- はじめに
- 第T章 「逆向き設計」とは何か
- 第一節 なぜ,今,「逆向き設計」なのか
- 1 「思考力・判断力・表現力等」を育成するために―パフォーマンス課題の必要性
- 2 パフォーマンス課題をどう位置づけるか
- 3 「逆向き設計」論とは何か
- 4 「知の構造」と評価方法
- 第二節 パフォーマンス課題を作る
- 1 単元の中核部分を見極める
- 2 「本質的な問い」に転換する
- 3 「永続的理解」を明文化する
- 4 パフォーマンス課題のシナリオ作り
- 第三節 ルーブリックを作る
- 1 ルーブリックとは何か
- 2 「特定課題のルーブリック」の作り方
- 3 「予備的ルーブリック」の作り方
- 4 指導要録の観点との対応関係
- 第四節 単元の指導を組み立てる
- 1 指導上のポイント
- 2 検討会
- 第U章 加西市立下里小学校における単元づくり
- 第一節 論説文を書く
- ―6年国語「平和のとりでを築く」―
- 第二節 流通の仕組みを捉える
- ―3年社会科「ぼくたちの加西市案内所(加西ショップ編)」―
- 第三節 量り方を身につける
- ―3年算数「重さをしらべよう」―
- 第四節 ライフサイクルを捉える
- ―5年理科「動物のたんじょう」―
- 第V章 京都市立衣笠中学校における単元づくり
- 第一節 作品の主題を読み取る
- ―1年国語「大人になれなかった弟たちに……」―
- 第二節 民主主義について考える
- ―2年社会科「大正デモクラシー」―
- 第三節 生活の中の関数を捉える
- ―1年数学「比例と反比例」―
- 第四節 実験計画を立てる
- ―1年理科「物質のすがた」―
- 第五節 自分の考えを自分の言葉で表現する
- ―3年英語「Unit 6 20th Century Greats」―
- 第W章 実践を踏まえて
- ――「逆向き設計」の長期的展望
- 第一節 単元設計のポイント
- 1 単元における中核部分の見極め
- 2 子どもたちを惹きつけるパフォーマンス課題のシナリオ
- 3 単元内の構造化
- 4 子どもたちの自己評価力を伸ばす
- 第二節 「マクロの設計」
- ―より長期の見通し―
- 1 単元間の構造化
- 2 「マクロの設計」の基本構造
- 3 学力評価計画を立てる
- 第三節 学校のカリキュラム・マネジメント
- 1 「ミクロの設計」と「マクロの設計」の相互環流
- 2 ルーブリック作りからカリキュラム改善へ
- 3 研究開発の計画づくり
- 4 信頼性をどう確保するか
はじめに
日本の教育政策では,1999年の「学力低下」論争以降「ゆとり教育」からの転換が図られ,「確かな学力」を重視する方向へ進んでいる。しかし,この「確かな学力」は旧来型の「暗記」学力へと逆行するものではない。知識やスキルを活用し,課題を探究する力をも含む総合的な学力であることに注意が必要である。
知識やスキルを活用する力を試す学力調査としては,PISA調査や文部科学省が実施した「全国学力・学習状況調査(全国学テ)」のB問題が注目を集めている。そのようなテストにおける得点をあげるためには,類似の問題を多く解かせて練習させるべきだ,という発想を持つ学校や教育委員会も登場していると耳にする。しかし,評価のために授業が面白くなくなるとすれば,それは本末転倒というものであろう。教育評価は,あくまでより魅力的・効果的な授業づくりに役立つことを通して,子どもたちの学力を向上させることをめざすべきである。
したがって,活用型の問題に対応できるような力を身につけさせるためにも,知識やスキルを使いこなすことを求めるようなパフォーマンス課題を用いることを勧めたい。たとえば,PISA2001年調査における「読解力」の問題の一つに落書きに関する二通の手紙を比較させ,その手紙が書かれた目的や,内容に対する賛否,書き方についての評価を述べさせるものがある(類題が全国学テでも出題された)。このような問題に対応する力は,「自分の意見を表明する手紙を書く」というパフォーマンス課題に取り組ませる授業でお互いの作品を検討することによって身につけられると考えられる。
これまでの日本においても,知識やスキルを使いこなすことを求める学習課題は多く用いられてきた。しかし,それらはややもすればあくまで学習課題として用いられ,評価において正当に位置づけられることは少なかったように思われる。一方,アメリカにおいては1980年代に,標準テストの結果によって学校の説明責任を求める風潮が強まったことに対する批判として,教師たちの間からはパフォーマンス課題などの多様な評価方法を用いるべきだという「真正の評価」論が登場した。本書で紹介する「逆向き設計」論は,そのような「真正の評価」論にもとづくカリキュラム設計論であり,ウィギンズとマクタイが共著『理解をもたらすカリキュラム設計(Understanding by Design)』(ASCD,1998/2005)の中で提唱しているものである。詳細は本論に譲るが,「逆向き設計」論を用いることで,質の高いパフォーマンス課題を設計し,カリキュラムに正当に位置づけることができる。
しかし,アメリカの理論をそのまま日本に輸入すれば使えるかというと,そうではない。日本には日本の教材があり,教室の文化があるからである。幸い私は,2003年度から2006年度にかけて加西市立下里小学校(以下,下里小学校)と,また2004年度から2007年度にかけて京都市立衣笠中学校(以下,衣笠中学校)と,「逆向き設計」論にもとづく単元開発の共同研究に取り組む機会に恵まれた。その中で,私自身の「逆向き設計」論への理解も深まっていったことを感じている。
本書は,私が理解したところの「逆向き設計」論の要点を紹介するとともに,下里小学校・衣笠中学校の先生方に実践報告をしていただくものである。第T章では,「逆向き設計」論にもとづく単元づくり(「ミクロの設計」)について説明する。第U章では下里小学校,第V章では衣笠中学校の実践を紹介する。第W章では,実践例を踏まえつつ,「マクロの設計(年間指導計画や学校教育課程全体の設計)」を含めた長期的な展望について述べたい。
最後に,今回の共同研究を全面的に支えてくださった下里小学校の内藤忠前校長先生,多田安洋校長先生,衣笠中学校の北原琢也校長先生をはじめとする,両校の先生方に深い感謝の意を表したい。先生方との共同研究は,多くのことを学び発見し創造する喜びに満ちたものであった。また,明治図書の江部満氏には,本書の意義を理解していただき,企画の段階から編集・刊行に至るまで多大なご支援をいただいた。ここに記して感謝したい。
2008年1月 /西岡 加名恵
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- 明治図書
- 「逆向き設計」で授業を構想することのよさについて理解できる内容であった。「逆向き設計」により、授業にブレがなくなるのだろうな、と思った。2021/3/6U-Tchallenge