- はじめに
- T 教師自らの姿で
- 1 気持ちをつなぐ学級集団 /九條 孝義
- 2 子供に自信をつける取り組み /目賀田 八郎
- 3 いじめに挑戦する教師 /田中 壽男
- 4 総合的な学習での学級づくり /飯田 朝治
- 5 新聞の投稿から人のぬくもりを /小山 弘
- 6 教師の学ぶ姿で /佐藤 陽祐
- COLUMN /西倉 正
- U 教師が 手塩にかけて
- 1 心と言葉をだいじにする 入門期の指導 /吉永 幸司
- 2 子供の見方や考え方を生かす 算数 /根津 孝
- 3 担任の先生は 魔法使い /本田 三洋
- 4 校務主任 誰かの役に立ちたい /伊藤 光子
- 5 クラスの力を高める 体育指導 /藤ア 敬
- 6 部活動 今日は明日への踏切板 /稲田 堅治
- COLUMN /片岡 敦子
- V 子供が輝く 明日を夢見て
- 1 公立校の挑戦 /片桐 清司
- 2 かくて,学校は甦った! /水野 文俊
- 3 子供に『いのち』を刻む /北川 明彦
- 4 大好き体験活動を重ねて /大槻 美江子
- 5 健康教育を推進する養護教諭 /藤縄 雄
- 6 生徒の自己実現を図る教頭の関わり /山口 友信
- 7 心に平和の砦を /宮城 恒彦
- COLUMN /織井 道雄
- COLUMN /海野 千秀
- 本書で取り上げられた先生
- おわりに
はじめに
全国連合退職校長会 会長 /土橋 荘司
人間の毎日の生活の中では,うれしいこと,悲しいこと,つらいことなどがいっぱいある。その,喜怒哀楽を共有し合える相手と触れ合うことで,孤独や寂しさに負けずに生きていけるのだと思う。
今,私たち教員は,自らの力で次の時代に向けて,『教育の幕開け』をしなければならない。怠学・いじめ・不登校,更には信じられない親殺し,子供の先生に対する暴力など,今までの学校では考えられない事件が起きている。そして「学校が死んだ」「教員が子供を落ちこぼす」などの,一連の批判と追及も厳しい。教育に携わっている人達が,これらの厳しい世論に対し,拱手したままで,冷静さを装うことは,一種の逃避に過ぎないと思う。
センセイ,せんせい,先生と呼びかけてくる子供たちの純粋な声に,教員は,きちんと,そして厳然とこたえなくてはならない。今日も,全国の教室で,子供たちが目を輝かせて,先生の言葉と身のこなしに,熱い信頼と期待を寄せているのだ。
私たち教員の日々の実践は,必ずしも十全なものではないかもしれない。教育の営みに『完全な過程』がないように,私たちの仕事にも,いろいろ欠けていることもあろう。時には,誤りがひそんでいることもあるかもしれない。しかし私は,一部の人々がいうように,「日本の学校では『ダメ教師』が,熱意のない曖昧な労働をしている」などとは考えていない。私は,『すばらしい先生』の姿を,自分の周囲に数多く見ている。これは決して,仲間への安易な肯定や賛辞ではない。しばしば『子供に生命を掛けて生きる先生』の,真撃な営みに深い感動を感じ,限りない畏敬を抱くことがある。
ここに集めた19編の記録は,まさに,我が国の『見事な教師群像』の一端である。それは,多くの教員が求めつづけている『あるべき姿』でもある。揺るぎなき指標でもあると確信する。『わたしたちの心は,喜びを映す鏡であり,恐れを映す鏡でない』ことを,子供に,力強く説くことが必要なのである。
この本を通して,私たちは,今こそ勇気をもって立ち上がりたい。今日の社会と教育を築いてきた『日本の教師群像』の,静かで地道な,情熱と努力の歩みを,広く世の中に知ってほしいと思う。
同時に,世論の渦のなかで,ややもすると自らの仕事に自信と勇気を失いかけている仲間たちに,強固な自信の源にしてもらいたいと思う。教員の生涯の仕事,いわば草の根のささやかな営みの,大きな意味と,価値を,再確認してほしいと念じている。特に若い仲間たちの,これからの日々の実践に,一つの灯を贈ることができれば幸いだと考える。教育にとって一番大事なことは,心が,自分であることに目覚めさせることである。そしてその心を,日本民族の心らしく,よりよく育て上げることである。
このような趣旨に賛同され,全国から珠玉の記録をお寄せ下さった執筆者各位と,いま,この本が刊行されることの意義を熱く感じとり,協力して下さった都道府県の役員に,心から謝意を表わす次第である。
最後にもう一言に述べて終わりとする。
今日,流行に乗って,『子供の主体性』だけを求めることは,根拠のない思いつきを良とし,これを助長させることになる。教育が本来果たすべき『深く考える力』の涵養には,かえって逆効果となりかねない。本来教育では『よくよく考える』ことこそ重要なのである。本書から,その実践を汲みとってもらえれば幸いである。
平成19年3月
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- 明治図書