- まえがき
- 1章 特色ある学校づくりと教育課程の編成
- §1 生徒一人一人の個性を生かす教育活動
- §2 特色ある教育課程編成に向けて
- 2章 特色ある中学校教育課程編成の基本と具体化
- §1 教育課程編成の基本的な考え方
- §2 地域とともに創る教育課程
- §3 体験を重視した教育課程
- §4 総合的な学習の時間の位置づけ
- 3章 特色ある中学校教育課程20選
- 「豊かな人間性,社会性の育成」を核にした教育課程 【東京都立川市立立川第一中学校】
- 「自ら学び,自ら考える力の育成」を重視した教育課程 【北海道教育大学附属旭川中学校】
- 「基礎・基本の確実な定着を図る教育」を重視した教育課程 【東京都新宿区立大久保中学校】
- 「個性を生かす教育」を重視した教育課程 【福島県福島市立福島第二中学校】
- 「ゆとりのある学校生活」を重視した教育課程(1) 【岐阜県岐阜市立加納中学校】
- 「ゆとりのある学校生活」を重視した教育課程(2) 【宮城県石巻市立石巻中学校】
- 「道徳性の育成」を重視した教育課程 【福岡県行橋市立長峡中学校】
- 「生き方の自覚を深める教育」を重視した教育課程 【東京都練馬区立光が丘第三中学校】
- 「体育・健康」を核にした教育課程 【東京都台東区立忍岡中学校】
- 「生命・性・ジェンダーの教育」を重視した教育課程 【栃木県河内郡上三川町立明治中学校】
- 「人権尊重の教育」を重視した教育課程 【栃木県那須郡南那須町立荒川中学校】
- 「環境教育」を重視した教育課程 【北海道旭川市立西神楽中学校】
- 「国際理解教育」を重視した教育課程 【東京都中野区立第三中学校】
- 「福祉教育」を重視した教育課程 【東京都青梅市立第一中学校】
- 「情報教育」を重視した教育課程 【和歌山県西牟婁郡大塔村立大塔中学校】
- 「家庭・地域社会との連携」を重視した教育課程 【宮崎県日向市立美々津中学校】
- 「中・高の連携」を重視した教育課程 【奈良女子大学文学部附属中等教育学校】
- 「図書館教育」を核にした教育課程 【岩手県宮古市立第一中学校】
- 「選択教科の学習」を核にした教育課程 【埼玉県吉川市立南中学校】
- 「時間割や生活時程の工夫」を取り入れた教育課程 【宮城県石巻市立石巻中学校】
- 「総合的な学習の時間」を核にした教育課程 【岩手県岩手郡葛巻町立葛巻中学校】
- 4章 「特色ある教育課程」の今後の研究課題
- §1 学校の教育目標達成に向けた校内の取り組み
- §2 地域社会との連携をどう図るか
まえがき
平成14年度から完全学校週5日制のもとに新しい学習指導要領によった学校教育が展開されることになる。今回の学習指導要領は教育課程審議会答申(平成10年7月29日)に基づいて改訂されているが,答申の「教育課程の基準の改善のねらい」は次の4点にまとめられる。
1 豊かな人間性や社会性,国際社会に生きる日本人としての自覚を育成すること。
2 自ら学び,自ら考える力を育成すること。
3 ゆとりある教育活動を展開する中で,基礎・基本の確実な定着を図り,個性を生かす教育を充実すること。
4 各学校が創意工夫を生かし特色ある教育,特色ある学校づくりを進めること。
これらのねらいが各学校における具体的な教育活動に結びついて行われることが要であるが,ねらいを達成するために中学校学習指導要領(平成10年12月14日)では各教科等にそれぞれの目標・内容・方法を示している。また,今回の学習指導要領の改訂に当たって特に重視すべき事項としては答申から次の4点に要約できるが,この4点を各学校の教科等の教育活動で具現化することによって「特色ある学校づくり」とすることができる。
第一は,子どもの生活環境の変化,都市化や少子化などに伴う社会体験や自然体験などの減少などへの対応として,他人を思いやる心,互いに認め合いともに生きていく態度,自他の生命や人権を尊重する心,美しいものや自然に感動する心,ボランティア精神,未来への夢や目標を抱き自らその実現に努める態度などとともに,社会生活上のルールやモラルなどの倫理観,規範意識の形成など「心の教育」を「生きる力」としてはぐくむことであり,国際化の進展に伴い,国際社会の中で日本人としての自覚をもち主体的に生きていく上で必要とする資質や能力の育成を図ることである。これらに対応していくためには,学校全体で進める道徳教育ばかりでなく,各教科・道徳・特別活動等のすべての教育活動で従前からの取り組みを根本的に見直すとともに,新設された総合的な学習の時間の有効な活用が重要である。
第二は,多くの知識を伝えることを重視してきたこれまでの学校教育の基調を転換し,学習者である生徒の立場に立って,生徒が主体的に対応し行動できる力として,知的好奇心・探求心,思考力,表現力,問題解決能力の育成を大切にした「自ら学び考える力」を育成すること。中学校の教科指導や評価の在り方についての根本的な見直しが必要となる。
第三は,ゆとりある教育活動を展開し,「生きる力」として必要な基礎・基本を確実に定着させ,あわせて個性を生かす教育を推進していくため多様な教育活動を工夫すること。各教科や選択教科の学習活動の工夫とともに時間割などの生活時程の全面的な見直しが必要となる。
第四は,各学校は地域や学校,生徒の実態等に応じて,創意工夫を生かした特色ある教育を展開し,特色ある学校づくりを進めることが強く求められていること。完全学校週5日制実施に伴う生徒の家庭や地域社会での体験を教育活動にどう生かすかの工夫も必要となる。
学校教育法施行規則や学習指導要領,各教育委員会の定める学校運営規則など教育課程に関する関係法令が大幅に改訂され,各学校の教育課程の編成・実施については各学校の特色ある教育活動が可能となる仕組みが整えられている。これは各学校の校長の責任のもとに,それぞれの学校のおかれている生徒や地域の実態等を踏まえて,創意工夫を生かした特色ある教育活動を展開することを求めたものである。言い換えれば各中学校のスタッフ全員でそれぞれの学校の実態に対応した独自の教育活動を創り出すことが各学校に課せられている。
先にあげた「教育課程の基準の改善のねらい」をそれぞれの学校の特色に応じて展開した教育活動が「特色ある学校づくり」となる。従前の学校経営では教育委員会等の指導を誤りなく実践することが重視されてきたが,これからの学校経営には校長を中心として教職員全員が学校経営に参画する構えが基本となるなど,「特色ある学校づくり」には校長をはじめとして教職員全員の学校経営に対する意識の転換が必要となる。
しかし,こうした学校経営のコペルニクス的転換に適切に対処していくには指針となる参考事例が必要となる。本書は全国各地で「特色ある学校づくり」に取り組んだ事例を集約したものである。事例には現行の学習指導要領によらない文部省開発学校のものもあるが,多くは現行の法令等の中で工夫した事例である。これらの事例は,学校経営の工夫によっては多様な教育活動が可能であることを示している。
本書で取り上げた事例は「教育課程の基準の改善のねらい」を達成する上で,今後の学校教育の課題となる点をテーマとして「特色ある学校づくり」に取り組んだものである。各事例には校長のリーダーシップのもとに全教職員が知恵を出し合って果敢に取り組んでいる様子を伺うことができる。編者の要望に応えてくださった21校の関係者の皆さんからは貴重な実践の報告をいただいたことに心から感謝申し上げたい。
平成14年度から,各学校において校長の責任のもとに新しい学校づくりが始まるが,それは従前からの学校経営観では対応仕切れないものがある。また,完全学校週5日制によって子どもの生活リズムは変化するし,家庭や地域社会における子どもの体験を学校教育で生かす工夫が教育課程に求められることになる。これからの教育課程の編成には従前にはない創意工夫が必要となるが,各学校の教育課程編成の際に本書が多少なりとも参考になれば幸いです。各学校の建設的な取り組みを期待しています。
最後になりましたが,本書の刊行にあたり,明治図書編集部の安藤征宏氏,今度輝昭氏に終始ご尽力いただきましたことに深く謝意を表します。
平成13年1月 編者 /佐野 金吾
-
- 明治図書