- まえがき
- T 「いじめ」問題に教育方法学はどう取り組むのか
- 一〈子ども社会〉を育てることを軸に考える /浅野 誠
- 1 「危機管理」的「いじめ撲滅」を越えて
- 2 「ぐるみ主義」のなかでの異質排除としてのいじめ
- 3 〈子ども社会〉の希薄化のなかでの「いじめ」
- 4 「いじめ」がなぜ見えにくいか
- 5 〈子ども社会〉の新たな創造への芽吹き
- 6 子ども・親・教師の参加のなかで〈子ども社会〉を保障促進する学校づくりへ
- 7 具体的指導をめぐって 〜アクティヴィティ〜
- 8 おわりに
- 二 教師にできるのは授業です /麻生 信子
- 1 「授業どころではない」?
- 2 裁判から学ぶいじめ≠ヨの認識
- 3 教育方法学会は授業の重視を
- 三 反差別・人権教育の積極的展開を
- 〜学校「いじめ」問題への提言〜 /桂 正孝
- はじめに
- 1 変化した子どもの人間関係
- 2 「いじめ」現象をどうとらえるか
- 3 スケープ・ゴートづくりの「いじめ」現象
- 4 人権教育の今日的意義
- 5 残された課題 〜シンポジウムから
- U 子どもの文化状況と教育実践の課題
- 一 現代における子どもの文化状況と教育実践の課題
- 〜おとなと子どもの関係性を組み変える実践は可能か〜 /小川 博久
- はじめに
- 1 現代の子どもの生活文化をどうとらえるか
- (1) 子どもの伝承文化としての遊びの崩壊
- (2) 抽象化された記号環境の中でくらす子ども〜マス・メディアと消費文化の中で〜
- (3) 消費文化における情報環境の中での学校とはなにか
- (4) 現代における学校の教育実践課題とは
- 二 「小さな大人」の感性と教育実践の課題 /中井 孝章
- 1 高度資本主義における感性の変容
- 2 「小さな大人」の感性 〜いじめ死事件を通じて〜
- 3 「温かな」教育実践による「冷めた」感性の改善 〜「ノリ」を介して〜
- (1) 「ノリ」とは何か
- (2) 感性の教育に向けて
- 三 「遊び」調査を通して見た子どもの文化状況と教育実践の課題 /岡 健
- 1 問題の所在
- 2 「遊び」調査を通して見た子どもの文化状況
- 3 教育実践の課題とは何か
- 四 子ども固有の科学文化を発信する理科授業 /森本 信也
- 1 現代の子どもの科学についての学びの世界と理科教育の新しい目標
- 2 子どもが構成する科学の世界の価値づけ
- 3 状況に依存した子どもの認識とその広がり
- 4 教室に固有のネットワークを背景にする子どもの学び
- V 新しい学校像と教育課程改革の課題
- 一 公共性の再構築へ
- 〜学校改革への指標〜 /佐藤 学
- 1 揺らぐ学校
- 2 学校改革の二つの岐路
- 3 学校改革の指標
- 4 学校組織の構造的問題
- 5 学びを中心とするカリキュラムへ
- 二 社会教育機関の一つとしての学校・文化活動の場としての学校 /安彦 忠彦
- 1 社会教育・生涯学習機関の一つとしての学校
- 2 「社会教育機関」のあるべき性格
- 3 学校論的吟味
- 4 「文化活動の場」としての学校の性格
- 5 「自治活動の場」としての学校の性格
- 三 新しい学び方教育への道 /柴田 義松
- 1 「生きる力」をどうやって育てるのか
- 2 詰め込み教育のどこが悪いのか
- 3 学び方の質的な転換こそが必要
- (1) 読み方の授業の場合
- (2) 「学び方」教育の実践
- 四 新しいカリキュラム開発研究をどう進めるか /水越 敏行
- 1 今なぜ横断的または総合的学習が必要なのか
- 2 新しい横断的・総合的学習とは
- (1) 相関カリキュラム
- (2) クロスカリキュラム
- (3) 総合学習
- 3 相関カリキュラムの事例 〜科学と技術のモジュール〜
- 日本教育方法学会会則
- 日本教育方法学会役員名簿
- 日本教育方法学会入会のご案内
まえがき
激動の二十世紀の終焉をあと数年に控え、二十一世紀の社会を地球的な規模でどう構想しどう実現していくかについての議論が盛んに行われています。このことは教育界においても例外ではなく、第十六期中教審をはじめとして、これからの教育のあり方が、さまざまな角度から検討されています。
こうした一連の動きのなかで忘れてはならないことは、現状を分析するなかで過去をどう総括し、それをどう将来に生かしていくかということです。わが国においては、競争の原理が社会の隅々にまで浸透することによって、さまざまなかたちで「弱者」が生み出されています。そしてそのなかで自己のアイデンティティを確立しようとするために、さまざまな問題が噴出していることは枚挙に暇がありません。このことは、教育現場のなかで「いじめ」や「不登校」の問題が後を絶たないことをみてもうなずけることでしょう。こうした現状のなかで果たしてわれわれは、教育基本法のもとでの戦後教育の歩みをどのように総括し、どのように将来への一歩を踏み出していくべきなのでしょうか。
日本教育方法学会は、過去の遺産に真摯に向きあいながら、教育の現代的課題に取り組んできました。まさに、直面する困難な状況のなかで過去を批判的に継承し、未来への展望を開いていこうとしてきたのです。
そして、こうした態度を反映した学会大会でのシンポジウムや課題研究の諸成果を、ひろく実践現場に問うていく努力もまた、大切な責務として行ってきました。その努力の一環をなすものが、本書『教育方法』シリーズの公刊であります。
このような『教育方法』がもつ伝統に新たな一ページを加えるものとして、いまここに『教育方法26 新しい学校像と教育改革』を刊行いたします。
本書を刊行するに際しては、本学会常任理事からなる編集委員会が、『教育方法』のもつ伝統と性格を確かめながら、本シリーズをより充実したものにしようと、編集方針についての慎重な検討を行いました。その結果、本書は本学会第三十二回大会(一九九六年度 大阪教育大学)の諸成果をふまえながらも、そのなかから編集委員会が今日の時代状況を見極めつつ独白に再構成し、新たに執筆者を依頼して、そのうえで書き下ろされたものになっています。それゆえ本書は、従来の『教育方法』以上にアクチュアルな問題についての特集テーマに焦点化され、わが国の教育現実に真正面から取り組むものになっているのではと考えています。
すなわち、Tにおいては、わが国の教育界の急務の課題である「いじめ」問題について、本学会のこれまでの取り組みへの批判的検討を念頭に置きながら、教育方法学が「いじめ」問題にどう取り組んでいくかが検討されています。とりわけここでは、学校における「子ども社会」のもつ意義が検討されるとともに、授業論や人権教育の立場から「いじめ」問題への取り組みが議論されています。
Uにおいては、情報化社会の進行に端を発する子どもの文化状況の大きな変化を前にして、教育実践をどのようにして構想していくかについての検討がなされています。とりわけここでは、子どもの遊びや感性の変化の問題から教育実践の課題が議論されるとともに、子どもの学びの視座からの授業実践の新しい展開が提示されています。
Vにおいては、学校週五日制や、環境教育・情報教育などの新しい教育課題の出現や、中教審等での議論を念頭に置きながら、教育課程の改革をいかに構想し、いかに実現していくかについての検討がなされています。とりわけここでは、「学びの共同体」の議論や社会教育等との関連のなかで新しい学校像についての議論がなされるとともに、学び方教育への道が模索され、かつ、横断的・総合的学習の検討を通してカリキュラム開発研究の視座が提示されています。
本書は、「会員配布制」ではありますが、会員のみならずより多くの方々に読んでいただくことを願い、従来の市販ルートによっても販売しております。このことは、会員による研究の成果を全国の教育学研究者および現場教師の方々を中心に批判検討していただきながら、それをいっそう科学的・客観的なものに高めていくとともに、その成果を現場実践にもひろく反映させ、わが国の教育の発展に貢献したいという意図に基づいています。また、本シリーズとならんで、本学会紀要『教育方法学研究』も、現在第二十二巻を数えております。大会報告等も掲載しておりますので、あわせてご参照していただければ幸いです。
以上のような意図ならびに視点から編まれた本書が、わが国の教育実践の前進と教育学研究の発展、さらには子ども・親・教師をはじめ、教育に関わるすべての人々の真の幸せに貢献できることを願ってやみません。
最後になりましたが、本書の出版に際し、明治図書藤原久雄社長ならびに江部満氏には、ひとかたならぬご支援をいただきました。この場をかりて、心よりお礼を申しあげます。
一九九七年七月 編 者
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- 明治図書