- はじめに
- 第1章 なぜ今、学年担任・教科担任制なのか
- 小学校の危機から考える課題と可能性
- 小学校の常識を問い直してみる@
- 小学校の常識を問い直してみるA
- 新教育課程の目指す方向と教員の役割
- 第2章 多田小学校の学年担任・教科担任制の概要
- プロジェクトチームの発足
- 学年担任制の導入
- 教科担任制の導入
- 午前5時間制の導入
- 今後の課題検討
- 第3章 学年担任・教科担任制の実際
- 第1節 管理職から見る学年担任・教科担任制の実際
- 大きな改革の前提となるもの
- 子どもにつけさせたい力は?
- プロジェクトチームのメンバー構成
- 保護者説明会に際して
- 敵か味方か? 教育委員会
- 新教育課程がスタートして
- 職員室の変化
- 教員の成長とトラブル時の対応
- 短時間勤務の教員でも担任ができる
- 教頭として、最後に
- 第2節 3年における学年担任・教科担任制の実際
- 学年担任制での学年開き
- 学年担任制での学年経営
- 教科担任制での授業づくり
- 学年会議と子どもの情報共有
- 制度導入による反応と変化
- 第3節 4年における学年担任・教科担任制の実際
- 学年担任制での学年開き
- 学年担任制での学年経営
- 教科担任制での授業づくり
- 学年会議と子どもの情報共有
- 制度導入による反応と変化
- 第4節 5年における学年担任・教科担任制の実際
- 学年担任制での学年開き
- 学年担任制での学年経営
- 教科担任制での授業づくり
- 学年会議と子どもの情報共有
- 制度導入による反応と変化
- 第5節 6年における学年担任・教科担任制の実際
- 学年担任制での学年開き
- 学年担任制での学年経営
- 教科担任制での授業づくり
- 学年会議と子どもの情報共有
- 制度導入による反応と変化
- 第6節 特別支援学級から見る学年担任・教科担任制の実際
- 学年担任制について
- 教科担任制について
- 40分授業と午前5時間授業について
- まとめ
- おわりに
はじめに
小学校入学前の幼稚園のときから、私の前には学級担任の先生がいました。小学校2年のときには、年度途中で産休のために先生が交代することもありました。それでも高等学校卒業まで、学級担任としての誰かが必ず教室にいてくれました。そして私は、そんな先生たちとの出会いをきっかけに、教員免許の取得を目指して大学に進学したのでした。
このように、学級担任という存在は、学校にいて当たり前であるという感覚が私たち大人には強く刷り込まれています。しかし、最初から日本の学校に存在していたものではないのです。明治時代に学級という存在がつくられ、その担当者としての教員(学級担任)を配置するようになり、今に続いています。学校における様々な思考がこの学級や学級担任を前提にしています。
ところが、今はどこかの学校のある学級で、その誰かが見つからないという事態が広がり始めています。教員採用試験のニュースを見ていると、大学3年生から受験できたり、ある県では合格者の辞退が多いために再試験を実施したりする状況が報じられています。
そして、その状況は地方から広がり、競争倍率が1を割るという事態も現れ、全国で悪化しているように感じるのは私だけでしょうか。
2022年多田小学校が見舞われた危機も、その流れの中で起きたものです。特定の教員や校長、教育委員会の担当者が悪いわけではありません。それでも学校は、毎年新入生を迎え、卒業生を送り出すのです。どこの学校でも目の前の子どもたちの日常を守るため日々奮闘しています。しかし、そんな教員たちの中から職場を一時離れるという選択をしたり、夢と希望をもってたどり着いた教職から去っていったりするのが現実です。何とかしなければなりません。学校に関わるそれぞれの立場で考え工夫を重ねているのですが、好転する気配が未だ見えてきません。学校現場だけではなく教育行政にいる方々も含めた私たちは、子どもたちのために考え続けなければならないのです。
一方で考え積み重ねた歴史によって生成される「常識」が、その思考を阻害することも、多田小学校の改革「新教育課程」学年担任制・教科担任制・午前5時間制を通して実感しているところです。
本書では、第1章で多田小学校が行った改革、学年担任制・教科担任制の必要性と、それを支える午前5時間制の意味を、第2章でこの改革のグランドデザインとその実施に向けた工夫や実際の運用の工夫について、第3章で学年担任制を実施している3〜6年を担った学年担任たちと教頭、特別支援学級担任から、実際の取り組みを実践者の立場から述べています。当然学校として取り組んでいるため共通した部分もありますが、初めての経験でありマニュアルは存在しませんでした。そのため、誰かからの指示ではなく学年ごとに様々な工夫を編み出し、取り組んでいきました。次々に訪れる未経験の課題にそれぞれが向き合っていった結果です。
読み進めていくと、いろいろな違いが存在していることに気づかれると思いますが、この違いこそが重要なのです。教員が主体的に取り組んでこそ、目の前にいる子どもたちのためにどうすべきかを議論し、挑戦できるのです。そして、教頭もその立場から改革の当事者となり、特別支援学級担任も担当する子どもたちのために様々な工夫を重ねていることがわかると思います。
本書を手に取っていただいた方の中には、私たちが経験した危機と同様の状況にある方も多いでしょう。本書がそんなみなさんに少しでもお役に立てればうれしい限りです。そして我々多田小学校も現在を完成型とせず、今後も教職員を中心に子どもたちや保護者・地域のみなさんとも語り合いながら、バージョンアップできるように奮闘しているところです。
「そもそも、教育とは何か」大学4年生の夏休み、教員採用試験のあとに私の頭に浮かんだ疑問の答えを未だ明確に持てていませんが、その近くには来たような気がしています。学校における様々な課題やその解決策と示される対策の根底にある「学級担任依存」の存在とその功罪。もう一度この意味を考え直すときが来ているのです。夢と希望をもって教員になった我々の苦悩が、次世代の教員希望者を育てにくくしている時代です。改めて、教育を考え、「学級担任」の意味を振り返り、教員の魅力を再発見するときではないでしょうか。自らの在り方を見直す作業は当然強い痛みを伴います。これまでの苦悩と努力によって積み上げてきた教員としてのアイデンティティの再構築でもあるからです。
多田小学校の改革はそんな意味も含まれており、教員たちの苦悩と対話の記録でもあります。それぞれの場での新たな学校づくりの参考にしてもらえるものと確信しています。
2025年7月 川西市立多田小学校校長 /西門 隆博
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