- まえがき
- T どの世界でも「本物の技」は簡単には身につかない
- ――研修のねらい
- 一 授業の技を磨く
- 1 本物の「技」は簡単には身につかない/ 2 「授業が面白い」くらいではダメ/ 3 優れた技をどう活用するか
- 二 「天才」とは努力して「技」を身につけた人だ
- 1 プロにしか見えないものがある/ 2 スポーツの世界は「技」がいっぱい/ 3 天才ほど努力している
- 三 二人の匠に触発されて
- 1 今どき番傘つくり/ 2 仕事を覚えることが楽しくて仕方がない
- 四 強い願いを持って努力と挑戦を継続する
- 1 努力と挑戦を継続する/ 2 鋭い感性を持ちたい/ 3 「めあて」をはっきり持って
- 五 本物はゆっくり育つ
- 1 自分の「根」を鍛えよう/ 2 子どもの感想に学ぶ/ 3 場を変えると子どもの能力が見える
- U こんなクラスに出会った
- ――研修の経過
- 一 こんなクラスで授業したい
- 1 研究目的を鮮明に持つこと/ 2 前半の授業/ 3 後半の授業は圧巻だった
- 二 子どもとの信頼関係を築く教材研究を
- 1 関係の改善策/ 2 子どもとの信頼関係を築く技/ 3 教科書の使い方の技を磨く
- 三 飛び込み授業やアンケートに学ぶ
- 1 授業を通して学ぶ/ 2 保護者のアンケートに学ぶ/ 3 小学校教師のアンケートに学ぶ
- V 研修の出発点
- 一 「技」発掘の原点は「はてな? 発見力」ではないか
- 1 華麗なる教材開発をしたい/ 2 はてな? 発見力が「技」を生む/ 3 変化に「技」が見える
- 二 教師に足りないものを増やす技
- 1 今の教師に足りないもの/ 2 教師にモラルが足りない/ 3 教師にスマイルが足りない/ 4 色気を出したら失敗する
- 三 「見る技」を磨くには
- 1 技と実力/ 2 見ることも「技」しだい/ 3 由布院を教材化したい
- 四 文は「主語+述語」で書け、形容詞を使うときは相談にこい文が書けない
- 1 文は「主語と述語」で形容詞は使うな/ 2 わたしの知らなかった二つの「技」/ 3 自分が書きたいことを一番に書く
- 五 表情は練習で変わる
- 1 スマイルの大切さ/ 2 表情は練習で変わる/ 3 言葉遣いと表情に「品」が出る
- W 教材開発と教材研究のしかた
- 一 教材開発で「思考力・判断力・表現力」を磨く
- 1 教師が思考力を磨くべき/ 2 教材開発をすること/ 3 南蛮文化/ 4 「長崎街道」―シュガーロード―の指導案
- 二 教材研究のしかたを磨く1関係あるものを調べる@
- 1 何をネタにするか/ 2 京都の伝統野菜/ 3 江戸野菜
- 三 教材研究のしかたを磨く2関係あるものを調べるA
- 1 資料さがし/ 2 京都で野菜づくりが盛んになったわけ/ 3 京都の漬物
- 四 教材研究のしかたを磨く3関係あるものから本論へ
- 1 ミネラル分世界一の塩/ 2 「追究する」ということ/ 3 京都の寺
- 五 教材研究のしかたを磨く4寺社の何を取り上げるか
- 1 どの寺を取り上げるか/ 2 文化観光資源/ 3 日本の世界遺産/ 4 小京都
- 六 教材研究のしかたを磨く5京菓子を調べる
- 1 寺社と菓子/ 2 菓子と菓子店の歴史/ 3 菓子と白砂糖
- 七 教材研究のしかたを磨く6シュガーロード再考
- 1 シュガーロード再考/ 2 白砂糖は高価/ 3 長崎といえばカステラ/ 4 卵のおいしさを知らなかった日本人
- 八 授業づくりまず板書計画から
- 1 まず板書計画/ 2 指導案を書く
- X 授業づくりの技術
- 一 板書から指導案へ
- 1 板書計画は多めにしておく/ 2 板書をもとに指導案を書く/ 3 指導案の具体例
- 二 授業づくりにおける人間性と技術
- 1 格調の高い社史/ 2 桃李の下/ 3 人間性と技術
- 三 テレビは面白くなりましたか?
- 1 医者の問いかけ/ 2 あなたの専門は何ですか?/ 3 バランスのとれた教師
- Y おすすめの授業
- 一 社会科のおすすめ授業
- 1 模擬授業で練習する/ 2 新しい教材に挑戦してみたい
- 二 子どもが「面白い!」という社会科にするには
- 1 子どもの学力の実態/ 2 実生活と関連した教材を取り上げる/ 3 歴史学習はどうあるべきか/ 4 どんな学力をつけるべきか
- 三 基本的学習習慣を身につける
- 1 「おたよりノート」で書く面白さを/ 2 「はてな?帳」で書く習慣をつける/ 3 基本的学習習慣のつけ方
- 四 算数を面白い教科にするにはどうしたらよいか?
- 1 社会科と算数の関係/ 2 もとは一つなのだが
- 五 材料七分に腕三分の授業
- 1 材料七分(教材)の大切さ/ 2 「三分の腕」(技術)も必要
- 六 社会科を通して資料を読み取る力を育てる
- 1 統計資料の読み方指導/ 2 写真資料の読み取り方/ 3 絵画資料の読み取り方/ 4 ポイントをおさえた指導を
- 七 社会科は多様な資料の読解力を鍛える教科である
- 1 学力テストでも読解力が弱いことがわかる/ 2 社会科の読解力の鍛え方
- 著書一覧〈二〇〇〇年以降〉
まえがき
ある年齢になれば、一定の「技」が身につくかと考えていた。つく人もいればつかない人もいるということがわかった。
「本物の技」というのは、簡単には身につかない。一〇年やっても二〇年やっても、本気でやらなければ本物にならない。五〇歳くらいになれば、本気でやっておれば身につくのかと思っていたら、身につかない技術があるという。
碁盤にまっすぐな線を引くのに、日本刀を使う。日本刀に漆をぬって一気に碁盤に線を引く。
匠という人にいわせれば、「もっとうまくなりたい、もっと上手に線を引きたい」と思って線を引いている間は伸びるという。これは年齢には関係ないようだ。年齢に関係なく匠とよばれる人たちは努力し続けている。
教育者を見ていると、匠といわれるようになる前に努力をやめているように感じる。口先であれこれいって、自分で具体的にやってみようとしない。だから、ある一定以上技術は伸びないのかと思ってしまう。そうではない。
強い願いを持って努力と挑戦を続けている人は、やはり「名人」といわれるようになっていることに気づく。
単なる努力や挑戦ではなくて、工夫し、頭を使わねばだめらしい。やってみるだけではダメだということだ。工夫と努力だ。そして新しいこと、上のむずかしいことや基礎的なことに新しい気持ちで挑戦してみるとき、新しい世界が見えるし、開けてくるのだ。
「研修」は、今「どげんかせんといかん」といわれている。いわれているのに、どげんかできないでいる。
「どげんかできるようにするには、どうしたらよいか」と、挑戦してみたのが本書である。道筋を幾つか示した。
自分にマッチするものを選んで実践・挑戦してみてほしい。
すぐれたクラスに出会った時は通用するが、そうでないクラスに出会った時は通用しないのは、本物ではない。
子どもたちが、教師を「上手」にさせているのに、鈍感で気がつかず、せっかくのチャンスを逃がしてしまっている人がいる。もったいない。子どもにもっと真剣に対応すべきである。
「技」発掘の原点は「はてな? 発見力」である。これが「技」か? という問題に気づかねば、新しい技は身につかない。「技」の掘り起こしである。これを子どもが教えてくれることもあるのである。技の中にも「モラル、スマイル、品格」といったものは、それこそ身につかない基本的な技術である。これが身についたとき、技術というより「人間性」が高まったといった方がよい。とにかく、最も身につきにくい技術である。
わたしが最も生き生きと時間を忘れて取り組むのは、教材開発である。
本書で、長崎街道・シュガーロードを発見し、それを教材化した取組みが、わたしが最も生き生きしたときである。シュガーロードがわかってから、南蛮文化がみえるようになったし、無糖文化や有糖文化がみえてきた。これから鎖国・開国もみえてきたし、菓子が視界にとび込んできた。シュガーロードからいもづる式に多様な文化がみえてきて、それに配線図ができたのである。これが本当の教材開発であろう。何しろ、寺や神社までみえてきたのだからわたし自身驚いた。これをもっと深めるつもりである。
いつもの通り、本書も明治図書編集部の江部満編集長のおすすめで一冊にまとめることができた。体調の悪い中、ここまでやらせていただき感謝にたえません。ありがとうございました。
二〇〇九年八月 /有田 和正
@ 技を体得するには【工夫】しながら【経験】を【積み重ねる】こと
さまざまな業種で「技」を身につけた方の共通点であり、これは教育の世界でも当てはまることであると有田先生は言う。単なる経験の積み重ねだけでは不十分。工夫し、考え、予想してみるということを積み重ねることが大切である。有田先生は「工夫の積み重ね」について【予想をもって仕事をし、仕事をしたあとは記録し反省を加え、次の予想をたてる】と述べている。このサイクルを回し続ける(=積み重ねる)ことで、「技」を体得することができる。【積み重ねる】ためにはマンネリの打破がカギとなる。そのためにも【工夫】が必要である。
A【努力】と【挑戦】を【継続】できるかどうか
有田先生の金言のひとつ「努力と挑戦」である。その前提として「授業が上手くなりたい!」という【強い願い】がある。やはりここでも【継続】の大切さが説かれている。続けてこそ身につけられるものなのである。コツコツと【努力】、新しいものへの【挑戦】の双方を持ち併せて【継続】していくのである。「努力と挑戦をやめたとき、私の人生は終わりだ」…有田先生はここまで言っている。有田先生は常に第一線で、このことを背中で示してくださった。【努力と挑戦の継続】……有田学を継承する者として必須である。
そして日々の授業においては「毎日『一定以上』の授業が、継続してできなければ『実力』とはいえないし、『技』があるとはいえない」と書いている。「毎日が研究授業」ぐらいの気持ちで日々の授業に臨んでいけば、授業力への手ごたえを得ることができ、子どもが伸びてくる。子どもたちのための努力と挑戦をしていくことである。
B 知性・モラル・スマイル
今の教師に足りないものである。仕事術についても本書にはある。それも上記の【工夫】のひとつである。また、スマイルについては「一時間に、一度も笑いのない授業をした教師は、授業終了後、ただちに逮捕する」という有田先生の名言も出ている。私もこのことについては、有田先生から本格的に學以前から意識していることである。また、他の先生の授業を見ても「良い授業だったけど、笑いがなかったよね」と、視点のひとつとなっている。それだけ、私にとっても血肉化されているものである。
子どもの声こそ「神の声」……この言葉もステキだなぁと思う。「子どもから学ぶ」有田先生だからこそ生まれてくる言葉である。
しかしその分、これまで有田先生の著書を読まれている方も、學びにつながる部分が多いと思います。