- はじめに
- T 「筋道を立てて話す」とその準備
- 一 「筋道を立てる」ということ
- 二 相手意識と日常的指導
- U 各教科における「筋道を立てて話す」ための取り組み
- 一 国語の時間の取り組み
- 1 スピーチの学習をおこなう
- 2 スピーチを継続しておこなう
- 3 討論的授業を目指す
- 4 四つの理由を補う
- 5 地図で道順を話す
- 6 品物の紹介をする
- 7 自分の住むまちのよさを話す
- 二 社会の時間の取り組み
- 1 教科書を音読させる
- 2 資料の読み取りをさせる
- (1) 写真の読み取り
- (2) 地図の読み取り
- (3)グラフの読み取り
- 3 見開き二ページでまとめさせる
- 三 算数の時間の取り組み
- 1 計算方法を説明する
- 2 難問を説明する
- 四 理科の時間の取り組み
- 1 おおまかな実験の手順を説明できる
- (1) 実験の手順を読む
- (2) 実験の手順を説明し合う
- 2 実験結果を説明できる
- 3 予想や考察を説明できる
- 五 「定型」で話す
- 六 文を指導する
- 七 「ペア」で話す
- 八 スピーチのカリキュラム
- ※子どもの実物ノート
- おわりに
はじめに
大森修氏の『作文技術で思考を鍛える』に次の文章がある。
子どもの言語活動の最たるものは書く活動ではない。話す活動である。ところが、子どもの話は何を言っているのか分からないことがままある。教師にも何を言いたいのか分からないのだから、話を聞いている子どもにとってはなおさらである。
教職経験が長くなるにつれて、右に対する自覚が薄れてくる。子どもの言い分を聞き取れるようになるからである。経験がそのようにさせる。だから、子どもの話す言葉を明晰にして伝達機能を高めようという自覚がなくなる。
子どもの話す言葉もはっきりしないが、教師の話す言葉も子どものそれにどっこいどっこいである。教師は自らの話す言葉がどれだけいいかげんかを棚上げして、子どもを責めている場合がまま見られる。問うべきは、自らの話す言葉なのである。
大森修著『作文技術で思考を鍛える』(明治図書)
発言をする子どもに「もっと分かりやすく話しなさい」「もっとくわしく話しなさい」とよく話す教師がいる。
それは子どもに責任はない。責任を負うべきは教師である。
話し方を身につけていれば、教師から「もっと分かりやすく」「もっとくわしく」などとはあまり話さなくなるものだ。
「もっと分かりやすく話しなさい」と話したということは「分かりやすく話すための指導を怠っていた」という証明にもなるのである。
「筋道を立てて話す」という言葉は実に曖昧である(※「説明する」も「話す」に含めることとする)。
曖昧だが、多くの研究紀要や指導案などにみられる言葉の一つが「筋道を立てて」「筋道立った」というフレーズである。
「筋道を立てて話す子ども」と聞くと、雄弁に発言する光景が浮かぶ。
クラスの仲間全員に分かりやすく説明する姿。
仲間はそれを聞いてうなずく。
そのようなすばらしい光景を垣間見ることができる。
しかし、次の二つのことについてはっきり示されていない。
@ 「筋道を立てて話す」とは、どのような状態をいうのか。
A 「筋道を立てて話す」ための具体的な指導はどう組まれていったのか。
特にAについて、研究会で質問しても「そんなに指導はしていません」「たくさん話させることです」などという答えが返ってくる。
中には「とても頭のいい子どもたちで、発言も最初からすばらしかったのです」などと意味不明な答えを話されることもある。
私はそんなことは聞いていない。
私が聞いていることは、「具体的な指導はどう組まれていったのか」である。
四月から(二学期からでもいい)あるいは持ち上がりの場合は前年度からどのように指導をおこなってきたのかを話せばいいのである。
もし、先の質問に教師が話せないとするならば、次の二つが推察できる。
A 行き当たりばったりの指導をおこなってきた。
B 指導らしきことはほとんどしていない。
行き当たりばったりでは、常に納得のいく結果をコンスタントに得られない。
指導らしきことをしていないというのは一番問題である。
「どの子も堂々と発表していて、すばらしいの一言に尽きます」
「分かりやすく話す子が多く、この学級の子どもたちは普段から鍛えられていると思いました」
などと感想を話す教師がいるが、それではダメだ。
堂々と発表するには、普段からどのような指導をされているのですか。教えてください。
分かりやすく話すために、どのような取り組みを仕組んできたのですか。教えてください。
と感想から質問に変えて話さなければならない。
そうすれば、その答えの一部分や自分の実践上のヒントとなる言葉が見つかるかもしれない。
例えば「日記指導をし、二か月間は時間を追って書かせるようにしていました」と答えるかもしれない。
例えば「係活動の予定と報告を黒板の前で言わせてから帰らせていました」と答えるかもしれない。
そのヒントとなる言葉をもとに、自分で指導を組み立てていく。
私は、次の内容で「筋道を立てて説明する子ども」を目指した。
一 「筋道立てて説明できる」状態を確定した。 【目標の設定】
二 指導は、学校生活での様々な場面、それぞれの指導内容を継続しておこなった。 【指導内容一】
三 日記指導で筋道を立てて説明する課題を継続して与える場を設定した。 【指導内容二】
四 話し方指導をおこない、評定する場を設定した。 【評 定】
学級の子どもたちは、実に明るく何でも気軽に話してくれる子どもたちである。
しかし、発言や発表となると話は別だった。
立っても単語だけ話す子もいる。
途中で立ち往生する子も多い。
「分かりません」と答える子も珍しくない。
それが毎年の四月の子どもたちの姿であった。
それから約半年。子どもたちは少しずつ変化を見せてきた。
毎年、自分の実践が少しずつ実を結んできていることを実感しながら学校へ向かう日が続いていた。
本書は、筋道を立てて話す子どもを育てるためにどのような指導を積み重ねてきたかの実践例である。
また、皆さんからの意見をもとに、自分自身を高めていきたいと思っている。
そして、さらに子どもたちが筋道を立てて話す力を身につけるステップになることを祈ってやまない。
本書を書くことを勧めてくださり、ずっと私を励ましてくださった明治図書の江部満編集長に心から感謝いたします。江部編集長の励ましやいたわりのお言葉があったからこそ本書が生まれることができました。
二〇〇六年五月 /田村 治男
-
- 明治図書