講座 総合的学習のカリキュラムデザイン4
社会参加型カリキュラムを創る

講座 総合的学習のカリキュラムデザイン4社会参加型カリキュラムを創る

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子どもをボランティアにする総合的学習、単元の基本モデルと典型的な活動、ボランティアの達人を育てる実践事例等を小・中ともに豊かに提案する。社会参加型スキルの評価。


復刊時予価: 2,926円(税込)

送料・代引手数料無料

電子書籍版: なし

ISBN:
4-18-112405-3
ジャンル:
総合的な学習
刊行:
対象:
小・中
仕様:
A5判 212頁
状態:
絶版
出荷:
復刊次第

目次

もくじの詳細表示

はじめに
T 社会参加型カリキュラムのデザイン
/田中 博之
1 21世紀になぜ社会参加が必要なのか
2 子どもをボランティアにする総合的な学習
3 単元の基本モデルと典型的な活動
4 実践スキルの評価ポイント
U 子どもをボランティアにする総合的な学習
/石堂 行文
1 子どもたちを「ボランティア」にしよう
2 育てる支援のポイント
3 社会参加型のカリキュラムの評価を工夫する
V ボランティアの達人を育てる実践事例(小学校編)
A やさしさ求めて
――福祉・環境・国際 /松本 貴之
1 子どもたちにつけたい力
2 単元を構想するにあたって
3 地域や子どもの実態を生かす工夫
4 活動の流れ(全35時間+α)
5 評価とこれからの課題
B わたしたちの町づくり会議――住みよい町づくり計画・灘小プランの発信
――地域・防災 /藤池 安代
1 地震が灘小学校に残したもの――地図が伝える灘の町
2 児童が置かれている環境
3 灘小学校の防災教育のあり方
4 具体的な実践事例
5 成果と今後の課題
C 共に生きる社会「福祉ってなあに」
――福祉・地域 /森鼻 佐重子 /山下 一 /蔵垣内 収子 /岸上 千鶴
1 支援にあたって
2 単元目標
3 単元構想(全33時間)
4 学習活動計画(全33時間)
5 実践を終えて
T 体験学習(一次〜二次)
U 課題別クラスにおける学習(第三次における実践)
V すみれ子ども会議
W 実践活動
D 共に生きる
――福祉 /西 孝一郎
1 「共に生きる」(6年)の位置づけ
2 単元構想の4視点
3 この単元でめざす子どもの姿
4 学習の流れ
5 学習を終えて
W ボランティアの達人を育てる実践事例(中学校編)
A 「トライやる・ウィーク」の実践を通して得たもの
――1週間の中学校の職業体験学習 /坊垣 礼子
1 兵庫県のトライやる・ウィーク
2 本校の概要
3 昭和中学校の「トライやる・ウィーク」
4 成果と課題
B 3年生『現実社会と自分―社会参加実習―』の取り組み
――自分探し /東 秀和
1 生徒たちにつけたい力
2 単元構想のアイデア
3 地域を生かす工夫
4 生徒たちの学習の流れ
5 これからの課題
C マルチメディアで園児,シニアと交流
――情報・保育 /今田 晃一
1 参加と交流から自身のよさ(ボランティア精神)を発見しよう
2 参加と交流に留意したマルチメディア学習の構想
3 実践例1幼稚園児との交流――「Visual Basicプログラミングを用いた創作絵本の制作とReal Audienceとしての幼稚園での実演」
4 実践例2シニアとの交流――総合学習週間1年生基礎技能講座「シニアの方にWebページを学ぼう!」
5 メタ認知力育成をめざしたWebページ版ポートフォリオ評価――Web版「自己成長記録」の実践
6 今後の課題
X 実践事例の評価と課題
/田中 博之
1 小学校コメント
2 中学校コメント

はじめに

 人間は,社会的動物である。個と個が支え合って社会的活動を行ってはじめて,人間らしい生活を送ることができる。

 しかし一方では,社会的であるということは,個と個の違いから生じる摩擦やトラブルを避けて通ることはできない。そのために,国家は政治と裁判を,地域社会は宗教と警察を,そして日常生活の中で人々は人間関係調整力を必要としてきた。

 今,子どもたちの人間関係調整力やコミュニケーション能力が極度に衰え始めている。「ひきこもり」と呼ばれる社会現象が起きているのも,今日の子どもたちや若者が,自分と異なる考えや生活スタイルを持つ人々との関係を遮断してしまうことに原因がある。その逆に,人間関係上のトラブルを短絡的な暴力で解決しようという子どもたちや若者も増えている。トラブル解決のための忍耐力や持続力を育てる機会も能力も,子どもたちを育てる責任を持つ大人社会の方が失いかけていることこそ問題なのである。教育は変わらなければならない。

 問題はそれだけではない。今日,「フリーター300万人」と呼ばれる時代に,若者たちは定職を持たず,そこで求められる専門的力量を自ら伸ばしてより高い職業的地位を手に入れようとはしなくなっている。この構造改革の時代になるまで,現代の大人たちが,組織から与えられた限られた職能しか持たずに終身雇用制のもとに安住してきたことも問題であるが,そうであるからといって,自らの将来設計と自己実現のビジョンを持って転職をするのではなく,ただ,疲れた,飽きた,やめさせられた,好きなことがまだ見つからない,会社勤めはいやだというように,人生に対して多くの若者たちが自己責任を持てないような状況が蔓延していくことも問題である。

 雇用形態や雇用構造の流動化は,自己成長を絶えず続ける責任ある多数の自己の共同作業によって,新しいビジネススタイルや職業・職種を生み出していくのであって,フリーターには残念ながらそうした長期的展望にたったエネルギーと力量はない。また,高度高齢化社会において,フリーターは,必要な経済的価値を生み出すためにもパワー不足である。

 そのため,日本政府は,これから,大変残念なことに,国内の若者を頼りにすることはできずに,海外からの若年労働者の受け入れを積極的に行わなければならない状況にある。少子化が進めば進むほど,若年労働者が不足することを考えれば,わが国のフリーター問題は,若者の自由な精神の結果というように,気楽にそのままにしておいてよいものでは決してないのである。

 したがって,若者たちに,これからの人生に関わる夢と希望を抱かせ,自ら進んで自己の職能成長を図っていくような,たくましい人生エネルギーを育むことが急務の課題になっているのである。それこそが,「生きる力」であるといってよい。

 3つめの課題は,21世紀は相互扶助の社会であるということである。もちろん,直接的には,福祉社会や高度高齢化社会の到来を意味している。しかし,問題をより根元的に考えてみると,福祉高齢化のみならず,これからの社会は,行政の施策や税金でできることに限界が見え始めた時代ということができる。「官は民を補助する」だけでなく,一人ひとりの市民の自助努力と,市民と市民の間の相互扶助の努力によって,より生き生きとした活力あふれる共生・福祉社会が生まれるのではないだろうか。

 何か困ったことがあれば,必ず助けてくれる人がいる。そうした相互扶助的なヒューマンネットワークを構築することが,これからの21世紀社会とそこに生きる人々の課題になるのである。その意味で,すべての市民がボランティアの技術と精神を身につけておくことが必要になってくる。

 ただし,ここでいうボランティアとは,高齢者や障害者と共に取り組む福祉ボランティアだけを意味しているのではない。海外の恵まれない子どもたちへの募金活動や国内で困難を抱える外国人への生活サービスを行う国際ボランティア,リサイクルや清掃活動などを通して地域の環境問題を改善する環境ボランティア,そして,情報化の恩恵を受けにくい人々にIT講習やHP制作代行サービスを実施する情報ボランティア等も広義のボランティア活動である。

 最近では,福祉ボランティアの中にも,これまでのように,点字翻訳,手話サービス,さらに,介護や介助に関わる活動に加えて,楽器の演奏や合奏を通したミュージックボランティアや,子育て支援を行う育児ボランティア,インターネットで悩みの相談を行うネットワークボランティアなどの多様な広がりが生まれている。

 このような大きな3つの理由と課題において,わが国の学校教育が,総合的な学習を通して社会参加型カリキュラムを実践する大きな理由がある。まとめていえば,社会参加型の総合的な学習は,これからの相互扶助社会において,豊かなヒューマンネットワークを築いて,自己の人生を職業を通して豊かにし,さらに,多くの人々を支えることができるようになるために,多様なボランティア活動や職場体験学習を通して,将来の生き方を考える力と人間関係調整力,そしてボランティアの技術と精神を育てる学習である。

 以上のような問題意識に基づいて,この第4巻では,社会参加型の総合的な学習を実施するためのカリキュラム構成について具体的に提案することをねらいとしている。

 さて,本書の構成は,次のようになっている。

 まず,第T章では,編者が,社会参加のねらいや教育目標,実践にあたっての考え方などを,理論的に考察している。

 そして,第U章では,わが国で社会参加型の学習を教育に取り入れるために優れた実践研究をしておられる伊丹市立伊丹小学校の石堂行文先生に,理論と実践をつなげながら,社会参加型の活動を導入するためのポイントを解説していただいた。

 第V,W章では,小学校と中学校において優れた実践をしておられる全国の先生方にお願いして,社会参加型の総合的な学習の実践事例についてレポートをお願いした。どの実践も,調査研究型の実践事例が多い中で,社会参加というこれからの総合的な学習の新しい方向性を力強く提案していただくことができた。心から感謝している。

 最後に第X章では,第V,W章の7つの実践事例について,編者のコメントをのせている。いくつかの実践を比較したり,実践報告には必ずしも書かれていないそれぞれの実践の特徴やメリットを,できるだけわかりやすく解説してみることにした。ここから,総合的な学習における授業づくりや,子どもを見る視点を読み取っていただければと願っている。

 さて,編者と共にこの18年間にわたって,常に新しいアイデアとたくましい実行力で,総合的な学習のカリキュラム開発の最前線を切り開いてくださった共同研究者の先生方に,深く感謝したいと思う。日本の子どもたちを幸せにして,子どもの教育を通して新しい日本の創造に貢献しているのは,まさに本書で実践事例を提案してくださった先生方なのである。

 最後になったが,編者の執筆の大幅な遅れにもかかわらず,編者らのこのような真摯な取り組みに注目して,研究成果の公開をこのような全6巻という大きな講座で行うことを勧めてくださった明治図書企画開発部の江部満さんには,心から最大級の感謝の意をお伝えしたいと思う。

 21世紀の学校改革が本講座から始まることを切に願っている。


   編者 /田中 博之

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      明治図書

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