結果,教師主導の「やらされ探究」や,児童生徒が楽しく活動していても学びとして深まらない「おまつり探究」を避けるために,次の3つのステップを順に取り組む流れが見えてきたため,それをNADモデルと名付けました。
・Narrate(物語る):PBLのミッション・成果物を定め,学習活動カードで子どもの探究ストーリーを構想する
・Analyze(分析する):育成・発揮する情報活用能力を見極め,思考×表現ルーブリックで学びの質を掘り下げる
・Design(設計する):探究を支える指導方略や子どもの探究を支えるICT活用を位置づけ,授業プランを明確にする
各ツールのダウンロード,ステップそれぞれの検討事項や留意点は筆者のウェブサイトにまとめてあります(Chapter1解説編p.22を参照)。加えて,前著では小中高校15の各教科での情報活用型PBLの実践事例を収録しました。なお,「情報活用型PBL」は,大学の卒業研究のように個人で長期にわたる探究をデザインするものではなく,教科の単元をPBLに発展させて,総合的な学習(探究)の時間の学びとの橋渡しをする方法です。
子どもたちはいくつもの「プチPBL」をさまざまな教科・単元で繰り返し経験することを通して,探究の型を学び,スキルを身につけ,多様な教科の見方・考え方で追究する面白さを体験します。先生方は,探究する子どもたちの姿に慣れ,指導のポイントをつかみ,学びの質を見極め,高める・深めるための手立てを工夫できるようになっていきます。
2020年に前著を上梓したあと,コロナ禍やGIGAスクール構想による1人1台端末環境の実現など,学習環境は大きく変化しました。2022年に高等学校の学習指導要領が全面実施となり,探究への注目はますます高まっています。本書は,続編として大きく変化した学習環境のもとで情報活用型PBLをどのようにステップアップできるか先生方と試行錯誤した成果です。
解説編では,探究の質を高めるための視点として,6つのステップアップポイントの概要,実践事例との関係,さらに深めるための関連図書の紹介を試みました。実践編では,小中高あわせて16の実践を収録しています。前著から各事例のページ数を増量し,子どもたちが探究する姿の実際や,先生方の意図や実感がよりリアルに伝わるよう,工夫してみました。
NADモデルでは,子どもの視点に立って探究を「物語る」ことからはじめることを強調しています。どこかの誰かがつくったストーリーをなぞるだけでは,子どもたち以前に先生方自身が「やらされ探究」の最初の被害者になってしまいます。壮大なプロジェクトである必要はありません。まずは先生方自身が探究のデザイナーになり,自ら描いた物語にワクワクし,自分事としてとらえ,質の高い実践づくりに挑戦される際,本書がその一助になれば幸いです。
2022年8月 /稲垣 忠
※本書はJSPS科研費 19K03009の助成による成果を含みます。
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