- 序 /田中 耕治
- まえがき
- 第T章 理論編 活用する力を育むパフォーマンス評価
- 〜パフォーマンス課題とルーブリックを生かした単元モデル〜
- 1 本校の研究テーマについて
- 2 習得・活用・探究のバランスを図るカリキュラム
- (1) 本校のカリキュラム
- (2) 習得・活用・探究をこうとらえる
- (3) 習得・活用・探究の学習とは
- 3 「活用」とは
- (1) 活用する力とは
- (2) 活用を図る学習とは
- (3) 「活用」に着目した指導と評価
- 4 パフォーマンス評価とは
- (1) 質の高いパフォーマンス課題を目指して ―視点T―
- (2) PDCAサイクルに生かすルーブリック ―視点U―
- 第U章 実践編 「活用」に着目した単元モデル
- §1 学習の自立を促す「教科学習」
- [1 国語科]
- (1) 国語科の主張
- (2) 実践事例1 /住田 惠津子
- 第1学年 「きいてきいて どうぶつのからだのひみつ」
- (3) 実践事例2 /山村 勝哉
- 第5学年 「目指せ小説家 〜物語マップを利用して〜」
- (4) 実践事例3 /田ア 伸一郎
- 第6学年 「自分自身の伝記を作ろう〜6年間を俳句と随筆で表現しよう〜」
- [2 社会科]
- (1) 社会科の主張
- (2) 実践事例1 /河田 祥司
- 第4学年 「地域の資源(文化)で,郷土『香川』の勢いを創る」
- (3) 実践事例2 /黒田 拓志
- 第5学年 「わたしたちの国土と環境」
- [3 算数科]
- (1) 算数科の主張
- (2) 実践事例1 /玉木 祐治
- 第2学年 「自分が育てている野菜の茎の長さを調べて,おうちの人にお知らせしよう!」
- (3) 実践事例2 /高尾 明博
- 第4学年 「変わり方を調べて」
- [4 理科]
- (1) 理科の主張
- (2) 実践事例1 /高橋 正人
- 第4学年 「空気や水の性質を使ったおもちゃを作って,1年生に紹介しよう!」
- (3) 実践事例2 /山地 正樹
- 第6学年 「動物のからだのはたらき」
- [5 生活科]
- (1) 生活科の主張
- (2) 実践事例1 /小早川 覚
- 第2学年 「やさいをそだてよう」
- (3) 実践事例2 /久利 知光
- 第2学年 「町だいすき 自分だいすき〜町ではたらく人と自分とのかかわりを伝え合おう〜」
- [6 音楽科]
- (1) 音楽科の主張
- (2) 実践事例1 /和中 雅子
- 第3学年 「重なり合う美しさ・面白さを感じよう」
- (3) 実践事例2 /藤田 篤志
- 第3学年 「わらべうたで遊ぼう」
- [7 図画工作科]
- (1) 図画工作科の主張
- (2) 実践事例1 /石井 都
- 第1学年 「つなごう わくわくさんぽみち」
- (3) 実践事例2 /吉原 功雄
- 第5学年 「コマ・かく 〜5白マンガ甲子園開催〜」
- [8 家庭科]
- (1) 家庭科の主張
- (2) 実践事例1 /川地 由美
- 第6学年 「心も体もフルパワー 〜6白ごじまん品〜」
- [9 体育科]
- (1) 体育科の主張
- (2) 実践事例1 /山西 達也
- 第1学年 「スローイン・グー! キャッチン・グー! (体つくり運動)」
- (3) 実践事例2 /廣瀬 貴志
- 第4学年 「どんなときも つなぐ!決める!勝つ! (ゴール型ゲーム〜セストボール〜)」
- (4) 実践事例3 /長町 裕子
- 第5学年 「体で伝え合う世界へ〜1枚の絵(嵐の中の難破船)から〜(表現運動)」
- §2 生活の自立を促す「ふれあい学習」
- [1 ふれあい学習]
- (1) ふれあい学習の主張
- [2 ふれあい学習の実践事例]
- (1) 低学年の事例 /宮脇 充弘
- 第2学年 「みんなのために働くことのよさを広げよう!」(勤労を中心価値として)
- (2) 高学年の事例 /堀場 規朗
- 第5学年 「5赤が全校生にできること〜運動会に向けた取り組み〜」
- §3 自己の確立を促す「楷の木活動」
- [1 楷の木活動]
- (1) 楷の木活動の主張
- [2 楷の木活動の実践事例]
- (1) 中学年の事例 /大嶋 和彦
- 第3学年 「栗林公園のよさをみんなに紹介しよう」
- (2) 高学年の事例 /福家 弘康
- 高学年 「からくりコースターコース」
- 参考文献
- あとがき
- 研究同人
序
第2次世界大戦後のカリキュラム改革は,学力問題を中心として推移してきたといっても過言ではない。周知のように,1999年から始まった「学力低下論争」は,大学生の基礎学力に関する低下問題を起点にして争われ,文部科学省は「新しい学力」観から「確かな学力」観へと軸足を移し,2008年3月に学習指導要領の改訂に踏みきった。
ところで,この度の学力問題においては,過去にはなかった新しいインパクトが加わった。それが学力の国際比較調査とりわけPISAの影響であり,PISAが採用した活用する力を意味する「リテラシー」概念が注目を受けることになった。この度の学力問題は,その当初いわゆる「読み書き算」の基礎学力が低下しているという指摘から出発したものの,PISAにおける「リテラシー」概念の影響を受けて,学力の発展的な様相を示す活用する力を重視するという展開となっていった。
しかしながら,そもそも私たちがめざそうとしている質の高い学力とはどのようなものなのか,またいかなる授業実践によって形成されるのか,さらにはこのような質の高い学力をどのように評価するのかという点になると,多くの教育現場では戸惑いが見られる。そのなかで,PISA対策や「活用」問題対策を目論んだテスト集もあらわれて,教育現場をさらに混乱させているというのが現状ではないだろうか。
香川大学教育学部附属高松小学校が,三年間にわたる精力的かつ地道な授業研究の成果をまとめた本著は,質の高い学力を形成する具体的な指針を提起することで,まことに時宜を得た出版となった。とりわけ,質の高い学力を形成する方法として,現在もっとも注目されている「パフォーマンス評価」にもとづく授業設計とカリキュラム編成の提案は,説得力を持って全国の教育現場に受けとめられることだろう。
ここでは,本著から学んだことを,四点書き留めておきたい。まず一つ目は,本著を生み出す原動力となった三年間の共同研究のテーマに着目した。それは,「自ら学びを高め,伸びを実感する子の育成」となっている。質の高い学力の形成が強調されるなかで,学習主体としての子どもたちの「学び」とその「実感」をテーマに据えたことの意義は大きい。もちろん,質の高い学力を形成するためには,今まで以上に授業の高度化とそれに伴う教師の力量形成がはかられなくてはならない。しかしながら,授業の高度化や教師の力量形成は,子どもたちを置き忘れて,展開されるものではない。あくまでも,「先生の先生は子どもたち」である。この学習主体としての子どもたちに立脚するという立場は,本著全編を通じて貫かれ,具体化されている。ここには,附属高松小学校が長年にわたって取り組んできた授業研究の伝統(たとえば,同著『才能を伸ばす―自己実現に向かう子どもたち―』明治図書,2005年など参照)が息づいていると考えてよいだろう。
二つ目は,まさしく質の高い学力とは何かについて,本著では試案的ではあっても,明快な理解が示されている。そこでは,「習得」「活用」「探究」を学力の質を区別するカテゴリーとして措定するとともに,その質を保証するカリキュラム編成として,「教科学習」「ふれあい学習」「楷の木活動」のバランスと相互環流のあり方が提案されている。本著は表題にあるように「活用」に重点を置いて編まれているが,「活用」を保証する前提条件としての「習得」としての豊かな学習活動の重要性にも多くの紙幅を割いている。この点は,共同研究の第一年目の課題として,「習得」に焦点を合わせたことにも明らかだろう。その上で,「活用」の具体的な学習活動が,たとえば「くらべる」「えらぶ」「つなぐ」という的確で柔軟な表現で抽出されている。さらには,「習得」「活用」と附属高松小学校が培ってきた「探究」としての「楷の木活動」とがダイナミックに関係づけられることによってこそ,質の高い学力の形成が可能となることが示されている。
三つ目は,本著の何よりの特徴である「パフォーマンス評価」の理論と方法によって,質の高い学力の確かな形成がめざされていることである。「パフォーマンス評価」とは,子どもたちが知識を実際の世界にどの程度うまく活用させているのかを捉えようとするものである。その際,客観テストがテスト用紙に書き込まれた既存の解答を選択させるという方式を採るのに対して,「パフォーマンス評価」は学び得たことをさまざまなメディアを使って表現させるという方式を採る。そのメディアとは,文字による表現だけでなく,図やグラフや絵という表現もあり,さらには実際に演出するという表現もある。附属高松小学校では,「パフォーマンス評価」を支える「パフォーマンス課題」の設定と「ルーブリック」づくりを各学年各教科にわたって精力的に取り組み,授業設計とカリキュラム編成に刺激的で魅力的なメッセージを伝えようとしている。
最後に,本著は文字通り「授業研究」の書として,単なるサクセス・ストーリーを描くのではなく,「パフォーマンス評価」をめざす実践途上で生じた課題を包み隠さず明示して,それへの挑戦のプロセスを活写している。たとえば,各教科や学年,または単元によって,もちろん目前の子どもたちの実態に応じて,「パフォーマンス課題」の設定や「ルーブリック」づくりには,教師集団の叡智を結集した創意工夫が求められる。この活写された改善に向かうプロセスこそは,まさしく「パフォーマンス評価」の方法論を問い直し,鍛える場であることが理解できる。このような挑戦の書であるからこそ,本著はさまざまな条件にある教育現場に「パフォーマンス評価」の魅力を伝えるとともに,実践に踏み出す勇気と知恵を与えることであろう。
以上,附属高松小学校によって上梓された本著の特徴を四つに絞って述べてきた。本著が,質の高い学力の形成をめざす人々に広く読まれ,本著が提案する「パフォーマンス評価」を軸とする授業実践が豊かに取り組まれることを心より期待したい。
2009年9月
京都大学大学院 教育学研究科 教授 /田中 耕治
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- 明治図書