授業改革を目指す学習集団の実践 中学校

授業改革を目指す学習集団の実践 中学校

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個性を大切にした学習集団の形成ですべての子の学力を伸ばす。

ゆとり教育は戦後教育の「平等主義」を否定し、小人数指導や習熟度別指導を押しつけている。授業改革をめざす学習集団の理論と実践は、このような動向とは全く異なる形で子どもたちの個性を尊重しながらすべての子どもたちに学習権を保障することをめざす教育である。


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ISBN:
4-18-208011-4
ジャンル:
授業全般
刊行:
対象:
中学校
仕様:
A5判 184頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

まえがき /柴田 義松
21世紀初頭教育改革の基本的構図
学習集団をめぐる問題状況と本シリーズの課題
T 批判的思考を育てる学習集団の形成
/柴田 義松
1 文化審議会答申の問題点
2 批判的リテラシーの習得
3 批判的思考を育てる学習集団
U 学習集団を生かした「国語」の授業づくり
/高橋 喜代治
1 「国語」に学習集団が必要なわけ
(1) ある習熟度別の授業への学習集団的疑問
(2) 学習集団の実践的要素
2 説明文「魚を育てる森」の吟味で学習集団を育てる
(1) 「魚を育てる森」の教材価値
(2) 吟味で見えてくる論理のズレ
(3) 文章構造と指導計画/ @ 指導目標/ A 全体指導計画
(4) 授業記録と学習集団の解説/ @ 「導入」で生徒のやる気と集中をつくる/ A 班討議で全員発言をつくる/ B まず,個々の読解を,時間を切って/ C 討議の時,教師は/ D 意見のからみ合いで課題を解決する/ E 全体から班へ
(5) 本時の授業案
3 漢字博士で漢字の「読み」の教え合い
4 1文1絵の絵巻作りで共同の追究
言葉(古語)を検討する生徒たち
5 学年集団づくりの大切さ―まとめにかえて―
V 対象と仲間との対話を通して数学を創る
/小寺 隆幸
1 数学教育の課題と授業改革の方向性
(1) 現在進められている中学校数学の「授業改革」
(2)  生徒の学習到達度調査(PISA)で明らかになった「学力」の問題
(3) 日本の子どもたちの数学観とそれを作り出している授業の問題
(4) 「習熟度」にかかわりなく,ダイナミックな思考を引き出す授業を
(5) 数学を創ることと使うことを密着させるカリキュラムの組み立て
(6) 現実の課題や数学の世界を媒介として結びあう学習集団
(7) 学習集団によって数学が創られる過程/ T 課題提示/ U 自己と対象との対話/ V 集団内の対話/ W 思考の深化/ X 集団で数学を創る/ Y 数学を応用する過程
(8)数学的概念や考え方を創り上げるための核となる授業/ A 数や図形の世界を探索し,発見や論理的な思考の楽しさを味わう授業/ B 現実の課題から数学を創り,数学で現実を読み解く授業
2 九九表の秘密を考える授業
(1) 思考の連鎖反応
(2) 発見したパターンをより基本的な構造からとらえなおす
(3) 生徒が発見した性質やパターン
(4) この授業を通じた生徒の思考の発展
(5) 学習集団の質的変化
3 地球温暖化と水不足の危機
(1) なぜ数学の授業で環境問題を扱うのか
(2) 授業の導入(問題のおかれた文脈の理解と量の関係への着目)
(3) モデルを作る
(4) 課題に対する生徒の考え
(5) 一人の意見が引き起こした思考の変化
(6) 文字式を用いてモデルUを考える
(7) 実際のデータをもとにした数値計算
(8) 式を読む
(9) 授業を通した生徒の思考の深まり/ @ 数学を学ぶ意味を考えさせ,数学に対する理解を深める/ A 現実の問題を数学で考える方法を,具体的事例で体験させる/ B 現実の量的考察を通じて新たな数学を創り,既有の数学を深める
W 学習集団を活かした英語の授業  人間と人間を結びつけてこそ言葉の授業
/阿原 成光 /柏村 みね子
1 「声を出す自己表現」こそが一番の人間らしさ
2 声を出して人間同士がふれあう「生れて初めての英語」の授業
3 人間らしく生きるための発声三原則 Loudly,Kindly,Clearly
4 子ども同士の学びが,子どもにとって,最高で,最良な学び
5 いじめられっこを励ましていた Happy Group Challenge(暗唱班挑戦)
6 中学3年生の進路保障と集団づくり
〜長期化する受験期の中で〜
7 弾む! ぺア・レシテーション
8 ラジオ・ドラマを録音しよう!
9 キング牧師の“I Have A Dream”
(1) 到達目標と実践の流れ
(2) グループで分担,リハーサル
(3) キング・スピーチ デイ! 〜聴衆と一体になる〜
10 学習集団を育てる教師の仕事とは
11 教師の学び
〜若者が集う「笑顔塾」
12 多忙化と教職員集団の今
13 「力のある学校」と教職員集団
14 授業のポットラック・パーティー
〜先生たちの学びの場づくり〜
15 「100人村」クラスとの一年間
〜大学生から学んだこと〜
16 平和を愛する地球市民としての人間らしさを育む英語学習を目指して
X 「どこでバトン・パスをしてもリレー」から考える
〜文化の学習と学習集団の形成〜 /制野 俊弘
1 「能力に応じる」ことの恐ろしさ
2 作戦がうまくいかないのは,下手な子のせいか?
3 「どこでバトン・パスをしてもいいリレー」から考える実践
(1) 新しいリレーの授業の構想
(2) リレーの歴史
(3) 戦後のリレー実践の検討〜「文化としてのゾーン」をどう教えるか〜
(4) 岡田氏への手紙
(5) 実践の流れ
4 子どもと子どもをつなぐ,子どもと文化をつなぐ
(1) リレーという「文化」を仲立ちに
(2) 「能力観の変革過程」を学習過程に
5 最後に
あとがき ――実践へのコメント―― /柴田 義松

まえがき

 21世紀初頭教育改革の基本的構図

 いま私たちは,まさに世界史的激動の時代に生きている。1991年末のソ連邦崩壊,米ソ冷戦構造の終焉後,日本企業を含め各国企業の多国籍化,アメリカ「新帝国」の率いるグローバリゼーションが急速に進展し,多国籍企業間の大競争時代が到来するなかで,地球環境の破壊,繁栄のなかの貧困・飢餓の広がり,民族間の新たな対立が深刻化している。

 国内的には55年体制(自社=保守革新体制)崩壊,細川連立政権誕生(1993年)後の政界再編やバブル経済崩壊の激動があり,官僚汚職・政治汚職のスキャンダルが続くなかで,政治改革・行政改革・財政構造改革・金融構造改革などの「構造改革」が声高に叫ばれながら,目立った進展は見られず,むしろ国民生活の面では「一億総中流化」とも言われてきた日本社会の「中流神話」が崩壊し,不平等社会化の進展が深刻な問題となってきている。

 この不平等社会化=希望格差社会化にいっそうの拍車をかけようとしているのが,自由競争(市場)原理の導入によって戦後日本の「平等主義」教育を根底からくつがえすことを目指す最近の中教審・文部科学省の「教育改革」である。学校教育の現場内外にいま何が起こっているか,主なものを10点あげてみよう。

 @ 学校週5日制の「完全」実施のはずが,私立学校だけでなく公立学校にも見られる不完全実施のばらつき,A 教育内容3割削減の検定教科書,それへの不満と批判から「人気」を呼ぶ日本語・数学・理科・社会科等の検定外教科書の出現,B 「総合的な学習の時間」実施への賛否入り混じった多様な対応,C 中学・高校への選択科目の大幅な導入,D 少人数学級・習熟度別クラス編成の急速な増加,E 『学びのすすめ』による「発展的な学習」など「確かな学力」向上策の推進,F 「絶対評価」の導入とその評価規準・基準づくり,G 『心のノート』の全生徒配布による道徳教育の強化,H 「特色ある学校」づくり,学区制の撤廃,学校選択の導入等による学校間競争の激化,I 教員の勤務評定・管理の強化

 これまでの教育の「基調の転換」を図るという掛け声の下で打ち出されたこれらの「改革」は,確かにどれ一つとっても,これまでの学校教育の根幹を揺るがすほどの大きな改変であるが,それらが一挙にまとめて実施されることにより学校現場での混乱はいやがうえにも増幅されている。

 この「改革」には,教育学の見地から見たとき2つの基本的な問題があるように思われる。1つは,これらの方策がいずれも新しいように見えて実は古く,古い方策が新しい衣を着て登場しているという問題である。その復古的性格は,戦前の非民主的な教育制度の復活を思わせるものでさえある。その「新保守主義(ネオ・コン)」が,「新自由主義」と結びついて現れてくるところに,この「改革」の極めて複雑な不透明さがある。

 第2の問題点は,この「改革」が,これまでの方策のどこに欠点があり,どのような問題点があったかについての十分な検証も自己批判もなく,また新しい方策に関してもその実施効果について十分な学問的・実践的検討も無しに性急に実施に移されていることにある。

 かつて20世紀の幕開けを前にしてエレン・ケイ(1849−1926)は,新世紀は「子どもの世紀」となるであろうと期待をこめて宣言したのだが,1世紀後の今日,「キレル」「ムカツク」「ヤリタクネエ」と荒れる子どもや,陰湿ないじめ,不登校,学級崩壊,授業崩壊などの世紀末的荒廃現象が依然として続くのを目の前にするとき,そのような感懐はとうてい持ち難い状況にある。

 しかし,他方こうした現代の危機的状況をなんとか打開しようとする人々の努力が各方面で着実に進んでいることも確かな事実である。子どもや地域住民の立場に立つ「下からの教育改革」の動きも各地に広がっている。憲法・教育基本法の精神を守り,平和と民主主義の教育を貫くとともに,子どもの権利条約の視点に立ち「子どもの最善の利益」になるような教育改革を求める運動も広がっている。「日本の教育改革をともに考える会」がまとめた報告書『21世紀への教育改革をともに考える』(2000年)では,教育改革の理念と原則として,@ 一人ひとりが人間として大切にされ,子どもの最善の利益がまもられる,A 人間らしい発達を目指し,能力をせいいっぱい伸ばす,B 学ぶ喜びがはぐくまれ,真理・真実が教えられる,C みんなが力をあわせて教育をすすめる,D だれにも教育の機会が公正にひらかれる,E 教育を社会全体が大切にし,教育の条件や環境をととのえる,といった視点が提起され,学校改革の具体的提案としては,@ 学校を生き生きした学習と自治と創造活動の場に,A 競争の教育から,どの子も伸びる教育へ,とする改革が提案されている。

(図省略)


 前頁の図は,現在,日本の子どもと学校をめぐって飛び交っている教育改革の諸提言の基本的構図である。新自由主義の教育政策は,戦後「新教育」の再来とも思わせるような「生きる力」を育てるなど進歩主義的政策を打ち出しているが,両者の決定的違いは,戦後教育の平等主義を否定し,戦前の複線型教育制度への回帰を図ろうとしていることにある。しかし,新進歩主義の諸方策は,「学力低下」の痛烈な批判を浴びて破綻をきたし,いまやまったく逆の「新教化主義」の方策が前面に躍り出てきている。いずれにしてもこれらの政策は,教師不信・現場不信が根底にあるため,ほとんどが現実から遊離した空回りの改革提言となっており,教育現場に根づくことは大変に困難だろう。学校の真の改革は,何よりも当事者である子ども・住民の参加と,創意工夫を働かす現場教師たちの双肩にかかっていることを示そうとしたものである。


 学習集団をめぐる問題状況と本シリー0ズの課題

 子ども集団の教育力を育て,活用して子どもとともに授業改革を図る試みは,わが国の学校で長い歴史をもっているが,学習集団の形成を特に意識した実践と研究は,1960年代の半ば頃から大西忠治や吉本均を中心としたグループの教師と研究者たちによって精力的に進められてきた。

 しかし,その両氏の晩年の著作(「大西忠治教育技術著作集」1991年,吉本均「発問と集団思考の理論第2版」1995年)や(全生研常任委員会編「新版 学級集団づくり入門」1991年)が出版された1990年代前半をピークとして学習集団の研究は,このところやや退潮気味の傾向にあるように思われる。

 他方,最近の教育現場では「個性を生かす教育」とか「個に応じる指導」を名目にした学習の個別化や習熟度別指導の推進が有無を言わさぬ形で強引に押し進められ,学級崩壊,公教育解体,非民主的な戦前の教育体制への回帰をも辞さないかのような反動的・復古的傾向が強まっている。

 また,研究者のあいだでは相変わらずアメリカでの研究を後追いした「学びの共同体」論や,日本の学校でいまも普通に行われている「伝統的な教室の風景は19世紀の産物」であり,「日本を含む東アジアの国々を除けば,すでに博物館に入っている」などといって,ばっさり切り捨て,学習個別化への道を推進するような言説が流布している。

 このような時代状況のなかで,本シリーズ発行の基本的ねらいは「授業改革を目指す学習集団の実践」と研究の具体例を提示することを通して,今日さまざまの困難な問題を抱えるわが国の学校において教育内容のいっそうの充実と発展を図る道を探り,切り開こうと努力している教師たちに学習集団づくりについての一定の指針を示そうということにある。

 そのためには,上述のようなこれまでの学習集団研究の蓄積と成果を基盤としながら,とりわけ教科内容・教材の科学性・真実性の追究と緊密に結びついた形での学習集団の形成と活用の道を探ることが,今日における実践と研究発展の鍵になるだろうと私たちは考える。

 各教科の基礎・基本の学び方,すなわち「何のために,何を,どのような集団組織と授業過程で学ぶのか」については,民間の研究諸団体における貴重な研究の蓄積がある限り,それらを参考にすることは当然としても,本書では各執筆者の個性的な実践と研究とが存分に展開された記述をと,編者は期待したが,実際にもそのようになったと思う。

 その際の叙述の形式として,最初に自分の教科論と学習集団論とを簡潔に述べた後,実践の記録を展開する形式と,実践記録を展開するなかで理論をおりまぜたり,最後にまとめて叙述する形式とがあるが,いずれにしてもそれぞれの授業で子どもたちに何を学ばせ,どんな力をつけようとしたのかという「教科内容」が明示され,その内容と学習集団との必然的なかかわり方が具体的に分かるように記述されているところに,本シリーズのユニークさがあると編者としては考える。

 本シリーズが,小・中学校における学習集団づくりの発展にいくらかでも寄与することができればと願っている。読者の皆さんの率直な感想,ご意見,ご批判をお寄せいただければ幸いである。


  2005年3月   編者 /柴田 義松

著者紹介

柴田 義松(しばた よしまつ)著書を検索»

1930(昭和5)年,愛知県生まれ,名古屋大学教育学部卒。

東京大学大学院人文科学研究科博士課程を経て,1961(昭和36)年,女子栄養大学,1975(昭和50)年,東京大学教育学部(教育内容講座),1990(平成2)年,成蹊大学文学部教授を経て,現在,東京大学名誉教授,日本カリキュラム学会代表理事,日本教育方法学会代表理事,日本教師教育学会常任理事などを歴任。専攻は教育課程論を中心に教育方法論,言語教育論,教師教育論。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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