子どもが蘇る問題解決学習の授業原理
学習指導と生活指導を合体する指導法の魅力

子どもが蘇る問題解決学習の授業原理学習指導と生活指導を合体する指導法の魅力

好評5刷

“問題解決学習”の本質って…?が納得できる本

問題解決学習って?一口にいえば、学級に、支え合い高まり合う生活集団をつくる指導法ーと著者。では、そういう教師なら誰でも願う理想の実践はどうすれば手に入れることが出来る?全国津々浦々、熱心な実践家と著者がとことん付き合うなかで会得した指導法を披露。


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ISBN:
978-4-18-112712-1
ジャンル:
授業全般
刊行:
5刷
対象:
小・中・大
仕様:
A5判 260頁
状態:
在庫僅少
出荷:
2024年5月14日

目次

もくじの詳細表示

はじめに
序 問題解決学習子どもに必要だからこそ
T 子どもの「学び」が生まれる条件
§1 どの子にも「学び」が生まれる学級構造
1 「学力」の高い学級に見られる現象
(1) 価値ある「学び」の予感/ (2) 気づきの発信と発展/ (3) 仲間関係に基づくコミュニケーションの発生
2 「落ちこぼれ」ないための「絆」
(1) 苦手とする子どもが逃げない/ (2) 「底上げ」のために不可欠な課題/ (3) 生活指導の基盤としての仲間関係
3 「できる子」の「よさ」の発信と広がり
(1) 「できる子」の努力を支える仲間関係/ (2) 「できる子」の活躍による全体のレベルアップ
4 学校の教師と塾の教師の専門性の相違
(1) 学校の学習活動の公共的な性質/ (2) コミュニケーション豊かな仲間関係を通じての指導
§2 深い「学び」が生まれる背景とチャンス
1 「学力の二極化」と「意欲の二極化」
(1) 努力しようという意欲の低下/ (2) 意欲と自信が育つ学習活動の必要性
2 「家庭の教育的背景」とは
(1) 親自身の基本的生活習慣と影響/ (2) 親子間でのコミュニケーションの在り方/ (3) 子どもの性格形成に対する親の態度の重要性/ (4) 子どもに「機嫌よく」接すること
3 子どもの生活の変化
(1) 「外で群れて遊ぶ」ことの消滅/ (2) 社会性の発達不全/ (3) 「夜型」の生活の心身への影響
§3 子どもが育ってくる仲間関係の構築
1 学校教育の社会的使命
(1) 社会における学校の役割/ (2) 競争ではなく「協同」
2 学校における学習活動の公共性
(1) 「学び」における他者の必要性/ (2) 「学び」の広がり・深まりの契機としての他者との出会い/ (3) 学校における「学び」としての協同的な学び
3 カリキュラムの中心柱としての問題解決学習
(1) カリキュラムの中心柱の必要性/ (2) 教師の「指導が通じる」学級/ (3) 仲間関係を育てるための中心柱
U 協同的な学びを生み出す関係性の構築
§4 問題解決学習論=二つの誤解点と再検討への動き
1 問題解決学習についての誤った理解
(1) 「初期社会科」の理念と方法/ (2) 問題解決学習の目的/ (3) デューイの思考論についての誤読/ (4) デューイの教育論についての誤読/ (5) デューイの教育論の再評価の観点
2 長岡文雄の問題解決学習の実践の再評価
(1) 問題解決学習の実践を分析するための新しい観点/ (2) 長岡文雄「のりものではたらくひとびと」/ (3) 探究を通じての問題解決とは/ (4) 話し合い活動における子どもたちの探究/ (5) 話し合い活動における子どもたちの協同/ (6) 子どもたちの関係性の構築/ (7) 「独自学習」と「相互学習」
3 問題解決学習の分析の視点
(1) 関係性についての分析と解明/ (2) 「独自学習」と「相互学習」の相関的な作用/ (3) 複線的・重層的・交錯的な展開
§5 問題解決学習の授業づくり その1「独自学習」の進め方
――教師のコーチングとしての指導・支援
1 「個」の追究に即応すること
(1) 具体的な活動の文脈を通じての「学び」/ (2) その子どもに即した「学び」のストーリーの構想/ (3) ストーリーの獲得による「学び」の発展/ (4) 「学び」のストーリーと生活のストーリーの重なり/ (5) 問題解決学習における教師の指導性
2 子どもの追究の具体化と価値付け
(1) 子どもの表現の「根」を探ること/ (2) 生活に根ざしている「願い」を読み取る/ (3) 独自のストーリーを歩ませる支援
3 教師による「学び」のコーチング
(1) 「独自学習」におけるコーチング/ (2) 仲間関係を通じての全体に対する指導/ (3) コーチングによるモデル作り/ (4) 「やんちゃな子」を生かす/ (5) 「習得」の必要性に気づかせる/ (6) 教師の実演を見ることによる視点の獲得/ (7) 子どもの思考についての洞察/ (8) ストーリーを紡ぎ出す支援/ (9) ストーリーの構想と地図作製
4 「相互学習」への接続のための方向付け
(1) 「相互学習」で「活躍させる」ための支援
§6 問題解決学習の授業づくり その2「相互学習」の進め方
――コミュニケーション能力の育成
1 「言語活動の充実」とコミュニケーション能力
(1) コミュニケーションとは/ (2) 対人能力としてのコミュニケーション能力
2 「語る」ことの指導
(1) 「お調べ発表学習」ではダメ/ (2) 体験を語ることからつながりが生まれる/ (3) 楽しみな活動をみんなで計画する/ (4) 言語が獲得される活動/ (5) 具体的な言葉で一つ一つ語らせること/ (6) 語ることによる自分についての気づき/ (7) 語り合える時間の必要性
3 「聞く」ことの指導
(1) 「つぶやき」は聞いている証拠/ (2) 聞いて「心を動かす」こと/ (3) 聞く力が育つ話し合い/ (4) 発言者を助けてはいけない/ (5) 聞き手の聞き方を指導する/ (6) 聞いている子どもたちに発言者を助けさせる/ (7) 盛り上がりを生かす/ (8) 教師の立ち位置/ (9) 温かい聞き手を育てることから
4 話し合い活動のねらいと組織の方法
(1) ディベートの問題点/ (2) 揺さぶられ,「調べ直し・考え直し」をすること/ (3) 構造的学術論争/ (4) 「論破」ではなく「説得」/ (5) 「対決」ではなく「交渉」/ (6) 協同的な学びとしての「基調提案―検討方式」
5 知識・技能の効果的で確実な「習得」
(1) 子どもたち相互の学び合い/ (2) 盛り上がりの場面での学び合い/ (3) 「とぼける」ことのできる教師のセンス/ (4) 「探究」「活用」「習得」/ (5) 自己課題の追究の中での「学び」/ (6) プロジェクト型の学習活動/ (7) 教育的に価値のある課題/ (8) 現実の世界の中で「やり遂げる」課題/ (9) 自ら「師」を求めさせる/ (10) 奥義としての「一人を育てて全員を育てる」
§7 問題解決学習の授業づくり その3 ストーリー性のある生活
1 ストーリーの連続的発展
(1) 自己コントロール能力/ (2) 過去から現在へ,そして現在から未来へ/ (3) 未来へのストーリーの意識化/ (4) 過去からのストーリーの意識化/ (5) 「学ぶ」ことによる自分の成長の意識化/ (6) ストーリーの語り方を身に付けさせる/ (7) 「学ぶ前」と「学んだ後」での自分の変化/ (8) 冒険物語としての学習活動/ (9) ストーリー性を意識した生き方
2 学習活動と生活のストーリー
(1) 生活のストーリーの充実と学習活動/ (2) エピソードとしての学習活動/ (3) ストーリーを意識した思考/ (4) 物語の読み聞かせの意義/ (5) 自らのサクセスストーリーを自ら歩めるための支援
V 校内研究の新しい方法
§8 「子どもを中心に据えた」校内研究の進め方
1 校内研究についての発想の転換
(1) 校内研究に尻込みをする理由/ (2) 教室が開かれている学校/ (3) 「緊張感を持って張り切る」経験を通じての成長/ (4) 子どもの表現に注目し,その意味について考え合う研究/ (5) 教師の専門性として高める能力/ (6) 校内研究への着手/ (7) 同僚に対する信頼感の形成への連続
2 「子どもを中心に据えた」ワークショップ型の授業研究
(1) 校内研究の進め方をめぐる問題/ (2) ワークショップ型での校内研究の進め方/ (3) 年間を通じての研究授業/ (4) 抽出児を設定することの意味/ (5) 「よい授業」とは/ (6) 「よい教材」とは/ (7) 地図製作としての教材研究
3 校内研究と「学校づくり」の統一の視点
(1) 全教職員で全校の子どもを見る/ (2) 同僚への信頼感に基づく協力体制/ (3) 研究成果の日常化/ (4) 子どもたちも教師たちを見ている
4 中学校における校内研究の推進
(1) 「教科の壁」の打破/ (2) 生徒の「やる気」を見つける/ (3) 生徒たちの授業態度の変化
§9 子ども理解の方法
――固有の意味世界をとらえる眼
1 子どもの表現の「根」と「芽」
(1) 自分の生き方につながる「学び」/ (2) 「おやっ?」と感じられる発言/ (3) 「根」の掘り下げ/ (4) 自己「開示」としての語り/ (5) 根底にあるものの価値付け/ (6) 「根」を掘り下げて「芽」を伸ばす
2 ケーススタディーによる力量形成
(1) ケーススタディーによる研修/ (2) スーパーバイザーの必要性/ (3) 解説者の役割/ (4) ケーススタディーの目的と成果
3 実践論文を書くこと
(1) 実践論文を書くことの意義/ (2) 子どもの成長物語としての実践論文/ (3) ノンフィクション作品としての実践論文/ (4) 子どもについての語り方の修業
おわりに

はじめに

 本書では,次の点を主軸として問題解決学習の授業原理について論述する。


  問題解決学習は,子どもたちの協同的な学びとして展開される。


 前書『問題解決学習のストラテジー』で述べたように,問題解決学習とは,たんなる「お調べ発表学習」ではない。また,たんに子どもたちに「話し合い」をさせるだけの学習活動でもない。

 問題解決学習の本質は,次の点にある。


  学習指導と生活指導とを統一的に行うための指導法である。


 つまり,問題解決学習とは,学級の子どもたちの間に,温かく応答的なコミュニケーションの成り立つ仲間関係を構築し,子どもたちを「学び合い,高まり合う」学習集団に,また,「支え合い,高まり合う」生活集団に育てていくことを目標とする指導法である。

 子どもは仲間関係の中で豊かに育つ。

 学校の教師の第一の役割は,子どもたちが豊かに育つような仲間関係を学級に構築していくことにある。子どもたちは,仲間との間に肯定的で支援的な関係性を実感することにより,自分の存在について素直な自信,また,仲間に貢献できる自分になろうという意欲を持つ。そのようにして,自らの生活を整え,様々な課題に立ち向かい,また,友だちを認めて共に高まり合おうと励まし合い,努力する。

 だから,学力も生活力も安定し,しっかりとしたものに育つのである。

 問題解決学習は,しばしば次のような非難にさらされてきた。

@ 教師の指導性が曖昧である。教師は何を指導するのかわからず,「支援」という名目のもと,結局は子どもを放任するにとどまっている。

A 知識や技能の習得に効率が悪い。習得しなければならないことを,子どもたちにそれぞれバラバラに調べさせたのでは,全員に必要な知識や技能をうまく習得させることができない。

 しかし,現実には,問題解決学習を実践している教師の学級では,子どもたちの学力の水準は高い。また,生活は安定しており,温かい仲間意識が形成されている。

 問題解決学習の授業において,教師は子どもたちに,人間としての生き方を厳しく徹底して「指導」している。ぎりぎり絞っていえば,次の点に重点が置かれている。


  自分の考えや気持ちを,自分の言葉でしっかりと仲間に語ること。


 そして,仲間の話をしっかりと受けとめて聞き,それに誠実に応えること。

 そのような温かく応答的なコミュニケーションの能力,言い換えると,協同的に学ぶ学習活動への参加能力を,厳しく徹底して指導している。

 だから,子どもたちは,大切なことはしっかりと友だちに伝え,また,友だちが言った大切なことはしっかりと聞いて覚えている。その結果,教師が「説明したつもり」の授業と比べて,知識や技能の定着が高い。教師は子どもたちの動きを見つつ,教えることが必要な知識や技能を,「どの子どもから,どの場面で出させるか」を考え,その場面でうまく出させて,そこで立ち止まって,子どもたちがそれに注目するように確認している。

 子どもたちの学力は,教師がしっかりと叩き込み,子どもたちを競わせれば高まるものではない。生活力も,教師がしっかりと締め付け,子どもたちを相互監視させれば改善されるものではない。そのような指導方法は,すでに明白に破綻している。

 しかし,あいかわらず「教師がしっかりと教えよ」式の指導が,亡霊のように繰り返し提唱される。そのことは,一方において,問題解決学習とは何か,その本質は何なのか,子どもたちの学力と生活力の向上のために,教師の指導性はどのように発揮されるのかなどについて,十分に解明されていないことに原因がある。子どもたちが「育つ」ための問題解決学習の授業原理が明確にされないまま,レベルの低い「問題解決もどき」の学習が横行したことに,いわゆる「振り子の揺れ戻し」のように,問題解決学習に対する非難,そして「教師がしっかりと教えよ」式の指導の復活の提唱が繰り返される。

 問題解決学習の授業原理を明確にすることにより,問題解決学習に対して浴びせられてきた「這い回る経験主義」「教師の指導性の放棄」「教科内容の系統性の無視」「楽天的な子ども観」などの非難が,いかに不当で的外れであったかを論証したい。

 教育界における「振り子」現象に決着をつけるべき時期になっている。


 なぜ「振り子」現象に決着をつけなければならないのか。

 現在,学校教育は,学習指導の方法について議論しても,決着のつかない問題に直面しているからである。

 学校教育の役割や責任について,社会(世界・人類・国家)との関係において,すなわち公共的な視点から問い直し,@)なぜ学校教育が必要なのか,A)その役割は何なのか,B)何に対して責任を負うのかについて,現代的な観点から明確にしなければならない。つまり,そのような問題との関係において,学習指導の目標や方法について明確にすることが必要なのである。

 なお,本書では,筆者の同じような主張が各場面で繰り返し論じられている。それだけ読者諸氏に伝えたいメッセージであると理解し,ご容赦いただきたい。

 筆者は毎年百時間程度,全国各地の小中学校での研究授業に参加している。本書で論じる原理や方法は,そこで見た授業場面の具体的な事例について,ジョン・デューイの哲学・教育学研究者としての視点から,分析を加えて考察したものである。この点でいえば,授業研究に参加させていただいた全国各地の教師との協同研究の成果である。改めて,校内研究に訪問を要請していただいた全国各地の小中学校,20年間以上にわたって学ばせていただいている富山市立堀川小学校,すでに10年間近く実践研究に共に取り組んでいる山形大学附属小学校に心よりお礼を申し上げる。

 本書も,樋口雅子編集長のお力添えによって刊行に至ることができた。心よりお礼を申し上げる。


  2010年 春 茨城県那珂市杉の自宅の書斎にて

著者紹介

藤井 千春(ふじい ちはる)著書を検索»

早稲田大学教育・総合科学学術院教授

博士(教育学)

1958年千葉県市川市生まれ

同志社大学文学部文化学科哲学及び倫理学専攻卒業

筑波大学大学院博士課程教育学研究科単位取得退学

大阪府立大学総合科学部助手,京都女子大学文学部専任講師,茨城大学教育学部助教授・教授を歴任

〈専門領域〉

教育哲学及び教育方法学

ジョン・デューイの哲学と教育学

1995年 日本デューイ学会研究奨励賞受賞

2000年 トロント大学オンタリオ州立教育研究所客員研究員

※この情報は、本書が刊行された当時の奥付の記載内容に基づいて作成されています。
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      明治図書
    • ハウツー本と同様、こういう子どもの思考への寄り添い方を書いている本は貴重です。
      2019/9/940代・小学校教員
    • 問題解決学習の考え方や実践などが丁寧に紹介されていて、参考になった。
      2018/12/1920代・中学校教員
    • 問題解決学習の基本を学ぶことができる。
      2018/3/2850代・大学勤務
    • 筆者の問題解決学習への思いが具体的な事例を通して伝わりました。
      2016/1/2740代・小学校管理職
    • 著者の考えが具体的な事例を通して分かりやすく書かれていた。
      2016/1/840代・小学校管理職
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