- はじめに
- 第1章 乳児保育について
- 1 保育園の役割
- 2 乳児保育の課題
- 3 乳児保育の特性
- @養護と教育が一体的に行われる
- A運動機能の発達から始まる
- B子どもと保育者は共同している
- C保育者の専門的知識(知識・技術・組織する)
- 保育者が指導すること
- 組織すること
- 第2章 保育の仕事
- 1 計画
- @計画の種類
- クラスの概要
- 年間計画の作成
- 期案を立てる(空間,日課,道具)
- 月案
- 月案から週案へ
- 2 年間計画のドキュメント【2歳児組の例】(2021年度)
- @年間の計画
- A4月案
- B5月案
- CU期案
- D9月案
- 第3章 保育の実際
- 保育環境を組織する
- @保育室の空間を組織する
- 保育室に必要な機能
- 子どもにも見える,分かる環境条件
- 年齢的特徴を考慮した空間
- A日課(時間)
- 継続的な日課
- 育児の担当制
- 日課を組織する
- B道具・遊具
- 設備・家具
- 食事に使うもの
- 子どもが使う道具
- 第4章 育児について
- 1 育児の課題
- 2 育児の種類と段階
- 3 育児の実際
- @食事
- 子どもが学ぶこと
- 食べさせ方
- 移行する目安
- 食事準備の手順
- 献立・食器
- A排泄
- 排泄の間隔が一定する
- B睡眠
- 睡眠
- C衣服を着る・脱ぐ
- 衣服の着脱
- D抱き方・手をつないで歩く
- 抱き方
- 手をつないで歩く
- E清潔にすること
- 鼻をかむ
- 片付け
- 4 育児のまとめ
- @一人一人,子どもそのものを大切に!
- A学ぶことにはシステムがある
- B保育室の環境が基礎
- C分散した注目
- 第5章 遊びについて
- 保育者の課題
- @安心して自由に活動できる保育室
- A遊具・道具
- よい遊具の条件
- 基本的遊具
- 運動と遊びと遊具
- 遊具の収納
- 第6章 経験・美的活動
- 1 周りの自然・気象事象
- 2 美的体験・活動
- 3 保育者の声とことば
- 4 遊ばせあそび,わらべうた
- 5 ごろ合わせ,詩,小さなお話
- 6 子どもの活動
- 第7章 書類・記録・点検
- 1 記録
- @保育日誌
- A子どもの記録
- 2 保育内容の総括
- 3 点検のシステム・保育指導
- @観察
- 観察点と分折点を決める
- 観察の方法を選ぶ
- 観察をする
- A映像記録を使う
- B専門講師の指導
- C保育者の自己認識
- 第8章 保育園と家庭の協力
- 1 子どもと家庭を知る書類と機会
- 2 家庭とのコミュニケーション
- 参考文献
- おわりに
はじめに
私たちが乳児保育,やがては幼児保育の内容について改革を始めたきっかけは,“子ども達にわらべうたを返して”誰の中にもある音楽性から音楽教育を始めようということでしたが,乳児のクラスでも「生活のうた」で一斉保育が行われている中で,音楽だけを変えることはできませんでした。
保育内容の改革は,ハンガリーの保育理念・実践に学びながら,「子どもの尊厳を守る」「一人一人を大切にする」「個人的に接する」,そしてそれを実現するために必要な保育者としての知識,「育児担当制」「流れる日課」などの方法も手に入れて,おおぜいの保育者の努力と実践に支えられて乳児保育の現場を変えてきました
保育室の空間をつくり,子どもが落ち着いて過ごせる日課を考え,子どもが自ら遊べるような遊具や道具を揃えて保育の環境を整えるようになりました。食事の内容や食器も変わりました。トイレは各部屋に付属している,午睡にはベッドを使う,子どもに見合った家具を特注して作ることも特別なことではなくなりました。
育児の担当制・流れる日課を実践することで子どもの世話の仕方も格段に変化しました。40年余りの様々な実践を経て,かつての乳児保育を知らない若い人たちには,“まだ,歩行しない子どもは,一人一人抱いて食事をさせる,オムツを交換する,トイレで排泄する時も1人の子どもを世話をする”ことが,育児の常識になりました。
生活の環境,必要な遊具や道具等々が揃ってくると,子ども達は自ら遊び始めて,遊ぶことによって子ども自身が自らを発達させているという遊びの意味を,より深く実践の中で理解しました。
幼い子どもは大人の世話なしには生きていけない存在ですが,同時に“主体”として,部屋の環境,保育者や子どもの声,運ばれてくるワゴンの音,保育者同士の調和や不調和,誰がトイレに行ったか,自分の食卓が準備されていること等々の周りからの刺激や環境に影響されながら存在しています。何らかの刺激や働きかけ“問い”に対して,ことばはなくても表情,体の動きで必ず“答えて”,一緒にやっていこうとしている子どもの姿があります。
それに注目することができれば,子どもの行為やことばの意味に理解が及びます。保育者の感情が伝わりコミュニケーションが生まれ,愛されていることを実感します。保育者の膝でゴロゴロしたり,抱っこされている子がいても,背中で愛情を感じながら安心して遊んでいられます。
クラスという集団生活の中で,1人の人としてコミュニケーションをもって向き合うことが子どもを“主体”として存在させ,みんなの中の1人ではなく,一人一人の子ども達が“クラス”を成立させていることも理解しました。
人としての尊厳を認めてほしいという人間の本質的な願いを認めるところから,子どもにとって保育者は世話をしてくれる人であり,生活の場を共有している“同居人”の関係でもあり,保育は子どもと保育者の共同行為によって成立しているということにたどりつきました。
子どもの人格を認めた上で子どもと向かい合う保育の内容は,どのようにしたらよいか,これまで積み上げてきた多くの実践に学んだことを,『新訂 乳児保育の実際─その子とのコミュニケーションをとおして』としてまとめました。
2023年4月5日 コダーイ芸術教育研究所 /和地 由枝
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