- まえがき
- T 学校の新しい役割と可能性
- 一 情報・消費社会における学校の役割
- ――〈homo educandus〉から〈homo discens〉へ―― /高橋 勝
- 1 いま、なぜ学校が問われるのか
- 2 近代学校からの子どもの逃避――「学ぶこと」の意味の自明性の喪失――
- 3 学校への新しい〈まなざし〉の生成
- 4 「経験の空間」としての学校
- 5 コミュニケーションによる「市民性」育成の場としての学校
- 6 おわりに
- 二 学校自治の可能性
- ――新教育は共同性の問題にどう取り組んだか―― /永田 佳之
- はじめに
- 1 新教育理論における個人と共同体
- 2 歴史上の位置づけ
- 3 自治の形態・機能
- 4 自治の効用
- 5 自治の実際
- 6 日本における可能性
- (1) オルタナティブな教育施設での可能性
- (2) 公立学校での可能性
- おわりに
- 三 新しい学校環境の創造と学校システムの開発 /吉田 貞介
- 1 はじめに
- 2 新しい学校環境の創造
- (1) ゆとりと柔軟な学習空間の構築
- (2) ゾーンプランニングによる学校環境造り
- 3 新しい学校システムの開発
- (1) 学校改善のための枠組み
- (2) 学校改善項目の具体的内容
- 4 情報・メディア環境の構築
- (1) メディアの充実と体験情報の融合
- (2) ネットワーク環境の充実
- U 学級・ホームルームを問い直す
- 一 いま、「問い直す」ことの意味 /折出 健二
- 二 学級の学習効率化原則を問い直す /奥平 康照
- はじめに
- 1 「学級」という組織原理の由来
- 2 学級の崩壊
- 3 学習の協同
- 4 自治の拡大
- 三 「開かれた」学級づくり
- ――「運命共同体」から「学びの共同体」へ―― /加藤 幸次
- 1 「生活」を重視した学級の成立
- (1) 「等級」から「学級」へ
- (2) 封建遺制を温存した
- (3) 「学習」と「生活」が分離してしまった
- 2 「閉ざされた」学級の出現
- (1) 学級は孤立した集団である
- (2) 学級は「運命共同体」となってしまった
- (3) 「学級王国」が出現する
- 3 「同質性」の再生産装置
- (1) 教室空間にコンパートメント化する
- (2) 「学級集団」がそのまま「学習集団」である
- (3) 級友を気にして表現しない
- (4) 学級を「開かれた」存在とする
- 四 キレる中学生と荒れる中学校をどうするか /花山 尚人
- 1 中学校の現状
- 2 子どもと出会うことから
- 3 キレる生徒に寄り添いきる
- 4 「ごちゃごちゃ型行事」
- 5 問い直したい行事観
- 6 否定的な影響力を肯定的な影響力に
- V 戦後授業研究と授業づくりの課題
- 一 戦後授業研究の成果と課題
- ――共同研究にむけての二、三の提案―― /杉山 明男
- 授業の研究の課題
- 二 戦後授業研究と教育実践
- ――とくに研究視点をめぐって―― /小田切 正
- 1 五大学共同研究から「全授研」結成まで
- 2 「現実過程としての授業研究」の周辺
- 3 学校の公共性と授業研究のこれから――砂沢喜代次氏のばあい――
- 三 戦後教育評価論の位相と展開 /田中 耕治
- 1 教育評価の二重構造
- 2 教育評価の転換
- (1) 「相対評価」批判の系譜
- (2) 「到達度評価」のマニフェスト
- 3 教育評価の今日的課題
- (1) 「到達度評価」と「個人内評価」の内在的な結合
- (2) 自己評価の意義と留意点
- 四 授業研究と学習集団
- ――その史的考察―― /豊田 ひさき
- はじめに
- 1 学習集団的授業観の前史
- 2 戦前と戦後をつなぐ実践
- 3 本格的な学習集団の授業
- 日本教育方法学会会則
- 日本教育方法学会役員名簿
- 日本教育方法学会入会のご案内
- 3年単元「LIVING WITH FOREIGNERS(日本文化を紹介しよう)」
まえがき
いま、私たちがともに生き、ともに歩いているこの時代は、後の世の人々にはどのように映るのでしょうか。混沌と混迷の時代のプレリュードとしてでしょうか。それとも、新たな希望の光りが輝きはじめる時代のクライマックスとしてでしょうか。
私たちの眼の前に現れている現象は、一見、時代の閉塞状況のなかでの混沌と混迷以外の何ものでもないように思われるかもしれません。とりわけ教育実践の現場からは、「ムカつく」「キレる」子どもたちの状況や授業不成立・学級崩壊の様相を呈しているような学校の実態、さらには増加の一途をたどる高校中途退学者の問題など、様々なかたちで困難な状況が報告されています。果たして私たちは、こうした現状のなかから希望の光りを見いだすことができるのでしょうか。
日本教育方法学会は、常に教育実践の事実に目を向け、真摯に向きあい、寄り添いながら、その事実のうちにひそむ未来への可能性と課題を、学問的に明らかにしていくことをその主要な任務としてきました。その際、過去の遺産を批判的に継承していきながら、確かな見とおしを提示することにも努めてきました。そして、こうした態度を反映した学会大会でのシンポジウムや課題研究の諸成果を、広く実践現場に問うていく努力もまた、大切な責務として行ってきました。その努力の一環をなすものが、本書『教育方法』シリーズの公刊であります。
このような『教育方法』がもつ伝統に新たな一ページを加えるものとして、いまここに『教育方法 新しい学校・学級づくりと授業改革』を刊行いたします。
『教育方法』シリーズは、第二十六巻を刊行する際、本学会常任理事からなる編集委員会によって、本シリーズをより充実したものにするために、編集方針についての慎重な検討が行われました。その結果、第二十六巻では、従来の『教育方法』のもつ伝統と成果を確かめつつ、より以上にアクチュアルな問題について特集テーマを焦点化し、わが国の教育現実に真正面から取り組む性格を強めることとなりました。
本書『教育方法 』におきましても、その編集方針をふまえつつ、さらには本学会第三十三回大会(一九九七年十月 横浜国立大学)の諸成果をもふまえながら、編集委員会が今日の時代状況を見極めつつ、大きく学校論・学級論・授業論の柱で再構成し、新たに執筆者に依頼して、そのうえで書き下ろされたものになっています。それゆえ本書は、『教育方法 』が開いた新しい可能性を、さらに広げていくものになっているのではと考えています。
すなわち、Tにおいては、目まぐるしく変動する社会状況のなかで、二十一世紀の学校像をどのようにデザインすればよいのかという問題意識のもと、これからの学校に期待される新しい役割とその実現への手だてについての検討がなされています。とりわけここでは、学校が「経験の空間」や「学びの場」といった空間論的視座から議論されるとともに、公共性の再構築という視点から学校の可能性が検討されています。
Uにおいては、本学会で継続的に討議されるなかで蓄積されてきた諸成果をふまえつつ、今日の学校改革論議や教育実践上の問題状況を射程におきながら、学級・ホームルームの新しい位置づけについての検討がなされています。とりわけここでは、学級組織への史的考察をふまえつつ、授業における自治の問題や「学びの共同体」への検討が加えられるとともに、実際の中学校での実践をもとにしながら、学級を基盤にした活動のなかで子どもたちが自立していく可能性が示唆されています。
Vにおいては、やはり本学会大会で四回にわたって継続された課題研究「戦後授業研究の成果と課題」の中間的なまとめを行い、これからの授業研究のあり方を探るうえでの指針的な提案がなされています。とりわけここでは、わが国の授業研究の草分け的存在である「全国授業研究協議会(全授研)」の遺産の批判的継承が試みられるとともに、教育評価論や学習集団研究の視座から、今後の授業研究についての提案がなされています。
本書は、「会員頒布制」ではありますが、会員のみならずより多くの方々に読んでいただくことを願い、従来の市販ルートによっても販売しております。このことは、会員による研究の成果を全国の教育学研究者および現場教師の方々を中心に批判検討していただきながら、それをいっそう科学的・客観的なものに高めていくとともに、その成果を現場実践にも広く反映させ、わが国の教育の発展に貢献したいという意図に基づいています。また、本シリーズとならんで、本学会紀要『教育方法学研究』も、現在第二十三巻を数えております。大会報告等も掲載しておりますので、あわせてご参照いただければ幸いです。
以上のような意図ならびに視点から編まれた本書が、わが国の教育実践の前進と教育学研究の発展、さらには子ども・親・教師をはじめ、教育に関わるすべての人々の真の幸せに貢献できることを願ってやみません。
最後になりましたが、本書の出版に際し、明治図書藤原久雄社長ならびに江部満氏には、ひとかたならぬご支援をいただきました。この場をかりて、心よりお礼を申しあげます。
一九九八年七月 編 者
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- 明治図書