- はじめに
- 第1章 道徳の新時代到来! 新しい形の道徳授業とは
- 1 「特別の教科 道徳」で求められる道徳授業とは
- (1)道徳授業の抜本的改善・充実
- (2)今日的課題に対応する道徳授業
- (3)「生きる力」を育む道徳授業
- 2 道徳科の目標に準拠した授業
- (1)新しい道徳科の目標
- (2)実効性のある道徳授業
- (3)知育と徳育
- 3 道徳教科化の背景と議論の過程
- (1)道徳教科化の歴史的経緯
- (2)いじめ問題等に対応できる道徳科
- (3)実効性のある道徳教育の在り方
- 4 教科化で今までの道徳授業をどう変えるか
- (1)認知的・情緒的・行動的側面の総合的な育成
- (2)「生きて働く道徳性」の育成
- (3)指導と評価の一体化
- 5 従来の道徳授業とこれからの道徳授業
- (1)従来の道徳授業の特徴
- (2)これからの道徳授業の特徴
- (3)これからの道徳授業の多様性
- 第2章 問題解決的な学習で創る道徳授業 基本と様々な種類や方法
- 1 問題解決的な学習で創る道徳授業の基本的な考え方
- (1)問題解決的な学習で創る道徳授業の基本
- (2)生活経験と道徳授業を結びつける
- (3)学校教育全体を通した道徳教育の要
- 2 問題解決的な学習で創る道徳授業でどんな力が育つのか
- (1)道徳的判断力の育成
- (2)道徳的心情の育成
- (3)道徳的実践意欲と態度の育成
- (4)道徳的行動力の育成
- (5)道徳的習慣の形成
- 3 問題解決的な学習で創る道徳授業の歴史的背景
- (1)アメリカの道徳教育論
- (2)わが国の問題解決的な学習で創る道徳授業論
- (3)道徳科における問題解決的な学習
- 4 従来の道徳授業に問題解決的な学習を取り入れた授業
- (1)心情把握型の道徳授業に問題解決的な学習を取り入れるスタイル
- (2)どの場面のどの心情を追求したいか子どもが選択するスタイル
- (3)考えたい教材や道徳的問題を子どもが選択するスタイル
- (4)道徳授業が学級活動や生活指導を兼ねるスタイル
- 5 本当の問題解決的な学習を用いた道徳授業
- (1)「登場人物はどうしたらよいか」を考えるスタイル
- (2)「様々な登場人物の立場でどうしたらよいか」を考えるスタイル
- (3)「自分だったらどうしたらよいか」を考えるスタイル
- (4)「人間としてどうあるべきか」を考えるスタイル
- 6 問題解決的な学習と体験的な学習を活用した道徳授業
- (1)役割演技で解決策を即興で実演する
- (2)シミュレーションで応用問題を解決する
- (3)スキル学習を取り入れる
- (4)礼儀作法やマナーを学習する
- 第3章 問題解決的な学習で創る道徳授業 デザインの仕方
- 1 授業の目標,ねらいの立て方,主題の設定
- (1)授業の目標
- (2)ねらいの立て方
- (3)主題の設定
- 2 教材の活用
- (1)教材の分析
- (2)教材の提示
- (3)自作教材の活用
- 3 発問の構成
- (1)主体的に考える発問
- (2)問題解決を促す発問
- 4 評価の方法
- (1)自己評価
- (2)パフォーマンス評価
- (3)ポートフォリオ評価
- (4)「行動の記録」との関連づけ
- (5)関係者の多面的評価
- 第4章 問題解決的な学習で創る道徳授業 基本の学習指導過程
- 1 一般的な学習指導過程
- (1)「事前調査・指導」で実態と状況を把握する
- (2)「導入」の工夫
- (3)「展開前段」では道徳的問題を把握し解決する
- (4)「展開後段」では問題解決を応用する
- (5)「終末」では道徳授業の内容をまとめる
- (6)「事後指導」で道徳的実践を評価する
- 第5章 実際の学習指導過程と具体的な授業の流れ
- 1 小学校低学年の事例 教材「みみずくとおつきさま」
- (1)子どもの実態
- (2)主題の設定
- (3)ねらいの設定
- (4)教材の概要
- (5)教材の分析
- (6)学習指導過程の大要
- (7)評価方法
- 2 小学校中学年の事例 教材「絵はがきと切手」
- (1)子どもの実態
- (2)主題の設定
- (3)ねらいの設定
- (4)教材の概要
- (5)教材の分析
- (6)学習指導過程の大要
- (7)評価方法
- (8)指導略案
- 3 小学校高学年の事例 教材「いじめについて考える」
- (1)子どもの実態
- (2)主題の設定
- (3)ねらいの設定
- (4)教材の全文
- (5)教材の分析
- (6)学習指導過程の大要
- (7)評価方法
- 4 中学校の事例 教材「裏庭でのできごと」
- (1)子どもの実態
- (2)主題の設定
- (3)ねらいの設定
- (4)教材の概要
- (5)教材の分析
- (6)学習指導過程の大要
- (7)評価方法
- 第6章 問題解決的な学習で創る道徳授業 留意点と創意工夫
- 1 実践の留意点と対策
- (1)慣れが肝心
- (2)多様な考えを尊重する
- (3)教材の問題状況を深く読み込む
- (4)問題解決の議論をまとめる
- (5)子どもたち皆で授業を創る
- (6)問題解決の多様な展開
- (7)子どもと教師が一緒に授業を創る
- (8)子どもの心理的動揺に配慮する
- (9)教師もアドリブ力を高める
- 2 さらに実践を盛り上げる創意工夫
- (1)板書の工夫
- (2)グループ活動の充実
- (3)いじめ問題への対応
- (4)気になる子どもへの配慮や支援
- (5)自己決定を促す工夫
- 第7章 問題解決的な学習で創る道徳授業 実践例
- 1 小学校での実践例
- (1)小学1年生
- (2)小学2年生
- (3)小学3年生
- (4)小学4年生
- (5)小学5年生
- (6)小学6年生
- (7)韓国の道徳授業
- 2 中学校での実践例
- (1)中学1年生
- (2)中学2年生
- (3)中学3年生
- おわりに
はじめに
道徳が教科化されるのを機に,「読む道徳」から「考え,議論する道徳」へ質的転換をすることが求められている。これまでの「道徳の時間」では,読み物に登場する人物の心情を理解することに偏った形式的な授業が多かった。それに対して,新しく「特別の教科」となる道徳科では,子どもたちが主体的に考え議論する「問題解決的な学習」を活用した道徳授業を積極的に導入することが推奨されているのである。
これまで筆者は,「問題解決型の道徳授業」を提唱し,従来の形式的な授業スタイルにとらわれず,多様で効果的な道徳授業を行うべきであると主張してきた。道徳の教科化をきっかけに,わが国でも問題解決的な学習を生かした道徳授業(=問題解決型の道徳授業と同義)が広く周知され普及することを心より期待したい。
ただし,問題解決的な学習を生かした道徳授業をめぐっては,解釈が混乱しており,その実践例も玉石混交の状態である。そもそも「問題解決的な学習を生かした道徳授業」とは,子どもが自ら道徳的問題に取り組み,どう行動・実践すべきかを主体的に考え,判断し,協働して議論しながら解決する授業である。こうした道徳授業において,子どもは生活経験にもとづいて問題状況を多面的・多角的に考え,当事者の心情に配慮し,創造的に複数の解決策を構想し,それらを比較検討し議論する過程において「生きて働く道徳性」を育成することができる。
こうした問題解決的な学習で創る道徳授業は,実効性が高い指導方法としてわが国でも「道徳の時間」が特設されて以来,脈々と受け継がれている。世界の道徳教育(人格教育,価値教育,シティズンシップ教育を含む)を見渡しても,問題解決的な学習を用いて道徳授業を展開するのは当然視されており,グローバル・スタンダードでもある。
特に,わが国の場合,「いじめ問題等への対応」をはじめ,生活習慣の乱れ,規範意識の低下や自己肯定感の低下,人間関係の希薄化,学習意欲の低下など,子どもの学校生活における道徳的問題が数多くある。また,情報モラルや生命倫理などの今日的課題や,法教育やシティズンシップ教育にも対応することを求められている。こうした山積する喫緊の課題に取り組み,多様な見方や考え方と交流しながら,適切な価値観を創造するためにも,道徳科に問題解決的な学習を導入することは,是非とも必要となる。
もともと各教科等では,問題解決的な学習が積極的に活用されてきている。これからの時代は,道徳でも単に道徳的諸価値を知識として理解させるだけでなく,それらを日常生活でも活用・汎用することのできる「資質・能力」やコンピテンシーを育成することが求められる。こうした方針は,子どもが主体的・協働的・能動的に学習するアクティブ・ラーニングとも対応している。
道徳科が問題解決的な学習を授業に取り入れることで,各教科や領域に先駆けて,総合的で教科横断的なアクティブ・ラーニングを本格的に展開することができる。学校現場でもようやくこうした問題解決型の指導方法が広まってきており,NHKのEテレで放送中の「ココロ部!」でも我々の提唱する問題解決型の道徳授業を取り入れて番組構成を行っている。
これまで筆者は文部科学省の主催する中央教育審議会道徳教育専門部会の委員,学習指導要領等の作成協力委員,道徳教育に係る評価等の在り方に関する専門家会議のヒアリング発表者として,問題解決的な学習を導入した道徳授業の在り方を一貫して提言してきた。
そこで本書では,本来,「問題解決的な学習を生かした道徳授業とはどのようなものか」について理論的にも実践的にもわかりやすく解説することにした。こうした新しい道徳授業を多くの方々と共有するとともに,その応用・発展を協働して探究していけることを祈念したい。
/柳沼 良太
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