- まえがき
- T 新たな教育の転換をどう考えるか
- 一 『学びのすすめ』の大きな波紋
- 1 激しく変わる教育状況
- 2 「ゆとり教育」からの転換
- 二 教育の転換は必然の動き
- 1 学力獲得は青天井か
- 2 加速する学力向上策
- 三 教育の「縮小」と「拡大」のジレンマ――グレーゾーンの出現
- 四 教育課程実施状況調査結果の意味
- 五 これからの教育はどう変わるか
- 六 教育の転換の推移
- 1 文部科学省の教育転換政策
- 2 『学びのすすめ』の受け止め
- 七 「教育の社会化」の失敗
- 八 「学力」の考え方を見直す
- 九 「知力」育成こそが「生きる力」となる
- U 確かな学力形成の視点
- ――学力と評価の課題
- 一 新学習指導要領「最低基準」で教育はどう変わるか
- 1 学習指導要領は「最低基準」
- 2 学習指導要領「最低基準」の受け止め
- 二 教育内容三割削減の影響
- 1 七五三教育からの脱却
- 2 「理解の速い子」の課題
- 3 「わかる子ども」は増えている?
- 4 学力低下はおきている
- 三 新指導要録の「絶対評価」重視と「評価規準」
- 1 「絶対評価」重視の考え方と「評価規準」
- 2 変わる通信簿と評価「基準」のむずかしさ
- 3 学力評価への保護者の意識変化
- 4 通信簿の工夫と保護者への説明責任
- 四 指導と評価の一体化を目指す
- 1 指導と評価の一体化の重視を
- 2 学習目標を子どもと共有する
- 3 オリエンテーションを生かす
- 4 授業の展開と観点別評価の生かし方
- 5 効果的な授業展開の工夫
- 五 教科固有の確かな基礎・基本の習得
- 1 基礎・基本の確実な「習得」
- 2 繰り返し学習による定着
- 3 遅れがちな子どもへの指導――補充的指導のあり方
- V 確かな学力を育てる方策
- ――多様な学習展開を
- 一 確かな学力を高める授業展開を求めて
- 二 教授組織の改善――ティーム・ティーチング
- 1 新たな教授組織の動き
- 2 ティーム・ティーチングの実施上の問題点
- 三 少人数・習熟度別指導の展開
- 1 少人数・習熟度別学習の考え方
- 2 言葉かけとしての「そのつど評価」の大切さ
- 3 ALTに学ぶ――教師のアクションの大切さ
- 4 多彩な少人数・習熟度別指導の展開
- 5 各教科の特質を生かした授業展開
- 6 少人数指導とその課題
- 7 習熟度別指導のあり方――「満点」方式を変えよう
- 四 発展的学習・補充的学習と指導体制
- 1 新たな学力問題の提起
- 2 実施条件をどう整えるか
- 3 補充的学習の教材開発と指導のあり方
- 4 発展的学習をどう組織化するか
- 5 発展的学習の実践のポイント
- 6 発展的学習の実際――小学校の場合
- 7 発展的学習の実際――中学校の場合
- 8 発展的学習の多様な場
- 五 小学校教科担任制とその実施
- 1 全教科担任制からの脱却
- 2 教科担任制のメリット・デメリット
- 3 学級担任と教科担任との連携・協力
- 4 学年共同経営の充実と教科担任制
- W 宿題を自己学習へ転換
- ――高階メソッドの提案
- 一 「宿題」をどう考えるか
- 二 宿題を可能にする四つの条件
- 三 習慣形成を重視する――高階メソッドの展開
- 四 課題追究の授業を創る
- 五 子どもが追究する学習の取り組み
- 六 新しい学習の構想と子どもの思考の磨き方
- X 豊かな学習力をどう形成するか
- 一 学びの心の衰退
- 1 学力と学習意識の極端な乖離
- 2 勉強しない子どもたち
- 3 学力は学習力に影響される
- 二 学力と学習力形成の構造
- 1 学力と学習力の構造
- 2 学習力をどう把握するか
- 3 基本的な生活習慣が学力を高める
- 三 生活基盤をどう充実させるか
- 1 生活基盤をどう考えるか
- 2 子どもと保護者とのコミュニケーションを重視する
- 3 基本的な生活習慣の形成――生活基盤の形成課題
- 四 学習基盤の形成
- 1 勤勉性を身につける
- 2 親を超えられない子どもたち
- 3 自主自立学習の必要――「自分とは何か」を考えさせる
- 4 学習基盤のイメージとその内容
- 5 教師は教育方略を持つ
- Y 総合的学習をどう成功させるか
- 一 総合的学習で変わりはじめた子どもたち
- 1 総合的学習で「生きる力」は高まる
- 2 教師がとらえた子どもの変化
- 3 総合的学習の認識はどう変わったか
- 4 総合的学習の特質を生かす新たな課題
- 二 学習スキルの形成はなぜ重要か
- 1 学習力を高めるスキルの獲得
- 2 新指導要録の総合的学習の学力観・評価観
- 3 学習スキルの考え方
- 4 教科から発展する学習スキルの形成
- 5 理念語・マジックワードの氾濫を排除する
- 三 課題設定の力を磨く
- 1 総合的学習のダイナミズムを生かす
- 2 課題設定の難しさをどう超えるか
- 3 課題発見へどう導くか
- 四 課題発見から課題設定へ
- 1 課題発見から課題設定への意味
- 2 「出会いの場」の設定と教師の構想力――八つの心得
- 3 子どもの興味・関心に教師の興味・関心を向ける
- 五 多彩な活動で課題追究力を磨く
- 1 問題発見から自己課題の設定へ
- 2 課題設定による課題追究の構想
- 3 課題追究のスタート
- 4 課題追究への四枚の色分けカード
- 5 地域の潜在的な学習資源を開発する
- 6 地域の教育力を活用する
- 7 子どもの評価行動と教師のアドバイス
- 六 成果発表は創造行為
- 1 プレゼンテーション力を高める
- 2 社会参加としての地域課題への取り組み
- Z 学校を変える
- ――あとがきに代えて
- 一 教育改革と学校
- 二 学校と市町村教育委員会
- 三 成果重視の学校教育と組織マネジメント
- 四 学校教育の「約束」
まえがき
わが国の教育は,これから大きく転換しようとしている。
その動きは新教育課程が実施されることで転換が起きたのではない。むしろ奇妙なことだが、始まったばかりの新教育課程を超えて転換が始まったのである。ひと言で言えば、「ゆとり路線」からの決別と、確かな学力形成への新たな多様な展開である。
この転換の動きは必然であると考える。これからの社会は、国際化、情報化、グローバル化など、世界規模での変動がますます強まるであろう。わが国の教育のみが学習内容三割削減という「縮小」した世界で安閑と過ごせるわけがない。国際社会において教育は際限もなく「拡大」し続けるからである。
私は十年以上も前から、わが国の教育は「縮小」と「拡大」のハザマにあってジレンマを起こすと言ったきたが、それが現実のものなってきたという実感がある。
わが国の教育状況が深刻な事態に陥っているのは、現在実施している学習指導要領や教科書は「ゆとり路線」の延長であって、学力低下への懸念を引きずっているからである。また、学習指導要領「最低基準」や「学びのすすめ」などに見られる学力向上策は、教育条件の整備が十分でないままに実施されようとしているところから、子どもや保護者に対して学校教育への不満感を増大させ、学習塾などへの流れを促進する逆効果を生んでいる。
ここ数年の教育政策はあまりにも揺れ動きが激しく、学校や教師たちのみでなく保護者などにも大きな戸惑いをもたらしている。
そのようなわが国の教育状況を冷静に見つめ、何が子ども一人一人の成長にとって大切なのかを学校や教師は深く真剣に考えることが緊急で重要な課題になっている。だが現状は、教育の動きがあまりにも急激なために足もとの教育実践を振り返る余裕がないままに、矢継ぎ早に押し寄せる新たな動きに翻弄されている。
そのため、学校教育への無力感が教師に見られるようになってきた。
押し寄せる教育の動きに対応するため精一杯努力しようとしても、「どこまでやれば、やれたと言えるのか」という充実感を持ち得ない心理的状況に陥っている。
このような教育状況に対して学校や教師はどう対応すべきであろうか。
また、一方では文部科学省の政策転換によって新たな展望が開けてきたことも確かである。国立教育政策研究所教育課程センターが平成十四年十二月に公表した「平成十三年度教育課程実施状況調査結果」はさまざまなことを我々に教えてくれている。
その第一の注目点は、文部科学省が「おおよそ良好」と言っている学力のレベルであるが、実際には「学力低下」が進行していることを確実に裏づけている。
次に第二の注目点は、「勉強が好き」という子どもが少なく、「授業がわかる」子どもも小学校は六割程度、中学校は四割程度で七五三教育よりも低くなっている。
さらに第三の注目点は、「学力」と日常の生活態度や基本的な生活習慣はきわめて関連が強く、生活意識が高い子どもは学習の得点も高いという結果が示されたことである。
そして極めて重要なことであるが、第四の注目点として「勉強が大切だ」と考える子どもが八割もいながら、「勉強が好きだ」と言う子どもが小学生で四割程度、中学生で二割以下という実態だということである。つまり、子どもは勉強の大切さがわかっていながら、好きになれないというギャップの中で授業を受けているという現実がある。
課題はこれら以外にも見られるが、教育課程センターの調査を見るだけでもこのような課題が生まれている。
これまではとかく、「学校が悪い」「教師の資質能力が低下している」「家庭教育にもっと力を入れるべきだ」「何よりも子どもがよくない」などの言い方が多かった。それらは他人まかせや責任転嫁を思わせる。
しかし、これからはこのような調査結果を踏まえて、「何がほんとうの課題か」「どのようにすれば課題を解決できるか」「努力の成果を検証し、さらによりよい改善策を生み出そう」などの、現実的で、課題解決的で、さらに成果が目に見える形での真の教育改革を考える必要がある。
そこでこれからの新たな教育状況を把握するために、いくつかの視点で学校教育のあり方について考えてみたい。
一つは、教育の転換がなぜ必要かを、状況に基づいて判断することの必要性である。多くの教師は、文部科学省の政策のみを見て判断しがちであるが、今日の教育問題の真の解決策をどう考えたらよいか、多面的な情報に基づいて具体的な方略を把握する必要である。教師としてなすべきことの知見を獲得する必要がある。
二つは、確かな学力形成が叫ばれているが、大きな課題として「学ぶ心」の衰退がある。したがって学力形成を知識獲得のみではなく、「学習力」の形成に力を注ぐことが大切であって、新たな「学力と学習観」が必要である。「学力と学習観」の確立されていない状況では、学校も教師も自分の仕事に自信を喪失し、教育の退廃を招くことになりかねない。したがって、「学ぶのは子どもである」という視点で、どうすれば子どもが自分から学ぶようになるか、子どもの自立的な学びを支援できる手だてを教師が持つことがきわめて重要である。
三つは、「学校が変わる、教師が変わる」とさかんに言われているが、そのための方策を生み出す組織的な努力が必要である。今日の教育改革は、一つの学校、一人の教師の努力を超えて課題が山積みしている。学校は保護者や地域の人たちと「共創の教育」を実現することが重要である。
四つは、学校教育に「成果重視」の考え方を導入することである。教育の成果は企業のように収益に置き換えられないことは確かであるが、成果重視の方策があってこそ保護者や地域へのアカウンタビリティが果たされる。年間通してどのような成果があがったかを点検・評価できる学校の仕組みが求められる。
これら四つの視点以外にも考えられるが、当面の学校の現状を考えれば、緊急に必要な視点がこれら四つであると考える。そこで本書は、これらの課題のうち、とくに「確かな学力と学習力」の育成に焦点を当てて問題を整理したものである。
本書は、まずT章で現在の教育状況の分析を試み、私なりの状況把握を提示した。「揺れ動き」の激しい最近の教育状況の中では、ともすれば目先の動きに流されがちになるが、わが国の状況を総体として把握することはきわめて重要なことである。
U章は、最近の多様な教育政策の動きの中で「確かな学力」をどう考えるかを提示した。学習指導要領が「最低基準」とされ、学力の認識がグレーゾーン化されたとき、確かな学力の構造の把握はきわめて重要である。教育の転換を正しく認識しなければ、学力向上の動きは「いつかきた道」に逆戻りしかねない。また、自分なりに教育の転換を納得できなければ安易な実践で終わるであろう。
V章は、「確かな学力」の形成を進める多様な学習展開について提示した。新たな学力形成は新たな授業方策を必要とする。ティーム・ティーチング、少人数・習熟度別学習、発展的・補充的学習、小学校教科担任制など学校の指導組織のあり方についてまとめた。
W章は、「確かな学力と学習力」の形成に重要な支えになる学習習慣の形成についてである。自主自立学習が言われているが、「自ら学ぶ」学習態度は、地味だが学習習慣ができているかどうかによる。それを「高階メソッド」という形で提示した。「学習習慣」がもたらす重要な働きについて自覚し、毎日を無為に過ごすことが多くなっている子どもの問題傾向を改める必要がある。エリクソンの言う「勤勉性」を身につけることが重要なのである。
X章は、確かな学力形成と並行して重視されるべき「確かな学習力」の形成についてである。学力を高めるためには、生活基盤や学習基盤が強固なものになっている必要がある。
最近の子ども調査には、学力を支える生活・学習基盤が衰退していることが明瞭に現れていることから、一人一人に確かな「学びと心と力」を育てるための学力や方策について提示した。
Y章は、総合的学習をどう成功させるか、である。学力向上政策で各教科に力が注がれる結果、総合的学習軽視の安易な風潮が生まれつつある。むしろ、教師はこの学習が未来志向型の活動であることを十分認識し、指導のためのスキルを学ぶ必要がある。そこでどのようにすれば総合的学習の実践が成功するかについて提示した。
Z章は、あとがきに代えて、「学校を変える」視点について若干の意見を述べた。いまや学校も教師も独自で豊かな教育実践を行うことは難しい時代に入っている。また、地方分権の動きも急激である。それにもかかわらず、相変わらず文部科学省による学校直結型の考えで問題を処理する例が多い。地域の教育は市町村教育委員会の責任であることを前提にして、学校教育が保護者や地域にどのような教育実現を図れるか、それを「約束」できる学校でありたいと考える。
最後に、本書の出版についていろいろご支援いただいた明治図書の江部満氏に心から感謝したい。
平成十五年四月 ベネッセ未来教育センター所長 高階玲治
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明治図書
















