- まえがき
- 助言とは?――よい助言とわるい助言――
- T 子どもの成長に助言はどうかかわるか
- 一 言葉には心がある
- 二 言葉は魔物
- 三 技術的な助言・精神的な助言
- 四 より良い成長への助言
- 五 心情の育成を
- U 助言を求める子・求めない子
- ――助言の与え方のポイント――
- 一 助言を求める子、求めない子
- 二 助言の与え方のポイント3
- V 授業展開における助言のポイント
- 一 国語科授業のよい助言・わるい助言
- 書く/ 1 字を書く/ 2 文を書く
- 読む/ 1 音読の量を増やすために/ 2 テンポよく読むために/ 3 滑らかに読むために/ 4 大きく明快な声で読むために
- 聞く/ 1 話の中心が聞き取れない子に/ 2 よそ見や他のことをしながら聞く子に
- 二 社会科授業のよい助言・わるい助言
- 三年生/ 1 わたしたちのくらしと商店街
- 四年生/ 1 わたしたちの県/ 2 雪国の人びとのくらし
- 三 算数科授業のよい助言・わるい助言
- 三年生/ 1 計算/ 2 操作活動
- 四年生/ 1 計算/ 2 操作活動/ 3 中学年として
- 四 理科授業のよい助言・わるい助言
- 三年生/ 1 観察/ 2 実験
- 四年生/ 1 観察/ 2 実験/ 3 補足
- 五 音楽科授業のよい助言・わるい助言
- 1 リコーダーの導入指導/ 2 発声指導
- 六 図工科授業のよい助言・わるい助言
- 1 図工科授業で必要な助言/ 2 図工科授業の助言例/ 3 おわりに
- 七 体育科授業のよい助言・わるい助言
- 1 マット運動(第四学年)/ 2 走・跳の運動(中学年)
- W 道徳授業における助言のポイント
- 一 仲間外し(四年生)
- 1 仲間に入れてもらえない子ども/ 2 仲間に入れてもらえないときの気持ち/ 3 理想とするクラス/ 4 仲間外しがあっても仕方がないか/ 5 自分のこととして考えさせる/ 6 具体的な場面を考える
- 二 こんどで五回目(四年生)
- X 特別活動における助言のポイント
- 一 話し合い活動の中で
- 1 アンケートを実施する/ 2 すき間時間を活用する/ 3 提案理由を大切にする/ 4 意見のまとめを大切にする/ 5 係を活躍させる
- 二 学校行事の中で
- 1 子ども達に目標を立てさせる/ 2 教師が個々に具体目標を立てる
- Y 保護者へのアドバイス
- 一 学 力
- 1 計算力の低い子の保護者へ/ 2 努力に関心の薄い保護者へ/ 3 注意力のない子の保護者へ/ 4 勉強の目的が漠然としている保護者へ
- 二 健 康
- 1 流行性のものと考えられる場合/ 2 早退させる場合
- 三 人間関係
- 1 傍観者の子の保護者へ/ 2 友達ができにくい子の保護者へ/ 3 仲間外れになりやすい子の保護者へ/ 4 学校に行きたくない子の保護者へ
- 四 生活・その他
- 1 忘れ物が目立つ子の保護者へ/ 2 お金の遣い道について悩んでいる保護者へ/ 3 安全について気がかりな保護者へ
- 五 環 境
- 1 生き生き土を作ろう/ 2 エネルギーを大事に使おう/ 3 川を汚さない生活をしよう/ 4 言葉の環境は心の環境
- あとがき
まえがき
先日、家族で食事に行った時のことである。回転寿司の店に入った。とても混んでいた。二十分ぐらい待ってようやく座れた。
座れはしたが、すぐにはウエイトレスの人がお茶を持って来てくれなかった。一〜二分して、ようやく湯飲み茶碗を持って来てくれた。忙しかったからだろうか、空の湯飲み茶碗の中に指を入れて持って来た。
これを見て、使う気がしなくなった。この時、読者の皆様だったら、どんな態度・助言をされるだろうか?
読むのを止めて、少し時間を取って考えてみてはどうだろうか。
私自身、本人に直接に注意(助言)をしようかどうか迷っていた。頭や心の中で、葛藤が始まった。
直接に注意をするのは簡単であるが、素直に聞き入れて、反省してくれるかどうか心配だ。
素直に反省してくれればいいが、反感を持ってお客に接せられても困りものだ。
また、腹を立てられて喧嘩になるのも嫌だ。せっかく、気持ちよく食事をしに来たので、いい気分で食事をしたい。
しかし、言わなければ、このウエイトレスのためにならないだろう。
「どうしようか。困ったぞ。困ったぞ。」
と悩んでいた。
これを見兼ねたのだろう。家族の者が次の行動を取った。
他のウエイトレス(少し年長の人)の人にさっき、湯飲み茶碗を持って来た人は、こんなふうにして(指を湯飲み茶碗の中に入れて)持って来ました。こんな持ち方はお客さんに失礼です。使う気はしません。注意した方がいいです。取り替えてください。と注意(助言)した。私には考えがつかなかった注意(助言)の仕方である。
私だったら、結局は、揉め事は嫌なので黙っているか、それでも、やはり本人に注意して、お互いに気まずい思いをしたに違いなかった。
「こんなやり方もあるんだな」
と感心させられた。
こういう間接的なやり方だと、次の効果がある。
◯ 注意をした人自身も気まずい思いはしない。
◯ ウエイトレスの人にも反感を持たれることもない。
◯ 職場の先輩が助言するのでお客の前で恥をかくことはない。それで、注意を素直に聞き入れてくれるだろう。
◯ 店もこれを教訓に他の社員に指導をしてくれるに違いない。
すべての場合に、こういう間接的なやり方が効果があるとは限らない。
しかし、最初に持って来たウエイトレスの態度・年齢を考慮するとこれは、よい方法だった気がする。
子どもたちに助言する時も同じように思えてきた。
性格・状況などを考慮して注意をしなければいけない。そうしないと、こちらがよかれと思ったことが逆の効果をもたらすことになる。
先日、理科の実験中に四年生の児童に「アルコールランプの使い方」を指導した。
その中で「マッチのつけ方」の指導もした。一斉指導をした後、次のように言った。
次に班で練習をします。一度、
火をつけた人は、それで終わりです。
班を見て回り、個人指導をしていくと、同じ児童が二度も三度もマッチをつけていた。そこで、注意した。
○○くんが、マッチをつけるのが上手なのは、さっきから見ていてわかりました。しかし、○○くんばかりしないでね。もう上手なんだから何回もつけないで、他のできない人につけ方を教えてあげてね。
と助言した。これに対して、○○くんは、
「ぼくばかりしているのではないです。班の人が、もう一度つけるのを見せて欲しいといったので、見せているだけです。」
と反論した。これを聞いて
「またもや、早とちりをしてしまったか。よく尋ねて、注意をすればよかった。」
と後悔した。
幸い、この子は気分を害することなく、班の人にその後も教えていた。
しかし、児童の中には気分を害して、授業をまじめに受けなくなる子もいるに違いない。
助言や注意をする時には、落ち着いて観察し、事実関係を確認する必要性を再認識した。
日々、よい助言よりわるい助言をすることが多い。よかれと思って助言をしてきているがなかなか「これは効果があった」という言葉かけができないでいる。
今回「よい助言・わるい助言」というテーマで原稿を書いた。
改めて、言葉の大切さを見直すよい機会を与えていただいた。本文の中には実践も書いているが、机上のプランでも書いている。
また、一人の執筆者ではなく、サークルのメンバーが自分の担当を責任のもとに書いている。
それで、全体のまとまりに欠けるところがあるだろう。しかし、それは、一人一人の考えのよさを重視した結果であることを理解していただきたい。
この本を読まれた読者の方々に指導助言を仰ぎたい。
また、この本を手にされた先生方の助言の手助けになることを執筆者一同願っている。
これを機会に、少しでも
よい助言とは何か
ということを心がけて子どもたちに助言をしていきたいものである。
最後に、今回もサークルの活性化につながる貴重な体験をさせていただいた明治図書の江部満編集長に感謝・感謝・感謝……である。
そして、メンバーと一緒に助言について、親身になって考えてくださった長崎大学の安河内義巳教授にこの場を借りてお礼を申し上げる。
/浦崎 隆徳
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- 明治図書