- まえがき
- T 新教育課程における学力の課題
- 一 新教育課程で学力は低下するか
- 二 何がほんとうの学力問題か
- 三 知の獲得の歪み形 ─式知と暗黙知の乖離─
- 四 注目されている「暗黙知」の世界
- 五 学習内容削減は乗り越えられるか
- 六 教育の「拡大」と「縮小」のジレンマ
- 七 未来創造型の教育と総合的学習の創設
- U 自ら学ぶ力の育成
- 一 「学ぶ心と力」の育成が難しい時代
- 二 「受験学力」から「進路学力」への転換を
- 三 自己肯定感をどう高めるか
- 四 子どもの学びのスタイルを変える
- 五 クロスカリキュラムの登場
- 六 自ら学ぶ力の形成 ─ワン・ツー・ワン(個別対応)の確立─
- 七 学校はどうチャレンジするか
- V 総合的学習の基本的な構造をどう考えるか
- 一 総合的学習のダイナミズム
- 二 教科主義を超える
- 三 「認識」と「行動」の統合
- 四 新しい学習形態としての総合的学習
- 五 総合的学習の「ねらい」と学習形態の固有性
- W 総合的学習で目指す学力とは何か
- 一 新しい指導要録の学力観
- 二 学習態度の育成と学習能力の形成
- 三 学習意欲重視と知識・理解
- 四 総合的学習の三つの層と学習スキル
- X 課題設定能力をどう高めるか
- 一 「問い」を忘れていた学校教育
- 二 学び方や学ぶ力の転換
- 三 課題発見の難しさ
- 四 子どものウォンツを先取りする
- 五 課題設定の企画書づくりのメモ
- 六 企画書づくりを積極的に進める
- Y 問題解決能力をどう高めるか
- 一 問題解決能力の育成は何が課題か
- 二 問題処理型から課題解決型へ
- 三 問題解決能力とは何か
- 四 小学校中学年で問題解決能力の自覚を
- 五 課題解決のプロセスとカリキュラムの構成
- 六 問題解決的な学習活動を生かす
- 七 課題追究段階の企画書づくりのメモ
- 八 成果発表における企画書づくりのメモ
- Z 学び方・ものの考え方をどう身につけるか
- 一 学び方・ものの考え方育成の課題は何か
- 二 学び方スキルはどうすれば身につくか
- 三 ものの考え方スキルをどう身につけるか
- [ 学習の主体的・創造的な態度をどう形成するか
- 一 主体性・創造性の育成の課題は何か
- 二 創造性教育の推移と課題
- 三 創造性育成の阻害要因と促進要因
- 四 総合的学習で創造性教育をどう進めるか
- 五 創造性スキルの考え方とその具体例
- \ 自己の生き方を考える
- 一 「生きる力」と「学び」の統合
- 二 進路・生き方を学ぶ総合的学習
- 三 知の増殖作用
- 四 総合的学習の実践から見えてきたもの
- 五 進路学力の形成に向けて
- 六 揺れ動く将来像
- 七 アドミッション・ポリシーの確立
- ] 総合的学習の評価
- 一 総合的学習の評価は何が課題か
- 二 子ども個々が生かされる評価を目指す
- 三 総合的学習の評価の進め方
- 四 自分の言葉で語れる子どもを育てる
まえがき
総合的な学習の時間(本書は総合的学習という)は、各学校での本格的な実施が始まった。
一般的に言えば、最近は、総合的学習をどう実施すればよいか、という実践スタイルの問題はおおよそ終わり、第二次ステージに入りつつある。これから問題になるのは、総合的学習でどのような「学力」を身につけられるか、ということである。
一方、最近特に課題とされているのは、教育内容削減による学力低下の問題である。各教科の学力をどう保持するか、が問われている。
これまでの教科教育の問題は、その教科の授業時間内で知識・理解を得させようとする傾向が強かった。そのような考えに立つと、学んで得た力を生活や生きる力に転換することが難しいだけでなく、授業時間削減はそのまま学習内容の削減につながり、学力低下に歯止めを掛けられないでしまう恐れがある。
それに対して、たとえば国語で学んだ「伝え合う力」を他の学習活動、特に総合的学習の各場面で活用できれば、子どもは教科で獲得した基礎や基本を応用したり、発展させたりすることが可能になる。つまり、各教科の基礎や基本は、学習スキルとして活用される。
そこで、本シリーズが描く学びの世界は、総合的学習と各教科国語、社会科、算数・数学、理科の両者の関連の中で、互いに有効な教育作用を見いだすことである。
そこに新しい学びの発見があると考えて本シリーズを構想した。
そこでシリーズの中でも本書は、総合的学習の学力とは何か、どう育てるか、という課題にチャレンジした。
ただ、総合的学習のダイナミズムから見れば、その学力形成は多様性・多面性を持つと考えるが、本書は今後すべての学校で総合的学習に取り組むことを考慮して、学力形成の最もベースになる部分に焦点を当てることにした。
その場合の学力モデルは、教育課程審議会が新指導要録に示した総合的学習の観点別評価項目である。そこには三つのタイプが見られる。
A 総合的学習の「ねらい」に導かれた観点項目として、「課題設定の能力」「問題解決の能力」「学び方・ものの考え方」「学習への主体的・創造的な態度」「自己の生き方を考える」がある。
B 教科との関連での観点項目として、「学習活動への関心・意欲・態度」「総合的な思考・判断」「学習活動にかかわる技能・表現」「知識を応用し総合する能力」がある。
C 他に各学校で定める目標・内容に基づいた観点項目として、「コミュニケーション能力」「情報活用能力」などがある。
各学校はこれらから観点を選んでよいのであるが、BタイプはおおよそAタイプの「課題設定、問題解決」に含まれる。また、Cタイプは重要であるが各学校によって違いが見られることを考えて、本書はAタイプの観点別評価項目に焦点化して学力の問題を考えることにした。
その意味で、課題追究活動のみでなく、学び方やものの考え方、学習の主体的・創造的な態度、とりわけ創造的思考や創造性スキル、また自己の生き方を考える、などはこれからの学校教育で具体的に追究すべき新しい学力形成の課題だと考える。
そうしたことから、総合的学習の「学力」形成を新しい視点で提案したいというのが、シリーズ第1巻としての本書の意図である。
そこで、次のような章立てを行った。
第T章は、最近の学力低下問題から、何がほんとうの学力問題なのか、を私なりに整理し、提案した。
第U章は、自ら学ぶ力の育成として学校教育でどう考えるべきかを提示した。
第V章は、総合的学習の基本的な構造を明らかにしようとした。総合的学習の豊かなダイナミズムを考える視点も提示した。
第W章は、総合的学習の「学力」をどう考えるか、という具体的な内容に迫った。新しい指導要録の学力観を踏まえて、総合的学習の固有な学力について提示した。
第X章は、個別の学力の第一歩として「課題設定の能力」をどう形成するか、を追究した。
第Y章は、「問題解決の能力」の形成である。
第Z章は、「学び方・ものの考え方」をどう身につけるか、である。
第[章は、「学習への主体的・創造的な態度」の形成であるが、創造的な思考や創造性スキルまで踏み込んでみた。
第\章は、「自己の生き方を考える」力をどう育成するかであるが、自己を考える場の設定や進路学力について提言した。
第]章は、このような学力形成についてどのように評価するか、その新しい考え方や評価の方法について提言した。
総合的学習のダイナミズムを考えれば、これらの論及でおさまりそうもないが、各学校が総合的学習を展開する場合の基本的な学力の考え方として参考にしてほしいと思っている。
最後に明治図書の江部満氏に心から感謝の意を表したい。
平成十三年六月 ベネッセ教育研究所顧問 /高階 玲治
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