ICT×インクルーシブ教育 誰一人取り残さない学びへの挑戦

ICT×インクルーシブ教育 誰一人取り残さない学びへの挑戦

新刊

総合75位

ICTに学びを救われる子は、あなたのそばにいる

普段は発言の少ない子がオンライン上で活発にやり取りできる。AIスピーカーを通して本音が出る…など、困難のある子もそうでない子も互いに認め合える学びをつくるため、ICTは有効なツールです。子どもそれぞれの個性に寄り添い続けた挑戦の記録をまとめた一冊。


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ISBN:
978-4-18-126216-7
ジャンル:
授業全般
刊行:
対象:
小学校
仕様:
四六判 176頁
状態:
在庫あり
出荷:
2022年6月30日
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目次

もくじの詳細表示

はじめに
第1章 ICT×インクルーシブ教育の可能性
1 I(いつも)C(ちかくで)T(たすけになる)
インクルーシブ教育との出会い
本当にさせたいことは?
いつもちかくでたすけになる存在へ
2 授業研究のブレイクスルーとしてのICT×インクルーシブ教育
「ICT×インクルーシブ教育」最初の公開授業
公開授業から見えてきたこと
3 Face to Faceの教育から、学びのSide by Sideへ
とあるエピソード
コロナ休校が蘇らせた記憶
ICT×インクルーシブ教育もSide by Side
4 ICTに学びを救われる子はあなたのそばにいる
「ICT×インクルーシブ教育セミナー」サブタイトルの悩み
タイトルにこめた想い
「救われる」から「広げられる」へ
COLUMN 大学生にもSide by Sideで
第2章 インクルーシブな授業をつくるICT活用術
1 読み書きアセスメント
(1) ICTで子供の困りごとを見取る
(2) アセスメントは各種あれど
(3) PCタブレットアセスメントでわかること
2 学習者用デジタル教科書@
(1) 学習者用デジタル教科書との衝撃的な出会い
(2) 万全でなくとも導入の価値はある
3 学習者用デジタル教科書A
(1) 「没頭」へと誘う学習者用デジタル教科書
(2) 没頭の源は「楽」
(3) ポイントは児童に選ばせること
(4) 授業の組み立てをどうするか
4 Teams@
(1) 「手を挙げない」は消極的?
(2) オンラインで深まるコミュニケーション
(3) オフラインの前段階として
5 TeamsA
(1) コロナ禍の休校が引き金
(2) 教室内オンライン会議
(3) 教室内ブレイクアウトルームの効用
(4) 乗り越えやすいステップ
6 AIスピーカー@
(1) 本音が出にくい高学年生
(2) スキル「今日のありがとう」
(3) 朝の会が笑顔に包まれる
(4) ICTで児童の心をほぐす
7 AIスピーカーA
(1) 教室に行きたいけど行けない子
(2) 保健室の秘密兵器
(3) ICTは心に寄り添うツール
8 Flipgrid
(1) 英語教育とテクノロジー
(2) 相手が見えてこその国際交流
(3) Flipgridを使う意味
(4) 交流を自分ごとへ誘うICT
9 大型ディスプレイ
(1) 「発表が苦手」はおかしくない
(2) 乱暴なフリも大型ディスプレイがあればこそ
(3) ICTで「話す」「聞く」が変わる
(4) 活用方法は工夫次第
10 WizeFloor
(1) 大型提示装置の未来形?
(2) WizeFloorを活用した授業
(3) 気持ちを身体で表現したくなるICT
第3章 ICT×インクルーシブの視点で授業を構想する
0 インクルーシブな授業の基本的考え方
授業を設計する上でのポリシー
ルーツとなった実践
何を思っても、何を感じてもいい
序列ではなく個性の違い
1 ICT活用の前に大切なことはある
記念碑的な実践 「やまなし」
児童に任せて進める授業
この授業のどこがインクルーシブだったのか?
2 「海の命」でめざす個別最適な学び
現段階での到達点
これまでのセミナーで学んだこと
単元はじめの宣言 「自分で考えましょう」
果敢に取り組む児童の反応
グループで課題に取り組む
個人で課題に取り組む
ICT×インクルーシブ教育と個別最適な学び
第4章 困りごとにSide by Sideで寄り添うために
[特別対談]TAKA(ONE OK ROCK)に聞く「困りごと」の乗り越え方
[対談後]TAKAとの対話から何を読み取るか
おわりに

はじめに

ICT×インクルーシブ教育の寓話

 読むことが苦手な私にとって、国語の授業はもう大変。地獄と言っていいかもしれないな。

 教科書で新しい読み物が出てくると、交代で読んでいくことがある。あれって、当てられるまではずっとお腹が痛くなるような感じだし、当てられたら当てられたで頭は真っ白。もちろん上手になんて読めない。先生には「そうじゃなくてこうだよ」と言われる。みんなはクスクス笑ったり、(またかよ)という顔をしている。恥ずかしい。悲しい。そんな気持ちが渦巻いて、新しい読み物を楽しむ気になんてなれない。だから、国語は嫌い。

 でも、物語は好き。ママが読み聞かせてくれるお話は、私を想像の世界に誘ってくれる。お話を聞きながら声を立てて笑ってしまうこともあるし、二人で涙を流して泣いてしまうこともある。物語の世界に一度入れてしまえば、私はその世界を自由に泳ぎ回れる。入れさえすれば…。


 「泣いた赤鬼」という話を国語でやることになった。うん、このお話は知ってる。前にママに読んでもらった。

 最初の授業では、先生が全部読んでくれた。楽だなぁ。それにおもしろい。担任の先生はかなり変な人だけれど、紙芝居や絵本の読み聞かせは上手だ。登場人物に合わせて声を様々に変えてくれるのがいい。まあ、たまにわざとらしい時もあるけれどね。

 赤鬼のために頑張った青鬼が、村を離れるとき赤鬼に残した手紙を聞いていたら、また涙が出そうになった。青鬼、いい人だな。でも、このまま別れたままなんてかわいそうだな。

 何回か友達と話し合いながら「泣いた赤鬼」を読んでいくと、みんなからも「このまま終わったら二人がかわいそう」という意見が出てきた。うん、そうだよ、とてもいい友達なのに遠くに行ってそのままなんて。これじゃ、赤鬼だって素直に村人と仲良くなれないよ。

 すると先生が「そっか、じゃあ続きをつくるか」と言って、猛然とパソコンのキーボードを叩き出した。書き忘れていたけれど、担任の先生はパソコンが得意だ。私たちがバカみたいに騒いでいるところをスマホで撮っておいて、それを繋ぎ合わせて映画みたいにしてしまったりする。魔法みたいだ。先生にそう言うと「僕は天才だからね」と答える。それは違うと思うけれど。

 しばらく待っていたら、先生が「できた」と言って、お話を聞かせてくれた。こんな話だ。



 泣いた青鬼

 青鬼が旅立ってから、赤鬼はしょんぼりして過ごしました。村人たちは、とても仲良く、やさしくしてくれます。小さな子どもから、お年寄りまで、みんなが「赤鬼くん」「赤くん」と呼んで、慕ってくれます。でも、赤鬼はずっと悲しく思っていました。青くんと会えなくなってしまったからです。

 村人たちは心配しました。

 「どうして赤鬼くんは寂しそうなのだろう」

 「わたしたちと仲良くなれたのに、なんで悲しそうなのだろう」

 そこで、赤鬼にきいてみました。

 「赤鬼くん、どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?」

 赤鬼はまよいました。本当のことを話したら、村人は

 「だましたんだな!」

 と、怒ってしまうかもしれません。でも、赤鬼は正直に話すことにしました。それくらい赤鬼と村人は仲良くなっていたのです。


 村人は話を聞いてびっくりしましたが、納得しました。

 「あの時、どうして戦っている相手に『青くん』なんてさけぶのか、不思議だったんだよ」

 「そうか、そういうことだったのか」

 そして、赤鬼に提案しました。

 「赤鬼くん、青くんに帰ってきてもらおうよ!」

 「え、どうやって?」

 赤鬼がびっくりして聞きました。すると、村人が言いました。

 「あちこちに『青鬼くん、帰ってきて』と立てふだを立てよう」


 さっそく村人たちは、立てふだをたくさんつくりました。そして、あちこちにその立てふだを立てました。山のむこうにも、谷のむこうにも、川のむこうにも、雲のむこうにも。

 赤鬼は、特別な立てふだをつくることにしました。青鬼くんが帰ってくるとしたら、まず自分の家に帰ってくるでしょう。帰ってきた時、すぐ見てもらえるように、自分の気もちが青鬼に伝わるように、赤鬼は青鬼の家の前に立てふだを立てて、こう書きました。

 「     」

 何年か経ちました。青鬼は(もう帰ってもいい頃かな)と思って、自分の家に向かいました。すると、あちらこちらに立てふだが立っています。山のてっぺんにも立っています。谷のそこにも立っています。川岸にも立っています。雲の上にも立っています。

 「これはなんだ? 誰が立てたのだ?」

 不思議に思いながら自分の家に帰ってくると、家の前に大きな立てふだが立っていました。そこには何か字が書いてありました。

 「     」

 青鬼は、何度もそれを読みました。涙を流して読みました。



 なんでこんな話をすぐに思いつけるのかなぁ。でもそれを先生に言うと、どうせ「僕は天才だからね」と返されるに決まっているので、私は黙っていることにした。

 「ねえ、それで青鬼の手紙には何と書いてあったの?」

 頭の回転の速いA君が、我慢できない、という感じで先生に聞いた。そう、先生のつくった「泣いた青鬼」には、肝心の青鬼を泣かせた赤鬼の手紙が書いてなかったのだ。

 「そこ、気になる!」

 「ねえ、なんて書いてあったの!」

 みんなも口々に叫ぶ。教室は動物園状態だ。すると先生がニヤッと笑って言った。

 「それは君たちが考えてよ」

 というわけで私たちは「青鬼を泣かせた赤鬼の手紙」を書くことになった。作文は嫌いだけれど、これは一所懸命書いた。なぜかって?

 1つは、赤鬼と青鬼の心を想像するのが楽しかったから。帰ってきた青鬼に赤鬼がかけたいのはどんな言葉だろう? 青鬼が泣いてしまうほど感動する赤鬼の言葉ってどんな言葉だろう? そういうことを想像するのは楽しい。そう、私は、物語の世界に一度入れてしまえば、その世界を自由に泳ぎ回れるのだ。

 もう1つの理由はタブレットだ。私たちのクラスには、どういうわけかタブレットが1人1台ある(先生は「そのうちどこの学校でもこれが普通になるよ」と言っている)。

 これにTeamsというアプリが入っていて、授業でよく使うのだけれど、これで自分のノートを写真に撮って送ると、みんなが読んでくれるのだ。おまけに、友達が「いいね!」を押したりハートマークをつけてくれたりする。もうタイピングができる子もいて、そういう子はコメントも入れてくれる。友達にほめてもらえるのって、やっぱり嬉しい。

 そんなわけで、私は頑張って赤鬼の手紙を書いてみた。こんな手紙だ。



 青おにくん。

 ぼくは、人間たちとなかよくくらせたけど、青おにくんがいないと、まことにつまらなかった。ぼくのためにたびに出てくれたけど、ぼくは、帰ってきてほしかった。そう思って、人間たちときょう力し、立てふだを立てに行くことにしました。山に、谷に、海のむこうに、雲の上にとどんどん立てふだを立てに行った。

 そうして、今きみがかえって来た。ありがとう、きみ。あんなさくせん考えてごめんなさい。青おにくんにあいたかった。いつまでも、どこまでも、きみのともだち。  赤おに



 できあがったらタブレットで撮ってTeamsに送る。みんなも続々と送ってくる。送った子は他の子のノートを読んでいる。正直、他の子のノートを読むのは苦手だけれど、画面上にみんなのノートがどんどん現れてくると、なんだかワクワクする。

 「ねえ、『いいね』ついてるよ」

 隣のA君が声をかけてくれた。えっ?と思って、慌てて自分のノートのところを見ると「いいね」や「ハート」がついている。わぁ、と思っていたら、

 「この手紙、いいね!」

 と後ろのB君が声に出して言ってくれた。そうしたら、Cさんも声をかけてくれた。

 「みんなの前で発表した方がいいよ!」

 いや、それは遠慮するよ。遠慮するけど、そう言ってくれたことはすごく嬉しいよ。ありがとう。

 ああ、毎回こんな国語の授業だったら地獄だなんて思わないのにな。


ICTに学びを救われる子はあなたのそばにいる

 「ICTを活用して、通常学級でインクルーシブ教育を実現する」という遠大なテーマに取り組み始めて5年目になります。

 どこの学級にも、学ぶことに何らかの困難のある児童はいるでしょう。学びの入り口に立つことすらままならず、学ぶことを諦めてしまっている児童も少なくないのではないでしょうか。

 ICTには、そうした児童が学びの入り口に立ち、自分の手に学びを取り戻すための有効なツールになる可能性があります。もちろん万能ではないわけですが、これまでは不可能だったことが可能になる場面は少なくないと思います。

 個別の支援に関しては、数多くの有益な先行研究・実践があって、私も常に勉強させていただいています。でも、それを通常学級の授業の中でどう位置づけていけばよいか、ということになると、そのための指南書は多くありません。

 本書はGIGAスクール構想によって1人1台タブレット環境が実現した教室において、どのような活用の仕方によって学びに困難のある児童に有効な支援ができるか、私のこれまでの試みから得られた知見をまとめたものです。

 本書がきっかけとなって、一人でも多くの児童が自分の手に「学び」をつかめるようになることを願って止みません。


   /鈴木 秀樹


著者紹介

鈴木 秀樹(すずき ひでき)著書を検索»

1966年東京都生まれ。東京学芸大学附属小金井小学校教諭。慶應義塾大学非常勤講師。東京学芸大学ICTセンター所員。慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻修士課程修了(教育学修士)。私立小学校教諭を経て2016年より現職。

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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