21世紀型授業づくり63
「対話的人間」を育てる

21世紀型授業づくり63「対話的人間」を育てる

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対話的人間を著者は「自分の主張の不完全性を自覚しながら自ら明確に主張することに努めるとともに、相手の主張をその発想法も含めて内部から理解しようとする人間」と提言


復刊時予価: 2,563円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-220120-5
ジャンル:
授業全般
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 160頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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序 中京女子大学名誉教授
/瀬川 榮志
序章 対話的人間とは
一 金八先生と同じようには、ことばが響かない
二 せめて会話だけでも成り立てば
三 自分の主張が理解されない理由
四 対話的人間とは
T 対話的人間を育てる教育
一 対話の席につかない
エピソード◆1―1  なぜ、子どもたちは対話の席につかなくなってしまうのか
二 対話的にならない問題点
三 リセットして考え直してみる
(1) 雄太はどういう子なのか
(2) 自分の考え方の見直し
(3) 何を望んでいるのか
(4) どのように対話的になっていくのか
エピソード◆1―2  シミュレーション
四 教師の生き方を問われる場面
五 自覚的になる
六 大村はま氏の振る舞い方
エピソード◆2  リズムなわとび大会
七 子どもたちが自覚すると
エピソード◆3  路上と教習所
八 路上に出たときに
U 「話す内容」のゆがみを糺す
エピソード◆4 悩み相談
一 事実を同じ土俵の上にのせる
二 「でもね」「だけどね」
三 レッテル貼りやゆがんだ考え
エピソード◆5  金魚とザリガニ
V 話し手と聞き手の関係
一 現在の子どもたちの「話しことば」の問題点
エピソード◆6  行き違い
二 言いたくても言えない
三 「思いやり」で結びついた人間関係
四 子どもたちの人間関係は希薄なのか
五 「気持ちがわかる」というスタンス
六 「適度な距離をもつこと」がどのようにとらえられているのか
七 距離を保つ関係をつくるには
エピソード◆7  独占欲
八 適度な距離をおく危険性
エピソード◆8  太陽でいること
あとがき

序『「対話的人間」を育てる』の発刊に寄せて

 世紀を開く教育に今、求められているのは「哲学・文化・思想」であるといわれている。哲学的な深い追求によって高い文化の花が開き、堅実な思想が形成される。哲学的な思索を根底においた政治・経済・教育を確立し推進しないと国際社会に伍していくことができないわが国の現状である。

 教育の現場においても一人ひとりの教師が「こんな子どもに育てたい」という人間像をしっかりと描き、その実現に向かって努力することが大切である。このような深い思索と高い理念がないと、いじめや不登校・学級崩壊の事態が頻発する。授業も奥行きのない皮相浅薄な内容となる。日々子どもと共にある私たち実践者は「教育をはぐくむ哲学・文化・思想」について真剣に考える必要がある。

 「対話的人間を育てる」というキーワードには深い意味がある。つまり、本書の著作者である山本直子先生の哲学的な追求がある。この書名についての発想も島崎隆氏の「対話の哲学」が契機となっている。著者は「対話的人間」について次のように定義している。「自分の主張の不完全性を自覚しながら自ら明確に主張することに努めるとともに、相手の主張を、その発想法も含めて内部から理解しようとする人間」としており、この考えを基調に「対話的人間」を育成する観点として、「話し手の相手意識」「話し手と聞き手との関係」「話す内容」「話し手の聞き手理解」の四つの事項を取り上げている。

 新学習指導要領では、音声言語の指導が強調されている。このことに関連したいろいろな主義・提言もある。学校現場においても多くの研究実践がある。しかし、本書のように哲学的な根拠に基づいた実践は極めて少ないのではなかろうか。

 人間が真の人間として生きていくために最も重要な条件は、人間関係を円滑にすることである。IT時代による急速に進展する社会、物が豊かになるに従って心の貧しさが加速化していく時代。「敬・愛・信・義」の精神が薄れ相互信頼による協力・協調の社会体制が削減されるような危惧さえ感じる世相……においては、心と心を結ぶ伝え合う力の教育は欠くことができないものである。音声言語活動の中でも話し合い活動は双方が心を通わせながら交わす具体的な言語行動である。

 話し合う活動の多様な形態の中で、対話は最も基本的な言語活動である。一対一の双方向的な相互理解と信頼の上に一対多の話し合い活動が成立しているのである。本書はこの重要で今日的課題を分かり易く述べている。つまり、「質的に高い理念・理論・内容の質を落とさず理解しやすく授業に役立つ」ように構成・表現している。この「理論と実践を統一」した実践書を魅力的にしているのが、「なぜ、子どもたちは対話の席につかなくなってしまうのか」(二九ページ〜)に始まる「金魚とザリガニ」(九三ページ〜)「路上と教習所」(七一ページ〜)「リズムなわとび大会」(五六ページ〜)「独占欲」(一二三ページ〜)「行き違い」(一〇二ページ〜)等のエピソードである。

 このエピソードには子ども一人ひとりの内発的な対話力が無理なく自然に働いている。また、相手の立場や気持ちを考えて、あるときは優しく、ある場面では厳しく対話活動をしている。そこには、いたわり合い、助け合い、励まし合いや、対話の内容によっては自分に厳しく、友達にも厳しく妥協・迎合も許さない切磋琢磨のあるべき姿の対話活動がある。

 加えて、話し合いの内容への深まり、広がり、高まりがある。例えば「金魚とザリガニ」の話し合いでは、死んでしまった金魚をザリガニのえさにした事件をきっかけに「自然な子どもの動きの中に心の優しさと厳しさ、加えて生命の尊厳・存続・循環の摂理」について深く思索し何が真実であるか、人としてどのような判断をし、どんな生き方をすることが最善であるかを五年生なりに模索し追求しているのである。

 この価値ある課題を解決しクラス全員が納得し、安堵するまでのプロセスは将に感動のドラマである。そこに対話の哲学があり、「対話的人間」を育成する指導の原理・原則がある。

 このような高い教育理念と哲学的な考え方に根拠をおいた本質的な対話指導の在り方は、最終エピソード8「太陽でいること」までの全事例に共通しているのである。

 厳しく温かい人と人との対話による結びつきは、「生きる力」の源泉となる。著者の具体的な体験であるエピソードには、新世紀の教育を拓く「対話指導の原点と効果的な指導法」が提示されている。

 その一つは対話の話題の選び方(人間としての生き方について気づかせ考えさせる価値ある話題)、二つ目は対話能力の発達段階の心理的系統と理論的系統の明確化(エピソードには想像を超える子どもの内発力・可能性がある〜基礎的技能・基本的能力・統合発信能力の系統化)、三つ目は学習者主体の行動学習法の開発(エピソードでは活力漲る対話活動の過程で心技一体の学習が展開されている。独創性と普遍性が調和・統一した授業創造)等々が示唆されている。


 理念なき教育は皮相浅薄である

 実践なき理論は空虚である

 理論なき実践は砂上の楼閣である


 哲学的な根拠に基づく高い教育理念を求めるとともに確かな指導理論を確立し、学習者主体・行動主体の授業研究を積み重ねていく。その実践の成果は一人ひとりの子どもの向上的変容を評価・確認する。しかも、その研究成果は子どもが証明するものである。

 山本直子先生とは、これまで国語教育研究の道を同志同行のつながりで歩いてきた。研究図書の出版をはじめ、子どもの言語行動を通して技能・能力を定着する「楽しく学ぶ『話し方・聞き方』ワーク」(全6巻)「楽しく学ぶ『総合的な学習』ワーク」(2巻)の編集等の協力をいただいた。言語行動を通してのスキル養成としてのワークシートの作成は「実践理論」を確実に積み上げている研究者でないと、単なる練習の学習書となる。

 著者は「子どもを愛し、研究に徹する」すばらしい先生方で編成されたプロジェクト・チーム(世紀の国語教育を創る会)を基盤にして共同研究に取り組んでいる。ここを拠点にして今後も価値ある研究を継続し、さらなる充実発展を期待している。


  二〇〇二年九月   中京女子大学名誉教授 /瀬川 榮志

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