- まえがき ―高校教師の選択肢―
- 第1章 新学習指導要領の斜め読み
- 1 学習指導要領の読み方
- 2 新学習指導要領の外せないポイント
- 第2章 社会科授業づくりの理論と方法
- 1 授業づくりとは何か
- 2 探究としての社会科授業づくり
- 3 見方・考え方を生かした授業づくりと評価
- 第3章 地理の授業づくり
- 1 新しい地理教育の特質と課題
- 2 地理の授業づくりの留意点
- 3 「地理総合」の授業モデル
- ―南アジアの生活・文化―
- 4 「地理探究」の授業モデル
- ―持続可能な国土像の探究「コンパクトシティの可能性と課題」―
- 第4章 歴史の授業づくり
- 1 新しい歴史教育の特質と課題
- 2 歴史の授業づくりの留意点
- 3 「歴史総合」の授業モデル
- ―日本の国民国家形成と天皇制―
- 4 「世界史探究」の授業モデル
- ―第一次世界大戦とロシア革命―
- 第5章 公民の授業づくり
- 1 新しい公民教育の特質と課題
- 2 公民の授業づくりの留意点
- 3 「公共」の授業モデル
- ―公共的な空間における基本的原理「ヘイトスピーチと表現の自由」―
- 4 「政治・経済」の授業モデル
- ―日本の安全保障と9条−安保体制「日本は主権国家といえるか」―
- あとがき
まえがき
−高校教師の選択肢−
学習指導要領は小・中・高とも,ほぼ10年毎に改訂されるが,今次改訂の最大の標的は,他でもない高等学校にあった。直截的には,高等学校教育の改革,大学教育の改革,両者をつなぐ大学入学者選抜改革を一体的に進める高大接続改革の一環として学習指導要領は改訂されたのである。だが,周知のように出だしで大きくつまずくことになる。大学入試センター試験に代わる大学入学共通テストにおいて,当初予定されていた国語や数学における記述式問題の導入や英語における民間試験の活用が,いずれも制度的な不備や不安から導入を見送られることになったのだ。一体,何のために莫大な時間とコストをかけてセンター試験を廃止する必要があったのか,関係者は誰も口をつぐんで語らない。1990年に共通一次試験をセンター試験に変えた時と同じく,文科官僚や中教審委員の“あるべき”論で制度改革に踏み切ったのではなかろうか。だから,仮に上手くいかなかったとしても,それは現場の対応のまずさや保守性のせいであり,自分たちの理論は間違っていないと彼らは考えるに違いない。おそらく新学習指導要領についても同様であろう。最後に責任を負わされるのは,結局のところ現場の教師たちなのだ。
さて,今回の新学習指導要領は「社会に開かれた教育課程」「学びの地図」「カリキュラム・マネジメント」「育成を目指す資質・能力」「教科固有の見方・考え方」「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」といったキーワードの下で,いわば“てんこ盛り”の改革を打ち出した。その結果,学習指導要領解説は従来にない分厚さとなって,読む者を辟易させている。まるで“改革バブル”“学習指導要領バブル”とでも呼ぶべき状況である。こうした状況を前にして,さあどうするか。高校教師の皆さんには,次の三つの選択肢があるように思える。
A:学習指導要領の趣旨を正しく読み取り,関連する書籍を読んだり研修会に参加したりして理論を学び,新科目の指導に備える。
B:馬耳東風を決め込み,職務命令でも出ない限り自分からは動かない。
C:これを機会に自分の教員歴を振り返り,取り柄を生かして,さらなる指導力の向上が見込めるかどうかを考え,チャレンジしてみる。
私の予想では,Aが1割,Bが7割,Cは0でその他が2割となる。勿論根拠なんて全くないが,私の経験則ではそんなところだろう。Aの先生にはただただ頭が下がるばかりで,いうべき言葉が見つからない。是非,燃え尽きないように気をつけ,教員人生を全うしていただきたい。Bを選んだ先生も,おそらく十把一絡げにはできない事情をそれぞれ抱えているに違いない。コロナ禍に負けず,泰然として教員人生を歩んでほしいと願うだけである。
その他2割の中には,AでもBでもないのは確かだけど,Cはどうかなあと迷っている先生もいるだろう。そんな方に私はいいたい。「社会科(地理,歴史,公民)が好きで教員になったのなら,誰かのためではなく自分のために,社会科でひと花咲かせてみませんか。思い立ったが吉日という諺もあるように,今が絶好のタイミングだと思いますよ」と。
日本に限らず,教育改革の成功例が少ないのは,良かれと思う改革案が常に上から演繹的,一方的に現場に下ろされるからだと私は考える。明治維新や第二次大戦の敗戦といった激変する状況下ならともかく,不確実性を増す時代には「生きる力」が必要だ,国際化の時代だから小学校から英語を教えるべきだといった机上の論理では,学校現場は途方に暮れるしかない。そろそろボトムアップの改革を目指すべき時ではないか。その主役となるのは,個々の教師を措いて他にないだろう。学級や学校を一人の力で変えることは難しいが,自分の授業づくりを変えることならできるかもしれない。青春時代の自分探しとは一味も二味も違う,大人の自己探求,社会科探究こそが,今回の改革を前に求められる高校教師の一つの選択肢ではないか。そうした思いで私は本書に取り組んだ。皆さんの心と共鳴する何かが伝えられたら,それに勝る喜びはない。
2022年6月 /原田 智仁
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- 明治図書
- 中学校の社会科授業をつくる上でも参考になった。2022/11/1030代・中学校教員