- はじめに
- 第1章 子ども主体の学びと教科特性
- 「その子が学ぶ」を大切にする
- 我々は子どもや学習を一般化して見ている
- 子どもは自ら育つだけの力をもっている
- 早く伸びるようにと,引っ張る大人たち
- 子ども主体の学びを効果的に用いる
- 子どもの文脈を中心に置いて考える
- 教師が教えるものと子どもに任せるもの
- これからの時代に必要な力
- 子どもはどのように学んでいるのか―「その子が学ぶ」と学習内容との関係―
- その教科(教材)の醍醐味に触れることで問いが生まれる
- 大問題に近づくための小問題が生まれる
- 学び方(視点)を知る
- 問いが子どもの思考を焦点化させる
- 紆余曲折しながら学ぶ
- 必要だから協働する
- 第2章 教科特性を生かした問いと学び方
- 国語だからこそ生まれる問いと学び方(物語文)
- 物語文ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 物語文の問いの生まれ方
- 物語文の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(5年生 「大造じいさんとガン」)
- 実際の学習とポイント
- 国語だからこそ生まれる問いと学び方(説明文)
- 説明文ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 説明文の問いの生まれ方
- 説明文の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(5年生 「想像力のスイッチを入れよう」)
- 実際の学習とポイント
- 算数だからこそ生まれる問いと学び方(数と計算領域)
- 数と計算領域ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 数と計算領域の問いの生まれ方
- 数と計算領域の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(3年生 2位数をかけるかけ算)
- 実際の学習とポイント
- 算数だからこそ生まれる問いと学び方(図形領域)
- 図形領域ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 図形領域の問いの生まれ方
- 図形領域の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(5年生 三角形と四角形の面積)
- 実際の学習とポイント
- 理科だからこそ生まれる問いと学び方
- 理科ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 理科の問いの生まれ方
- 理科の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(4年生 電流の働き)
- 実際の学習とポイント@
- 実際の学習とポイントA(中学2年生 電流)
- 社会だからこそ生まれる問いと学び方
- 社会ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 社会の問いの生まれ方
- 社会の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(4年生 伝統的な町並みを守る城崎)
- 実際の学習とポイント
- 体育だからこそ生まれる問いと学び方
- 体育ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 体育の問いの生まれ方
- 体育の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(4年生 跳び箱運動)
- 実際の学習とポイント
- 総合的な学習の時間だからこそ生まれる問いと学び方
- 総合的な学習の時間ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 総合的な学習の時間の問いの生まれ方
- 総合的な学習の時間の授業で大切にしたい学び方
- 学習の構想(5・6年生 「自分たちの町をよりよくしよう」〔地域や学校の特色に応じた課題〕)
- 実際の学習とポイント
- 生活科だからこそ生まれる問いと学び方
- 生活科ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 生活科の問いの生まれ方
- 生活科の授業で大切にしたい学び方
- 実際の学習とポイント
- 道徳だからこそ生まれる問いと学び方
- 道徳ってこんなことが特徴,面白い
- 教材の特徴
- 道徳の問いの生まれ方
- 道徳の「学習」で大切にしたい学び方
- 学習の構想(2年生 「雨ふり」・公正,公平,社会正義)
- 実際の学習とポイント
- Column
- 1.植物は自ら伸びる
- 2.子どもを見取る
- おわりに
- 執筆者紹介
はじめに
ヒロシくんは小学校3年生です。ある日,お家の中に大きな段ボールが置いてあるのを発見しました。どうやら要らなくなった段ボールのようです。「お母さん,この段ボール,もらってもいい?」と尋ねると,快く「いいわよ」という返事が返ってきました。ヒロシくんは段ボールを広げてみました。そして,これを組み立てて自分が入れるお家を作ろうと考えました。
さっそく,作業に取り掛かります。まずは窓を作るためにはさみで切ろうと試みます。ところが,段ボールの真ん中からはさみを入れることができません。「どうすれば,途中から切れるんだろう」と考えたヒロシくんは,お母さんに聞くことにしました。すると「最初だけカッターで切り込みを入れて,そこからはさみで切ればいいんじゃない」と教えてくれました。お母さんの教えてくれた通りにすると,はさみが入りうまく切れるようになりました。
ヒロシくんはこれまで紙を切るときは,紙の端からはさみを入れて切っていたのでしょう。それが突然,真ん中だけを切り抜きたい状況に迫られたわけです。そうなるとヒロシくんの心の中には「どうやったら真ん中だけを切ることができるんだろう」という問いが自然と生まれてきました。
現在,主体的な学びについて,多くの実践と研究が積み重ねられています。そして,共通項として「子どもが自ら問いをもつこと」が明らかにされてきました。その子が抱いた問いなのだから,自分事として解決したいだろうし,解決しようと行動することが主体的な学びになっているというわけです。まさにその通りだと思います。
しかし,この「子どもが自ら問いをもつ」という言葉だけが独り歩きをしてしまい,「どうやって問いをもたせるか」「1時間の最初に問いを出させることが必要」など,問いをもたせること自体が目的化してしまっているケースも見られます。そうなると,「主体的な学びとは,自分で問いをもち,それを様々な方法で自ら解決すること」と,主体的な学びを「型」として捉えようとします。そして,問い→解決→共有→振り返りという流れに当てはめようとするわけです。実際の授業では,単元の最初に「問いをもつ」を「しなければならないこと」と捉え,子どもに促します。子どもからしてみたら,「勉強するために考えたいことを考えなきゃ」という発想になります。
ヒロシくんは「問いをもたなければならない」と思いながら,段ボールを眺めていたのでしょうか。違いますよね。やりたいこと(目的)に向かって進んでいる中で,自然と問いが生まれてきたのです。ヒロシくんからしてみたら,あまりにも自然なことなので,問いをもつという意識すらないかもしれません。「必要だからやっているだけだよ。結果としてそれを問いと呼ぶならそうなんじゃない」と,ヒロシくんから大人顔負けのコメントが聞こえてきそうです。
「考えたいことを考える」これはちょっとおかしな話ですよね。すでに教師によって「主体的にさせられている」状態です。問いは誰かから与えられたり,もたされたりするものではなく,その子が学びや活動を進める中で「自らの内側から生まれてくるもの」なのです。
そうは言っても,何もせずにただ待っていれば子どもは主体性を発現するのかというと,それは難しいです。教師は子どもの主体性が発現するように環境を整えることになります。その1つが「教材」です。教材によって,その子が取り組んでみたいこと,考えたいことが引き出されます。子どもは自身の「学びたい」「やってみたい」の気持ちに即して行動を起こします。その過程で問いが生まれたり,必要とあれば本で調べたり,誰かに聞いたりします。そして,その結果,学習内容が獲得されます。
ヒロシくんの話では,教材(材)は「家」「段ボール」です。家の窓は壁の真ん中にあることや,段ボールははさみで切れるがサイズが大きいといった,その材の特徴(特性)によって「どうやって途中からはさみを入れるのか」という問いが導き出されています。
つまり,教材がもっている特徴によって,問いが引き出されるというわけです。もっと言えば,そうやって引き出された問いは,その教材の特徴から外れることはないと言えます。ヒロシくんの「真ん中を切るためには」もまさに,段ボールの材質を十分に味わい,カッターやはさみの使い方を知るといった結果になっています。もう少し授業に近づけると,教材の特徴から生まれた問いなので,教師がねらっている目標からは外れないというわけです。だからこそ,子どもに任せても学習内容は修得されます。
また,ヒロシくんは事前に誰かから「先に窓を作りなさい」とか「窓を切るためにはカッターで切り込みを先に入れなければならないよ」などと教えられてはいません。ただ家を作る工程で困ったことがあり,それを解決するために人に聞いたり,観察したりしたまでです。「必要だからそうした」だけです。
ヒロシくんの例の場合,物の制作(図工)ですから,まずは自分で作ってみる。技術的にわからないことがあれば,誰かに聞いてみたり,自分でもいろいろと試してみたりする。また,自分の作品を理想に近づけるために,何度もそれらを比較することもあるでしょう。こういった「学び方」は図工という教科ならではの学び方です。「具体的操作」「試行錯誤」「比較」などといった学び方は,図工という教科の特性から引き起こされた自然な学び方です。
もちろん,他教科にも汎用されるものもありますが,その教科ならではのものもあります。例えば,算数など答えが1つに決まる教科の場合,答えが正確に出せるかどうか→様々な考え方に触れ,効率的な方法を模索するといった学習になるわけです。そのためには,正確に出せるか→「個別学習」,様々な考え方に出合う→「協働学習」など,学び方も変わってきます。
このように,教科によって学び方も変わってくるのが自然です。そのため,それぞれの教科がどういった特性をもっており,その結果,どのような学び方が有効になるのかを整理する必要があります。
子どもに学びを任せるというと,とても言葉の響きはよいのですが,実際に任された子どもはどのように学べばよいのかわからずに困ってしまっているか,右往左往して終わりといった場面が見られます。その教科や教材の特性,そこから導き出される有効な学び方(視点)を理解しておくことで,ようやく子どもに任せることができます。逆に言えば,これらのことを理解せずに,ただ子どもに委ねたとしても,子どもの学びは深まらないどころか,論点がズレてしまうため,学習内容の定着も難しくなってしまいます。子どもに任せる以上は,教師がしっかりと身につけておかなければならない知識を本書にてまとめることにしました。
本書は教科ごとに特性や学び方を整理し,さらに具体的な場面を通してイメージしてもらいやすいように構成を考えました。
また,本書はそれぞれの教科の第一線で活躍されている先生方に執筆をお願いして,まとめてもらいました。ここに登場される先生は皆さん「その子は,どのように学ぼうとしているのか」と常に自問し,子どもの実態(事実)から学びを考えられている方々です。どうぞ大いに参考にされてください。
/齊藤 慎一
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- 明治図書