- はじめに
- T 共同交流型カリキュラムのデザイン
- /田中 博之
- 1 21世紀になぜ共同交流が必要なのか
- 2 子どもをネットワーカーにする総合的な学習
- 3 単元の基本モデルと典型的な活動
- 4 実践スキルの評価ポイント
- U 子どもをネットワーカーにする総合的な学習
- /前田 康裕
- 1 子どもたちをネットワーカーにしよう
- 2 ネットワーカーに必要な力
- 3 ネットワーカーを育てる教師の条件
- 4 ネットワーカーを育てる交流相手の探し方
- 5 ネットワーカーを育てる交流継続のポイント
- 6 ネットワーカーを育てる学習過程のポイント
- 7 ネットワーカーを育てる学習とは
- V ネットワーキングの達人を育てる実践事例(小学校編)
- A 一人ひとりが地球人として――マニングハム・パーク小学校の子どもたちと友だちになろう
- ――国際 /衛藤晶子
- 1 国際交流学習で期待する子ども像
- 2 単元構想のアイデア
- 3 ティームティーチングを生かした支援
- 4 子どもたちの活動の流れ
- 5 評価とこれからの課題
- B ミレニアムティーパーティーを開こう
- ――国際 /幸 隆之
- 1 子どもにつけたい力
- 2 単元構想のアイデア
- 3 ミレニアムティーパーティーを開こう!
- 4 評価とこれからの課題
- C 「アイランドクエスト」をしよう
- ――地域・情報 /角田 秀晴
- 1 クエスト型学習「アイランドクエスト IN 沖縄&屋久島」
- 2 学習計画を立てる
- 3 事前学習
- 4 「沖縄」調べ学習の開始
- 5 「アイランドクエスト」への参加
- 6 事後学習
- 7 おわりに
- D 鯖街道ふれあいネットワーク
- ――地域・情報 /重田 昌克
- 1 はじめに
- 2 子どもたちにつけたい力
- 3 鯖街道ふれあいネットワークの構想
- 4 子どもたちの活動の内容
- 5 成果とこれからの課題
- W ネットワーキングの達人を育てる 実践事例(中学校編)
- A マルチメディア通信を用いた国際共同学習の実践――イギリス姉妹校との共同プロジェクト
- ――国際・情報 /田中 龍三
- 1 実践の概要
- 2 実践の実際
- 3 交流型の総合的な学習としてのキーワード
- 4 アンケートの結果に見られる生徒の変容
- 5 教師の変容と今後の課題
- B 学校間交流や地域の教育力を活用した平和学習プロジェクト
- ――地域・情報 /小林 朝雄
- 1 はじめに
- 2 長崎平和学習プロジェクト
- 3 広島平和学習プロジェクト
- 4 おわりに
- C 屋久島の自然を活かした交流学習
- ――地域・情報 /永留 貢
- 1 はじめに163
- 2 地域ネットワーク構築の背景(世界自然遺産『屋久島』)
- 3 地域ネットワークの構想とその意義
- 4 実践例「気象観測プロジェクト」
- 5 まとめとこれから
- X 実践事例の評価と課題
- /田中 博之
- 1 小学校コメント
- 2 中学校コメント
はじめに
インターネットは,出会いと交流のメディアである。世界中の人々とのヒューマンネットワークを構築する広場である。子どもたちが,地域や国籍,年齢を超えて,インターネットで多様な人々に出会い,共通の課題達成のためにプロジェクトを遂行するのである。
子どもたちのコミュニケーションを支えるのは,インターネットだけではない。テレビ会議システムやビデオレターなども,より鮮明な映像による生き生きとした交流を可能にしてくれる。その意味で,多様なコミュニケーションメディアを組み入れた新しいメディアミックスが有効な学習方法になってきた。
さて,21世紀は,まさに高度情報通信社会である。それに主体的に対応する力を身につけられるように,学校教育における情報教育の重要性はますます高まっている。特に,総合的な学習の時間は,学習テーマを環境・福祉・国際と変えながらも,情報活用の実践力を身につけるために,インターネットやコンピュータを子どもたちが主体的に活用することができる格好の場になるのである。
そこで本書では,環境や国際,地域をテーマにした学校間での交流学習を,共同交流学習と呼び,それを総合的な学習としてどのように展開すればよいのかを考えてみることにしたい。
この共同交流学習では,子どもたちが交流の道具としてコンピュータやインターネットを活用することになる。そのために共同交流学習は,情報教育の一環として他のテーマとの関わりにおいて実践されることが多い。総合的な学習としての情報教育の実践は,試行段階を含めて,これまでに2つの大きな発展段階を経てきている。
第一の波は,子どもたちが多様なメディアを用いて調べ学習や発表活動を展開することを大切にした情報教育である。1980年代後半から実践されるようになった課題研究型の情報教育である。ビデオカメラやテープレコーダーで取材をしたり,コンピュータでアンケートデータの分析やレポートの作成を行ったり,そして調べてまとめたことをOHPやビデオ,コンピュータで発表するのである。
第二の波は,1990年代になってから実践が提案された総合表現型の情報教育である。子どもたちがマルチメディア型コンピュータを用いて,電子紙芝居や音楽付きのアニメーション,インターネットホームページ,マルチメディア百科事典,マルチメディアデータベースなどを制作することを中心にした情報教育である。
そこで本書では,情報教育の第三の波,つまり子どもたちのヒューマンネットワークをひらく情報教育の具体像を,理論と実践の両面から提案することを意図している。つまり,インターネットの使い方のノウハウを学ぶだけではなく,ホームページを制作することで終わるのでもなく,時間と空間の壁を乗り越えて,子どもたちが新しいコミュニケーションとコラボレーションを実践するために,オンラインで世界中の友だちと友情の輪をひろげることが大切なのである。コミュニケーションメディアを活用することによって,出会う可能性のなかった子どもたちが出会い,新たな交友関係が成立していくのである。
言い換えれば,情報教育における人間の復権である。これまで情報教育では,課題解決力や総合表現力,メディアリテラシーといった多様な技能を育てることを大切にしてきた。そうした積み上げを受けて,これからはコミュニケーションメディアで友情を育み,深めることを大切にしたいのである。実社会で行われる多様なプロジェクトでは,課題の達成や役割の遂行のために,人間関係における信頼や責任が重要である。ボランティア精神や支え合いの心,感謝の気持ちと倫理観も必要になる。こうした豊かな心を育てる情報教育こそが今求められているのではないだろうか。
そこで第6巻では,本講座で提案している総合的な学習のカリキュラムデザインの中から最後に「共同交流型カリキュラム」を選んで,その特徴を豊富な実践事例とともに考えてみることにしたい。
さて,本書の構成は次のようになっている。
共同交流型の総合的な学習は,子どもをネットワーカーに見立てて,そのために必要なネットワークリテラシーや人間関係調整力を育てることをねらいとしている。
そこでまず始めに,第T章で,「共同交流型」の総合的な学習の特徴を,その社会的な必要性,子どもに育てたい力,単元モデル,典型的な単元アイデア,そして評価のあり方という5つのポイントから考えてみることにしたい。
次に第U章では,もう少し具体的に,この「共同交流型」の特徴をとらえてみたい。著者の前田康裕先生は,インターネットやテレビ会議システムを用いた国際交流を中心とした総合的な学習を試行してこられた。そのような豊富な実践経験に裏付けられた英知をまとめていただくことにした。
第V,W章では,小学校と中学校における実践事例の報告をお願いすることにした。全国で,この「共同交流型」の総合的な学習を試行されている優れた先生方に,執筆をお願いしている。例えば,国内では大阪と沖縄の子どもたちが郷土文化についてテレビ会議システムを用いて教え合ったり,国際交流としては,お茶や歌舞伎をテーマにして異文化理解を進めていった子どもたちの様子を紹介していただいた。ここからぜひ実践化に向けての豊かなアイデアをくみ取っていただければ幸いである。
最後に第X章では,第V,W章の7つの実践事例について,編者のコメントをのせている。いくつかの実践を比較したり,実践報告には必ずしも書かれていないそれぞれの実践の特徴やメリットを,できるだけわかりやすく解説してみることにした。ここから,総合的な学習における授業づくりや,子どもを見る視点を読み取っていただければと願っている。
さて,編者と共にこの18年間にわたって,常に新しいアイデアとたくましい実行力で,総合的な学習のカリキュラム開発の最前線を切り開いてくださった共同研究者の先生方に,深く感謝したいと思う。日本の子どもたちを幸せにして,子どもの教育を通して新しい日本の創造に貢献しているのは,まさに本書で実践事例を提案してくださった先生方なのである。
なお,この巻に収めた国際交流学習を実践するにあたって,「2001年未来基金」(株式会社プロシード)の研究助成を得たことを記して感謝したい。
最後になったが,編者らのこのような真摯な取り組みに注目して,研究成果の公開をこのような全6巻という大きな講座で行うことを勧めてくださった明治図書企画開発部の江部満さんには,心から最大級の感謝の意をお伝えしたいと思う。
21世紀の学校改革が本講座から始まることを切に願っている。
編者 /田中 博之
-
- 明治図書