- はじめに
- 第1章 アクティブ・ラーニング 実践のための視点
- 1 「学力のV字回復」
- PISA学力調査の結果から
- 全国学力・学習状況調査の結果から
- 原理的解明の必要性
- 「アクティブ・ラーニング狂騒」に終わらないために
- 2 「効果ある学校」の根底にあるもの
- 「効果ある学校」
- E小学校のプロフィールと学力
- E小学校の授業の在り方と子どもたちの授業態度,および学習習慣@
- E小学校の授業の在り方と子どもたちの授業態度,および学習習慣A
- 「効果ある学校」の根底を支えているもの
- 3 知識観・学習観の転換
- 「キー・コンピテンシー」
- 「二一世紀型学力」
- 「知識基盤型社会」
- 道具主義的な知識観
- 構成主義的な学習観
- 「学習」と「学び」
- アクティブ・ラーニングの授業実践の在り方を考える視点
- 第2章 アクティブ・ラーニング 実践のための基盤
- 第1節 「探究的」な学び
- 1 家庭的な背景と思考の能力
- 「見えないペダゴジー」
- アクティブ・ラーニングは「見えないペダゴジー」か?
- バーンスティンによる会話分析
- 「精密コード」による会話を通じて育成される能力
- 事例1 「じゃあ,やめようか」
- 「精密コード」での会話経験の必要性
- 「見えるペダゴジー」の「見える」の意味の転換
- 2 「総合的な学習の時間」の学習活動の意義
- 「総合的な学習」の特質
- 学習課題の文脈性
- 学習課題の挑戦性
- 事例2 「ライス・パーティーでチャーハンを作る」
- 事例3 「アンケートに答えてください」
- 評価の直接性・具体性
- 3 経験の掘り起こしの必要性
- 「問い,考え,判断し」,自己決定するための文脈の必要性
- 事例4 考えるための日常的な経験の欠落
- 事例5 家庭や地域の人々の声が聞こえてこない社会科の授業
- 事例6 日常的な経験との矛盾
- 「知的気付き」に高めさせる必要性
- 感覚を楽しく伝え合う言語活動
- 事例7 五官で感じ取った「気付き」を出し合う
- 他者に伝えることによる学習への自信と意欲の高まり
- 「くらしのたしかめ」の意義
- 「経験の掘り起こし」による各教科の学習の深まり
- 事例8 堀川小学校6年生の「くらしのたしかめ」
- 事例9 「自分ごと」として関与することの必要性
- 事例10 PBL(プロブレム・ベースド・ラーニング)の問題点
- 第2節 「協同的」な学び
- 1 話し合い活動における教師の役割と立ち位置
- 発言児と向かい合って発言を聞く教師
- 聞き合うための形式の指導・支援
- 聞き方の指導
- 「聞く」ことについての観念の転換
- 事例11 つぶやきからの協同的な学びの発生
- 「つぶやき」によるリアクションの促進
- 脱線的な盛り上がりからの協同的探究
- 事例12 脱線的な盛り上がりからの理解の構築
- 2 他者の思考に対する洞察的な理解
- 算数の授業の変化
- 言語活動の充実
- 事例13 多様な解き方を考え合う
- 想像,解釈,洞察
- 事例14 他者の視点に立てるということ
- 「わかってもらいたいーわかってあげたい」という関係の構築
- 3 生活指導との一体化
- 話し合い活動を通じてお互いに「わかり合う」こと
- 事例15 聞いてもらえたことによる意見変更
- 事例16 とことん話し合った末の絶妙な妥結
- 学習活動と学級生活とに一貫した態度・姿勢
- 感覚(気付き)の伝達と感情(気持ち)の伝達
- 自立を支え合う基盤
- 事例17 やんちゃ坊主たちの友情
- 事例18 仲間の支えを実感しながら立ち直る
- 第3節 「反省的」な学び
- 1 「振り返り」とその要素
- 「振り返り」とは
- 「振り返り」の作文を構成する要素
- 「振り返り」の事例の分析
- 「振り返り」の意義
- 2 「振り返り」のストーリー化
- ストーリー付与のための手法
- その1 出来事や事実の関連・関係付け
- その2 出来事と自分の思考・感情の区別
- その3 感情の気付きからの反省
- その4 ストーリーの展開の論理
- その5 その先の展望
- 事例19 振り返り(1年生)
- 事例20 振り返り(2年生)
- 3 「振り返り」を書かせる・読ませるタイミング
- 思考が熱いうちに書かせる
- 書きながら聞かせる
- 次時の開始時に「振り返り」を紹介する
- 4 ストーリーを生きるアイデンティティの形成
- 問題解決の物語としての「振り返り」
- 物語としての濃密性
- 自分の生きる意味世界の自覚とその自発的な発展
- アイデンティティの形成に対するアクティブ・ラーニングの価値
- 第3章 アクティブ・ラーニング 実践のための環境
- 1 校内研究の目的と方法の転換
- 子どもを中心に据えた校内研究
- 子どもの表現の観察
- 子どもの表現についての語り合い
- 事例21 子どもの可能性は細部に宿る
- 「よい授業」についての考え方
- ワークショップ型の協議会
- 2 評価観の転換
- 「総合的な学習の時間」における評価
- 評価の根底にある成長についての信念
- 子どもに期待をかけること
- 事例22 子どもを「育てる」ことに腹をくくる
- 事例23 中学校の校内研究の進め方
- 3 子ども理解力・対応力の形成
- 子どもの表現の根底にあるものの洞察
- 事例24 子どもが通常では使用しない言葉
- 事例25 同じ文章を読んでも異なる感想から見えること
- 子どもの可能性の想像とそれに基づく対応
- 子ども理解における「わからなさ」,対応の手立ての「不確実性」
- 事例研究への参加を通じての子どもへの理解力・対応力の形成
- 事例26 次のステップを設定する
- 事例27 子どもの言葉に直接的に即答することを待つ
- 4 学校づくりとの一体化
- 教育観の共有の必要性
- 学校長の教育観と役割の重要性
- 全校の職員で全校の子どもにかかわる体制の構築
- 子どもについての日常的な情報交換と共感的な共有
- 子どもも自分の求める教師とかかわり合える学校
- 事例28 高校生との対話から
はじめに
アクティブ・ラーニングとは,「教員による一方的な講義形式の教育とは異なり,学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」です。もとは大学教育の質的転換のために提唱された教授・学習法です。つまり,「学修者が能動的に学修することによって,認知的,倫理的,社会的能力,教養,知識,経験を含めた汎用的能力の育成を図る」ための教授・学習法なのです。「発見学習,問題解決学習,体験学習,調査学習等」,また「教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等」が有効な方法とされています。
*中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(平成24年8月,用語集)。
初等中等段階に即して言えば,アクティブ・ラーニングとは,「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」です。つまり,「『どのように学ぶか』という,学びの質や深まりを重視」した学習法です。それにより,「基礎的な知識・技能を習得するとともに,実社会や実生活の中でそれらを活用しながら,自ら課題を発見し,その解決に向けて主体的・協働的に探究し,学びの成果等を表現し,更に実践に生かしていけるようにする」ことがめざされます。
*中央教育審議会諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」(平成26年11月)。
このように,アクティブ・ラーニングとは,子どもたちが自ら発見した課題の達成に向けて主体的・協同的に取り組む学習活動なのです。アクティブ・ラーニングの本質は,子どもたちがそのような学習活動に能動的な学習者として参加することを通じて,「『生きる力』をはぐくむ」ことにあるのです。
この点で,アクティブ・ラーニングとは,特定の形態での学習指導法ではありません。単に「教室内でのグループ・ディスカッション,ディベート,グループ・ワーク等」などの活動を導入することが,アクティブ・ラーニングの授業実践ではないのです。
しかし,今後,教育界では,パッケージ化された形態での方法を追い求めて右往左往するという,「アクティブ・ラーニング狂騒」の発生が懸念されます。パターン化された表面的な活動方法を教室に持ち込み,「アクティブ・ラーニングに取り組んでいます」というアリバイ工作が横行しかねません。
惑わされて踊らされてはいけません。
アクティブ・ラーニングを新しい学習法と見なす必要はありません。これまで実践が積み重ねられてきた「総合的な学習の時間」や問題解決学習は,実質的にアクティブ・ラーニングへの取り組みであったと見なしていいのです。「『生きる力』をはぐくむ」という観点から,それらの学習活動におけるどのような要素が,子どもたちの成長にどのような効果を生み出してきたのかを分析・考察することが必要なのです。そのようにして,アクティブ・ラーニングがどのような学習法なのかを明らかにすることが大切なのです。
迷ってはいけません。私たちはこれまでの教育実践の成果から,アクティブ・ラーニングの授業実践の方法について再構築することができるのです。
本書では,これまで実践してきた「総合的な学習の時間」や問題解決学習を手がかりに,アクティブ・ラーニングの授業実践に取り組むための視野として,次の三つの方向を示しました。
@子どもたちに「わからせ,覚えさせる」学習指導から,子どもたちを「わからなくさせ,考えさせ,判断させる」学習指導に転換する。
A学習指導と生活指導とを,統一的な展望と戦略において実施する。
B教師たちも,新しいことに挑戦する研究的な実践者集団となる。
そして,アクティブ・ラーニングの学習活動として備えるべき要件として,次の点を挙げました。
@「探究的」な学びであること―子どもたちが「問い,考え,判断する」という,思考が能動的に機能する文脈で展開される学習活動であること。
A「協同的」な学びであること―それぞれの子どもが,チームとして課題を達成していく活動に,自分の個性を生かして参加・貢献する学習活動であること。
B「反省的」な学びであること―子どもたちが自分の学びを「振り返る」ことにより,自分の成長を実感できる学習活動であること。
本書で述べる点は,これまで行われてきた授業実践から,アクティブ・ラーニングの趣旨に照らして評価できる要素を抽出して,理論的に再構築したものです。これまでの授業実践の良質な部分は,自信を持ってアクティブ・ラーニングとして継続してほしいのです。
第1章では,アクティブ・ラーニングに取り組むための視点として,現在の学力をめぐる動向,および知識や学習をめぐる諸理論について述べました。
第2章では,アクティブ・ラーニングが,先に示した@「探究的」な学び,A「協同的」な学び,B「反省的」な学びとなるために,教育課程全体において,その基盤として取り組むことが必要な課題について述べました。
第3章では,アクティブ・ラーニングを実践するための環境として,教師たちの間に,どのような同僚性が形成されることが必要なのかについて述べました。
本書の論述を通じて主張する点や取り上げる事例は,拙著『子ども学入門』や『問題解決学習の授業原理』と重複するものもあります。それらについては,それだけ重要な主張や事例と見なしてお許しください。
子どもの個性的な成長を願って教育活動に日々誠実に取り組んでいる多くの教師たちが,迷うことなく自信を持って,アクティブ・ラーニングに,これまでの授業実践の成果を活かして取り組んでいただくことを心より願っています。本書がそのための思想的な支援・支柱となれば幸いです。
今回も多くの学校の校内研究への参加を通じて,本書を構成しているアイデアを生み,温め,形にすることができました。心よりお礼を申し上げます。
/藤井 千春
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