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電子書籍とは？もくじ
- まえがき
- 第１章 授業と評価のポイント
- １ 道徳の学習と評価
- ２ 「特別の教科 道徳」における評価の課題
- ３ ねらいの達成が評価の最も重要な基準
- ４ １時間で達成可能なねらいを立てるには
- ５ 学習の最後に「分かったこと」を問う意味
- 第２章 授業と評価の実践事例と道徳ノートの記述から見取る通知票文例集
- うそやごまかしをせず，素直に伸び伸びと生活しよう
- （低学年／正直，誠実【A−(2)】／金のおの）
- わがままがいけない理由について考えよう
- （低学年／節度，節制【A−(3)】／かぼちゃのつる）
- 過ちは素直に改め，正直で明るい心で生活しよう
- （中学年／正直，誠実【A−(2)】／新次のしょうぎ）
- よく考えて行動し，節度ある生活をしよう
- （中学年／節度，節制【A−(3)】／どんどん橋のできごと）
- 自由と責任の関係について考えよう
- （高学年／善悪の判断，自律，自由と責任【A−(1)】／うばわれた自由）
- 誠実に生きる意味について考えよう
- （高学年／正直，誠実【A−(2)】／手品師）
- 優しくしたくなる理由を考えよう
- （低学年／親切，思いやり【B−(6)】／はしのうえのおおかみ）
- 友達と仲良くするよさについて考えよう
- （低学年／友情，信頼【B−(9)】／およげないりすさん）
- 優しい言葉と態度について考えよう
- （中学年／礼儀【B−(8)】／言葉のまほう）
- よりよい友達関係を築くために必要なことを考えよう
- （中学年／友情，信頼【B−(9)】／絵はがきと切手）
- 真の友情について考えよう
- （高学年／友情，信頼【B−(10)】／ロレンゾの友だち）
- 相手を理解し，大切にしよう
- （高学年／相互理解，寛容【B−(11)】／ブランコ乗りとピエロ）
- みんなのものを大切に使うために考えよう
- （低学年／規則の尊重【C−(10)】／きいろいベンチ）
- 順番ぬかしについて考えよう
- （中学年／公正，公平，社会正義【C−(12)】／雨のバス停留所で）
- 家族で協力する意味や大切さについて考えよう
- （中学年／家族愛，家庭生活の充実【C−(14)】／ブラッドレーのせい求書）
- 仲間はずれについて考えよう
- （高学年／公正，公平，社会正義【C−(13)】／名前のない手紙）
- 生きていることのすばらしさを考えよう
- （低学年／生命の尊さ【D−(17)】／ハムスターのあかちゃん）
- 命を大切にするとはどういうことか考えよう
- （中学年／生命の尊さ【D−(18)】／ヒキガエルとロバ）
- よりよく生きる意味について考えよう
- （高学年／よりよく生きる喜び【D−(22)】／くもの糸）
まえがき
道徳教育の評価はどのようにすればよいのか。
このことは，非常に重要な課題であるにもかかわらず，これまではこの課題に関心をもっている人はそれほど多くはなかったのではないだろうか。私はこれまで20年以上，道徳の時間の評価に関心をもってきたが，その間，道徳の評価についての研究を目にすることはほとんどなかった。ところが，特別の教科である道徳（以下「道徳科」）が創設されることになり，「評価をしなければならない」という気運が急に高まり，教育現場のみならず研究者の間でも「道徳科」の評価について関心をもつ人が爆発的に増えた。しかし，ここで忘れてはならないことは，新しい学習指導要領における「道徳科」の評価についての「児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し，指導に生かすよう努める必要がある。ただし，数値などによる評価は行わないとする。」という記述は，これまでの学習指導要領の「道徳の時間」の記述と大きく変わるものではない。つまり，これまでの道徳の時間においても評価をすることになっていたし，数値などによる評価は行わないことになっていたのである。
つまり，昨今の評価への関心は，指導要録や通知票に何をどのように書くかということへの関心であると言うべきであろう。しかし，指導要録や通知票での評価はこれまでしてこなかったものであり，子供やその保護者に直接フィードバックするものであるだけに重要であり，関心が高いのもうなずけるところである。このように重要なことであるからこそ，「何でもよいから子供のよいところを見つけて，ほめておけばよい」というような安易な評価に陥ることなく，「道徳科」における子供の学習状況や道徳性に係る成長の様子を正しく把握したいものである。その上で，それを認めて励ましたいものである。子供も，お門違いのほめ言葉ではなく，納得のいく評価をしてもらいたいはずである。そのためには，「道徳科」の学習が一人一人の子供にどのような学びをもたらしたのか，つまり，子供は新たに何を学んだのかを把握する必要がある。
そのことを考える上で，混同しやすい３つのことについて触れておきたい。
○「学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育の評価」と「道徳科」の評価の混同
これまでの「道徳の時間」や，これからの「道徳科」は，「学校の教育活動全体を通じて行う道徳教育」（以下「道徳教育」）と混同されやすい。もちろん，両者は密接に関係しているし，それらが相まって効果を上げている可能性も否定できない。しかし，それらを混同してしまうと，例えば，ある学校で子供の中に思いやりのある姿が多く見られるようになった場合，それが「道徳教育」の成果なのか「道徳科」の成果なのかが区別できなくなってしまう。その結果，「道徳科」の評価をすることができなくなる。特に，今回の学習指導要領の改訂では「道徳科」の目標も「道徳教育」の目標も道徳性の育成に統一されたために，一層混同されやすくなったと考える。しかし，今回の指導要録に新設された評価欄は「特別の教科 道徳」の評価欄である。しかも，子供の道徳性を評価するのではないことも忘れてはならない。
○子供が「学んだこと」と「もともと知っていたこと」の混同
「正直にすべきである」「規則は守るべきである」「人には優しくすべきである」などについては，小学校1年生でも知っている。学習指導要領の内容項目に書かれていることについても同様である。したがって，「今日の道徳の勉強で，うそをついてはいけないことが分かりました。これからは正直にしたいと思います。」と子供が書いたり言ったりしたとしても，それだけでは子供が正直にすべきことを「学んだ」とは言い切れない。「もともと知っていたこと」を確認しただけに過ぎないかもしれないからである。子供が「学んだ」と言うためには，それまで子供がおそらく知らなかったであろう正直にすべき理由や根拠，うそをつくことについての問題点や課題について述べられなければならない。
○教育評価と人物評価の混同
子供の道徳性を評価するのではなく，「道徳科」における子供の学習状況や道徳性に係る成長の様子を評価することが重要である。子供の道徳性（人物）を評価するのであれば，日常の様子をよく観察したり，質問をしたりすることにより，子供の道徳性を評価するための多くの情報を収集する必要がある。なぜ多くかというと，１つや２つの言動や態度だけで判断することは正しい評価に結びつきにくいからである。
これに対して，「道徳科」における子供の学習状況や道徳性に係る成長の様子を見取るのであれば（教育評価），日常的に多くの資料を収集する必要はなくなる。なぜなら，日常生活における子供の道徳性は，「道徳科」によって培われたとは限らないからである。それは，「道徳教育」の成果かもしれないし，学級や学校の雰囲気によるものかもしれないし，家庭教育等によるものかもしれないからである。
つまり，「道徳科」における子供の学習状況や道徳性に係る成長の様子を評価するのであれば，「道徳科」の学習そのものの成果に目を向けなければならないのである。したがって，「道徳科」で指導していない事柄について評価することは教育評価としては正しくない。
これらを踏まえて，本書では「道徳科」の評価文を作成するに当たって次のことを押さえる。
・子供の道徳性を評価するのではなく，「道徳科」の学習によって，子供がもともと知っていたことではない新たなことを学んだか，学びが深まったかどうかを評価する。
・子供にとって分かりきったことではない「道徳科」のねらいを設定し，それに子供一人一人がどの程度迫れたかを「指導と評価の一体化」の視点で見取る。
このことをご理解いただくために本書では，有名な教材を多く取り上げて，「ねらいの設定」から「授業づくり」，「道徳ノートからの見取り」という手順に従って「評価文例」を作成した。
2018年３月編著者 ／服部 敬一
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