21世紀への人権教育3続・カウンセリングの目を生かす人権教育心を支え・育て・つなぐ実践

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同和教育においては以前から「生きる力」を育む指導実践が取り組まれてきた。本書はこれらの先行実践に学びながらカウンセリングの観点から整理を試みたものである。


復刊時予価: 2,706円(税込)

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電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-130007-2
ジャンル:
人権教育
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 180頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

もくじ

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はじめに 「心を支え育てる道筋を、すぐれた同和教育実践から学ぼう」
第1章 「寄り添う・包む・支える」(心を支え育てる教師と子どもの関係)
A 「先生、応援してね」(「寄り添う」って何だろう)
B 教師が心を寄せることから始まる
1 「仕切ろうとする」教師から「共にいる」教師へ
2 積極的肯定的関心と敏感な読み取り
3 生徒にラブレターを書こう
C 「寄り添う」姿、3態
1 子どもの本当の願いに応える
2 思いをいっぱい込めて
3 「出会い」を期待し、信じて待つ
D 気持ちが通じ、自分が受けとめられると、エネルギーになる
1 「先生きらい!」から「そう!そう!」へ
2 「グズな子」が変わった
E 同盟関係
〜問題意識を共有して
F いっしょに遊ぶ
1 遊べない先生、遊べる先生
2 遊べることの意味
G 追いかけてほしい子ども(子どもは関係を求めている)
1 愛情に飢えた子
2 追いかけてほしい子どもたち
3 「今、ここ」を生きる子どもを支えるために
H DoingとBeing
I 人間として向かい合う
1 ロボットと人間
2 学級開き等における、教師のメッセージ
3 あなたメッセージと私メッセージ
J まなざし
1 ピグマリオン効果
2 非行は宝
3 視点を変える
4 好きになること
K 聞く、感じ取る
1 聞いてもらいたがっている子ども
2 聞いてもらうことの「効用」
3 学校での「聞くこと」
L 知ること
第2章 「心を育てる」(どんな心をどのように育てるのか)
1 心は体験で育つ
2 子どものニードを尊重する
1 ウィッシュとニード
2 勉強はニード、マジはニード
3 愛情の欲求と所属の欲求
3 主体性を育てる
1 学校はいかに「主体性」をスポイルするところか
2 ハラハラ・ドキドキの心を育てる
3 班活動と授業作り
4 自分が自分のままで存在できるクラス
4 自尊感情を育てる
1 自尊感情とは
2 自己受容と他者受容
3 達成感
第3章 「つなぐ」(子ども集団の意味、つなぎ方)
1 今を支え、未来を作り出す仲間関係
1 「所属の欲求」を満たすもの
2 仲間関係に支えられる
3 仲間と共に育つ
4 集団だからこそできること
2 子どもたちをつなぐもの
1 ボンド(共通のめあてと、そのための活動)
2 教師によるマネージメント
3 目標は「関係性への信頼」
あとがき 「子どもは『良い教育』など求めていない?」

はじめに

    「心を支え育てる道筋を、すぐれた同和教育実践から学ぼう」


 もともと学校現場にいた私は、大阪府同和教育研究協議会の事務局員になり、その後はカウンセリングや教師との教育相談などにも関わってきました。この経験は、教育や子どもたちの現状をそれまでとは違った角度から見る貴重なチャンスとなりました。そこでは、さまざまな立場の人から、私が知らなかった多くの教えを受けながら、教育や子どもの問題を幅広く多角的に考えていくことになりました。

 その内に、私はだんだんと、近ごろの子どもたちの状況を大変心配するようになっていきました。私たち教職員は、子どもたちが人間らしい生き方を力強く切り拓いていけるようにとずっと頑張っているわけですが、それを受けとめる側の子どもの力が年々弱くなってきているように思えるのです。私はこうした状況に仲間たちといっしょに心を痛めながら、「子どもたちの心を支え育てていく」あるいは「子どもたちを心の土台から育てていく」という視点を持ち、その道筋を明らかにしていく必要性を感じ続けてきました。

 文部省も、子どもの現状に危機感を示しています。そして「自己教育力」とか「生きる力」といった表現で、子どもの心や生き方を育てることを重視し始めています。「総合的な学習」や「学校五日制」など、そのための新たな制度も目前です。

 一方、同和教育の世界では、文部省が「生きる力」と呼んでいるものと同じようなものに、ずっと以前から取り組み続けてきました。同和教育の世界では、そのような取り組みは既に膨大な具体的実践例として蓄積されているのです。しかも同和教育では、特別の教科や特設の時間でなく、授業やクラス作りをはじめとしたあらゆる活動の中で取り組まれてきた特徴を持っています。子どもを生活や社会背景まで含んだ丸ごとの姿で捉え、総合力としての「生きる力」の育成をめざしています。近年心配されている子どもたちの問題状況にも正面から立ち向かってきています。だから、心や生き方を育てようとするとき、何かまったく新しいことを始めようとするのではなく、むしろ同和教育が蓄積してきた具体的実践を宝の山として、そこから何を学ぶかを考える方が、豊かな知恵が得られるはずだと思います。

 そこで私は、カウンセリングの目で同和教育実践を読み直し、それを「心を支え育てる」「生き方を育てる」という観点で整理してみました。

 第1章の「寄り添う・包む・支える」は、心を育てようとするときの、教師の基本姿勢や基本的な視点について述べました。特に、「教師と子どもとの人間関係のあり方」を中心に、多面的に考えてみました。心を支え育てることをめざす場合、教師と子どもがどんな質の関係を結ぶかは、基本的なそして非常に大事な問題だと考えたからです。しかもこの問題は、同和教育の世界では、あまり意識的に論じられてこなかった部分です。それだけに、少し多いめにページを取って、ていねいに述べてみたつもりです。

 第2章の「心を育てる」は、生きる力の根幹として大事にされなければならないのは「主体性」と「自尊感情」であると考えて、そこに絞って考えてみました。同和教育実践では、近年重視されてきた部分ですが、まだまだ取り組みを強化していくべきだと思っています。

 第3章の「つなぐ」は、同和教育の「集団主義」を中心に考えてみました。この部分はカウンセリングの立場からは、教育実践から学ぶことの多い部分です。豊かな実践から学びながら、カウンセリング的な観点で整理を試みました。

 近年、多くの教師たちは子どもの理解や指導について悩んでいたり、日々の教育活動の中で子どもの現状について問題を感じたりすることが多くなってきています。私は教師の相談を受けたり、共に語り合ったりしながら、教師の悩みや問題意識が切実なものであることを感じてきました。この本は、そうした人に少しでもお役に立つことができればと願いながら書いたものです。


  2000年7月   /源 勁一

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