- まえがき
- 一 なぜ改訂されたか
- 1 改訂の背景とねらい─新教育課程に託したもの
- 2 「学力」についての基本的な考え方
- 3 「新学習指導要領」のねらいの実現のための具体的な課題
- 4 まとめ
- 二 改訂のポイントは何か
- §1 学習指導要領における「基準性」の一層の明確化
- 1 学習指導要領の基準についての周知の不十分さ
- 2 「はどめ規定」等に係わる課題と見直し
- 3 入学者選抜における取扱い
- §2 必要な指導時間の確保
- 1 授業時数「標準」のとらえ方
- 2 年間総授業時数の現状と課題
- 3 必要な指導時間確保の把握と説明責任
- 4 必要な指導時間を確保するための工夫
- §3 「総合的な学習の時間」の一層の充実
- 1 創設の趣旨
- 2 現状と実施上の課題と学習指導要領の記述の見直し
- 3 学校の教育活動全体の中での位置付けと意義の明確化
- 4 各教科等との関連の明確化と指導・評価の改善
- 5 関係施設,地域人材等の活用・充実
- 6 学習活動及び活動日・時間等の弾力化・多様化
- §4 「個に応じた指導」の一層の充実
- 1 現状と課題
- 2 個性重視と個に応じた指導
- 3 補充的な学習と発展的な学習
- 4 学習の習熟の程度に応じた学習
- 5 「個に応じた指導」を行う上での配慮
- §5 学力調査結果の活用
- 1 現状と課題
- 2 各学校の教育課程との関連をいかに図るか
- 3 学習指導の見直し・改善と学力調査の活用
- 三 改訂事項を実現するプランづくり
- §1 改訂事項を先取りした教育課程編成
- 1 [生きる力]及び「確かな学力」の位置付け
- 2 教育活動が総合的に生きて働く教育課程
- 3 保護者・地域への説明責任及び積極的な参画
- 4 自校の実態に根ざした教育課程編成
- §2 教育効果を上げる授業時間運用のプラン
- 1 弾力的な時間割運用のプラン
- 2 固定的な時間割運用のプラン
- 3 モジュール制による時間割運用のプラン
- §3 「総合的な学習の時間」の充実を図るプラン
- 1 教育課程全体への「総合的な学習の時間」の位置付け
- 2 「総合的な学習の時間」の目標・内容及び全体計画
- 3 改訂を生かした「総合的な学習の時間」プラン例1(1年生)
- 4 改訂を生かした「総合的な学習の時間」プラン例2(2年生)
- 5 「総合的な学習の時間」の充実を目指したプラン例3(3年生)
- §4 「個に応じた指導」の充実を図るプラン
- 1 改訂の趣旨を生かした学習指導,授業改善の見直し
- 2 学習内容の習熟の程度に応じた指導のプラン(数学)
- 3 少人数授業のプラン(英語)
- 4 選択教科におけるプラン(社会)
- 5 「総合的な学習の時間」におけるプラン
- §5 評価を生かした授業の改善プラン
- 1 指導と評価の一体化をめざした評価の基本
- 2 緻密な評価規準づくりと授業改善プラン1(国語)
- 3 緻密な評価規準づくりと授業改善プラン2(理科)
- 4 緻密な評価規準づくりと授業改善プラン3(社会)
- 5 緻密な評価規準づくりと授業改善プラン4(英語)
- 6 緻密な評価規準づくりと授業改善プラン5(数学)
- 四 改訂に関するキーワード解説
- 1 教育課程実施状況の自己評価と説明
- 2 長期休業日の増減や学期区分の工夫
- 3 「総合的な学習の時間」の「目標」や「内容」
- 4 「総合的な学習の時間」の「全体計画」
- 5 「総合的な学習の時間」の「各教科との関連」
- 6 「総合的な学習の時間」における各種施設や団体との連携・協力
- 7 「総合的な学習の時間」における多様な教育資源の活用
- 8 長期休業期間を活用するなどの弾力的な授業の実施
- 9 「個に応じた指導」
- 10 「学習内容の習熟の程度に応じた指導」
- 11 「補充的な学習」
- 12 「発展的な学習」
- 13 「ティーム・ティーチングの効果的指導」
- 14 「興味・関心別の指導」
- 15 「個別指導」
- 16 「グループ別指導」
- 17 「繰り返し指導」
- 18 「教育課程の開発や管理に関する能力」
- 19 「時間の効率的な利用」
- 20 「子どもたちの教育ネットワーク」
- 資料 中学校学習指導要領(平成10年文部省告示第176号)新旧対照表
まえがき
平成15年12月26日付けで,学習指導要領の総則を中心にその一部の改正が行われ,告示された。これは,同年10月中央教育審議会答申「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の改善・方策について」を受けたものである。しかし,これらは新学習指導要領の全面実施からまだ2年も経たない中の出来事である。
すなわち,「何が改正されたのか」よりも「なぜ改正されなければならないのか」である。さらに重要なことは,「改正」をどのように踏まえ,「何をめざして進むのか」である。
私は,10年及び11年に告示された教育課程誕生にまつわることで必ず引用するものがある。それは,平成10年10月7日から行われた第49回全日本中学校長会研究協議会岐阜大会での,当時教育課程審議会会長三浦朱門氏の講演「学習の原点を探ろう」である。
氏は,「新しい教育課程が実施されたら,一時期中学校が荒れるかもしれない」と,おっしゃった。それは,自ら選び,学び,判断し,行動する主体的な学びへの転換をめざす「新しい教育,新しい学校の過渡的な揺れ」について予測されたのだろう。これから告示されようとするそのとき,教師や子どもたちの試行錯誤による戸惑いを想定し,私たちを励ましてくださったのである。氏の思いの中心にあったものは何だったのだろう。それは,少なくとも,探求しようとする学力,すなわち,確かな学力,課題解決力,創造力の育成にいくばくの疑念など想起なされてはいなかったはずである。
それどころか,なぜ,今「自ら学ぶ意欲」なのか,「一律から個へ」「模倣から創造へ」なのかを,それこそグローバルかつ歴史的な視点で展開された新しい教育課程の理念と方法の価値がいかに重要であるかのお話にしびれる思いがしたことを忘れない。
さて,回顧談はそのくらいにして,学習指導要領一部改正である。
今回の改訂を一言で言うと,「確かな学力」の強化である。[生きる力]の「知」の部分を強化せよということだ。何を今更という批判もあるが,これは,「知」の強化であり,おろそかにできる話ではない。しかし,注意しなければならないのは「学力万能」「学力至上主義」ではないことである。日本人は本来ファジーであったはずだが,こと学力問題になると「学力至上主義」になってしまう。つまり,困るのは学ぶ意欲,課題解決力,創造力などというのは,学力から追いやられてしまうことである。要は,知識量であり,詰め込むか,暗記させるか(暗記否定ではないが)にならないと気が済まない。それほどでなくともとにかくやらせよう,課題解決力より解かせよう式になり安心する。
三浦朱門氏が熱っぽく説いた高邁な理念はどこ吹く風である。消滅である。
学習指導要領一部改正にかいまみられる日本の教育の危機を回避するためには,一に校長の識見に頼るしかない。校長は,実行部隊長である。ここが「うん」と言わない限り事態は動かない。したがって,私たち校長が地に着いた学力観,確かな学力・[生きる力]の育成等々を確かな指導力をもって推進するしかない。
本書はそうした願いを込め編集した。新学習指導要領のねらいの一層の実現のために,各校長が全霊を込め執筆している。不十分なところは賢明な同輩並びに後輩の知性と情熱で補っていただき,よりよき日本の教育に役立てていただければ,この上ない幸せである。
平成16年2月 編者 /星 正雄
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- 明治図書