- まえがき
- T 新学習指導要領の歴史的位置、社会的背景
- 一 子ども・内容の統制と開かれた教育課程 /子安 潤
- 1 はじめに
- 2 子どもの状況認識をめぐって
- 中教審・教課審の状況認識
- 学びの状況認識と方針について
- 倫理観の問題に関わって
- 3 教育内容における統制と政治
- 基礎・基本の捉え方と削減
- 共通教養という枠組み
- 開かれた教育課程と学び
- 二 教育課程改革 ―学習指導要領改訂の政治的構造 /佐藤 学
- 1 新しい統制への転換
- 2 反教育というロマン主義
- 3 現実との乖離
- 4 研究と実践の課題
- 三 新学習指導要領のポリティックス分析 ―総合学習を手がかりに /長尾 彰夫
- 1 はじめに――分析の視座としてのカリキュラム・ポリティックス
- 2 新学習指導要領をめぐるポリティックス
- 3 カリキュラム・ポリティックスの焦点としての「総合的な学習の時間」
- 4 総合学習展開の可能性と課題
- 5 結びにかえて――求められているカリキュラム研究における方法論の転換
- U 新学習指導要領の構造と特質
- 一 新学習指導要領の特質と構造 /水原 克敏
- 1 教育課程の構造改革
- 2 幼稚園教育要領
- 3 小学校学習指導要領
- 生活科と合科的な指導
- 総合的な学習の時間
- 4 中学校学習指導要領
- 基礎・基本の教育
- 個性伸長の教育
- 5 高等学校学習指導要領
- 高等学校教育の位置付け
- 必修の基礎・基本的な内容
- 選択的な学習内容
- 6 学習指導要領の全体的構造
- 二 個我の教育を基盤にした近代教育改革の幻想 ―1998(平成10)年版小学校学習指導要領の場合 /池野 範男
- 1 問題の所在
- 2 新しい学校教育課程の構造と問題性
- 基本的な教育行為の分析
- @ 基本的な教育行為=目的合理的な成果志向型行為
- A 基盤としての実感的体感的関係
- 教育領域の関係構造の分析
- @ 全人的な教育の要請
- A 総合的な教育領域構造
- 個我の教育の問題性――近代日本教育改革の幻想
- 3 結論
- 三 新学習指導要領の構造と課題 /水内 宏
- 1 拙速かつ中途半端な今次改訂
- 2 「総合的な学習の時間」の課題
- 教育課程上の位置――「総合的な学習の時間」の可能性と現実性
- 教科構造における内部矛盾の進行へ?
- 論議における歴史の到達点の継承を
- 3 選択制の拡大・強化
- 中学校選択教科制を問いなおす
- 高校教育課程変質の促進
- 4 教科外諸活動の課題
- クラブ活動の廃止
- 学校に不可欠な青少年の基本的集団
- 5 むすびにかえて
- V 新学習指導要領の実践的課題
- 一 基礎学力の問題について /土井 捷三
- 1 混迷する基礎学力の諸問題
- 基礎学力の現状
- 基礎・基本の捉え方とその問題点の改善
- 2 基礎学力の再構築への主体―活動理論的視点
- 連合主義からの脱却
- 主体―活動理論的視点
- 基礎学力の再構築に向けて――数量指導について
- @ 現行の教育内容・教材構成の問題点
- A 主体―活動理論的視点による数量概念の構成について
- 最後に
- 二 「教科内容厳選」の検討と実践の課題 ―小学校「国語」の場合 /大槻 和夫
- 1 はじめに
- 2 教育内容の「厳選」はどのようになされているか
- 3 新学習指導要領のどこに問題があるか
- 4 新学習指導要領のもとでどう実践するか
- 5 おわりに
- 三 総合的学習をどう創るか /片上 宗二
- 1 はじめに
- 2 提案された総合的学習とその検討
- 提案された総合的学習の枠組み
- 曖昧な点
- 四つの曖昧な点
- 3 現在試みられつつある総合的学習の八類型
- 4 注目される総合的学習の新しい方向
- コアとオプションからなる総合的学習
- 新しい学び追究型の総合的学習
- 異学年集団の学び合いを方法原理とする「テーマ研究」
- @ テーマ研究「学び」の概要
- A 実践の概要
- おわりに
- 日本教育方法学会会則
- 日本教育方法学会役員名簿
- 日本教育方法学会入会のご案内
まえがき
新しい学習指導要領が告示され、二十一世紀を展望する学校教育改革が、いよいよ具体化してきました。今回改定された学習指導要領では、教科時間数の削減とそれに伴う教科内容の厳選、基礎・基本の徹底、「総合的な学習の時間」の新設、選択幅の拡大、地域との連携・協力の強化、学校裁量の拡大などが謳われています。教育現場においては、とりわけ「総合的な学習の時間」をどうするかが現実に直面している問題になってきています。関連する書物も数多く出版されています。しかしその際、学習指導要領をあらためて、戦後教育のとらえ直しや編み直しの論議、ポスト冷戦体制の構築の動き、バブル崩壊後の新しい秩序の模索等々、歴史の大きなうねりのなかに正しく位置づけ、二十一世紀の学校像を見据えた、より慎重な態度が要求されてもいます。
今回改訂された新学習指導要領に示された教育課程や教育方法の「改革」は、「新しい荒れ」というキーワードで示される現代の子どもたちに、どのように応えようとしているのでしょうか。その改革は、「現在」と「将来」を生きる子どもたちにとって、生きる勇気と明るい見とおしを示しうるものになっているのでしょうか。今なお進行しつつあるいじめや不登校、「学級崩壊」や「授業不成立」という子どもたちが示す問題状況をまえにして、日本教育方法学会に集う私たちは教育方法学的な検討をとおして、あらためて新学習指導要領と対話していく必要があると考えます。
日本教育方法学会では、常に教育実践の事実に目を向け、真摯に向きあい、寄り添いながら、その事実のうちにひそむ未来への可能性と課題を、学問的に明らかにしていくことをその主要な任務としてきました。その際、過去の遺産を批判的に継承していきながら、確かな見とおしを提示することにも努めてきました。そして、こうした立場を反映して、学会大会でのシンポジウムや課題研究の諸成果を、広く実践現場に問うていく努力もまた、大切な責務として行ってきました。その努力の一環をなすものが、本書『教育方法』シリーズの公刊です。
『教育方法』は、第二十六巻以降、それ以前の『教育方法』の持つ伝統と成果を確かめつつ、より以上にアクチュアルな問題について特集テーマを焦点化し、わが国の教育現実に真正面から取り組む性格を強めてきています。
いまここに新たに公刊する『教育方法 教育課程・方法の改革―新学習指導要領の教育方法学的検討―』は、そうした性格をさらに強調し、現実の問題に直結した教育方法学の最先端の研究成果を世に問う使命を持って生まれました。本書は、本学会第三十四回大会(一九九八年十月 福岡教育大学)でのシンポジウムの成果をふまえながらも、新学習指導要領についてさらに教育方法学会として総力をあげて取り組む方向で、編集委員会において企画されました。その第一弾としてまず、本書においては新学習指導要領の持つ歴史的・社会的背景、構造や特質、実践課題について多角的に分析され、論述されています。
すなわち、まずTにおいては、新学習指導要領の登場を支える歴史的・社会的背景に潜む権力的な統制を暴きつつ、共通教養のとらえ直しや「総合的な学習の時間」へのカリキュラム・ポリティクスの視点からの分析をとおして、その対抗軸を描き出そうとしています。
Uにおいては、二十一世紀の学校を構想する教育課程としての新学習指導要領の構造の特質を明らかにしています。とりわけここでは、三領域で構成されてきたわが国の学校教育課程が、「総合的な学習の時間」の新設によってどのように変化するのか、その内実を考察しつつ、新学習指導要領の意義と問題点を浮かびあがらせています。
Vにおいては、基礎学力の脆弱化や教育内容の「厳選」に対する問題意識のもと、算数・数学や国語の実践課題を具体的に提起するとともに、現在試みられつつある総合的な学習の諸実践を整理しながら、今後の実践の方向性を提案しています。
本書は、「会員頒布制」ではありますが、会員のみならずより多くの方々に読んでいただくことを願い、従来の市販ルートによっても販売しております。このことは、会員による研究の成果を全国の教育学研究者および現場教師の方々を中心に批判検討していただきながら、それをいっそう科学的・客観的なものに高めていくとともに、その成果を現場実践にも広く反映させ、わが国の教育の発展に貢献したいという意図に基づいています。また、本シリーズとならんで、本学会紀要『教育方法学研究』も、現在第二十四巻を数えております。大会報告等も掲載しておりますので、あわせてご参照いただければ幸いです。
以上のような意図ならびに視点から編まれた本書が、わが国の教育実践の前進と教育学研究の発展、さらには子ども・親・教師をはじめ、教育に関わるすべての人々の真の幸せに貢献できることを願ってやみません。
最後になりましたが、本書の出版に際し、明治図書藤原久雄社長ならびに江部満氏には、ひとかたならぬご支援をいただきました。この場をかりて、心よりお礼をもうしあげます。
1999年7月 編者
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- 明治図書