- はじめに
- 第1章 新しい学習評価
- 1 観点別評価を行うための基礎知識
- 1 学習指導要領の改訂の概要
- 2 評価とは
- 3 「主体的に学習に取り組む態度」の評価
- 2 「主体的に学習に取り組む態度」の具体的な評価方法
- 1 多様な評価方法
- 2 内容のまとまりごとの評価の具体例
- 3 「評価のための評価」に陥らないために
- 3 評価の落とし穴
- 1 評価項目の見直し
- 2 指導と評価の一体化
- 4 1人1台端末の活用
- 1 デジタル教科書を活用する
- 2 ノートやワークシートのかわりに使う
- 3 生徒の評価物のよい例などをすぐ授業で示すことができる
- 4 アンケート機能アプリを使用することで,自動集計し評価できる
- 5 生徒たちの学びの過程を見取ることができる
- 6 協働作業で実験の結果を共有できる
- 7 まだまだ広がる活用術
- 8 「主体的に学習に取り組む態度」の評価に1人1台端末を活用する
- 5 「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法@授業での見取り・行動観察
- 1 行動観察の評価の特徴と課題
- 2 行動観察の評価の実際
- 3 おわりに
- 6 「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法Aワークシート・ノート
- 1 評価手段・材料としての「ワークシート・ノート」
- 2 単元末のファイル・ノートチェック
- 7 「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法Bレポート・作品
- 1 自由研究を評価するときのポイント
- 2 調べ学習を評価するときのポイント
- 3 ものづくりを評価するときのポイント
- 8 「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法Cポートフォリオ
- 1 ポートフォリオから生徒の学習を再現する
- 2 連続的に探究に取り組む生徒の姿の記録から,学習の過程での思考の深まりを評価する
- 9 「主体的に学習に取り組む態度」の評価方法D相互評価・自己評価
- 1 主体的に学習に取り組む態度の相互評価・自己評価による評価の特徴
- 2 相互評価・自己評価の場面
- 3 おわりに
- 第2章 具体的な実例でよくわかる「主体的に学習に取り組む態度」の評価
- 1 第1学年 物理領域 光
- (第1分野(1)「身近な物理現象」)
- 2 第1学年 化学領域 物質のすがた
- (第1分野(2)「身の回りの物質」)
- 3 第1学年 生物領域 植物の観察による分類
- (第2分野(1)「生物の体の共通点と相違点」)
- 4 第1学年 地学領域 地震
- (第2分野(2)「大地の成り立ちと変化」)
- 5 第2学年 物理領域 電気
- (第1分野(3)「電流とその利用」)
- 6 第2学年 化学領域 化学変化
- (第1分野(4)「化学変化と原子・分子」)
- 7 第2学年 化学領域 化学変化と物質の質量
- (第1分野(4)「化学変化と原子・分子」)
- 8 第2学年 生物領域 植物の体のつくりと働き
- (第2分野(3)「生物の体のつくりと働き」)
- 9 第2学年 生物領域 動物の体のつくりと働き
- (第2分野(3)「生物の体のつくりと働き」)
- 10 第2学年 地学領域 気象
- (第2分野(4)「気象とその変化」)
- 11 第3学年 物理領域 仕事とエネルギー
- (第1分野(5)「運動とエネルギー」)
- 12 第3学年 物理領域 運動の規則性
- (第1分野(5)「運動とエネルギー」)
- 13 第3学年 化学領域 酸とアルカリ
- (第1分野(6)「化学変化とイオン」)
- 14 第3学年 生物領域 生物の成長と殖え方
- (第2分野(5)「生命の連続性」)
- 15 第3学年 第7単元 自然の中の生物
- (第2分野(7)「自然と人間」)
- 16 その他 自由研究
- (全領域「探究的な学習活動」)
- 17 その他 動画の活用
- (第1分野(5)「運動とエネルギー」)
- 18 総括 評価の結果のA・B・Cの数をもとに総括する例
- 19 総括 評価の結果のA・B・Cを数値に置き換えて総括する例1
- 20 総括 評価の結果のA・B・Cを数値に置き換えて総括する例2
はじめに
平成14年2月28日に「評価規準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料―評価規準,評価方法等の研究開発(報告)―」として,国立教育政策研究所教育課程研究センターから報告書が出された。相対評価から絶対評価への移行がなされることとなった。
その報告書の中で,特に重視されたことは,指導と評価の一体化をこれまで以上に進めることであった。また,学習指導要領の内容をいくつかのまとまりとして具体的な評価規準と具体例が示され,学習後の指導の改善充実に生かすこと,教師の過大な負担にならないこと,過去の評価研究の成果を生かすこと,誰にでもわかりやすいものとすることなどの留意すべきことが示された。その当時,絶対評価への移行は,大きな衝撃となった。特に,学校の評価が内申点として上級学校の選抜に使われる都道府県では,対応策が練られた。それから20年が過ぎたが,思った以上の混乱はなく,落ち着いたかのように見える。
しかし,これらの課題は,今日でも同様に引き継がれている。例えば,「評価をする」ことからどんなことをイメージするのか聞いてみた。ある中学生は,
「点数。とれると舞い上がり,とれないと落ち込む」
「進学。点数に応じて学校のランクが決まる」
などと答えた。同じ質問を若い理科の教師にもしてみた。
「評価をするとは,具体的には,成績をつけたり,順位を出したりすること」
「教師が求める到達度に対して,生徒たちがどの程度達成できたのかを計算すること」
などという回答であった。「昔ながら……」というか,指導→評価という一方通行の現状が見え隠れしている。もちろん,評価にはこうした側面があるし,実際に評価をしたりされたりしている中学生や若い教師のみなさんには,むしろ,そのままの現実であろう。
評価で大切なことは,指導と表裏一体となっていることであり,学習を展開する生徒や保護者とこれらの情報を共有することである。言うまでもないが,計画的に,情報を生徒や保護者に公開をする。学習前は,これから行う学習は,どのような内容をどのような方法で進め,どのようなことが期待されているのか,そして,学習後は,学習の結果が十分だったのか,さらにどのようなことを補わなければならないのか。具体的には,次のような内容をわかりやすい形で示すことが必要である。
学習前 単元における学習内容,学習のための手立て,生徒に期待する学習活動,生徒に期待する達成規準,達成規準を評価する方法
学習後 評価結果,深化・補充のための手立て
例えば,生徒には,各単元の学習の始まりのところでガイダンスを行い,学習中は形成的評価を行い,その結果をすぐに返し,学習終了後に単元の総括的評価を行うとともに,その結果をもとにした点検表などをつくり,学習内容の深化・補充の手立てを示すことである。また,保護者には,各学期のはじめに保護者会や学習懇談会などで説明会を行ったり印刷物を利用したりして事前の説明をするとともに,学習中はノートやワークシートを通して進捗状況を伝えたり,学習後は評価結果を点検表などで示したりすることである。
これらは,いわゆる「フィードバック」である。その「フィードバック」の際に重要なことは,生徒や保護者に,より具体的な学習目標や評価の観点をわかりやすい形で示すことと,評価の結果をその都度伝えるとともに次の学習の手立てを示すことで,学習と評価を一体化させることである。
このため,普段の授業での形成的な評価が重要となってくる。
・評価結果に基づいた指導計画の検討や修正を随時行う
・各学期の終わりの評定について,事前に算出する計画を立てておく
特に,2つ目は,内申点として上級学校の選抜に使われる場合,生徒も保護者も注目しており,センシティブな問題となる。学習中に行う観点別の形成的評価結果と総括的評価結果をどのように処理してまとめ,算出・総括するかということは本書の実践事例を参考にしてほしい。
新しい評価法に向けた改革が着実に進みつつあるが,学校や教師によって大きなバラツキが見られる。そのような足並みが揃わない原因としては,様々な現実的条件の違いをあげることができようが,なによりも教師の意識改革の差が大きな比重を占めているといえる。
しかしながら,例えば「定期考査を廃止した」中学校が話題になるぐらいであることからわかるように学習成果をペーパーテストによって評価することは,社会的に容認され学校に定着し,なかば常識となっている。それを覆すことは容易ではない。そうするためには,一部の学校の改革だけでなく,保護者を含めて知識を重視する教育観を改め,同時に上級学校の入試制度からペーパーテストを廃止することも必要であろう。
意識改革から具体的な評価方法の改善を図るためには,小さな工夫を積み上げ,その成果としての生徒の変容を実感できる場を設けることが肝要である。抽象的な論議に終わるのではなく,この着実な実践こそが授業改善として生徒を変えていく。
本書がその一助となれば幸いである。
/山口 晃弘
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