- はじめに
- 序章 「人間」や「社会」を学ぶ教育とは
- (1) 生きる力を育む社会性
- 1.子どもを取り巻く状況
- 2.仲間関係の希薄化
- 3.社会的スキルの未熟さ
- 4.社会的迷惑の日常化
- (2) 学校教育が果たすべき役割
- 1.総合学習がめざしているもの
- 2.心理学を活用した「新しい授業」がめざすもの
- T 豊かな人間関係をめざして
- 心理学的背景
- 1.新たな友だちとの出会い
- 2.豊かな人間関係への第一歩
- 3.関係を見つめ直すことの重要さ
- 授業例 1 記者会見ゲーム
- 授業例 2 良いところ探しの記者会見ゲーム
- U 記憶のあいまいさを体験する
- 心理学的背景
- 1.さまざまな記憶
- 2.記憶が変わる
- 3.覚えていることを他者に伝える
- 授業例 3 どれだけ覚えていたかな?
- 授業例 4 伝言ゲーム:正確に伝わったかな?
- V ものの見え方・見方
- 心理学的背景
- 1.同じものでも背景が異なると違って見える
- 2.同じものでも見方によって違って見える
- 3.人や出来事の見え方
- 授業例 5 同じものが違って見える?
- 授業例 6 人の行動や出来事もいろいろな見方ができる
- W 人に対する印象
- 心理学的背景
- 1.印象は重要か?
- 2.印象形成の特徴
- 3.印象形成の特徴を知り日常に生かす
- 授業例 7 K君ってどんな人ゲーム
- 授業例 8 クラスメイトの印象は1年間でどうなった?
- X 原因・理由をさぐる
- 心理学的背景
- 1.原因・理由をさぐるとき
- 2.どのような情報が影響するか
- 3.立場が帰属を左右するとき
- 授業例 9 手にした情報が違うと…
- 授業例 10 立場が違えば理由も…
- Y 人づきあいのスキル
- 心理学的背景
- 1.社会的スキル教育とは
- 2.認知的な気づきと対人行動
- 3.「頼む」スキルと「断る」スキル
- 授業例 11 「頼む」スキル
- 授業例 12 「断る」スキル
- 授業例 13 スキルゲーム
- Z みんなで考える
- 心理学的背景
- 1.「2者間相互作用」から「集団活動」へ
- 2.「みんなで考える」ということ
- 3.上手に「みんなで考える」には
- 授業例 14 さあこまった! どうすればいい?
- 授業例 15 月で遭難! 助かるには何が必要?
- [ 教師の声・生徒の声
- (1) 教師から見た「ソーシャルライフ」
- 1.「ソーシャルライフをしている自分」と「普段の自分」
- 2.ソーシャルライフと生徒指導
- 3.今の時代に「ソーシャルライフ」の授業が求められるわけ
- (2) 生徒から見た「ソーシャルライフ」
- 終章 今後の展開に向けて
- (1) 柔軟な心の育成をめざして
- 1.心理学を活用した授業がめざしたもの
- 2.考えようとする姿勢
- 3.人間関係の基礎トレーニング
- (2) 他者への志向性・社会への志向性
- 1.何について考えようとするのか
- 2.「自分」から「他者」へ
- 3.「他者」から「社会」へ
- (3) 社会心理学の教育実践への貢献可能性
- 1.「社会」心理学の特質
- 2.心理学研究と教育実践との連携に向けて
はじめに
1999年の5月,名古屋大学教育学部附属中・高等学校研究部の先生方が筆者の研究室を訪ねてこられました。それが本書の誕生するきっかけとなった出来事です。中高一貫教育のカリキュラムの中に,「こころの教育」を導入したいので,どのような授業を行ったらよいかという相談でした。当時,筆者らは「社会的迷惑」について研究しており,社会的迷惑の発生を抑制するような教育の可能性を検討することも研究テーマの1つでした。そして,10月頃から何人かのメンバーを募り,本格的に「ソーシャルライフ(仮称)」の授業プログラム開発プロジェクトを発足させました。そこで模索されたのは,中学生に「人間」や「社会」について考えさせることによって,他者や集団・社会への志向性を高めさせ,結果として迷惑を抑制しようとする授業計画でした。そのためには,心理学を利用した新しい体験型授業を行って,生徒たちの社会的コンピテンスも高めていくことが大切であるとの結論に達しました。
本書は,上記の目的のために,この本の執筆者(研究者と教師・生徒)たちが行ってきた教育実践を,もっと多くの教師たちに知ってもらいたいという気持ちから上梓されたものです。まず簡単に,本書の内容や特徴を紹介いたします。序章では,なぜ「ソーシャルライフ」と呼ばれる新しい授業が必要なのかが述べられています。第T章から第Z章までは,実際に行われた授業例が掲載されています。各章では,それぞれの授業例と関連する心理学的な背景が,わかりやすく解説されています。授業例の方は,手続き的な流れを詳細に記述したり,授業で用いる例文や板書例,刺激図や記録用紙なども例示してあり,すぐにでも使えるよう心がけられています。もちろん,そのままやらなければ意味が無いというのではなく,授業者が適宜アレンジされることを前提としています。
また,第T章から順番に実施していく方が望ましいですが,時間的な制約からアラカルト方式で実施することも可能です。授業例は,1時限(50分)を単位としていますが,1時限の授業2回で完結する授業例もありますし,授業時間の長さがクラスの人数によって変動するものもあります。それらは,授業の留意点として記載してありますので,参照してください。内容的には,第T章から第X章までは,人の認識的な側面に働きかけて「人間」や「社会」について考える力を刺激しようとする授業例です。これに対し,第Y章と第Z章は,人の行動的側面に直接働きかけようとする授業例です。両者は,相互に補完的な働きをしながら生徒の社会的コンピテンスや社会志向性を高めています。すなわち,両者を有効に組み合わせて実施することが効果的です。第[章は,これまで約1年半にわたって「ソーシャルライフ」の授業を体験してきた附属中学校の教師と生徒の率直な感想です。終章は,本書の今後の展開を先取りしたものであると同時に,研究者と教育現場との連携についての提言です。本書を読んで興味を持たれた方は,実施可能な授業例を是非実際に行っていただきたいと願っています。現在の中学校には「ソーシャルライフ」という授業はありませんが,道徳や学級活動の時間を利用すれば,それらの授業目的と大きくずれるものではなく,むしろそれ以上の手応えが得られることを,執筆者一同は信じています。
最後に,本書が出来上がるまでには多くの方々のご支援があったことを付記いたします。附属学校と我々の研究の橋渡しをしてくださった前教育学部長の梶田正巳先生,本書の企画を推奨してくださった教育発達科学研究科長の安彦忠彦先生,実施環境に配慮してくださった附属学校長の速水敏彦先生,我々の新しい試みに快く協力してくださった附属中学校の先生方には深く感謝いたします。また,海のものとも山のものともわからない段階で出版を承諾してくださった明治図書の江部満相談役にも改めて感謝の意を表します。
平成14年2月 編者を代表して /吉田 俊和
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