- まえがき
- 第一章 授業力をアップするには
- 一 何よりも「授業が上手になりたい」という意欲をもつこと
- 1 学ぶ意欲が決め手
- 2 福島大附小の驚くべき成長
- 3 先生方はいい授業を見たがっている
- 二 優れた授業と下手な授業はどこが違うか
- 1 参観者が多いか少ないか
- 2 優れた授業の条件
- 3 教育観がすべてに現れる
- 三 面白い授業はやはり教材が面白い
- 1 新川小のみごとな授業
- 2 「食」のネタで授業
- 3 福島大附小の社会科の授業
- 四 評価の腕をあげるコツは、子どもをあたたかい目で見ること
- 1 教材が弱ければ評価できない
- 2 教師にどれだけ知識があるか
- 3 頭のカルテに記録する
- 4 あたたかい目で子どもを見る
- 第二章 専門性が授業力を高める
- 一 「これだけは何としても教えたい」ということをどうつかむか
- 1 指導力不足教員の出現
- 2 授業とは何か?
- 3 本当にわからせるには、苦労させること
- 二 いい教材で子どもの発言を引き出す
- 1 材料七分に腕三分
- 2 発言力は引き出すもの
- 3 子どもに学ぶ姿勢を
- 三 教材研究で専門性を高めよう
- 1 老舗の対応はやはり違う
- 2 一度にいくつものことを調べる
- 3 専門性が授業力を高める
- 4 中心になる本を見つける
- 四 本当に追究したい「はてな?」へいかに自然に転化するか
- 1 教材研究は何のためにするのか
- 2 集約・焦点化をどうはかるか
- 3 いかに自然に「転化」をはかるか
- 五 授業を見て感想をもつことの大切さ
- ――ただ「面白かった」ではダメ
- 1 授業について感想をもつこと
- 2 七項目に対するわたしの考え
- 3 黒板に何を書くか
- 第三章 「わくわく授業」を創り出すネタ
- 一 「五分」のために一日かける熱意があるか?
- ――「わくわく授業」を創るのは大変なことだ!
- 1 「わくわく授業」知ってる?
- 2 「わくわく授業」の工夫していること
- 3 教材研究の深さが授業のよしあしを決める
- 4 わずか「五分」のために一日かける熱意
- 二 「いいネタ」と「調べ方」で事件を引きおこそう
- 1 計画的にいい授業を創り出したい
- 2 「事件」を引きおこすネタ
- 3 調べ方を鍛えておく
- 三 教科書研究をすることから補充・発展教材が見えてくる
- 1 まず基礎・基本を
- 2 教科書の内容を押さえる
- 3 自然に補充学習へ
- 4 発展教材をつくる
- 第四章 「はてな?」のある授業を
- 一 授業で「はてな?」を発見しているか?
- 1 怠けたがっている教師たち
- 2 いい授業のイメージをもつ
- 3 予測をもって授業を見る
- 二 いろいろな体験をして、「面白はてな?」を発見しよう
- 1 檮原は雲の上の町だった
- 2 大人を引きつける上野動物園
- 3 偶然に見た曲げわっぱ工場
- 三 「草ロール」のある風景の教材化
- 1 草ロールに「はてな?」をもつ
- 2 別海町と根室で取材
- 3 三菱化学産資の回答
- 第五章 学習意欲の原点は「はてな?」と知的好奇心
- 一 面白い実物を見ると知的好奇心は高まる
- 1 知的好奇心がむくむくと
- 2 成相先生の知的好奇心を引き出す
- 3 資料を入手して調べる楽しみ
- 二 指導によって子どもは本好きになる
- 1 本からケイタイへ
- 2 効果的な面白い本の読み聞かせ
- 3 面白い本を紹介し合う
- 4 保護者にも読ませる
- 5 紹介すれば大学生も本を読む
- 6 面白い一年担任
- 第六章 教室に「熱気と活気」を創り出す
- 一 教材をつかむには三つのことを行う
- @広く、高くアンテナを張りめぐらす
- A現地へ旅に出かける
- B常識をくつがえす
- 1 ねらいを鮮明に
- 2 A(ねらい)をつかむまで
- 3 百聞があって一見が生きる
- 二 授業開きのネタ
- 1 探求型 に向く授業開きのネタ
- 2 明るいトーン派 に向く授業開きのネタ
- 3 まじめ派 に向く授業開きのネタ
- 4 ザックバラン派 に向く授業開きのネタ
- 5 博学派 に向く授業開きのネタ
- 6 フツー派 に向く授業開きのネタ
- 三 一枚の資料で「活気と熱気のある授業」を創れる
- 1 何で勝負するのか考える
- 2 たった一枚の資料で勝負
- 3 ねらいは「見る目を育てること」
- 四 思わず「笑い」の出る教材の開発をしよう
- 1 とにかく笑いましょう
- 2 ユーモアのある教材の開発を
- 3 ユーモアは学力である
- 第七章 大阪の街の特徴を調べる
- 一 道に焦点をあてて大阪の街の特徴を調べる
- 1 「大阪」を取り上げたわけ
- 2 「道」に焦点をあてて調べる
- 3 雑誌をさがす
- 二 環状線を調べる
- 1 環状線から大阪の街をさぐる
- 2 南北の道は「筋」という
- 三 筋と通りと環状線から特徴に迫る
- 1 「筋」と「通」で三〇本
- 2 街の特色に迫る!
- 四 「キタ」と「ミナミ」を比べる
- 1 「キタ」は大型ブランド店の街
- 2 ミナミは個性豊かな若者の街
- 五 ファッション・遊び・生活から見る
- 1 東京銀座のブランド店
- 2 ミナミの特色
- 3 ベイエリアの特色
- 六 橋と街路樹から特徴に迫る
- 1 大阪八百八橋
- 2 淀屋橋
- 3 大阪の街路樹
- 七 大阪といえば「たこやき」「お好みやき」
- 1 鉄道の高度差
- 2 大阪といえば「たこやき」
- 3 たこやきの歴史
- 八 「たこやき」と「お好みやき」の歴史
- 1 世界にはばたく「たこやき」
- 2 たこやき道
- 3 お好みやきと千利休
- 4 「お好みやき」の名のおこり
- 第八章 山梨のぶどうづくりを調べる
- 一 ふとしたことで「ぶどうの歴史」に目をつける
- 1 ぶどうに目をつけたきっかけ
- 2 資料入手
- 3 勝沼で資料入手
- 二 ぶどうづくりの決め手は何か?
- 1 ぶどうづくり日本一
- 2 ぶどう栽培地の決め手は?
- 三 江戸時代に大きく発展したぶどう栽培
- 1 大善寺のぶどう園
- 2 商売としてのぶどう栽培
- 3 ぶどう栽培の広がり
- 四 山梨におけるぶどうづくりの発展と問題点
- 1 面白ければ追究する
- 2 ハウス栽培の始まり
- (1) ハウス栽培の始まり/(2) デラウエアの加湿栽培
- 3 山梨県の主なぶどうの産地
- 4 ぶどうづくりの問題点
- 第九章 「長野県」で社会科授業をする
- 一 地図をじっくり見ることから
- 二 盆地の特色
- 1 佐久盆地の特色
- 2 上田盆地の特色
- 3 長野盆地の特色
- 4 飯山盆地の特色
- (1) 豪雪地帯/(2) 船の活躍/(3) 豪雪地帯のたまもの
- 5 松本盆地の特色
まえがき
このところ、一年に八〇〇をこす学級の授業を見ているが、もの足りないことが多い。指導技術の未熟さもあるが、多くは、「これだけは何としても教えたい」というねらいと、それを具現する「教材」をつかんでいない。何をしているのか、何をねらっているのかわからないものが多い。
教科書を教えるにしても、その「教材」を自分のものにしていないから、人ごとみたいな教え方になっている。教科書を教える時も、「きっちり自分のものにして」から指導すべきである。教材研究が不足していることはいうまでもない。教科書をきっちり自分のものにするということは、「教材開発」をするのと同じことなのである。
わたしは、本書で「新しく開発した教材」を、詳しく書いた。七章・八章・九章は、この一年以内に開発した教材である。しかも、いずれも子どもと授業をしたものである。その結果、「教材開発で授業が面白く変わる」という体験をした。教材で授業が変わることは、教師なら誰でも体験しているはずである。しかし、忙しくて教材開発する時間がないという。確かに今の教師の忙しさは異常である。でも、この忙しさに負けていては、いい授業はいつまでたってもできない。
「時間」はつくるものである。わたしだって多忙である。多忙の中で時間をつくり出して下調べしては取材し、新しい教材を創り出している。協力してくれる人もいて大変助かっている。こうして開発した教材は、「何としても授業してみたい」と思うようになり、機会をとらえては授業を行ってみている。
「授業がうまくなりたい」と、今も強く願っている。このため、「授業力アップ」をするため、指導法の工夫もしている。「指導力をアップするには」どうしても、いい教材を開発する必要があることに思い至るのである。
第一章は、授業力をアップするにはどうしたらよいか、具体的な授業例をあげながら述べた。授業力を更に高め、「専門性を高める」にはどうしたらよいかについては、第二章に述べた。平成一六年から一七年にかけて、NHKの「わくわく授業」に何度か出演した。この体験を生かして授業力を高める方途を、第六章まで述べた。
ここを読んでいただければ、必ず授業力は多少なりともアップするはずである。
わたしのライフワークは、教材開発である。このためもあって、第七章の「大阪の街の特徴を調べる」という教材の開発には、多くの時間と労力を注いだ。大阪について少しは話ができるくらい調べた。調べるため、資料の集め方をどのようにしたか、それをどう料理したかについても詳しく書いた。御堂筋を歩いて「感じ」をつかんだ。
山梨のぶどう調べ、その取材の様子はNHKの「わくわく授業」で放映されたので、取材から授業までの動きや流れ、資料の作り方なども少しはわかったのではないかと思う。第九章の「長野県で社会科授業をする」も同じ手法で教材開発した。本書には出していないが、「大分県を授業する」「宮崎県を授業する」「鹿児島県を授業する」という一連の教材開発をし、授業をしてみた。「大変面白かった」といってもらえ、うれしく思った。
本書がこれまでのものとはちょっと違った著書になったのは、明治図書の江部満編集長が、アイデアを示唆してくださったことが大きい。記してお礼を申し上げたい。ありがとうございました。
二〇〇六年二月 /有田 和正
本書の後ろ3分の1は、有田先生が実際に教材開発をされる過程が分かる記述となっている。有田先生がどのようなところに視点をもち、どのような資料から教材化へと進めていったのかを学ぶことができる。ここでは、本書前半にある、【授業力アップ】についての記述から学んだことを挙げる。
@ 「授業が上手になりたい」という【意欲】
有田先生は「どんな授業からでも、学ぶべきものは必ずある」「『学ぶべきものはないか』という目で見る」…これこそが大切な、教師の意欲であるという。具体例として附属の先生方の授業から書かれていることも、附属について最もよく知っている有田先生だからこそできることであろう。この【意欲】をもち続けて、努力と挑戦を積み重ねることが、授業力アップの王道である。(有田先生は、授業を見ることについて「授業は見る人の実力ほどにしか見えないもの」とも言う。肝に銘じておく。)
A 子どもから学びたい
「子どもからもっと学ぶべきである」と有田先生は書いている。意欲の高め方についても以下のようにある…「子どもたちは、先生は一生懸命わたしの発言を聞いてくれる」ということで、発言意欲を高めていく。【子どもから「学びたいから聞いている」のである】。子どもたちからの発言を全て大切にして、そこから教師が「聞き洩らさない。黒板にどう書くか」ということ以前に「子どもたちから学びたい」だから、子どもの意見を聞くのだ、という構えをもつことである。このような思いをもって聞いてくれる教師を、子どもは信頼して発言意欲を高め、授業が活性化(=授業力アップ)していくのであろう。ここでも、教師の意識・考え方・観といったものを磨くことの必要性を深く考えることとなった。
B 専門性を高める
「自分の専門をもち、それで子どもと勝負できるようにしなければ、よい授業などできっこない」…有田先生からの厳しいお言葉である。さらに続いて「面白いことに、専門性を高めていくと、他の教科も見えるようになるのである。一つのことを他へ応用できるからである。」と書いている。中学・高校の教師だけでなく、むしろ小学校教師こそ、自身の専門性を高めることでプラスになることが多いということなのかもしれない。徹底して教科や教材に強くなる修業が、授業力アップにつながっていくのである。そこから発問や板書・授業のねらいが鮮明になっていくからである(もし、鮮明にならないとすれば、まだまだ教材研究が甘いということになる)。
本書にある「授業力アップ」について改めて考えてみたが、上記について私なりにここまで続けることができていると感じている。ここからは、さらに思いや深みを重ねていく、磨いていく修業が続く。