- はじめに
- T ポートフォリオ評価法の登場
- 1 ポートフォリオの意義
- 2 子どもポートフォリオの意義とねらい
- 3 「生活」科における評価の意義
- 4 教師ポートフォリオの意義とねらい
- U 真正の評価とポートフォリオ評価法
- 1 真正の評価の意義
- 2 標準化されたテストによる評価の反省
- 3 教育観・子ども観の転換の必要
- 4 ポートフォリオ評価法の意義
- V ポートフォリオ評価の構成要件
- 1 ポートフォリオ評価の基本設計
- 2 評価計画の立案
- W ポートフォリオに集積される評価資料・情報
- 1 観察による資料・情報群
- 2 作業実績サンプル群
- 3 テスト情報群
- X 評価の目標及び観点の明確化
- 1 「生きる力」の育成と評価
- 2 問題解決力としての評価の観点
- 3 生活科を事例とした観点の基準化及び規準化
- Y ポートフォリオ評価の実践
- 1 授業とポートフォリオ評価の展開
- 2 評価活動における親の参加
- Z 得点化とポートフォリオの活用
- 1 得点化に向けた基準づくりの試み
- 2 得点結果の活用
はじめに
平成一〇年度に改訂された新たな学習指導要領において、学校の教育評価においては、児童生徒の「よい点や進歩の状況などを積極的に評価するとともに、指導の過程や成果を評価し、指導の改善を行い学習意欲の向上に生かすようにすること」と規定されたこともあり、教育評価に関する新たな関心が高揚しつつある。そして、中でも、そのような関心は、ポートフォリオ評価(portfolio assessment)に向けられつつあるように思われる。
というのも、ポートフォリオ評価の特質は―それこそ本書の検討課題であるわけだが―子どもの学習能力の発達を 真に 捉えるために、子どもの学習の過程及び成果を まるごと 評価し、その結果を指導の改善及び子どもの自己学習の向上に役立てていこうとするところにあるからである。
ところで、このようなポートフォリオ評価は、近年、英米を中心に、従来の標準化されたテストによる評価に 代わる 新たなあり方として着目され、その開発的な研究・実践が、現在、意欲的に重ねられているところである。このため、わが国においても、ポートフォリオ評価への関心度の高まりとは裏腹に、ポートフォリオ評価に関する文献なり実践の紹介、あるいはこの評価の考え方や進め方に関する著作物が極めて少ない現状にあることもやむをえないといえよう。
このような現状認識から、ポートフォリオ評価の生まれた背景なり特質、その考え方と進め方に関する入門編のようなものがあれば……、と考え、本書の執筆を思い立った次第である。
ところで、筆者は、既に、拙著『総合学習の理論・実践・評価』(黎明書房、1998)の第6章「評価活動の展開」において、ポートフォリオ評価に関してかなり突っ込んだ検討を行っている。このため、本書の執筆においては、そこでの内容を参考にしつつ、ある部分は再掲し、さらに不足ないし必要な部分を新たに加えていくという方針をとることにした。
その結果産まれたのが本書であるが、その内容構成を一覧すれば、次のようである。
すなわち、まず、第T章では「ポートフォリオ評価法の登場」と題して、ポートフォリオ評価法の意義なり背景理由、その特質等を検討することにした。
続いて、第U章は「真正の評価とポートフォリオ評価法」と題し、ポートフォリオ評価法は、標準化されたテストによる評価に代わる 真正の評価 のための具体的な方法であり、そのために、従来とは異なる教育観、子ども観のもとで展開される必要のあることを検討した。
第V章は「ポートフォリオ評価の構成要件」と題し、ポートフォリオ評価に取り組む際に、予め考え、決めておくべき基本的な要件(いうなれば部品)を検討することにした。
そして、これらの基本的な要件を頭に入れ、実際に、ポートフォリオ評価に取り組んでいく際の特質や留意点を第W章〜第Z章に分けて検討することにした。
すなわち、第W章では「ポートフォリオに集積される評価資料・情報」群の特質を検討し、第X章では、評価資料・情報を収集し、評価していくうえで不可欠な「評価の目標及び観点の明確化」の問題を検討し、筆者の試論を提出した。
続く第Y章では「ポートフォリオ評価の実践」と題し、子どもの学習の過程及び成果に関する資料・情報をいかに収集し、その集積たるポートフォリオを指導の改善及び子どもの自己学習の向上にいかに活用していくかを検討した。
そして、最後の第Z章では、ポートフォリオに集積される評価資料・情報を得点化し、かつその得点結果を活用していく方法について検討した。
いよいよ来年度・平成一二年度の新学期から、新学習指導要領への移行措置が各学校において進められることになる。「総合的な学習の時間」をはじめとする学習指導の展開とともに、本書に収めたポートフォリオ評価法が参考にされ、実践され、今後のわが国の教育改革に資することができれば幸せである。また、その過程で生じたいろいろな貴重なご意見・ご感想をお寄せくだされば幸いである。
最後に、このような本書の執筆と刊行の機会を賜わり、そして、貴重なアドバイスとともに執筆のための時間の余裕をくださった明治図書の樋口雅子編集部長に、心よりお礼を申し上げたい。
一九九九年一〇月 /高浦 勝義
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