- まえがき
- T 学校評価の基礎原理
- 1 社会的要請と学校の責任 ―教育改革の進行がもたらすもの―
- 2 自律的学校経営と学校の誇り
- (1) あなたの学校自慢は何ですか?
- (2) 聞くから聴く,そして聴くから効くへ
- (3) 評価される側に立つ意味
- 3 教育における市場原理の導入と学校評価
- 4 学校改善に生かす学校評価の基本
- 5 学校評価ガイドラインをどう使うか
- (1) 課題解決のためのポイントと改善策チェック
- (2) 自己評価書・外部評価書作成のポイントと留意点
- U 学校評価で学校力を高める
- 1 見られて美しくなる学校
- 2 学校力を高める視点
- 3 学校評価を実施して改善したこと ―実態調査から見えてきたこと―
- 4 解決するか,集計の省力化と分析考察の困難
- 5 ようやく解決される,実効ある集計の省力化
- 6 教職員間のコミュニケーションが生み出す学校力
- 7 学校評価を生かして学校力を高めた事例から
- (1) 「笑顔いっぱい!」の幸せ小学校づくり ―学校評価を生かして―
- (2) 学校評価を生かした「元気な学校」はこうしてつくられる
- (3) 「幸小の心がけ」その1
- (4) 「幸小の心がけ」その2
- (5) 「幸小の心がけ」その3
- (6) 学校評価をどのように進めてきたか
- (7) 研究1年目から2年目へ
- (8) 各プランの実践
- (9) 具体的な評価方法について
- (10) 改善の方策について
- (11) 結果の公表と情報発信の工夫
- (12) 振り返り
- V 学校評価で教師力を高める
- 1 教師の役割変化と資質向上 ―子どもの育ちをつなぐ教師の役割―
- 2 シェイプアップして教師力を高める ―組織のスリム化とスピードアップ―
- 3 メイクアップして教師力を高める
- (1) ドラマチック(dramatic)でなく,ドラスチック(drastic)に
- (2) 進捗状況を確認し合うシステムづくり ―分掌に対する意識変革―
- (3) 生き方のモデルとして
- 4 スキルアップして教師力を高める ―学校評価で授業改革をする―
- (1) プランニングスキルの向上
- (2) ティーチングスキルの向上
- (3) マネジメントスキルの向上
- 5 学校評価を通した学校参画への意識変革
- (1) 事例1「学校における評価を定着させるために」
- (2) 事例2「教職員の振り返り ―学校評価を行ってよかったこと―」
- W 外部評価の充実と改善
- 1 外部評価の意義・目的
- 2 RV・PDCA経営サイクルは動いているか
- 3 外部評価の現状 ―学校評価を実施して進展した課題から―
- 4 機能する外部評価委員会の人選と役割
- (1) 既存の組織は活用できる組織なのか
- (2) これまでの聴き取り調査事例から
- (3) 総括的評価者と形成的評価者の2つの役割
- (4) 期待される役割
- 5 外部評価に必要な資料 −外部評価の準備は,何よりも自己評価の充実を―
- 6 外部評価委員会が検証する4つのポイント
- 7 外部評価が生み出す学校のポジティブプロパガンダ
- (1) ピンチはチャンス−情報の見直しを図る−
- (2) クレーマーをサポーターに
- (3) 相違を総意に,そして創意に
- 8 外部評価を生かした取り組み事例
- (1) 愛知県豊橋市立幸小学校の事例
- (2) 広島県北広島町立本地小学校の事例 「めざせ道徳教育日本一」
- (3) 事例校の取り組みから見えてきたこと
- 9 わたしも外部評価委員 ―義務教育の質を保証するために―
- 10 外部評価を生かして変えること
- 11 外部評価は特効薬ではなく常備薬
- あとがき
まえがき
筆者は,小学校教員からスタートして,教頭,主任指導主事を経て,現在大学で幼稚園教諭・保育士養成と小・中学校教員養成に携わっている.これまで教育現場の担任・管理職,教育行政機関で現職研修担当,教員養成大学での教育・研究者というさまざまな立場を経験する機会を得られたことは感謝に堪えない.
これまで出会い育てていただいた多くの方から頂いた情報や知恵,または課題解決法等を研究に生かし学校現場へ還元し,学校をサポートさせていただきたいと考えている.つまり,自分のミッションは「元気の素」情報を研究成果として配達することではないかと考えている,自称「教育現場への元気配達人」である.
「学校評価」に関して,筆者自身は,今から9年前に学校現場で管理職であった当時に実施したのが最初であった.しかし,趣旨を踏まえた実施ができたとはとてもいいがたい.
その後,平成13年に大阪府教育センター,学校経営研究室主任指導主事として「学校評価研究プロジェクト」の主担者となり,3年間にわたる調査研究の機会を得た.
大阪府内の学校評価(大阪では当時「学校教育自己診断」という)を実施し,なおかつ外部評価(大阪府では当時「学校協議会」)を実施していた小・中・高等学校及び盲・聾・養護学校の20校を訪問した.すばらしい学校経営に生かす元気の出る校長,教頭,実施担当の教職員に出会わせていただいた.また,大阪教育大学大学院修士論文に取り組む過程で長尾彰夫副学長,大脇康弘教授,井谷義則教授等の御指導を受け「学校教育自己診断を生かした学校改善の研究」をまとめることができたことも拙著を生み出す礎になっている.
ランクづけではなく「信頼」と「質」のツール
教育界に組織マネジメントの必要性が求められ,「アカウンタビリティ(説明責任・結果責任)」がキーワードとなって久しい.
しかし,学校に関する情報には内外の温度差があり不確実であるという前提で,丁寧に明瞭に伝え合う努力が必要である.
「説明したつもり」「実はこう思いながら」等,心が通い合っていると思っている人間同士でさえ,言動によって誤解は生じるものである.「優しさ」も伝わらなければ,「優しさとはいえない自己満足」である.
まして,加速度的に変化する社会の中で,不安を抱え不満をもち不信感がつのる人間関係においては,どれだけの温もりが伝わる配慮や分かりやすさや根気が必要となるだろうか.
本来,学校に対しての敵はどこにもいない.ステークホルダー(利害関係者)とはいえども,地域住民も保護者も利害関係で対立したり,競争したりする対象者ではない.
保護者のだれもが「わが子が明日は少しでもよくなってほしい」と願い,地域住民は「地域の子どもがよりよく成長してほしい」と願っている.「今日より明日はどの子どももよくなってほしい」と願わない教職員がどこにいるだろう.願いは間違いなく一致している.
しかし,その方法や集団の中で個々の育ちを見ながらかかわる観点と,まったく「個」としてかかわる観点では違いがあって当然である.
職業病でもないかぎり,教師でさえわが子の参観授業で集団に対する担任教師の授業力を見ることは多くないだろう.親は「うちの子」に先生がどうかかわってくれているのかが問題なのである.
教育を受ける側のニーズにどう応えるか,多様な試みが必要になっていることを実感せざるをえない.しかし,学校現場にはまだまだ評価が学校のランクづけにつながるのではないか,という受け止め方がある.
教職員のほとんどは,公私の時間も忘れて熱心に指導に取り組んでいる.児童生徒にこうなってほしいという願いも,一人ひとりがもっている.しかし,そうした育てたい子ども像が,保護者や地域住民,あるいは子どもの願いとずれていたり,学校内で共有化されていなかったりしていることも少なくない.
信頼される学校づくりをしようとするとき,教職員だけではなく地域住民や保護者に,さまざまな協力や知恵を求めることが不可欠になる.学校評価で評価項目を検討したり,結果を公表して改善策を提示したりするプロセスにおいて,教職員間のみならず学校と保護者・地域との間に,信頼と協力関係を築くことができる.
学校評価は実施が目的ではない.RV・PDCAサイクルを通じて学校内外の信頼関係を築き,学校教育の質を向上させるツール(手段)である.
学校教育の“ピンチ”を信頼関係構築の“チャンス”に
筆者が2001年度に学校評価に関する調査研究を開始して以来,学校評価が改善につながっている事例には,次の2つの共通点が見られる.
@実施前に評価項目を教職員間で検討し,共有課題としている.
A評価結果をフィードバックし,改善への課題としている.
また,校内のコミュニケーションが活発な学校や情報開示に積極的な学校ほど,評価とその改善に正の相関関係が見られる,という調査結果もある.
今世間には,学校教育に対するネガティブなプロパガンダが,蔓延している.だからこそ現状を訴え,協力を求めるチャンスである.
ピンチをチャンスととらえ,学校が主体となってチャレンジすることで,保護者や地域住民の願いに応えられるようチェンジすることができる.そのための客観性と妥当性のあるデータを提供してくれるものが学校評価である.重要なのは「エビデンス(証拠)」である.
それは学校にとっても,教職員個人にとっても方向性を示す道標ともなり,誇りともなる「証拠」なのである.
学校評価を活用し「チャンス,チャレンジ,チェンジ」の3Cでポジティブプロパガンダを学校から創り出していきたい.
本書での提言や取り組み事例が「学校組織開発」のヒントとなり,「教職員の能力開発」の契機となり,「学校の機能回復剤」「元気の素」の一滴になれば幸いである.
2006年11月 /善野 八千子
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- 明治図書