- はじめに
- 第1章 学校知の転換・どんな教育が求められるか
- 一 学校パラダイムの転換
- 1 子どもの側に立つ学校
- 2 学びの場としての学校
- 3 「共生」の場としての学校
- 二 「生きる力」の学力観
- 1 教師の疑問
- 2 内容知から方法知へ
- 3 豊かな人間性と健康の維持・増進
- 三 自己教育力から「生きる力」へ
- 1 問題の所在
- 2 「新しい学力観」とは
- 3 「生きる力」の三つの側面
- 4 「新しい学力観」の継承点
- 5 全人的な力としての「生きる力」
- 6 学力観の収斂と新しい展開
- 四 「生きる力」と基礎・基本
- 1 「基礎・基本」をめぐる問題
- 2 基礎・基本の三つのレベル
- 3 小学校における基礎・基本
- 五 「生きる力」と全人的な力
- 1 知・徳・体のバランス
- 2 見える学力と見えない学力
- 3 実践力・行動力
- 六 「生きる力」と人間の主体性
- 1 変化する社会と主体性
- 2 「自己の確立」と「共に生きる」
- 3 社会的自立
- 第2章 「生きる力」を育む教育課程編成の視点
- 一 「生きる力」とゆとり
- 1 学校は子どもの居場所
- 2 ゆとりの確保
- 二 「生きる力」と問題解決的学習
- 1 授業へのゆとりと基礎・基本
- 2 授業の形態と教師の支援
- 三 「共に生きる力」と個性を生かす教育
- 1 指導方法の改善
- 2 子ども主体の学習
- 3 選択履修幅の一層の拡大
- 4 特色ある学校
- 四 多様な個性に対応できる学校
- 1 子どもに開かれた学校
- 2 「自分さがし」を扶ける教育活動
- 五 「生きる力」と体験の重視
- 1 なぜ「体験重視」なのか
- 2 「ひとり遊び」時代の到来
- 3 体験の回復
- 六 「生きる力」と総合的学習
- 1 中教審「第一次答申」の提案
- 2 横断的・総合的学習のねらい
- 3 教育課程編成の方法
- 4 今後の展開と課題
- 七 教育課程の弾力化
- 1 弾力化の必要性
- 2 子どもの学習組織の弾力化
- 3 学習時間の弾力化
- 4 学習の場づくり
- 第3章 「生きる力」を育む教育課程運営の視点
- 一 「生きる力」と学習意欲
- 1 生涯学習と学習意欲
- 2 個性化を促す意欲
- 3 「生きる力」と学習意欲
- 二 個性を生かす教育とティーム・ティーチング
- 1 個性を生かすティーム・ティーチング
- 2 ティーム・ティーチングの形態
- 3 ティーム・ティーチングの展開
- 4 ティーム・ティーチングの実践的課題
- 三 異なった文化をもった人と共に生きる
- 1 「自己の確立」と「共に生きる」を軸に
- 2 国際理解教育から国際交流教育へ
- 3 コミュニケーション能力の育成
- 四 少子化と子どもの社会性
- 1 「ひとり遊び」時代の到来
- 2 「社会性」の未成熟
- 3 「社会性」をどう育てるか
- 五 「生きる力」とボランティア
- 1 「生きる力」とボランティア
- 2 ボランティア活動とボランティア精神
- 3 主体性を育むボランティア学習
- 4 ボランティア学習の内容と場
- 第4章 「生きる力」を育む教育課程の基底
- 一 今、なぜ「開かれた学校」か
- 1 開放系と閉鎖系
- 2 外に開かれた学校
- 3 内に開かれた学校
- 二 「生きる力」と学校・家庭・地域社会の連携
- 1 「生きる力」と豊かな生活
- 2 学校・家庭・地域社会のそれぞれの教育力
- 3 学校・家庭・地域社会の連携
- 三 「生きる力」と完全学校週五日制
- 1 完全学校週五日制の目指すもの
- 2 学校外教育の充実
- 3 学校教育の再編
- 四 「生きる力」をになう教師
- 1 教育を変えるもの
- 2 教師が変わるとき
- 3 どんな力をつけるか
はじめに
今、ある小学校の二年生のある学級で、「ニホンタンポポ」を増やそうと必死になっている。明治になって、食料として移入された「セイヨウタンポポ」に、「ニホンタンポポ」は席巻されてしまった。「なぜだろうか」「どこが違うのだろう」「わたしたちのまわりに、ニホンタンポポはまだ残っているだろうか」。疑問は疑問を生み、調べが始まり、探索が始まった。何と数株が、学校からほど遠くない古い土手に残っていた。「ニホンタンポポは、どんな所に育つか」「としたら、どこに植えて増やそうか」。疑問はさらにふくらみ、今、最後のハードルに挑んでいる。
子どもは、学ぶことが決して嫌いではない。嫌いどころか、あくことなき知りたがり屋である。共に知恵を出しあい、「ニホンタンポポ」のために、口論し、必死である。公園のおじさんを説得し、土地を借してほしいと、交渉まで取りつけた。教師は、そんな子どもを後追いし、ただ、ただ、嬉しいばかりである。「子どもを信頼してよかった」と述懐する。
すでに、子どもの側から出発した新しい学校づくりが始まっている。「生きる力」を育む実践が開始されている。もし、子どもが学校を嫌がり、学びを嫌がるのであったなら、そこには学ぶことを「苦しい」こととし、「つらい」ことだとする何らかの要因が隠されている。まずもって、学校というもの、学ぶということへのこれまでの私たちの考え方、パラダイムの転換が求められている。
この数年間、第一五期、第一六期の中央教育審議会の専門委員として、あれこれ考え、悩み、学んできたことが、この「ニホンタンポポ」に結実していく予感がする。期待がある。その「生きる力」から「ニホンタンポポ」への脈絡を、「教育課程」を中心にまとめてみた。あえて「カリキュラム」といわなかったのは、現実を離れた「論」ではなく、今、そして明日から学校は何をしなければならないかという「現実の経営」「日常の実践」に焦点をおいたからである。
特に、第一五期中央教育審議会の第一次答申が出て以来(平成八年七月)、多くの先生方と接し、ご意見、ご質問を数多くいただいた。たとえば、自己教育力、新しい学力観と生きる力は同じなのか違うのか、豊かな心と豊かな人間性は同じなのか違うのか等々である。こうした疑問やご意見に率直に答えてきたつもりであるが、なお不十分さをおそれ、ここでもこれらの点をふまえて、述べたつもりである。さらなるご批正、ご意見をいただけたらと願っている。
なお、本書は、「生きる力」を中心に、ここ二〜三年間に書いた論稿を一部手を入れつつ、まとめたものである。このような形でまとめることを承諾していただいた各社にお礼を申し上げるとともに、全体の編集にご尽力いただいた明治図書出版の安藤征宏氏に、深甚の謝意を呈する次第である。
一九九八年一月 /児島 邦宏
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- 明治図書