教室ディベートの新時代20ディベートで自分の意見を育てる

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ディベートが自分の意見を育てるわけ/子どもに合ったディベートにする/証拠を挙げて主張する/多面的前向きなものの見方を育てる 他


復刊時予価: 2,442円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-209712-2
ジャンル:
授業全般
刊行:
対象:
小学校
仕様:
A5判 144頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

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はじめに
T章 ディベートが自分の意見を育てるわけ
1 子どもが意見づくりの意欲に燃える
2 意見が論理的になる
3 物事を多面的に考え、自分の意見を見直すようになる
4 前向きなものの見方・考え方をするようになる
U章 子どもに合ったディベートにする
1 論題づくりのポイント
2 小学校国語科教科書にみる論題
3 子どもが作る論題
4 ディベートでの立場をどう決めるか
5 尋問の前に作戦タイムをつくる
6 判定しやすい観点にする
V章 証拠を挙げて主張する
五年 国語科「ふろしきはかばんよりも便利である」
1 証拠をもとに意見をつくる
(1) 授業のねらいと論題の設定
(2) ふろしき派・かばん派を決め、立論メモを書く
2 ディベートの実際
3 アフター・ディベートで説明の練習を繰り返す
W章 多面的で前向きなものの見方を育てる
六年 国語科「テレビは必要ない」
1 作文の前にディベートをする
2 「悪魔の弁護人」の登場
3 意見の発想を促し、論争を仕掛ける
(1) 子どもに気づかせる
(2) 論争を仕掛ける
(3) 調査活動を手助けする
(4) 立論メモを書く
4 ディベートの実際
5 ディベートで育つ意見
(1) 物事のプラスとマイナスの両面を考える
(2) 反論をふまえる
(3) 意見の違いに気づき、他者への理解を深める
(4) 前向きに物事を考える
X章 事実を見て考える
六年 道徳「日本も、ごみを道ばたに捨てた人からばっ金をとる法律を作るべきである」
1 体験的活動の後にディベートをする
2 道徳以外の教科・領域と関連づける
3 資料と論題
4 教室を出て調査活動をする
5 ディベートの準備
6 ディベートの実際
7 ディベートで育つ意見
8 アフター・ディベートでもう一度考える
(1) シンガポールの法律
(2) 一番大切なものは
おわりに

はじめに

 私の勤務する新潟県西蒲原郡黒埼町立山田小学校では、平成六年度より、一年生から六年生までの全学年で、ディベートを用いた学習指導を試みてきた。

 ディベートについて何も分からなかった私たちは、松本道弘氏のディベートの定義から学び始めることにした。


 ディベートの定義

1 あるひとつの論題をめぐって行なわれる。

2 相対する二組の間で行なわれる。(ただしセルフ・ディベートなら一人二役である)

3 一定のルール(人数、進行方法、審査方法など)に従って行なわれる。ただし非公式のディベートでは、この限りではない。

4 議論は断定ではなく、立証されたものでなくてはならない。

5 最後に、何らかの形で判定される。ただし非公式のディベートでは、この限りではない。

6 目的は、@真理の探究、A意思決定、B問題解決である。

(『やさしいディベート入門』 P.21 松本道弘 中経出版 )

右の定義をもとに教室でディベートを始めてみると、解決の必要な問題が次々と出てきた。

 例えば、どのような論題にすれば子どもはディベートに燃えるのか。ディベート用語を子どもに分かるように言い換えるには、どうすればよいか。判定は誰が行うのかなど、さまざまな問題が出てきた。

 そこで、右のような問題を職員全員で協議し、子どもに合ったディベートのスタイルを、私たちなりに工夫することにした。

 山田小学校のディベート実践は、『「ディベート」で学校が変わる〜山田小方式の提案』(明治図書 宗村奎助編著 一九九五年 十一月)にまとめられている。同書には、学年の発達段階に合わせ、ディベート「を」どう教えるか、ディベート「で」どう学ばせるか、具体的な指導法が示してある。これから教室でディベートを始められる方のお役に立てれば幸いである。


 さて、本書『ディベートで自分の意見を育てる』は、『「ディベート」で学校が変わる』の原稿を送り出した後、私の教室で行われたディベート授業の記録である。

 ディベートを授業に取り入れるメリットは多数ある。

 川本信幹氏は、教室ディベートのメリットを十一項目挙げておられる。

 (1) 問題意識を持つようになる。

 (2) 自分の意見を持つようになる。

 (3) 情報を選択し、整理する能力が身に付く。

 (4) 論理的にものを考えるようになる。

 (5) 相手(他人)の立場に立って考えることができるようになる。

 (6) 幅の広いものの考え方、見方をするようになる。

 (7) 他者の発言を注意深く聞くようになる。

 (8) 話す能力が向上する。

 (9) 相手の発言にすばやく対応する能力が身に付く。

 (10) 主体的な行動力が身に付く。

 (11) 協調性を養うことができる。

(『教室ディベート・ハンドブック』 P.12〜13 東京法令出版 )

 (1)から(11)のメリットは、子どもの姿に表れてくる。

 例えば(1)「問題意識をもつようになる」は、論題を決めた後の立論準備期間に、論題にかかわる情報を見つけ出して「先生、私〜のことを見つけたよ。」とうれしそうに教師に知らせにくる姿に表れてくる。子どもは、ディベート・マッチまでの期間、論題に関する情報を探し続けているのである。

 さらに、ディベート・マッチの数日後に、論題に関する情報を発見したと教師に知らせにくる子どももいる。ディベートが終わっても、問題意識を持ち続けているのである。

 このほかにも、(1)から(11)のメリットは、授業にディベートを取り入れてみると実感できるものである。

 さて、本書では(1)から(11)のうち、「(2)自分の意見をもつようになる」を重点的に扱うことにした。

 「意見」を辞書で調べると、「ある物事や判断に対して持つ考え。見解。」(『国語大辞典』小学館)とある。

 「ある物事や判断」とは、例えば「学校給食を廃止すべし」という「判断」である。(ディベートでは論題にあたる。)

 「学校給食を廃止すべし」の「判断」に関してもつ「考え」が、「自分の意見」にあたる。

 社会の中には、意見の分かれているさまざまな問題がある。

 今、私の手元にある『日本の論点'97』(文藝春秋)を開いてみると、「安楽死を認めるべきか」「夫婦別姓を認めるべきか」など、八九の論点が掲載されている。

 「一九九七年の日本社会のあり方を考える」(同書「本書の読み方」)論点がこの本だけでも八九もある。

 世界全体で考えていくべきこと、地域社会で問題になっていることなどを含めれば、解決が必要であったり、見解が分かれている問題は、無数にあると言える。

 さらに個人が生きる中で、解決の必要な問題も必ず生じてくる。意志決定を迫られる場面もある。

 だから、子どもが自分の意見をもてるようになることは、さまざまな問題に主体的に対応し、将来をたくましく生きていくのに必要な資質なのである。

 大人なってから、「はい、今日から意見をもちなさい。」というわけにはいかない。子どものうちから「自分の意見をもつ」トレーニングが必要なのである。

 私は、「自分の意見をもつ」ことのよさや、意見をもつまでのプロセスを体験的に学ぶのに、ディベートは適した方法であると考えている。

 高橋俊三氏は、「ディベートは、万能ではないが、強い教育力をもつ」(『国語教育』No.527 P.5 明治図書)と指摘されている。

 「万能ではない」が、ディベートのもつ「強い教育力」は魅力である。

 「万能ではない」と教育方法の適性を判断しつつ、「強い教育力」をもつディベートを教室で子どもが使っていけるように工夫すべきである。

 本書は、子どもが自分の意見をもてるように、子どもに合ったディベートを私なりに工夫してきた記録である。

 読者の皆様のご批正を仰ぎたい。


 本書をまとめることができたのは、明治図書 江部満氏の温かい励ましのおかげである。山田小学校前校長 宗村奎助先生には、ディベートのイロハから教えていただいた。そして、諸先輩方と職場の仲間の支えがあったからこそである。

 心よりお礼を申し上げたい。


   /武井真一郎

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