- はじめに
- 本書の使い方
- 第1章 「ザワつく」道徳授業を深める
- 1 これまでの道徳授業の課題を明らかにする
- 2 課題克服のための方略
- 3 「ザワつく」道徳授業
- 第2章 「ザワつく」道徳授業と「問題の本質」レベル
- 1 「問題の本質」を捉える
- 2 「問題の本質」にはレベルがある
- 3 「問題の本質」7つのレベル
- 4 5つの型と7つのレベルで授業を構想する
- 第3章 「問題の本質」の7つのレベルをどう授業するか
- 1 【レベル1】そうすることが正しい(間違っている)ことを知る
- 2 【レベル2】なぜそうすることが正しい(間違っている)のかを考える
- 3 【レベル3】そうすることのよさ(よくなさ)は何かを考える
- 4 【レベル4】なぜわかっているのにできないかを考える
- 5 【レベル5】どうしたらそれができるようになるかを考える
- 6 【レベル6】そのことの自分にとっての意味は何かを考える
- 7 【レベル7】自分の未来と関係づける
- 第4章 「問題の本質」レベル別「ザワつく」道徳授業プラン
- 【レベル1】そうすることが正しい(間違っている)ことを知る
- 1 小学校1年 「かずやくんの なみだ」
- 内容項目:C[公正,公平,社会正義]
- 2 小学校1年 「ハムスターの あかちゃん」(「ハムスターの 赤ちゃん」)
- 内容項目:D[生命の尊さ]
- 3 小学校1年 「かぼちゃの つる」
- 内容項目:A[節度,節制]
- 【レベル2】なぜそうすることが正しい(間違っている)のかを考える
- 1 小学校2年 「金の おの」(「きんの おの」「金の おの ぎんの おの」)
- 内容項目:A[正直,誠実]
- 2 小学校3年 「れいぎ正しい人」
- 内容項目:B[礼儀]
- 3 小学校4年 「心と心のあくしゅ」(「心と心のあく手」)
- 内容項目:B[親切,思いやり]
- 【レベル3】そうすることのよさ(よくなさ)は何かを考える
- 1 小学校2年 「もったいないの ズボン」
- 内容項目:A[節度,節制]
- 2 小学校3年 「しあわせの王子」(「幸福の王子」「しあわせの 王子」)
- 内容項目:D[感動,畏敬の念]
- 3 小学校6年 「マザー・テレサ」
- 内容項目:C[勤労,公共の精神]
- 【レベル4】なぜわかっているのにできないかを考える
- 1 小学校5年 「すれちがい」
- 内容項目:B[相互理解,寛容]
- 2 小学校6年 「ひきょうだよ」
- 内容項目:C[公正,公平,社会正義]
- 3 中学校1年 「ふれあい直売所」
- 内容項目:C[遵法精神,公徳心]
- 【レベル5】どうしたらそれができるようになるかを考える
- 1 小学校4年 「雨のバスていりゅう所で」(「雨のバス停留所で」)
- 内容項目:C[規則の尊重]
- 2 小学校6年 「クジラとプラスチック」
- 内容項目:D[自然愛護]
- 3 中学校2年 「SNSとどうつき合う?」
- 内容項目:A[節度,節制]
- 【レベル6】そのことの自分にとっての意味は何かを考える
- 1 小学校4年 「大きな絵はがき」(「絵はがきと切手」「絵葉書と切手」)
- 内容項目:B[友情,信頼]
- 2 中学校2年 「祭りの夜」
- 内容項目:C[郷土の伝統と文化の尊重,郷土を愛する態度]
- 3 中学校3年 「新しい夏のはじまり」
- 内容項目:A[向上心,個性の伸長]
- 【レベル7】自分の未来と関係づける
- 1 小学校5年 「ミレーとルソー」
- 内容項目:B[友情,信頼]
- 2 中学校1年 「新しいプライド」
- 内容項目:C[勤労]
- 3 中学校3年 「一票を投じることの意味」
- 内容項目:C[社会参画,公共の精神]
- おわりに
はじめに
前著『道徳科授業サポートBOOKS 「ザワつく」道徳授業のすすめ』が出版されて約2年が経とうとしている。もう少し早くに,と思っていたのだが,諸般の事情で今となってしまった。
この間,前著をもっと授業づくりのために使いやすいバージョンアップ版を,と考え実践したり実践のお手伝いをしたりしてきた。そのなかで,「ザワつく」道徳授業づくりをするうえで現場の先生方にとって障壁となっていたのは,「問題の本質」をいかに捉えるかということのようだった。ここさえクリアできれば,あとは先生方の鍛えてきた発問づくりの力でなんとかなるということが見えてきた。とは言っても,全ての教材についての「問題の本質」を一覧にして示すこともできるが,それをしたのでは先生方の教材研究力を鍛える助けにはならない。私たちにとっても単なるマニュアル作成的な仕事をするだけになってしまうので,それは違うという結論を出した。
そこで,「問題の本質」を捉えるヒントとなる指標を示すことを考えたのだが,考えているなかでその指標は実は子供たちのなかにあるものなのではないかということを感じ始めた。教材に固定的な「問題の本質」があると考えるのは,教材研究でなんとかなると考える私たち教師の奢った考え方に基づくものであるということに気づいたのである。それは同時に,同じ教材でも,子供たちの実態によって考えるべき方向性=「問題の本質」が異なるのであって,それをしっかりと見定めることで,目の前の子供たちにとっての差し迫っていて,しかも必然性のある授業をすることが可能になるのだということへの気づきでもあった。
「考え,議論する」道徳授業と簡単に言われてきたが,なかなか実現しないのが現状であろう。それは,やはり教師の理論で授業が組み立てられていることも大きな理由の一つではないかと考える。子供たちに考えさせたいなら,議論させたいなら,子供たちの「問題」を提示すべきなのである。子供たちにとって,どうでもいいような問題では,子供たちの本当の思いは引き出せないということなのだ。
本書では,このようにして生み出された「問題の本質」を7つのレベルで示している。この7つのレベルをうまく使えば,先生と先生の学級の子供たちのよさを生かした独創的な授業が実現すると考えている。その際,先生方には,「うちの学級の子供たちは,どのレベルに当てはまるのだろう?」ということをまず考えていただきたい。授業の出発点が,子供たちと教材の衝突にあるのであり,そこをしっかりと予想して,それに基づいた発問を検討することで,たとえ初任の先生であっても,かなり手ごたえのある授業が可能だと思っている。若手の先生,ぜひ挑戦して結果を教えていただきたい。
前著と本書,同じ「ザワつく」道徳授業という考え方のもとに書いているが,結果的に前著は教材の側から道徳授業を変えようというものであり,本書では子供たちの思いの側からのものであるということが言える。どちらかに偏っていてはどの教科でもよい授業にならないのだが,道徳授業ではなおさらであることを最近実感するところである。とりわけ子供たちにいかに寄り添って授業をするかが,「教師にとってよい授業」ではなく「子供たちにとってよい授業」をするためには重要なことだと感じている。そういう見方で,前著と本書とをお読みいただければありがたい限りである。
2025年6月 /石丸 憲一
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- 明治図書