粕谷昌良の「考えたくなる」社会科授業

粕谷昌良の「考えたくなる」社会科授業

新刊

総合29位

「子どもが進んで考えたくなる」社会科授業づくりの秘訣が満載!

「子どもが進んで考えたくなる」社会科授業づくりのポイントを、徹底解説。子どもの見取りから単元の授業デザイン、問いの吟味から学習の複線化、学習評価までを網羅。多様な価値観への理解と視野がひろがる、社会科授業づくりの「はじめの一歩」となる入門書です。


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ISBN:
978-4-18-263523-6
ジャンル:
社会
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 184頁
状態:
在庫あり
出荷:
2024年7月16日

目次

もくじの詳細表示

序 考えたくなる社会事象に出合った児童
第1章 理論編
第1節 考えたくなる教材づくり
―教材研究:社会事象という素材から教材を生み出す!―
1 教材研究とは何か?
2 ステップ1:広げる教材研究
3 ステップ2:しぼる教材研究
第2節 教材を磨く
―児童の情意を揺さぶる教材に仕上げる―
1 児童の情意を揺さぶる資料をつくるとは?
2 写真を使った資料作成の事例
3 写真とお話を使った事例
コラム 歴史は「覚えるもの」から「考えるもの」へ!
「卑弥呼はどれだ?」(6年生)
第3節 魅力ある教材に出会う方法
1 2種類の教材研究
2 短期的な教材開発
3 長期的な教材開発
4 取材で芽生える「教えたい!」と思う気持ち
第4節 考えたくなる学習問題づくり
1 学習問題とは何か?
2 本質に迫るための入り口と問題
第5節 学習問題の類型
事実を問うのか?思考力・判断力を問うのか?
第6節 授業を支える社会科の指導技術
その@ 問題解決的な学習の単元の構成
1 問題解決的な学習とは
2 「問題解決学習」と「問題解決的な学習」
第7節 授業を支える社会科の指導技術
そのA 多角的なものの見方・考え方を育む方法
1 小学生に適合した「多角的」なものの見方
2 多角的に考える大切さ
3 異なる立場の教材づくり 客観・実感・共感の構成
4 調べる段階で2人以上の立場から検討する
第8節 授業を支える社会科の指導技術
そのB 発問の工夫
1 発問とは何か?
2 児童の学びの側からの分類
3 事前にできる発問と対応力を問われる発問
第9節 調べたくなる追究方法とまとめ方
その@ 教科書の資料を使って調べ,考える
1 教科書のグラフを有効活用
2 具体的な実践「5年生:米作りの盛んな地域」
第10節 調べたくなる追究方法とまとめ方
そのA 板書の書き方 多様な世界が広がる板書
1 板書の役割
2 実例@ 複数の立場から考える板書
3 実例A 児童が参加する板書
4 実例B 時間経過と深まりを表す板書
5 実例C 立場を決める小黒板
第11節 調べたくなる追究方法とまとめ方
そのB ノートの書き方 まとめ方
ノートとは何か?
第12節 主体的な学びとは何か?
教室空間の主体性と教材世界の主体性
1 「当事者性」と「自分事」
2 社会科授業の2つの世界「教室空間」と「教材世界」
3 教材世界の当事者性とは
第13節 比較から生まれる深い学び
1 2つ以上を比べることで得られる判断の拠り所
2 比べることで深い学びにつながる
第14節 深い学びの実現に欠かせない社会的な見方・考え方
1 社会的な見方・考え方とは何か?
2 お土産を選ぶ力で鍛えられる社会的な見方・考え方
3 基準を作ることで,見方・考え方が成長していく
コラム 考えたくなる体験1:
お土産交換(4年生)
第15節 授業改善の取り組み
授業を構成する3要素と自分の立場と児童の立場からの省察
1 授業改善の取り組み
2 授業を構成する3要素
3 教師の視点と児童の視点の双方からの授業省察
4 リフレクションの取り組み コルトハーヘン
5 具体的な取り組み 授業と生活を結ぶ手立て
コラム 考えたくなる体験2:
くるくるショップでリユース(4年生)
第2章 実践編
第1節 3年生 まちのうつりかわり「23区に海水浴場を取り戻せ!」
―どちらも大切な2つの価値を考える―
1 分野,領域
2 考えたくなるポイント
3 教材研究
4 展 開
5 考えたくなる授業場面
第2節 4年生 東京都の特色ある地域のくらし「東京みやげは何にする?」
―社会的な見方・考え方を育て,発揮する―
1 分野,領域
2 考えたくなるポイント
3 教材研究
4 展 開
5 考えたくなる授業場面
第3節 5年生 「福島のお米は安全ですが食べてくれなくても結構です」
―科学では解けないことがある!社会科を学ぶ意味―
1 分野,領域
2 考えたくなるポイント
3 教材研究
4 展 開
5 考えたくなる授業場面
コラム 「個別最適な学び」と「協働的な学び」で見方・考え方を育成する
「クラウドファンディングで起業しよう」(5年生)
第4節 6年生 「大仏が今も大切にされているわけ」
―昔も今も大切な自治の力―
1 分野,領域
2 考えたくなるポイント
3 教材研究
4 展 開
5 考えたくなる授業場面
参考文献

序 考えたくなる社会事象に出合った児童

1 社会科とは何を学ぶ教科なのか

 私の勤務する小学校は東京都内にある。都内の海岸では,夏になるといくつかある砂浜で足を浸して涼をとる人々を見ることができる。お台場海浜公園,城南島海浜公園,葛西海浜公園は美しい景観と相まって,東京都3大ビーチと呼ばれることもある。児童にとっても親しみがある場所である。しかし,これらは「人工の砂浜」であることを知っている児童は少ない。

 現在23区の海岸線は全て埋め立てられている。地図帳や航空写真を見ると直線と角が織りなす人工的な海岸線が,人の手によって埋め立てをされたことを物語る。23区から自然の砂浜が消えたのは,今から70年ほど前,葛西の漁師が漁業権を放棄したことが最後だという。埋め立てによって,東京港は日本経済を支える港へ,東京都は世界屈指の大都市として成長していくこととなって現在に至っている。このまちに住む市民の中に,このような過去を振り返る人は少ない。

 しかし,自然にあふれていた頃の東京湾を懐かしむ人もいる。元漁師の家庭に生まれ,少年時代を葛西の海で過ごした関口雄三さんとふるさと東京を考える実行委員会の方々は,幼い日を広大な干潟が広がる東京湾で過ごした。自然と接することで,自然の豊かさや偉大さだけでなく,おそろしさ,そしてたくましく生きる知恵を学んだという。成人となり,すっかり埋め立てられたふるさと葛西の海岸線を見て,関口さんは東京湾に海水浴場を取り戻そうと一人活動を始める。次第にその輪が大きくなり,葛西海浜公園の水質は改善していく。そして,ついに2013年およそ50年ぶりに葛西海浜公園に海水浴場が復活した。関口さんはメディアの取材に応じて「ふるさとの葛西の海で子供を泳がせることができなかった。しかし,今日,孫に泳がせることができました。感無量です」と応えた。

 私の学級の児童(第3学年)は,このような関口さんの活動を学ぶとともに,自分たちも葛西の海でカニを釣るなど自然と触れ合い楽しい時間を過ごした。教室の誰もが「自然は大切だ」「どうして埋め立てをしたの?」と,関口さんに共感して学んでいった。

 次に児童は,今から70年前,埋め立て前夜の東京湾を学習した。そこで一人の人物にたどり着く。当時の東京都港湾局の局長であった奥村武正さんの決断である。奥村さんは,人口増加や工場用地の不足,貿易のための港湾施設の整備など,将来の東京都の発展を考えて,やむなく葛西の漁師たちに漁業補償を出して漁業権を買い取り,東京湾の埋め立てを決断する。

 児童は,学習当初は,関口さんに寄りそうつもりで「どうして埋め立てられたのか?」調べていた。しかし,東京湾を埋め立てた奥村さんの立場や考えを知ると,とても奥村さんを悪者にすることができなくなった。簡単には白黒をつけられない社会問題を目の前に,児童は考えに考え,そして,ノートにつぎのように力強く書いたのであった。

(画像省略)

 「少し,絶対反対」という言葉は,文法的には間違った記述である。しかし,児童が関口さんにも,奥村さんにも共感し,1つの社会事象を多角的に考察していることが伝わってくる……。児童はより良い東京湾のあり方について考えを深めていった。ある児童は水質浄化の方法を図書館で調べノートにまとめ,またある児童は葛西の海にしばしば行くようになった。(この実践は第2章実践編で詳しく述べる)

 社会科とは何を学ぶ教科なのだろうか。社会科では,誕生から今日まで受け継がれている目標がある。それは「公民的資質の育成」である。それは,未来の社会を担う児童に,より良い社会を作っていこうとする気持ちと能力を育てることであろう。

 私たちの生きる社会は,地球温暖化や少子化や過疎化,世界に目を向ければ貧困や戦争など,解決が難しい問題が横たわっている。将来の主権者たる児童には,それら簡単には解決できない社会問題を考えていってほしいと言うことである。そして,何か自分にできることがあれば勇気を出して取り組んでほしいという願いが社会科教育にこめられているのではないか。

 しかし,これはとても難しいことでもある。単純な知識や技能ではなく。思考力も判断力も,そして学びに向かう力の育成も問われているからである。すなわち,資質・能力の育成である。多様性の溢れる今日,そして未来を生き抜いていく児童には,1つの価値観にしばられることなく,多様な価値観を理解し,多くの立場の人々が幸せになる決断をしていく力が必要であろう。そのために,1つの社会事象を2つ以上の立場から考えることを大切にしたい。そうすることで,多様な価値観を受け入れる視野の広さと他者へのあたたかい眼差しが育つと考えている。

 難しい目標であるが,それを考えていくことが私たち教師にとってのやりがいであり,わたしたちにしかできない尊い仕事ではないか。児童が進んで考えたくなり,公民的資質の育成に少しでも届く社会科授業を行うための具体的な方法と,社会への希望と人を見つめるあたたかさを持った児童の育成に少しでも役に立てればと考え本書を執筆した。


2 問題解決的な学習の実践上の課題

 私たち教師が,社会科授業を実際に行うとなると難しいと感じる点が多いという。それは,「国立教育政策研究所学習指導要領実施状況調査社会科」の調査からもわかる。(下図)

(図省略)

 ここから挙げられる実践上の課題は以下のようになる。


課題

1 疑問を引き出す資料(問いをつくる)

2 予想に基づいて調べる計画を立てる(調べる)

3 テーマに基づいて討論する(深める)

4 他の立場から考えたり,他の情報と比べたりする(多角的に考える)


 これら4つの課題は,(  )内に示したように,問題解決的な学習展開全体にわたっている。そのため,問題解決的な学習は,1つの手立てを用いればうまくできるというわけではない。それは,授業者の指導技術と教材の面白さ,そして児童の情意など,一つの授業を構成する要素が多岐にわたっているからである。

 例えば,導入場面において,教材が練られたものであったとしても,教師の発問が焦点化されていなかったら児童は課題を見出すことができないし,教師の発問が簡潔で明瞭だったとしても,教材が児童の情意を揺さぶるものでなかったとしたら,形式上は授業が流れたとしても,問題解決的な学習において鍵を握る,児童の内面からの追究意欲「考えたい!」という気持ちは芽生えない。

 このような点を踏まえ,授業者・教材・児童の3点に焦点を当てながら,児童が「考えたい!」と追究意欲を持って問題解決にあたるための「実践から導き出した理論」とその理論に沿って構成した「実践」を述べていくことにする。

著者紹介

粕谷 昌良(かすや まさよし)著書を検索»

筑波大学附属小学校教諭。1975年千葉県生まれ。山梨県公立小学校,千葉県公立小学校教諭を経て,現職。

日本教育公務員弘済会千葉支部教育実践論文大会最優秀賞受賞。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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