- はじめに
- 第1章 社会科と「問題解決学習」
- 1 五位一体の問題解決学習
- 2 原理原則としての問題解決学習
- 3 「問題」をどう捉え,扱うべきか
- 4 戦後社会科と問題解決学習
- 5 方法論としての問題解決学習
- 6 学習の方法原理としての問題解決学習
- 7 問題解決学習から系統学習へ
- 8 新しい問題解決学習へ
- 9 社会科の初志をつらぬく会
- 10 今谷順重の新しい問題解決学習
- 11 プロセスの中での子どもの「わかり方」
- 12 主体的・対話的で深い学びと問題解決学習
- 13 個別最適な学びと問題解決学習
- 第2章 社会科の問題解決学習における17の勘所
- 1 問いを意識する
- 勘所@ 問題発見力を磨く
- 勘所A 真の学習問題にする
- 勘所B 「問いの醸成」を考える
- 勘所C 自分の問いのレベルを見る
- 2 子どもの自立性を意識する
- 勘所D 社会的な見方・考え方の成長
- 勘所E 具体と抽象の往還
- 勘所F 「自分で」問題解決できるようにする
- 勘所G 問題解決的学習のプロセスを自分で回す
- 3 学習過程を意識する
- 勘所H 小さな問題解決を繰り返す
- 勘所I 「うねうね」する学びを捉える
- 勘所J 活かす場面を充実させる
- 勘所K 切実であることと切実になること
- 4 教師の働きかけを意識する
- 勘所L 単元の中に「社会の問題」を入れていく
- 勘所M 「立往生」と「抵抗」を大切にする
- 勘所N 「受けの学習計画」を考える
- 勘所O 「軸(テーマ)」をもつ
- 勘所P 「リアル」な学びを
- 第3章 社会科「問題解決学習」授業プラン
- 1 教材研究と単元デザイン
- @ 捉えたい中核概念
- A 単元を俯瞰する
- 1 「健康なくらしとまちづくり」問題解決学習成功のポイント
- @ 問題を「自分ごと」として捉える
- A 「ごみ処理」と「水供給」を関連づけて公共の意義を捉える
- 3 「健康なくらしとまちづくり」授業展開の実際@
- 小単元「ごみの処理と活用」〈1時間目〉〜〈7時間目〉
- 4 「健康なくらしとまちづくり」授業展開の実際A
- 小単元「くらしを支える水」〈1時間目〉〜〈8時間目〉
- おわりに
はじめに
「問題解決的な学習」という言葉が,教育現場でごく自然に使われるようになって久しくなりました。単元を組み立てるときにも,1時間の授業を考えるときにも,「問題解決的に進める」という表現が何の疑問もなく口にされる場面を日常的に目にしています。
けれども私は,そこに小さな違和感を抱き続けてきました。本当にそれでいいのだろうか,と。
問題解決「的」な学習──その言葉には,どこかで「問題解決学習」本来の意味や力をぼやかしてしまっているのではないかという危惧を感じます。もともと,問題解決学習とは,戦後社会科の中で,子どもの生活と社会を結びつける営みとして大切に育まれてきたものでした。子どもたちが自らの生活に根ざした「問題」を発見し,主体的に探究しながら,社会の仕組みや価値に迫っていく。そんなダイナミックな学びが目指されていたはずです。
ところが今,私たちはその長い歴史を十分に踏まえず,形だけが残った「問題解決的な学習」を,無自覚に進めてしまってはいないでしょうか。さらには,「問題解決的」であることすら形骸化し,ただ教師が用意した問いや流れに子どもが従うだけの,“与えられた授業”になってしまってはいないでしょうか。あるいは,そもそも「問題解決学習」とは何だったのかという原点すら,あいまいになりかけてはいないでしょうか。
同時に,社会のあり方も大きく変わってきました。気候変動や戦争,格差,AI,SNSの影響など,今の子どもたちは「正解のない」社会に生きています。ただ知識を得るだけではなく,自ら問い,他者と対話をしながら納得解を探し,行動していくこと。そんな学びの力が,これまでになく求められています。問題解決学習は,そうした力を育むための営みです。そして今あらためて,その本質に立ち返る意義があると考えています。
本書は,そのような問いから出発しています。
第1章では,社会科における問題解決学習の成り立ちと基本的な性格について整理しています。戦後社会科の中でどのように位置づけられ,どのような理念や方法論が大切にされてきたのかをたどりながら,その本質と可能性をあらためて見つめ直します。問題の捉え方や学習のプロセス,子どもの「わかり方」へのまなざしなど,多面的に問題解決学習を考察する章となっています。
第2章では,社会科の問題解決学習を深めるための「17の勘所」を整理しました。問いの立て方,子どもの自立的な学び,学習過程の捉え方,教師の関わりといった視点から,実践をより豊かにするヒントを示しています。問題解決学習の本質を見つめ直し,日々の授業づくりに活かしていくための視座として提案します。
第3章では,単元まるごとの実践記録をもとに,問題解決学習の具体的な授業づくりや学習のあり方のヒントを示しています。教材研究や単元デザインの考え方から,子どもが「自分ごと」として問題を捉え,中心概念に迫っていく学習展開までを,実際の授業の流れに沿って構成しました。日々の授業に活かせる視点や工夫が詰まった章となっています。
問題解決学習をめぐる理論と実践の蓄積を,今あらためて見つめ直し,そこに息づいてきた本質的な価値にふれてみたい。過去の実践や理論を懐かしむためではなく,それらを礎にしながら,今を生きる子どもたちにとって本当に意味のある学びとは何かを問い直すために。そして,これからの社会を生きる子どもたちが,自らの問題意識を出発点に,他者と対話しながら追究を深め,社会とつながる学びをつくっていけるように。そのためには,私たち教師自身もまた,問いをもち続ける存在でありたい。
そんな思いを込めて綴りました。ともに,問題解決学習の本質とその可能性を,あらためて見つめ直していければと願っています。
/宗實 直樹
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- 明治図書
- わかりやすかったです!2025/7/1420代・小学校教員
- あえて問題解決学習について、古い書籍を参考にしながら提起されている点が宗實先生らしいなと感じました。2025/7/1420代・小学校教員