- まえがき 佐賀大附小の評価研究の意義 /高浦 勝義
- T章 理論編
- 1.「授業づくりに生きる評価」について
- 2.評価のねらい
- 3.「学習」から「学び」へ
- 4.評価が授業づくりに生きるために
- 5.評価のあり方
- 6.実践化へ向けて
- 7.実践の整理
- U章 実践編
- 1 国語科 自己評価を軌道修正に生かす国語科学習
- 1.単元の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 2 社会科 評価を社会的意味の考察の深まりに生かす社会科学習
- 1.単元の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 3 算数科 自らの数理追究の過程を見つめる表現の評価を取り入れた算数科学習
- 1.単元の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 4 理科 評価後の指導が変える理科学習
- 1.単元の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 5 生活科 自分を振り返り,よさを感じ取りながら生き生きと活動する生活科学習
- 1.単元の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 6 音楽科 評価を基礎・基本の定着に生かす音楽科学習
- 1.題材の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 7 図工科 評価を生かして,表したい思いを表現につなげる図画工作科学習
- 1.単元の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 8 家庭科 評価が家庭実践に生きる家庭科学習
- 1.題材の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 9 体育科 一人一人の目が輝き生き生きと活動する姿を具現化する体育科の評価のあり方
- 1.単元の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 10 道徳 子どもの思考の深まりを見取る道徳の時間の評価
- 1.主題の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 11 特活 評価を意欲的な活動の継続へ生かす特別活動
- 1.題材の概要
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- 12 総合 自己を見つめる評価を生かすしゃちっ子学習
- 1.内容の系統化
- 2.問題解決の資質や能力の具体化
- 3.評価を生かした単元の構築
- ◆実践例1
- 1.自己と他者領域+参加・開催の実践例
- 2.評価の実際
- 3.実践をふりかえって
- ◆実践例2
- 1.自然・環境領域+調査・研究の実践例
- 2.指導の実際
- あとがき
佐賀大附小の評価研究の意義
国立教育政策研究所初等中等教育研究部長 /高浦 勝義
附小の先生たちとの出会い
佐賀大学文化教育学部附属小学校の先生たちが授業と評価の工夫に関する日頃の研究と実践の成果を,全国に先駆けて,このような立派な本書に著すことになったことを心よりお慶び申し上げたい。
先生たちとの評価研究に関する直接的な出会いは,同校で昨年の6月に開催された全国公開研究会において「今,評価のあり方を考える」と題する講演を行った時に始まる。折しも,私どもが国立教育政策研究所において総合的な学習の授業と評価に関する開発的研究(平成14〜16年度)に着手した時期でもあり,講演後,先生たちと評価の話に花が咲き,1年後のまとめを約束したのであった。以後,個別的な,あるいは全体検討会を何回か経験したわけであるが,何しろ日頃の授業を継続しながらの,しかも新たな評価の研究であったため,最初のうちは果たして最後まで行き着くのだろうかと危惧することもあった。しかし,後半の出会いのたびに研究の歩みが速度を増し,加速に加速を重ねていくことを実感することができた。
今,その研究と実践の成果がこのように立派な本書に著されることになった次第である。苦労の後の喜びを共に味わえる機会を設けていただいた先生たちに感謝申し上げるとともに,さすが,佐賀大附小の先生たちだ,とその労をねぎらいたい。
新たな教育には新たな評価を
教育の目標と評価の在り方は,いわば表裏一体の関係にあると思われる。この前提から従来の教育と評価を省みれば,教育課程審議会答申(平成12年12月4日)も示唆するように,より多くの知識の量的獲得を目指す教育−そのため,知識の獲得量の多少をテストで測定し,子どもを相対評価するという図式が浮かんでくる。
ところが,平成元年以降,そして今後の教育が子どもの自ら学び自ら考える力などの「生きる力」の育成へとその基調を転換させているのに,評価といえば旧態たるテスト中心の相対評価が主流を占めている。それゆえに,上記答申は,改めて「生きる力」の育成に向けた指導の改善に資する評価,子どもの豊かな自己実現に役立つ評価,さらにはそのような教育の成果を保護者,地域の人々,国民全体に説明し,必要な協力を求める評価を行う必要を新たに提言したのであろう。まさに“新しいワインには新しい皮袋を”の喩えと同様,新たな教育には新たな評価が必要である。
ではいったいどうすればよいか。
理論的検討を経て私たちが辿り着いた結論は,この転換のためには単にテストに改善を加える,測定方法を多様なものにする,通知表に改善を加えるといった技術的な改良では太刀打ちできない。従来の「測定すること」が評価だといった考え方そのものを改め,評価とは問題解決している者が,自己の問題解決のために,その過程において,有益な資料・情報を得るために事物・事象の価値を比較判断する行為であるといった“問題解決評価観”に立つ必要があるといったものであった(本書理論編参照)。
そして,この基本的な立場から,「生きる力」の育成に向けた指導の改善に直結し,かつ子どもの豊かな自己実現に役立ち,同時にそのような指導と評価の成果を保護者等外部の人への説明に活用していく評価の在り方を全教科,道徳,特別活動,そして総合的な学習の時間(附小では「しゃちっ子学習」)において求めようとしたのである。
このような問題意識なり評価研究・実践の範囲や対象の広さは全国的にも皆無の状況にあり,それゆえに附小の先生たちの取り組みは誠に挑戦的であり,かつ貴重なものであるといえよう。
すべての教育活動における評価の4つの観点の展開
(1) 4つの評価の観点の採用
ではいったい指導の効果を判定したり,子どもの自己学習力の向上を確かめたり,あるいは保護者等外部の人に学校教育の成果を説明する際に何を規準にするか。この問題もやっかいなものであった。
先生たちが辿り着いた結論は,全教科,道徳,特別活動,しゃちっ子学習のすべてを通じて,現行の評価の4つの観点(既述の答申参照)を統一的に採用するという考えであったが,それを生み出したのは附小の先生たちのいう子どもの「学び」という視点であった。すなわち,「学び」=「問題解決思考」は,分析的にみると,「関心・意欲・態度」「思考・判断」「技能・表現」「知識・理解」といった諸能力から構成されているのではないかという考えであった(本書理論編参照)。
各小・中学校においては,今日では,各教科の評価において,あるいは特別活動の評価において,これらの4つの観点を評価の基本にするという考えは既に定着しているかもしれない。しかし,道徳,総合的な学習の時間においてはどうであろうか。“えっ!”とか,“ああそうか”とか,“新たな別の観点を設けるべきではないか”等々の声が予想されるところである。
しかし,よくよく考えてみれば,道徳であれ,総合的な学習であれ,およそ子どもの「学び」=「問題解決思考」を抜きにしては学習は成立しないことであろう。監修者である高浦も,かつて,同じ観点別評価といえども,昭和55年体制下と平成3年,そしてそれを受け継ぐ今日とでは,教科の目標・内容の観点から→子どもの学びの観点へという質的な転換がみられることを指摘したことがあるが(拙著『問題解決評価−テスト中心からポートフォリオ活用へ−』明治図書,2002),まさに附小の先生たちの卓見であると思う。
(2) 単元における評価規準の具体化
国立教育政策研究所教育課程研究センターは,新たな評価への取り組みを求めて,小・中学校別の『評価規準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料−評価規準,評価方法の研究開発(報告)』(平成14年2月28日)を公表し,この中で,改定された学習指導要領の各教科と特別活動の各内容ごとに,評価の4つの観点をベースとする評価規準を作成した。しかし,単元レベルでの評価規準の作成方法や指導と評価の一体化なり子どもの自己学習力の向上に向けた評価にいかに取り組むか等に関しては各学校関係者に任されており,早急な研究開発が急務となっている。
附小の先生たちは,各教科,道徳,特別活動,しゃちっ子学習の全面にわたって,まさにこのような課題とされている評価作業の具体化に取り組んだわけである。
その詳細は本書の理論編及び実践編に譲らざるを得ないが,例えば,学習指導要領の内容と単元のねらいとを検討し,その結果をそれぞれの「単元の目標」として一文にて表現し,それを基に4つの観点別の「単元の評価規準」を作成するといった試み,また,指導と評価の一体化を求めるうえから,各単元の学習過程を構想する時に,同時に,学習過程のいつ,どの場面で,どのような評価資料を基にどの評価規準の達成状況を評価するかといった評価計画を練り,その結果を指導計画に位置付けておくといった試み等は,いずれも各小・中学校においてすぐにでも,また,そのままに取り組むことができるよい工夫であると思う。
なお,しゃちっ子学習の場合についていえば,総合的な学習の時間の場合と同様に,学習指導要領にはその内容の規定がないので,附小の先生たちは,まず先に,「歴史・文化」「自然・環境」「自己と他者」をスコープとする附小なりの独自な内容づくりを行っている。そして,その後,4つの評価の観点をベースに既述のような単元レベルでの評価規準づくりや評価計画づくりを行っていることが分かる(しゃちっ子学習実践編参照)。貴重な試みであり,各小・中学校における総合的な学習の時間に向けた評価においても同様な取り組みを期待したい。
(3) 評価基準の設定
さらには,単元の評価規準を評価基準にまで具体化する試みも誠に貴重である。というのも,評価規準はどの子どももここまで到達して欲しいという達成目標を示しているのに対し,評価基準は個々の子どもの達成目標の達成状況を判断する指標を示しているからである。
本書の理論編及び実践編にみられるように,評価規準は“〜できる”といった形で目標表現し,一方,評価基準は,その達成状況の目安として,例えば◎とか3は十分満足できる,○とか2はおおむね満足できる,△とか1は努力を要するといった3段階尺度を設け,それぞれの判断根拠を“〜している”といった事実的・行動的に表現するのが適当であろう。そして,ここまでの作業を行っておけば,各教科等の実践編に報告されているように,“指導のポイントを絞ることができた”,“子どもの活動の深まりや広がりなどが明らかになった”,“学習状況をより的確に把握することができるようになった”,“児童の学習の実現状況に応じて柔軟に対応する指導を行うことに繋がる”等々の効果が期待できることであろう。評価基準にまで具体化されない評価規準は評価のために機能しないといえよう。
授業と絶対評価,個人内評価の実践
各小・中学校においては,既に,観点別に評価規準を作成し,それを基に,子どもの学習状況を,教科においては絶対評価し,総合的な学習の時間や総合所見及び指導上参考となる諸事項欄の記述に際しては個人内評価していることであろう。
ところが,附小の先生たちは,教科においても,特別活動,そしてしゃちっ子学習においても,評価の4つの観点を基に,子どもの学習の過程及び成果を絶対評価するとともに個人内評価をも行うという選択をしているのである。聞くと,学習指導要領の「児童のよい点や進歩の状況などを積極的に評価するとともに,指導の過程や成果を評価し,指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにすること」を受けてのことであるという(本書理論編参照)。各小・中学校においても,ぜひ一考して欲しい工夫であると思う。
なお,道徳においては,本書の道徳実践編にうかがえるように,評価の観点をベースに,学習の過程及び成果にみられる個々の子どもの変容・進歩の歩みを評価するという個人内評価を中心に評価が実践されている。その是非に関しても検討をお願いしたい。
さらには,各教科等の実践編にみられるような,指導の展開→その評価→そして,その評価結果を基に次後の指導の改善を行うといった一連の活動を一つのまとまりとする指導と評価の一体化の試み,また,各単元にみられる子どもの自己学習力の向上に向けた評価の取り組み,さらには保護者等外部への説明責任に向けた評価の試み等は,いずれも各小・中学校においてすぐにでも取り組んで欲しいものばかりである。
直接的には1年足らずのおつきあいではあるが,以上のようなある意味では手間のかかる面倒な授業と評価の研究・実践に果敢に取り組んだ附小の先生たちを前にただ頭の下がる思いでいっぱいである。と同時に,各教科等の実践編の最後の「実践をふりかえって」に収められている“よかった”,“これまでなぜこんな当たり前のことを実践してこなかったのか”,“一層の勇気が湧いてきた”といった自評に接し,全国の同じ教師仲間へ授業と評価の取り組みのよい見本を提供していただいたと喜び,心からお礼を申し上げたい。
なお,この場を借りて恐縮であるが,監修者である高浦は,国立教育政策研究所の研究プロジェクトである「総合的な学習の授業と評価に関する開発的研究」の研究代表を務め,その成果の全文を国立教育政策研究所のホームページにて公開したところである(平成15年4月)。本書とともにご愛読をお願いしたい。
最後に,佐賀大学文化教育学部附属小学校の先生方ならびに関係者の日頃の研究・実践の取り組みに敬意を表するとともに,本研究の成果を基に今後のますますの研究・実践の深まりを期待したい。
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明治図書
















