- はじめに
- T章 ディベートが自分の意見を育てるわけ
- 1 子どもが意見づくりの意欲に燃える
- 2 意見が論理的になる
- 3 物事を多面的に考え、自分の意見を見直すようになる
- 4 前向きなものの見方・考え方をするようになる
- U章 子どもに合ったディベートにする
- 1 論題づくりのポイント
- 2 小学校国語科教科書にみる論題
- 3 子どもが作る論題
- 4 ディベートでの立場をどう決めるか
- 5 尋問の前に作戦タイムをつくる
- 6 判定しやすい観点にする
- V章 証拠を挙げて主張する
- 五年 国語科「ふろしきはかばんよりも便利である」
- 1 証拠をもとに意見をつくる
- (1) 授業のねらいと論題の設定
- (2) ふろしき派・かばん派を決め、立論メモを書く
- 2 ディベートの実際
- 3 アフター・ディベートで説明の練習を繰り返す
- W章 多面的で前向きなものの見方を育てる
- 六年 国語科「テレビは必要ない」
- 1 作文の前にディベートをする
- 2 「悪魔の弁護人」の登場
- 3 意見の発想を促し、論争を仕掛ける
- (1) 子どもに気づかせる
- (2) 論争を仕掛ける
- (3) 調査活動を手助けする
- (4) 立論メモを書く
- 4 ディベートの実際
- 5 ディベートで育つ意見
- (1) 物事のプラスとマイナスの両面を考える
- (2) 反論をふまえる
- (3) 意見の違いに気づき、他者への理解を深める
- (4) 前向きに物事を考える
- X章 事実を見て考える
- 六年 道徳「日本も、ごみを道ばたに捨てた人からばっ金をとる法律を作るべきである」
- 1 体験的活動の後にディベートをする
- 2 道徳以外の教科・領域と関連づける
- 3 資料と論題
- 4 教室を出て調査活動をする
- 5 ディベートの準備
- 6 ディベートの実際
- 7 ディベートで育つ意見
- 8 アフター・ディベートでもう一度考える
- (1) シンガポールの法律
- (2) 一番大切なものは
- おわりに
はじめに
私の勤務する新潟県西蒲原郡黒埼町立山田小学校では、平成六年度より、一年生から六年生までの全学年で、ディベートを用いた学習指導を試みてきた。
ディベートについて何も分からなかった私たちは、松本道弘氏のディベートの定義から学び始めることにした。
ディベートの定義
1 あるひとつの論題をめぐって行なわれる。
2 相対する二組の間で行なわれる。(ただしセルフ・ディベートなら一人二役である)
3 一定のルール(人数、進行方法、審査方法など)に従って行なわれる。ただし非公式のディベートでは、この限りではない。
4 議論は断定ではなく、立証されたものでなくてはならない。
5 最後に、何らかの形で判定される。ただし非公式のディベートでは、この限りではない。
6 目的は、@真理の探究、A意思決定、B問題解決である。
(『やさしいディベート入門』 P.21 松本道弘 中経出版 )
右の定義をもとに教室でディベートを始めてみると、解決の必要な問題が次々と出てきた。
例えば、どのような論題にすれば子どもはディベートに燃えるのか。ディベート用語を子どもに分かるように言い換えるには、どうすればよいか。判定は誰が行うのかなど、さまざまな問題が出てきた。
そこで、右のような問題を職員全員で協議し、子どもに合ったディベートのスタイルを、私たちなりに工夫することにした。
山田小学校のディベート実践は、『「ディベート」で学校が変わる〜山田小方式の提案』(明治図書 宗村奎助編著 一九九五年 十一月)にまとめられている。同書には、学年の発達段階に合わせ、ディベート「を」どう教えるか、ディベート「で」どう学ばせるか、具体的な指導法が示してある。これから教室でディベートを始められる方のお役に立てれば幸いである。
さて、本書『ディベートで自分の意見を育てる』は、『「ディベート」で学校が変わる』の原稿を送り出した後、私の教室で行われたディベート授業の記録である。
ディベートを授業に取り入れるメリットは多数ある。
川本信幹氏は、教室ディベートのメリットを十一項目挙げておられる。
(1) 問題意識を持つようになる。
(2) 自分の意見を持つようになる。
(3) 情報を選択し、整理する能力が身に付く。
(4) 論理的にものを考えるようになる。
(5) 相手(他人)の立場に立って考えることができるようになる。
(6) 幅の広いものの考え方、見方をするようになる。
(7) 他者の発言を注意深く聞くようになる。
(8) 話す能力が向上する。
(9) 相手の発言にすばやく対応する能力が身に付く。
(10) 主体的な行動力が身に付く。
(11) 協調性を養うことができる。
(『教室ディベート・ハンドブック』 P.12〜13 東京法令出版 )
(1)から(11)のメリットは、子どもの姿に表れてくる。
例えば(1)「問題意識をもつようになる」は、論題を決めた後の立論準備期間に、論題にかかわる情報を見つけ出して「先生、私〜のことを見つけたよ。」とうれしそうに教師に知らせにくる姿に表れてくる。子どもは、ディベート・マッチまでの期間、論題に関する情報を探し続けているのである。
さらに、ディベート・マッチの数日後に、論題に関する情報を発見したと教師に知らせにくる子どももいる。ディベートが終わっても、問題意識を持ち続けているのである。
このほかにも、(1)から(11)のメリットは、授業にディベートを取り入れてみると実感できるものである。
さて、本書では(1)から(11)のうち、「(2)自分の意見をもつようになる」を重点的に扱うことにした。
「意見」を辞書で調べると、「ある物事や判断に対して持つ考え。見解。」(『国語大辞典』小学館)とある。
「ある物事や判断」とは、例えば「学校給食を廃止すべし」という「判断」である。(ディベートでは論題にあたる。)
「学校給食を廃止すべし」の「判断」に関してもつ「考え」が、「自分の意見」にあたる。
社会の中には、意見の分かれているさまざまな問題がある。
今、私の手元にある『日本の論点'97』(文藝春秋)を開いてみると、「安楽死を認めるべきか」「夫婦別姓を認めるべきか」など、八九の論点が掲載されている。
「一九九七年の日本社会のあり方を考える」(同書「本書の読み方」)論点がこの本だけでも八九もある。
世界全体で考えていくべきこと、地域社会で問題になっていることなどを含めれば、解決が必要であったり、見解が分かれている問題は、無数にあると言える。
さらに個人が生きる中で、解決の必要な問題も必ず生じてくる。意志決定を迫られる場面もある。
だから、子どもが自分の意見をもてるようになることは、さまざまな問題に主体的に対応し、将来をたくましく生きていくのに必要な資質なのである。
大人なってから、「はい、今日から意見をもちなさい。」というわけにはいかない。子どものうちから「自分の意見をもつ」トレーニングが必要なのである。
私は、「自分の意見をもつ」ことのよさや、意見をもつまでのプロセスを体験的に学ぶのに、ディベートは適した方法であると考えている。
高橋俊三氏は、「ディベートは、万能ではないが、強い教育力をもつ」(『国語教育』No.527 P.5 明治図書)と指摘されている。
「万能ではない」が、ディベートのもつ「強い教育力」は魅力である。
「万能ではない」と教育方法の適性を判断しつつ、「強い教育力」をもつディベートを教室で子どもが使っていけるように工夫すべきである。
本書は、子どもが自分の意見をもてるように、子どもに合ったディベートを私なりに工夫してきた記録である。
読者の皆様のご批正を仰ぎたい。
本書をまとめることができたのは、明治図書 江部満氏の温かい励ましのおかげである。山田小学校前校長 宗村奎助先生には、ディベートのイロハから教えていただいた。そして、諸先輩方と職場の仲間の支えがあったからこそである。
心よりお礼を申し上げたい。
/武井真一郎
-
- 明治図書