- まえがき
- 物理分野
- 身近な物理現象
- 1 LED光源を安価に自作
- 2 半円レンズや凸レンズを安価に自作
- 3 奇数人数でもできる音の振動の実験
- 電流とその利用
- 4 みの虫クリップつき導線をスムーズに管理
- 5 直流と交流の違いをわかりやすく観察
- 6 雨の日でも成功する静電気の実験
- 7 わずかな電力でうまく回るモーター作り
- 8 電磁誘導を体験できる教具作り
- 運動とエネルギー
- 9 身近な材料で等速直線運動を観察
- 10 仕事の原理を安価にグループで実験
- 化学分野
- 身の回りの物質
- 11 安全にできる水素発生実験
- 12 緊迫した導入で始める気体の発生実験
- 13 手軽にできるミョウバンの種結晶作り
- 14 3つの方法でできるミョウバンの種結晶育成
- 15 融点,過冷却,火成岩の組織の実験を簡単に
- 化学変化と原子・分子
- 16 生徒一人ひとりが持ち帰れる分子模型作り
- 17 金属の性質を調べやすくする酸化銀・酸化銅の還元
- 18 質量比を正確に! 酸化銅の定比例実験
- 化学変化とイオン
- 19イオンの大きさを見える化
- 20イオンの電気泳動を短時間に
- 生物分野
- いろいろな生物とその共通点
- 21 プレパラートやマッチを安全に管理
- 生物の体のつくりと働き
- 22 成功するオオカナダモのヨウ素デンプン反応観察
- 23 「植物スライサー」で薄い切片を手軽に
- 24 マツの雌花の胚珠を観察しやすく
- 25 動いているシダの胞子のうを授業の中で観察
- 26 観察の視点を深める! 身近な生物の解剖
- 生命の連続性
- 27 分裂途中の植物細胞を確実に手に入れる
- 28 植物細胞の分裂像を探しやすく
- 29 花粉管が伸びる様子を授業時間内に
- 30 遺伝の法則をモデルで理解
まえがき
「本に書いてある通りに準備して実験しても,うまくいかない!」
本書のスタートは,このような私のつまずきでした。
考えてみれば,うまくいかないのは無理もないことで,料理の分野でも,レシピ通りに作っておいしくなるとは限りません。私は料理の専門家ではありませんが,おそらく試行錯誤の中で微妙なコツなどがわかってくると,おいしく作ることができるようになるのではないかと思います。
観察・実験にも,料理に似ている部分があって,コツを知っているのと知らないのとでは,結果に大きな差が出ます。実験の準備につまずいた私も,試行錯誤(失敗の方が多いです)を長い時間繰り返し,いくつかわかってきたことがありました。
しかし,コツがわかったとき,「もっと早く気づけばよかった」「この材料なら目の前にあったのに」というのが正直な気持ちでした。発見の喜びよりも,気づかなかった後悔の方を大きく感じました。本来,教材研究を進める中で発見したり,成し遂げたりしたときには,もっとうれしい気持ちになると思っていましたが,自分でも意外な感情に困惑しました。そこには,もっと楽しく教材研究をしたいという思いがありました。
そのとき,「車輪の再発明」という言葉に出会いました。「すでに発明されていることを知らないと,遠回りをしてしまう」ことを言うそうです。もしかしたら,各学校の理科準備室でも先生方が同じように苦労して,同じことを「再発明」しているのではないかと感じ始めました。
そのとき,すでにわかっていることを共有すれば,車輪の再発明(気づかなかった後悔)を防ぐことができるのではないかと考えました。そして,わかっていることの「その先」を多くの人で研究すれば,教材研究で発見の楽しみを味わうチャンスが増えると思いました。
そこで,自分にもできることを考え,1995年8月15日にウェブサイト
「This is の田」(http://shinzo.jp)
を立ち上げました。
最初は,教材研究を通してわかったコツなどを写真とともに,少しずつアップロードしていきました。すると,情報を発信することで,逆に情報が集まるようになりました。私のウェブサイトをご覧になった方からメールをいただくようになったのです。そのご指摘の中に,貴重なアドバイスやヒントが多く詰まっていました。
私一人の力ではなく,周囲の方々のご指摘がきっかけとなって生まれたアイデアがたくさんあります。そういったコツを少しでも共有できるようになればと,現在もウェブサイトを少しずつ更新しています。
その中で,本書を執筆させていただく機会をいただきました。
最初は,ウェブサイトの内容をダイジェスト形式で紹介する形を考えていましたが,原稿を進めていくうちに足りない部分や,すでに古くなってしまった記述を多く発見しました。写真を撮り直したり,文を書き直したりと,かなり手を加えることになりました。ウェブサイトをもっと更新しなければならないと感じました。
「オリジナルにこだわるよさ」もありますが,観察や実験でうまくいかない理由を最初から考えていると,大変な時間がかかります。もともと理科の分野には,先人が発見・発明したことを受け継ぎながら,後生の私たちが新しいものを考えてきた長い歴史があります。すでにあるものを取り入れることは,理科の世界では普通のことと考えます。
本書のコツをもとに,さらに新しいものが生まれてくれば幸いです。
次に,本書の内容ですが,執筆にあたって次の3つのことを大切にしました。
1つめは,観察・実験を通して生徒が「わかる・できる」ことを体験するため,観察・実験で「つまずきやすい部分」に焦点を当てて紹介することです。
生徒は座学よりも,観察・実験などの活動を好む傾向があります。しかし,楽しみにしていた活動でつまずくと,理科から遠ざかってしまいます。例えば,時間内に期待しているものを顕微鏡で見つけられなかったり,他のグループと結果が違うことで「実験失敗」という言葉とともにあきらめてしまったりする場面を見かけます。
やはり理科の授業では,観察・実験ではっきりとした結果を得ることが大切です。これができれば,達成感を得て,結果からスムーズに考察を行えます。すると,問題解決に必要な思考力も少しずつ身についていきます。
そこで,観察・実験での失敗が起きやすい部分をいくつか洗い出しました。特に私が失敗して苦労した例を挙げると,オオカナダモ(水草)の葉やタマネギの根を使って行う生物分野の顕微鏡観察です。
「生物教材は,扱う生き物の個体差が大きいから,うまくいかなくてもしかたない」
としてしまえばそれまでです。
しかし,観察のコツをしっかり押さえればスムーズにできることがようやくわかってきました。
理科の観察・実験は,「実技」の要素があります。スポーツや芸術などの実技では,練習を長年積み重ねた人だけが良い結果を残すことができます。また,実技の見本を見て,生徒がすぐにまねのできない部分も多くあります。
一方,観察・実験では「再現性」が重要ですので,経験を積み重ねた人だけでなく,生徒全員が良好な結果を残すことが要求されます。顕微鏡やガスバーナーなど,ある程度の「慣れ」が必要な部分もありますが,原則として,誰がやってもうまくいく方法や条件が大切になります。そのポイントを押さえれば,後は自然の法則に従って良好な結果と共に「成功体験」が得られます。
2つめは,生徒が理科と日常生活とのつながりを体験から学びとれるように,身近な素材を使ったコツを紹介することです。
そのため本書では,コツと共に,自作教具をたくさん取り上げました。市販の実験器具には大変秀逸なものが多くあり,そのまま使えば授業は無難に進みます。しかし,そのような実験器具は高価なものが多い傾向にあります。生徒が受け身ではなく,自主的に実験を進めていくためには,1人1実験やグループ実験を行いたいところです。そこで,教具の数を安価に揃えるために「自作する選択肢」があります。
授業に自作教具を持ち込むと,生徒から「先生がつくったのですか?」と聞かれます。「そうです」と答えると,「はやく動かしてみたい」「自分も作ってみたい」と教具を自主的に使い始める姿が見られます。
「自主的な学習をめざす」には,いろいろな方法がありますが,学習内容(未知の部分)と,生徒の日常生活(既知の部分)とをつなぐ教具が授業で準備されることが大切だと考えます。生徒が自分の未知の部分へジャンプするために,既知の部分を足場とする。観察・実験にそのようなイメージを持つことができればと思います。
3つめは,生徒が観察・実験の結果から考察を進めるときに,「深めていく」コツを紹介することです。
授業の失敗例として,教具を使うことが目的となる「教具に溺れる授業」を展開してしまうことがあります。教具が素晴らしく,また,結果がはっきり出ても,実験のやりっぱなしでは理科の授業になりません。結果をもとに考察する場面がなければ不十分です。
そこで,生徒がより発展的な部分に思考を広げたり,学んだことを既知のものと関連づけたりしながら学習を深める場面が大切です。そのときのポイントを押さえることで,生徒はスムーズに思考を進めることができます。
最後に,これまで行ってきた観察・実験の試行錯誤を振り返ると,私が多くの方々に支えられて,ここまで来ていることを改めて痛感致します。私のアイデアだけで,本書を執筆することはできませんでした。先輩方や周囲の方から教わったおかげで考えついたアイデアがたくさん盛り込まれています。「口頭で教わった部分」は,参考文献として掲載することができず申し訳ありません。
生徒が観察・実験にスムーズに取り組み,理解を深めながら考察することを通して成長することを願い,まえがきとさせていただきます。
/野田 新三
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- 明治図書