- はじめに
- /木村 明憲
- 第1章 自己調整を支える段階的な自由進度学習
- /木村 明憲
- 1 段階的な自由進度学習
- 2 Lv.1 教師が指定する「指定調整型」
- 3 Lv.2 学習者が選択する「選択調整型」
- 4 Lv.3 学習者が1時間の授業を調整する「短期調整型」
- 5 Lv.4 学習者が1単元を調整する「長期調整型」
- 6 Lv.5 学習者が自律的に調整する「自律調整型」
- 第2章 自己調整を支える「仲間と共有された調整」
- 1 仲間と共有された調整と自己調整学習
- /伊藤 崇達
- 2 協同的な学びの中で生じる仲間との調整
- /岡田 涼
- 3 自己調整を支える共調整・社会的に共有された調整と自由進度学習
- /木村 明憲
- 第3章 「見通す」フェーズにおける調整
- /木村 明憲
- 1 課題プロセスの調整
- 2 目標プロセスの調整
- 3 計画プロセスの調整
- 第4章 「実行する」フェーズにおける調整
- /木村 明憲
- 1 推進プロセスの調整
- 2 確認プロセスの調整
- 3 調節プロセスの調整
- 第5章 「振り返る」フェーズにおける調整
- /木村 明憲
- 1 評価プロセスの調整
- 2 帰属プロセスの調整
- 3 適用プロセスの調整
- 第6章 自己調整学習と自由進度学習の可能性
- 1 子どもの自律性を支える自由進度学習と自己調整学習
- /岡田 涼
- 2 自己調整が埋め込まれた自由進度学習と共調整・社会的に共有された調整による学びの実現に向けて
- /伊藤 崇達
- おわりに
- /木村 明憲
はじめに
なぜ,自己調整学習が大切なのか。
それは,学校教育で自己調整学習を行っていくことが,子どもたちのその後の人生の幸せにつながると考えるからです。ここでは,なぜこのように思うようになったのかについて,少し触れておきたいと思います。
私は,約5年間,片道2時間半以上かけて勤務先の大学に通っています。1日約5時間以上も通勤に使っているのです。このようなことを親友に話すと,「人生の大切な時間を無駄にしないように生きないとね」と私に助言してくれました。その言葉がとても心に残り,電車で通うこの5時間をどのように有効に使うのかを一生懸命考えました。すると,電車の中でできる仕事がとても多いことに気づいたのです。
そのときから,「電車でできる仕事は電車で,大学でしかできない仕事は大学で,家庭でしかできないことは家庭で」と,その環境でしかできない事柄を考え,優先的に取り組むようになりました。私は「人生の大切な時間を無駄にしないように生きる」ためにどうすればよいかを考えた結果,「環境を調整しながら効率よく仕事を行う」ことができるようになったのではないかと思います。また,通勤時間,大学にいる時間,自宅にいる時間を計算し,「どの仕事をどの程度の時間取り組むのか」も考えるようになりました。これは,時間配分を調整していることになります。他にも,大学での勤務を終え,疲れから帰りの電車で仕事をすることが難しいときは,「とても疲れているから,この電車の中では休けいしよう」や,「ここでこれをやり終えられると,次の休日に自分の好きなことができそうだからもうひとがんばりしよう」といったように,体の状況を基に行動や動機づけを調整することができるようになってきました。このように,日常生活のいろいろな場面で自らを客観視(メタ認知)し,調整していくことが,私の日常生活の充実につながっていると感じています。
このように調整することは,仕事面においてのみ効果を発揮するものではないと感じています。私は,アウトドアが好きで,家の前に石窯をつくり,週末にその窯で火を焚いて料理をするときに大きな幸せを感じています。このような幸せな時間を捻出することができるのも,日常生活の中で自らの仕事や生活を調整することができているからこそであると思うのです。
そこで,具体的に私がどのように日常の仕事や生活を調整しているのか,詳しくメタ認知してみました。私は,朝の習慣として出勤の準備をしながら,昨日のことを思い出したり,今日1日のことを考えたりしています。その際,「今日の行きの電車では○○の執筆をしなければならないな」「授業がない時間に○○の準備をする必要があるな」「大学からの帰りは○○を読みたいな」といった段取りを頭の中で組み立てていきます。これは,今日やらなければならない課題と,やってみたいと思う目標を考え,どこで何をするのかという計画を立案しているのです。これは,自己調整学習の見通すフェーズと同じプロセスです。朝にこのように考えておくと,日常生活を過ごす中でそのことを思い出し,何が終わって何が終わっていないのかを確認したり,そのときの状況に応じて調節したりすることができるため,物事を段取りよく進められます。そして,1日を過ごし,夜寝る前に,「今日○○がうまくいったな」「○○は途中で終わったから明日する必要があるな」「○○をしなければいけなかったけれど,○○先生が気づいてやってくれて,とってもありがたかったな」といったように,1日の出来事を振り返り,今日1日の成果と,明日への課題について考え,自己評価します。そのときに,成果と課題の理由も考えるようにしています(原因帰属)。そうすると,「○○のときに○○の仕事にしっかり取り組んだからだ」と自分自身ががんばったことを思い出し,少し幸せな気分になれます。また,「○○さんが○○をして助けてくれたからできたんだ」とだれかの優しさに気づき,幸せを感じることもあります。他にも「このように過ごせたのも,家族の支えがあるからだ」と1日元気に働くことができたことに対する感謝と自らの幸せを感じることもあります。
このように,1日1日を調整しながら過ごしていくことで,日常に潜んでいる幸せに気づけるようになりました。また,調整の結果生まれた時間を使って,週末に自分の好きなこと,幸せだと思うことに時間を費やすこともできるようになりました。
近頃は,飛行機に乗ってもインターネットが使えるぐらい便利になっています。また,SNSで遠く離れている知人がどのように過ごしているのかを知ったり,いつでも連絡を取ったりすることができるようにもなりました。これはとても便利でよいことだと思います。しかし,便利になることが必ずしも人の幸せにつながるわけではありません。大切なのは,自分の幸せが何かを考え,幸せを感じる時間を自らつくり出していくことであると思います。そして,このような幸せを感じる時間をつくり出すためには,自らの生活を調整していく必要があるのです。
私は,このような自らの経験から,学校教育の中で子どもたちが学習を調整する経験を積み重ねることが大切であると考えています。学習を通して自己調整する力を高めることが,子どもたちのその後の人生において仕事や生活を自ら調整する力につながるのだと思います。そして,そのようにして身につけた調整する力が子どもたちの人生を豊かで幸せなものにしていくと思うのです。
学校では,子どもたちが調整する力を高めるために,自由進度で学ぶことが効果的であると考えます。自由進度で学ぶことにより,子どもたちはこれまでの一斉授業に比べて,より多くの事柄を調整しながら学ぶことができます。
本書は,そのような意図から,自己調整学習と自由進度学習に着目し,子どもたちの未来の幸せの実現を願って執筆しました。
(図省略)
今日の学校教育では,児童生徒の主体的な学びを実現するための1つの方法として自由進度学習が注目されています。しかしながら,「自由進度学習とはどのような学びなのか」という問いや,「自由進度学習と自己調整学習は何が違うのか」「それらをどのように理解すればよいのか」ということについての疑問が学校現場で生じているように感じます。これらの問いに対する筆者の見解を,図1のように整理しました。
本書では,自由進度学習を「教師が構築する学習の枠組み」であると捉え,教師の授業のやり方の1つであると整理しました。また,自己調整学習を「学習者が自律的に学びを進める能力を発揮しながら自らの学びに向かう姿・状態を目指す学習のあり方」であると捉え,学習者の学びのあり方であると整理しました。両者をこのように整理することにより「自由進度で学びながら学習者が自らの学習を調整する」ことや,「自由進度学習が学習者の調整力を高め,自己調整学習を促進する」ことにつながる授業の構築が必要であるという結論に至ったのです。
しかし,自由進度学習に取り組めば,児童生徒が必ず学習を調整できるようになるわけではありません。自由進度で学んでいるだけでなく,自由進度で学びながら,学習者が自らの学習を調整しようとする場面や手立てを教師が意図的に設定しなければ,学習を調整する力を育むことはできず,自己調整学習の実現には至りません。そこで,本書では,教師の授業の形態の1つである自由進度学習を,学習者の自己調整力に合わせて実施していくことができるよう「指定調整型」「選択調整型」「短期調整型」「長期調整型」「自律調整型」の5段階に整理しました。このように整理した段階的な自由進度学習の形態を基に,学習者がどのように学習を調整していけばよいのか考えていくことが,児童生徒の主体的な学びにつながると考えます。
学習者が学習を調整することについては,これまで,拙著『自己調整学習』『自己調整方略』(ともに明治図書)において議論しました。そして,学校現場において児童生徒が自らの行動や動機づけをメタ認知し,積極的に自己調整しながら学ぶ授業実践が盛んに実施されるようになってきています。これはとても喜ばしいことだと感じます。しかし,実施しておられる先生方から,「日本の学校の授業では,児童・生徒が自己調整するだけでなく,だれかと共に学んだり,グループを形成して集団で共有しながら学んだりすることも,これまで大切にしてきた。このような他者とかかわる学びと自己調整学習とはどのような関係にあるのか」といった質問を,近頃多く受けるようになりました。
そこで本書では,自由進度学習の段階を整理したうえで,学習者が自らの学習を調整する力を高めていくために重要であると考えられる,「他者と共に学習を調整する」ことに踏み込んでいきます。他者と共に学習を調整することについては,「他者と対話等を通して学習を調整する『共調整』」「グループなどの集団を形成し,目標や計画を共有しながら学習を調整する『社会的に共有された調整』」として整理しています。本書では,先生方の疑問に答えるべく,自己調整とこれらの調整の関係を明確にしながら,学習者の主体的な学びについて整理していきます。
段階的な自由進度学習の枠組みの中で児童生徒が自己調整,共調整,社会的に共有された調整をしながら学ぶことが,個の自己調整学習を充実させ,主体的な学びの実現につながるのです。
2026年4月 /木村 明憲
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明治図書

















