- はじめに
- T章 指導要録の改訂と通知表作成の考え方
- §1 教育課程審議会答申の構造的理解
- §2 評価の新しい考え方と「通知表」改革の方針
- U章 改訂指導要録に対応した通知表作成の課題
- §1 通知表の役割
- §2 通知表の改善の基本
- §3 評価基準と評価手順の明確化
- §4 評価方法の多様化
- §5 総合的な学習の評価の開発
- §6 保護者への説明責任
- V章 評価基準の例
- §1 「評価規準」と「評価基準」
- §2 「評価基準」の作成
- W章 改訂指導要録対応通知表作成のステップ
- §1 通知表作成の組織と運営
- §2 通知表作成の手順
- X章 改訂指導要録対応通知表作成のポイント
- §1 通知表作成のポイント5
- §2 通知表作成の工夫5
- Y章 総合的な学習の評価
- §1 総合的な学習の評価の仕方
- §2 通知表に総合的な学習をどう組み入れるか
- Z章 改訂指導要録対応通知表作成のモデル集
- §1 改訂指導要録対応・我が校の通知表
- 1 文章表記を多用し,より具体的に子どもの姿を伝える通知表 /愛知県知多郡東浦町立緒川小学校
- 2 新評価に応じた通知表 東京都台東区立根岸小学校
- 3 子どもに生きる通知表 千葉県館山市立北条小学校
- 4 三者でつくる育ちの記録 神戸大学発達科学部附属明石小学校
- 5 子どもの自立を促す通知表「学びの光」 /香川大学教育学部附属高松小学校
- §2 改訂指導要録対応の通知表のコンテンツ集
はじめに
2000年12月4日,教育課程審議会は,答申「児童生徒の学習と教育課程の実施状況の在り方について」を公表した。明けて2001年,正に21世紀の幕開けを象徴するような教育界の動きが始まっている。
この答申等によると,主に次のような変革を学校・教師に求めていると考えられる。
○絶対評価を基本とする――――友達との競争ではない
絶対評価を基本とすることによって,第一に,学習の達成状況が子どもの過去から現在までの変容と未来への可能性で捉えられるようになった。他人との比較で捉える評価から子どもを開放することになった。
第二は,学校・教師に「質の高い教育」を強く求めているということである。「オール5」(小学校ならオール3ということになろう)の教室が出てくるなどということは甘い考えである。充実した授業のない学級では,いささか乱暴な例えが許されるとしたら,ほとんどの子どもが1か2ということになりかねないのである。したがって,絶対評価を基本とすることは,授業の在り方,実践の在り方が,「学習活動をさせた」から「学習活動を通して○○○を身に付けさせた」ということに大転換するということである。
第三は,学校としての評価の考え方(方針)を明確にもつということである。学校としての評価の考え方,学習の目標と内容,評価基準等を研究し,絶対評価による評価が実施できるようになっていなければならない。
○説明責任を果たす――――通知表にも関係がある
説明責任に関しては,第一に,子ども一人一人についての学習の達成状況について,保護者(子ども)に対して,何を指導し,どのように評価するかを事前に説明し,事後にどのように指導し,評価結果がどのようであったかを説明することがある。当然,そこではこれからどのようにしたらよりよくなるかという改善策や発展のさせ方等も話題になろう。
第二は,学校としての学習の達成状況を学校全体の傾向として捉え,保護者等に説明していくことが求められるということである。
そこで,第三は,評価について,根拠と手続きを説明することが次第に求められるようになるであろうという予測である。根拠の重点は学校で作る「評価基準」であり,手続きの重点は「何を評価資料」として「どの様な手順」で行ったかであろう。通知表に対する評価・評定に関する問い合わせや苦情,訂正の要求が今でもあることから,通知表の在り方,内容,形式などについての研究と改善が急がれるところである。
このことは,学校評価についても言えることである。子どもが学校教育の中でどのように育っているか評価し,その評価結果を家庭や地域に説明することが明確に示されたのである。これからの学校は,どのような教育活動をしたかに加えて,それでどのような資質・能力・態度を育てることができたかという結果を問われるのである。
○個人情報の開示――――全面開示の方向である
指導要録については,開示請求をめぐる動きがたびたび報道されている。答申では,個人情報の本人への開示は,「業務の適正な実施に支障を及ぼす恐れがあるときを除き開示する」こととなっている。指導要録の本人開示についても同様であるが,具体的な取り扱いについては各教育委員会等の判断によるとなっている。
指導要録の本人開示の対象は,評価評定の部分と「総合所見及び指導上参考になる諸事項」の部分が主となることが多い。前者は客観性と信頼性,後者は子どもを教師がどのように見ていたか,指導上参考になる事項の範囲以内のことか,記述内容についての認識の違いなどが対立点になると考えられる。
以上,指導要録の改定にかかわる主なことについて概観してきた。いずれも,学校・教師が子どもをどのように評価するか,学校の教育の効果をどのように評価するかということにかかわっている。21世紀は,正に評価の時代だと言えよう。
そこで,私たちは,とりあえず,「通知表」について,評価の動向に照らして見直してみることにした。学校も保護者(子ども)も関心をもっていて,しかも全面開示されているのは「通知表」そのものだからである。近くの仲間と話し合ったり,先進的な取組みをされている方から提案いただいたりしてでき上がったのが本書である。通知表の改善,評価の改善のきっかけづくりになれば幸いである。読者の目に留まり,一読の上ご批正,ご指導を切にお願いする次第である。
末筆になりましたが,ご多用の中を玉稿を賜りました諸氏に対して心からお礼申し上げる。また,企画の段階からお世話になった明治図書の安藤征宏氏に対しても特に名を記して感謝の意を表する。
2001年4月 編 者
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- 明治図書