- はじめに
- /草原 和博
- 第一編 社会科教育学研究論文の作り方・書き方
- /草原 和博
- 1 論文の条件―論文と非論文の境界―
- (1)理論解説だけでは、論文になりません
- (2)実践報告だけでは、論文になりません
- (3)主義主張だけでは、論文になりません
- (4)調査研究だけでは、論文になりません
- (5)教材研究だけでは、論文になりません
- 2 論文の目的―研究論文と研修論文―
- (1)研究論文型の目的と特性
- (2)研修論文型の目的と特性
- (3)書きたい論文と書かなくてはならない論文の峻別と決断
- 3 論文の方法論―研究論文の作り方・書き方の三類型―
- (1)方法論をめぐる議論―研究史―
- (2)問いのタイプを見きわめる
- (3)ストーリーを固める
- (4)先行研究を乗り越える
- (5)研究論文が満たすべき条件
- 4 社会科教育学研究論文の傾向と将来―何を、どのように論じるか―
- (1)門戸の広い日本の学会(誌)
- (2)R&D体制をめざす社会科教育学研究
- (3)社会科教育学研究の発展可能性
- (4)論文執筆の新傾向と三原則
- コラム Research Questionを大切にした論文を
- /唐木 清志
- 第二編 社会科教育学研究の類型と事例解説
- 第T部 規範的・原理的研究とその新展開
- 1 研究のプロセスと論文の組み立て
- /山田 秀和
- (1)規範的・原理的研究のアプローチ
- (2)ニ通りの論じ方
- (3)章立ての基本構成
- (4)先行研究の調査とテーマの設定
- (5)RQの立ち上げと理論仮説の構築
- (6)理論仮説に基づく文献・資料の分析、解釈
- (7)解釈の意義づけ、問題状況への示唆
- (8)規範的・原理的研究の特徴と課題
- コラム 「教科する」学習を軸にした教育目標・評価研究の必要性
- /石井 英真
- 2 国内研究誌に学ぶ「意義ある研究」
- /宇都宮 明子
- (1)規範的・原理的研究における注目すべき論文
- (2)規範的・原理的研究における優れた論文の要件
- (3)規範的・原理的研究の今後の方向性
- コラム 確かな教科内容理解と高い論理実証性をもつ「教育」的論文
- /志村 喬
- 3 海外研究誌に学ぶ「斬新な研究」
- /後藤 賢次郎
- (1)はじめに
- (2)米国における規範的・原理的研究の動向―オピニオンペーパーとは何か―
- (3)大家による提言タイプ
- (4)対談タイプ
- (5)対抗スタンダード研究
- (6)おわりに―規範的・原理的研究は、誰がどのようにするのか―
- コラム 数学教育学研究からみた社会科教育学研究 ―両者に通底する二つの視点―
- /山口 武志
- 第U部 開発的・実践的研究とその新展開
- 1 研究のプロセスと論文の組み立て
- /橋本 康弘
- (1)はじめに
- (2)社会科「開発的・実践的研究」の諸相―代表的な三つの研究の「型」―
- (3)規範研究アプローチに基づく開発的・実践的研究
- (4)社会科学研究アプローチに基づく開発的・実践的研究
- (5)子どもアプローチに基づく開発的・実践的研究
- (6)研究方法の発展版―「外国研究」とのリンク―
- (7)おわりに
- コラム 現実の複雑な学校現場で適用可能なデザインベースの研究を
- /峯 明秀
- 2 国内研究誌に学ぶ「意義ある研究」
- /渡部 竜也
- (1)はじめに
- (2)「反省知」の開発的・実践的研究として注目するべき論文
- (3)「技術知」の開発的・実践的研究として注目するべき論文
- (4)開発的・実践的研究の新領域
- (5)おわりに
- コラム 教師たちが読みたい社会科教育学の論文とは
- /加藤 公明
- 3 海外研究誌に学ぶ「斬新な研究」
- /田中 伸
- (1)開発的・実践的研究の内容的・方法的特質と傾向性
- (2)学的アプローチを基盤とした開発的・実践的研究
- (3)子どもアプローチを基盤とした開発的・実践的研究
- (4)我が国への示唆―学習論の構築を目指した手段としての開発的・実践的研究―
- コラム 社会科授業研究における教育実践学的方法論の構築を
- /梅津 正美
- 第V部 実証的・経験的研究とその新展開
- 1 研究のプロセスと論文の組み立て
- /田口 紘子
- (1)研究事例
- (2)章立ての基本構成
- (3)先行研究の調査とテーマの設定
- (4)RQの立ち上げとデータの収集
- (5)データの記述、傾向性や因果の考察
- (6)分析結果のまとめ、教育実践への示唆
- コラム 「実践」・「評価」の「学習科学」研究を
- /豊嶌 啓司
- 2 国内研究誌に学ぶ「意義ある研究」
- /南浦 涼介
- (1)実証的・経験的研究の全体像
- (2)タイプA 「規範・原理・開発」の補完研究
- (3)タイプB 実態の解明の研究(その1 量的研究)
- (4)タイプC 実態の解明の研究(その2 質的研究)
- (5)タイプD 状況の変革の研究
- (6)むすび
- コラム 「もどかしさ」を低減する「フィールドワーク的外国研究」
- /川ア 誠司
- 3 海外研究誌に学ぶ「斬新な研究」
- /川口 広美
- (1)はじめに
- (2)伝統的な実証的・経験的研究のアプローチ―科学主義と解釈主義―
- (3)新たな実証的・経験的研究の方向性―伝統的アプローチの進展と「第三のアプローチ」の登場―
- (4)おわりに―海外の実証的・経験的研究が示唆するもの―
- コラム 「実践」と「文脈性」をめぐる社会科教育学研究への期待
- /桐谷 正信
- 第三編 社会科教育学研究のストラテジー
- 1 学術論文の審査はどのように行われているか
- /棚橋 健治
- (1)研究成果を学術論文に
- (2)投稿・受理から採択・掲載までの流れ
- (3)審査の観点と基準
- (4)審査の具体例
- 2 学部生が卒業論文を、大学院生が修士論文を作成するために
- /溝口 和宏
- (1)出発点
- (2)研究への誤解
- (3)研究計画の作成
- (4)先行研究の収集・整理・考察
- (5)研究対象の選定と事実やデータの収集
- (6)事実・データの分析・解釈(創造・評価)
- (7)論文の構想・執筆
- 3 現職教員が学会発表、論文投稿するために
- /桑原 敏典
- (1)はじめに
- (2)現職教員と研究者の仕事の違い―研究の条件―
- (3)開発研究を進めるうえでの現職教員の困難
- (4)研究目的の設定―独自性のある論文を書くには―
- (5)研究方法の選択―妥当性を備えた論文を書くには―
- (6)結論の示し方―結果に汎用性を持たせるには―
- (7)おわりに
- コラム 「概念装置」と「事実の分析的検討」を子どもの具体で示した論文を
- /米田 豊
- 4 海外の学会で発表するために、学会誌に投稿するために
- /小川 正人
- (1)はじめに
- (2)海外の学会で発表することの意義
- (3)海外の学会での発表への準備
- (4)海外の学会での発表
- (5)海外ジャーナルに投稿するために
- (6)おわりに
- コラム グローバリゼーションの時代における社会科教育とは
- /森田 真樹
- おわりに
- /溝口 和宏・桑原 敏典
はじめに
卒業論文を仕上げなくてはいけないが、上手く論や問いを立てることができず、途方に暮れている学生がいる。研究授業の成果を学会発表したいが、実践の意義づけ方に戸惑い、成果を塩漬けにしている教員がいる。日本の教師の授業研究力を世界に発信したいが、作法が分からずに苦労している研究者を見聞きする。
このような潜在的ニーズに応えるために、学術論文の作り方・書き方をできる限りコンパクトに解説することを目的に、本書は執筆された。
類書は決して少なくない。社会科学の研究方法に関する専門書は、ネットで検索すれば夥しい数の類書がヒットするだろう。統計処理や質的調査法については、選ぶのに苦労するほど多様な分野、水準の概説書が出版されている。学術論文の書き方を易しく説いた新書のたぐいは、既に本棚に並べて活用している読者も多いのではないか。
本書は、右のような類書とは、以下の点で一線を画している。
一.社会科学の中でもとくに教育学に、教育学の中でもとくに教科教育学に、教科教育学の中でもとくに社会科教育(社会認識教育)学の領域に、本書が扱う学術論文の対象を絞り込んだ。
二.学術論文、とくに卒業論文・修士論文・博士論文、そして学術雑誌への投稿論文の作り方・書き方を、近年の研究動向を踏まえて大きく三つの類型に整理し、かつ具体例を交えて概説した。
三.研究法の概説にあたっては、データの収集法や解析法といったミクロな技術論には立ち入らず、研究計画の立て方や論文の組み立て方などマクロな研究デザインを優先して論じた。
四.読者のボリュームゾーンには、研究を生業(なりわい)としているわけではないが、現に社会科教育学研究の主たる担い手となっており、そのなかでも多数派を占める小中高の現職教員ならびに大学院生を想定した。
五.経歴や立場・専門を異にする各分野の研究者から「私の提言:これからの社会科教育学研究―こんな論文を待ちわびる―」を寄稿していただいた。それを各章の内容に関連づけて「コラム」として掲載し、研究のあり方を多面的多角的に省察する場を設けた。
右のようなコンセプトの明確さが本書のウリである。しかし明確さの追求は、逆に研究の間口や奥行を、狭く小さく絞り込んでいく結果となった。したがって本書の内容を実行すれば、誰もが完全無欠な学術論文を執筆できるとは、筆者らも到底考えていない。読者は本書を読めば読むほど、研究法の偏りや事例の欠落に気づかれるだろう。提示されている概念の曖昧さに不満を覚えるだろう。本書がカバーできていない箇所は、ぜひとも優れた類書に手を伸ばし、認識を深めてほしい。本書がそういう発展的な学びの踏み石となるのであれば、望外の幸せである。
本書を構想するには一つのきっかけがあった。それは本書の執筆者を中心に取り組んだ科学研究費補助金・基盤研究(B)の「社会科教育研究・実践の改善に資する『研究法ハンドブック』の日米共同開発」プロジェクトである。本支援のおかげで、二〇一〇―二〇一二年度の三カ年にわたって、米国の学会の最先端で活躍する研究者を日本にお招きし、社会科教育研究の概念や方法論をめぐって継続的に意見交換することができた。またテーマに関連するシンポジウムやセミナーを、計七回、開催することができた。本プロジェクトのスピンオフ企画として、渡部竜也氏らを中心に米国の研究書の翻訳・出版も行われた。これら一連の成果を総括し、「研究法ハンドブック」にまとめ、所期の目的を達しようとして構想されたのが、本書である。
ゆえに本書の各編各章は、「論文の作り方・書き方」を軸に構成されてはいるが、決して初学者向けのテクニカルな「入門」書に留まるものではないと理解している。日米の研究交流を踏まえて、我が国の社会科教育学研究の到達点を評価し、新たな地平を切り拓く羅針盤となるような、専門家向けの「提案」書の役割も果たせると信じている。本書の問題提起をきっかけに、今後、研究のあり方をめぐる議論が活性化し、社会科教育学研究のフロンティアを指し示す論文が多数現れることを願う。
なお、本書の企画と構成は、明治図書『社会科教育』誌(第六四八号―第六五九号)で一年間連載した「社会科研究・実践論文の書き方―ここに赤ペン<Jイゼンの鍵はどこか―」をたたき台としている(連載の一部は、加筆・修正のうえ本書に組み込むことができた。しかし大半は紙数の制約で諦めた。ぜひオリジナルも参照してほしい)。
本連載の機会をいただかなければ、本プロジェクトの成果の、まだまだ生育途上の青い実を十分に熟成させることはできなかった。「研究法」について熟考の機会を与えてくれた明治図書出版の元編集長・樋口雅子氏と、本書の編集の労を取っていただいた矢口郁雄氏に感謝を申し上げます。
編著者代表 /草原 和博
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