- まえがき
- 第1章 「学力テスト」とどう向き合うか
- ―学力テストを読み解く理論的枠組み―
- 1 学力調査を飼いならすための評価リテラシー
- @学力調査の時代―その展開と背景と論争点―
- (1)日本における学力向上政策の展開
- (2)学力テスト政策の世界的展開
- (3)学力テスト政策の日本的特質
- A学力テストとうまく付き合うために知っておくべきこと
- (1)評価リテラシーの必要性
- (2)PISAと全国学テの「理念提示型調査」としての性格
- (3)学力調査の目的の混乱が招く問題
- B調査問題を実践において活かすために
- (1)学力テストを指導の改善に活かすという発想の落とし穴
- (2)学力・学習の質というレンズで調査問題を読み解く
- 2 高大接続改革の到達点と今後の課題
- @高大接続改革の構想
- A高大接続改革の背景
- B高等学校における教育改革
- C到達点と今後の課題
- 3 様々な大規模学力調査の意図と特徴
- ―どのような論争点があるのか―
- @大規模学力調査の多様性
- A国際的な学力調査
- (1)PISA(生徒の学習到達度調査)
- (2)TIMSS(国際数学・理科教育動向調査)
- B日本国内の学力調査
- (1)全国学力・学習状況調査
- (2)地方自治体による学力調査
- (3)教育課程に関する調査
- (4)情報活用能力調査
- 4 学力テストの結果をどう読むか
- ―4つの視角から見る学力テスト―
- @学力テストの結果を捉える「4つの視角」
- A「学力水準」という視角
- B「学力格差」という視角
- C「学力構造」という視角
- D「学習意欲」という視角
- Eテストの結果から「学校」を問い直す
- 5 学力テストと授業づくりの関係をどのように構想するか
- ―パフォーマンス課題を中心とする単元設計と授業づくり―
- @パフォーマンス課題への期待
- Aパフォーマンス課題とは何か
- (1)基本的な考え方とその特徴
- (2)高次の学力を志向するパフォーマンス課題
- (3)真正性を志向するパフォーマンス課題
- (4)学ぶ意義を感じさせるパフォーマンス課題
- Bパフォーマンス課題を取り入れた単元設計と授業づくり
- (1)単元におけるゴールを示すパフォーマンス課題
- (2)パーツ組み立て型と繰り返し型による単元構想
- (3)学習課題と評価課題としてのパフォーマンス課題
- C知識の獲得と活用におけるダイナミックな関係性
- 第2章 各教科におけるテスト分析とパフォーマンス評価を活かした授業デザイン
- 1 国語科における学力テスト分析と授業づくり
- ―テスト学力を超えて―
- @国語科におけるテスト分析
- (1)PISA
- (2)全国学力・学習状況調査
- (3)大学入試共通テスト
- A国語科の授業づくり
- (1)求められる学力
- (2)指導のポイント
- (3)評価のポイント
- 2 社会科における学力テスト分析と授業づくり
- ―思考する機会の保障を目指して―
- @社会科におけるテスト分析
- (1)大学入学共通テスト―地理歴史科・世界史の場合―
- (2)大学入学共通テスト―公民科・倫理の場合―
- A社会科の授業づくり
- (1)求められる学力
- (2)指導のポイント
- (3)評価のポイント
- 3 算数・数学科における学力テスト分析と授業づくり
- ―「知識」と「活用」を架橋する実践に向けて―
- @算数・数学科におけるテスト分析
- (1)TIMSS
- (2)PISA
- (3)全国学力・学習状況調査(中学校数学)
- (4)全国学力・学習状況調査(小学校算数)
- (5)大学入学共通テスト
- A算数・数学科の授業づくり
- (1)求められる学力
- (2)指導のポイント
- (3)評価のポイント
- 4 理科における学力テスト分析と授業づくり
- ―科学的探究についての「理解」と実験の授業を考える―
- @理科におけるテスト分析
- (1)大学入学共通テスト
- (2)全国学力・学習状況調査
- (3)特定の課題に関する調査
- (4)PISA
- (5)学力テストで測られる学力のまとめ
- A理科の授業づくり
- (1)求められる学力
- (2)指導のポイント
- (3)評価のポイント
- 5 英語科における学力テスト分析と授業づくり
- ―対話を通した学びで,「生きた言語」へ―
- @英語科におけるテスト分析
- (1)全国学力・学習状況調査
- (2)大学入学共通テスト
- (3)TOEIC(R),TOEFL iBT(R),英検(R),GTEC(R)
- A英語科の授業づくり
- (1)求められる学力
- (2)指導のポイント
- @正しい言語知識をもとにしたパフォーマンス
- ―音読指導を通して―
- A相手との対話を通して育成する学力
- ―コミュニケーション方略の活用―
- B自己評価を促す指導
- (3)評価のポイント
- あとがき
まえがき
学力テストは,従来,教育の効果を確かめるために行われてきました。しかし,2004年の「PISAショック」を経て導入された全国学力・学習状況調査に見られるように,現在では新しい目標像を示す手段としても用いられています。2021年の大学入学共通テスト導入に代表される大学入試改革の背後にも,評価方法を改革することによって,高等学校と大学の教育改革を推進しようとする意図が見受けられます。
学力テストについては,ややもすれば点数や順位のみが注目されがちです。入学試験で用いられたり,学校の説明責任を果たしたりする場面で使われる際には,特にハイステイクスなもの(関係者にとって利害関係が大きいもの)となります。重要なテストであればあるほど,少しでも点数を上げたいという願いから,目先の対策に追われてしまいがちです。また,学力テストの実施にあたっては,採点の信頼性に注目が集まります。
しかしながら,現在の学力評価研究の到達点を踏まえれば,学力テストで測れる学力は限定的なものだということも確認しておく必要があるでしょう。評価研究においては,学力テストのように特別な状況で測られる力だけでなく,知識やスキル(技能)をリアルな状況で使いこなす力の発揮を求めるようなパフォーマンス評価の重要性が指摘されています。そこで,学力テストと向き合う際には,採点の信頼性だけでなく,そもそも評価されている学力の妥当性を見極める視点が欠かせないでしょう。
本書は,パフォーマンス評価の視点から,学力テストで測られている学力の構造とはどのようなものかを明確にし,そこから授業改善への示唆を得ることを目指しています。第1章では,学力テストを読み解くための理論的枠組みを整理しています。学力テストに過度に振り回されず,うまく活用する(「飼いならす」)ために必要となる知見や,高大接続改革の経緯,様々な大規模学力調査の意図や特徴,学力テストの結果を見るための4つの視角,単元設計と授業づくりの基本的な考え方を解説しています。
第2章では,5つの教科において実施されている学力テストを分析し,それらを手掛かりとしつつ,既存の実践例を再評価して授業改善の在り方を提案しています。具体的なテストとしては,PISA,TIMSS,全国学力・学習状況調査,大学入学共通テストなどを分析しています。なお,大学入学共通テストについては,執筆の時点(2020年)では試行調査を主な分析対象としましたが,校正の段階(2021年1月)で2021年1月16日・17日に実施された第1回の内容を検討した記述も加えています。
この本に先立つ2冊『「資質・能力」を育てるパフォーマンス評価』(2016年),『Q&Aでよくわかる! 「見方・考え方」を育てるパフォーマンス評価』(2018年)では,パフォーマンス評価の方法の中でも,主にパフォーマンス課題(複数の知識やスキルを総合して使いこなすことを求めるような複雑な課題)に焦点を合わせていました。しかし,パフォーマンス課題に取り組むためには,使いこなすべき重要な知識(転移可能な概念)やスキル(複雑なプロセス)を身につけることも重要です。概念の理解やプロセスを使いこなす力を発揮させるような,広義のパフォーマンス評価の方法(自由記述問題や実技テストなど)を授業に位置づけるという発想は,授業改善を図る上での一つの視点となることでしょう。
近年の学力テスト改革を読み解くことで,子どもたちに保障すべき重要な概念やプロセスを明確にし,学力テストで測れる力にとどまらない「確かな学力」を育てる一助となることを願っています。
2021年3月 /西岡 加名恵
教師自身の評価リテラシーを向上させることの必要性を感じた。