- まえがき
- 第1章 「思考力・判断力・表現力」をどうとらえるか
- ―いかなる特質をもっているか―
- 1 「思考力・判断力・表現力」とは何か
- (1) 学力としての「思考力・判断力・表現力」
- (2) 育てる学力・見えない学力
- (3) 教科を超えた学力と社会科としての学力
- (4) なすことによって育つ学力
- 2 「思考力」「判断力」「表現力」のとらえ方
- (1) 「思考力」とはどのような能力か
- (2) 「判断力」とはどのような能力か
- (3) 「表現力」とはどのような能力か
- (4) 思考力と判断力と表現力の関係性
- 第2章 「思考力・判断力・表現力」を育てる授業づくり
- ―授業改善の4つの視点―
- 1 主体的・対話的で深い学びによる授業の充実
- (1) なぜ,主体的・対話的で深い学びなのか
- (2) 社会科で重視したいアクティブ・ラーニング
- (3) アクティブ・ラーニングの実施上の課題
- 2 問題解決的な学習の過程に位置づける
- (1) アクティブな学びとしての問題解決的な学習
- (2) 問題解決的な学習の基本的なプロセス
- (3) 問題解決的な学習で育てる資質・能力
- 3 ものの「見方・考え方」を身につける
- (1) なぜ,「見方・考え方」なのか
- (2) 社会科固有の「見方・考え方」
- (3) 汎用的な「見方・考え方」
- (4) 関連資料
- 4 「何を」をしっかり押さえて指導する
- (1) 社会科において「何を」とは何か
- (2) 「何を」をどう押さえるか
- (3) 思考力・判断力・表現力との関連
- 第3章 「思考力・判断力・表現力」を鍛える教師の役割
- ―重視したい3つの方策―
- 1 思考や判断,表現を促す教師の発問・指示
- (1) 発問と指示の役割
- (2) 疑問詞で思考や判断,表現を方向づける
- (3) 発問と指示の構成
- 2 言語などによる表現活動をとおして鍛える
- (1) なぜ,言語活動の充実なのか
- (2) 「話す活動」で思考力・判断力・表現力を鍛える
- (3) 「書く活動」で思考力・判断力・表現力を鍛える
- 3 友だちとの学び合いをとおして鍛える
- (1) 「学び合い」で思考力・判断力・表現力を鍛える
- (2) 「学び合い」の場をどうつくるか
- (3) 「学び合い」は相互評価,自己評価すること
- 第4章 「思考力・判断力・表現力」をどう評価するか
- ―問われる教師の観察力,洞察力―
- 1 これまでどう評価されてきたか ―どこに問題があるのか―
- (1) ある教師の悩みから
- (2) ペーパーテストに見る評価問題の実態
- (3) 能力の特質を踏まえて評価されているか
- 2 評価方法の新しい考え方 ―どこをどのように改めるか―
- (1) 思考力と判断力を区別して評価する
- (2) 思考力,判断力ともに表現活動をとおして評価する
- (3) 多様な表現方法を取り入れる
- (4) 授業中に指導と一体に評価する
- 3 「思考力・判断力・表現力」をみる評価問題例 ―新発想によるペーパーテストの開発―
- (1) ペーパーテストの作成と活用の考え方
- (2) ペーパーテスト問題の実際
- ◆問題の解答例
- あとがき
まえがき
「思考力・判断力・表現力」というフレーズは,いまや学校教育において常套句(決まり文句)の1つになっています。学校での校内研修や研究会の主題などにも使用されてきました。
私が「思考力・判断力・表現力」のフレーズを初めて耳にしたのは,平成4年のことです。いまから25年も前になります。当時,自ら学ぶ意欲や思考力・判断力・表現力などの能力を重視するとした「新しい学力観に立つ教育」が提唱されました。これを受けて各学校では,子どものよさを生かし,主体性を尊重した授業が盛んに展開されました。
各学校が「新しい学力観に立つ教育」を推進するなかで学習意欲や思考力・判断力・表現力などの資質や能力を育てることと比べて,相対的に軽視されたのが「知識や技能」でした。こうした状況では社会科の教科としての役割が十分に果たせなくなるという危機意識のもとに取りまとめたのが,拙著『社会科学力をつくる“知識の構造図”』と『“知識の構造図”を生かす問題解決的な授業づくり』の2冊です。ここでは,社会科における「知識」のもつ重要性について警鐘を鳴らしたつもりです。
一方,「思考力・判断力・表現力」については,これらの能力を育てることの重要性や必要性は十分認識されているのですが,指導方法や手だてが十分に開発されてきませんでした。既に四半世紀もたっているにもかかわらず,「どのように指導すれば,子どもたちに思考力・判断力・表現力が育つのか」「思考力・判断力・表現力の評価はどうするのか」といった実践研究がなかなか進んでいないように思われます。要するに,思考力・判断力・表現力の育て方やその評価の仕方についてはまだまだ未開発の分野だということです。
私たちは社会生活においてさまざまな問題場面に出会います。そこでは,習得した知識や技能を活用して,よりよく問題解決することが求められます。その際に必要になるのは知識や技能だけでなく,それらを活用するために必要となる思考力・判断力・表現力などの能力です。文部科学省が実施している学力調査によると,基礎的な知識や技能の習得状況(いわゆるA問題)と比べて,思考力・判断力・表現力などの能力を発揮して解答する問題(いわゆるB問題)の正答率がいまなお低いという結果が報告されています。
新学習指導要領は,全教科において知識や技能とともに,思考力・判断力・表現力などの資質・能力の育成を重視しています。
本書『「思考力・判断力・表現力」を鍛える新社会科の指導と評価』はこうした課題意識のもとにまとめたものです。
第1章では,「思考力・判断力・表現力」をどうとらえたらよいか。これらの能力に共通する特質について学力論の立場から考察し,そのうえで思考力と判断力と表現力についてそれぞれ個別に検討します。
第2章では,「思考力・判断力・表現力」を鍛える指導方法として,主体的・対話的で深い学びといわれるアクティブ・ラーニングを取り入れること,問題解決的な学習を充実させること,ものの「見方・考え方」を身につけること,「何を」を押さえて指導することの4つを提言します。それぞれ思考力・判断力・表現力を育てる観点から考察していきます。
第3章では,「思考力・判断力・表現力」を鍛えるための教師の具体的な方策として,教師の発問・指示,子どもの言語活動や学び合いに焦点を当て,それぞれ指導のポイントを述べています。
第4章では,「思考力・判断力・表現力」の評価方法について,これまでの評価の反省に立ち,新しい考え方を提案します。合わせて,新しい発想によるペーパーテストの評価問題例を紹介しています。
本書が,思考力・判断力・表現力をはぐくむ指導と評価の充実に寄与するとともに,社会科授業の改善のお役に立てることを願っています。
終わりに,本書の出版の機会を与えていただき,編集の労をとっていただいた明治図書出版の及川誠氏にこの場を借りてお礼と感謝を申し上げます。
平成29年7月 /北 俊夫
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