- はじめに
- 第1章 生徒全員の学びを保障するコの字型机配置+4人グループ学習
- @どうすれば生徒はまじめに授業に取り組むのか
- Aコの字型机配置とは?
- B4人グループ学習とは?
- C生徒全員の学びを保障するための校内研修
- D生徒全員の学びを保障するための日々の授業改善
- 第2章 生徒全員の学びを保障するコの字型机配置+4人グループ学習の実践事例
- 擬音語と擬態語の違いを考えよう!
- 【1年・国語・『オツベルと象』(宮沢賢治)】
- 「情けなし」という言葉が発せられた理由を考えよう!
- 【2年・国語・「扇の的」(『平家物語』)】
- 筆者の問題提起をとらえよう!
- 【3年・国語・『「新しい博物学」の時代』(池内了)】
- 割りばしの本数の求め方を考えよう!
- 【1年・数学・文字と式】
- いろいろな点を回転の中心として回転させよう!
- 【1年・数学・平面図形】
- たしてもひいても文字が消えない連立方程式を解こう!
- 【2年・数学・連立方程式】
- 共通因数を見つけ出そう!
- 【3年・数学・多項式】
- 世界の国々の人物になって自己紹介をし合おう!
- 【1年・英語・自己紹介をしよう】
- 聞く力と一緒に,書く力,話す力も伸ばそう!
- 【2年・英語・イベントの案内を聞こう】
- 新垣さんの紹介文を書いてみよう!
- 【2年・英語・Try to Be the Only One】
- 2つの4人グループでディベートをしよう!
- 【3年・英語・For or Against(ディベート)】
- いろいろな向きから大陸,海洋をとらえよう!
- 【1年・社会・大陸と海洋の分布】
- 明治の三大改革が人々に与えた影響について考えよう!
- 【2年・社会・明治維新の三大改革】
- 欧米諸国がどのような行動を起こしたのか追究しよう!
- 【3年・社会・欧米諸国のアジア侵略】
- カルメ焼き,ホットケーキで見られる穴の正体を探ろう!
- 【2年・理科・化学変化と原子・分子】
- だ液のはたらきを調べよう!
- 【2年・理科・消化と吸収】
- 月がいつ,どの方位に見えるのかを考えよう!
- 【3年・理科・月の運動と見え方】
- 透明で強度の高い素材の正体を探ろう!
- 【2年・技術・材料と加工に関する技術】
- 梨の皮剥き大会にチャレンジしよう!
- 【2年・家庭・調理と食文化】
- 課題曲のイメージを考えよう!
- 【3年・音楽・合唱で伝えたいイメージ】
- どんなデザインとも調和する文字を探そう!
- 【1年・美術・文字とデザイン】
- 互いの技を確認し,助言し合おう!
- 【1年・保健体育・剣道】
- おわりに
はじめに
東京都江戸川区立二之江中学校長 /内野 雅晶
江戸川区立二之江中学校は,平成18(2005)年度に,コの字型机配置と4人グループ学習に象徴される「学びの共同体」「協同学習(collaborative learning)」に取り組み始めました。今年度(平成27年度)は実施10年目の節目の年に当たります。
この10年の間,4人の校長がこの取り組みを学校経営の柱としてきました。当初,この実践に取り組んだきっかけは,困難な状況にあった生徒指導への対応で,この取り組みの目的は,生徒たち全員の学びを保障することでした。
コの字型机配置と4人グループ学習の取り組みには,学校経営上様々な効果があります。学習指導だけでなく,生徒同士の良好な人間関係の形成にも効果があることを,教職員は学級指導等を通じて実感しています。
一方で,決して学校経営の万能薬であるかのようにとらえてはいけないとも考えています。
50分の授業が日に6時間あり,生徒にとって協同学習に身を置く時間は学校生活全体において相当の割合を占め,生徒の生活態度によい影響を及ぼしていることは確かです。しかし,生徒指導の基本的な考え方や対応についての方針等はきちんと定める必要があります。また,キャリア教育に積極的に取り組んだり,発達障害のある生徒に対する適切な対処について認識を深めたりするために,専門的な内容の研修会をこの取り組みと同様に設定していかなければなりません。
本校の取り組みの特色は,その目的が純粋に生徒の学びの保障にあることはすでに述べたとおりですが,教科を超えた授業研究を教科担任制の中学校において,定例的に行えていることに大きな価値があると考えています。年3回の全体研修会,学年ごとに年8回行われるビデオ授業検討会の実施によって年間27人の教職員が研究授業を行っています。また,年間10人ほどの教職員が先進校を視察訪問しています。そのどれもが日々の授業がよりよいものになるようにとの一念で行われ,そこには研究を柱とする教職員の同僚性が生まれています。
生徒にとって,4人グループ学習は,授業中に「わからない」という気持ちを言葉で表すことができる点に価値があります。ある教科でのつまずきは,速やかに修復しなければ,他教科も含めた学習全体のモチベーションを下げてしまいかねないからです。
一般的に校内研究の主題に「わかる授業の追究」を設定することが多いものですが,生徒の「わからない」「理解できない」という現実に対し,どれだけ実際的な対処ができているか疑問に感じることがあります。一方,4人グループ学習における生徒たちの合言葉は,「ねぇ,ここどうするの?」と「分からないから,教えて」です。生徒にとってこの言葉を日常的に用いることが,学びの保障の出発点になっています。
また,すべての授業が基本的にコの字型机配置及び4人グループ学習で行われるメリットとして,50分の授業展開のプロセスに共通性があるということがあげられます。生徒はそのプロセスになじみ,教師はその特徴を生かして授業を展開することにより,理解を深めやすい授業をつくることができます。
本校では年3回標語コンクールを行っていますが,最近の受賞標語が『「教えて」と聞けば深まる知識と理解』であることからも,協同学習のメリットを生徒たち自身も実感しているものと考えています。
さて,本校の実践の成果についてですが,特徴的な点として,まず生徒の学習意欲の向上が上げられます。
全国学力・学習状況調査の生徒質問紙調査では,「学習習慣」「言語活動」「読解力」「数学への関心」において,本校は全国や東京都の基準を上回っています。今後は国や都と比較するうえで,教科の正答率のみに着目するのではなく,基礎的・基本的事項の定着状況等を検証していきたいと考えています。
また,卒業後の進路の状況については,都立高校の合格状況において,特に下位層の生徒では,基礎的問題の着実な得点が志望校の合格につながっていると分析しています。結果的に,生徒にとって不本意な進路決定が少ない点も成果であると言えます。
また,保護者や地域からの学校に対する信頼が確実に向上しました。その一例が入学生徒の増加です。
江戸川区は,学校選択制を定員枠の一部に取り入れています。本校では,生徒の生活態度等が影響したためか,本校に入学すべき児童が他の中学校に入学する傾向が見られた時期があります。そのため,平成18(2005)年度には生徒数が400人台にまで減少しました。しかし,その後,この取り組みを進めていく中で毎年生徒が増加し続け,平成27(2015)年度には771名に達し,余裕教室はなくなってしまいました。特別支援学級も入れた学級数は24となり,東京23区内では第2位(全都では第5位)の大規模校になりました。現在,本校は学区域外からの生徒の受け入れを不可とせざるを得ない状況が続いています。つまり,学区域の児童が他の中学校を選択せず,本校に入学しているわけです。
教員の人事異動が3〜6年で行われており,その入れ替わりのペースは速いと言えます。ここでは,管理職の異動に関して,私自身が本校に着任した当時を振り返って述べてみたいと思います。
平成25年3月末に本校への異動が内示され,学校経営方針等の作成に思いを巡らし4月を迎えました。公立中学校の学校経営には一定事項においては共通性があり,この点に関しては経営ビジョンを描くことができます。しかし,本校が実践しているこの取り組みは,学校経営の根幹をなすものであり,自身の教育ビジョンとの折り合いを見いだすことにおいて,学校経営方針の作成に苦慮したことを思い出します。
それでは,校長の教育ビジョンや独自性が発揮できていないと思われるかもしれませんが,私はそうは思いません。この取り組みは,基礎的・基本的学力の確実な定着,そして確かな学力の保障をねらうものであり,このねらいはすべての中学校に共通するものです。本校の場合は,その手法がこの取り組みであるということに過ぎません。したがって,校長は年度ごとに変わる教員組織の変化に対して,導入当初に掲げた教職員間の共通理解を,ぶれることなく維持発展させていくことにマネジメントの力点を置く必要があると考えています。
先に,保護者や地域からの学校に対する信頼の向上について述べましたが,保護者への説明は常にていねいに行う必要があると考えています。
例えば,学校選択制を導入しているので,入学前の6年生児童やその保護者に対しては,十分な説明を行わなければなりません。保護者にとって,中学校の教育方針は学校を選択するうえで重要な要素です。本区では区内各中学校が概ね9月頃に6年生保護者を対象に学校説明会を実施しています。本校も,コの字型机配置や4人グループ学習という学習形態について,十分に時間を割いて説明を行っています。また,体験入学では,実際にコの字型机配置と4人グループ学習による授業を設定しています。決して一般的とは言えない授業方式を実施する以上,前もって十分な説明を行うことが必要であると考えるからです。
また,入学後の学級懇談会を,コの字型机配置の教室で実際にお子さんの席に着席する設定で行うこともあります。
これからこのような取り組みを導入されることを検討されている学校では,在校生の保護者及び生徒への説明に十分留意されることをおすすめします。もしくは,新入生の学年から実践を始め,段階的に拡充して全校体制につなげていくという方法もあります。
10年が経過したこの取り組みですが,質的な維持・向上を図っていくために,毎年毎年が真剣勝負です。また,生徒の実態も様々であるため,工夫を重ね取り組んでいます。
さらに,この取り組みをより深めていくために,本校と同様の取り組みを行っている学校を今後も訪問させていただき,学ばせていただきたいと考えています。そして,本校の取り組みに関心をおもちの皆様には,ぜひご来校いただき,実際に授業を見て忌憚のないご意見を頂戴できれば幸いです。
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- 明治図書
- 自分は卒業生なのでコの字型机配置や4人グループ学習を受けていたが、本書を読んで教師がこれらを活かすためにどのような授業づくりをしていたのかが分かった。2021/11/24大学生
- 身近な実践された事例が本で紹介されているので、わかりやすいです。2018/4/15「50代・中学校管理職」
- 教科別の具体例が良かった。次は中学校国語科のみのものが欲しい。2017/3/550代・中学校教諭
- 学びの共同体を所属校でも実践しているので、非常に参考になりました。具体的な取り組み課題があり、改革への道筋がわかったような気がします。2016/7/9m&m