- シリーズ 監修の趣旨
- 第1章 中学生が大学生になった
- ――キラキラ瞳輝く単元とは――
- 1.優れた実践は一瞬のひらめきで
- 2.生徒の瞳がキラキラ輝く
- 3.進化するキャンパスライフ体験プロジェクト
- 4.私もあんな自由な中で真剣に勉強したい
- 第2章 学力向上に「総合的な学習」は欠かせない
- ――同じベクトルに向く教科と総合――
- 1.総合不要論と一層の充実
- 2.中学校に立ちふさがるハードル
- 3.学力とは何だろう?
- 4.学力向上に「総合的な学習」が生きる
- 5.評価活動が学力向上に一役買う
- 6.生徒や保護者にも「総合的な学習」説明責任
- 第3章 単元づくりのアイディアと工夫
- ――教師のワザてんこ盛り――
- 1.苦労のしがいがあるってもんよ理論
- 2.「内容・時間・集団」の枠組みを作ろう
- 3.学校独自で「総合的な学習」の目標を作成しよう
- 4.小さな単元をつくろう
- 5.耳元でささやく
- 6.ささやきの極意
- 7.問題との出合いの機会を与える17のささやき
- 8.問題解決的な学習に工夫する
- 9.先輩の活動を参観させよう
- 10.賞味期限がある単元
- 11.生徒に「段取り」を考えさせる
- 12.わくわくイメージおもしろネーミング
- 13.フレーフレー研究主任
- 第4章 学力向上に結びつく実践事例
- ――学校版プロジェクトX――
- 事例1 リトルティーチャープロジェクト・小学校の先生になる
- ――教えるって難しい,でも教えるって楽しい――
- 事例2 サザエさんの忘れがたき昭和調べ
- ――地域の方が“先生” 聞き取り調査の極意伝授――
- 事例3 メンタルスポーツ勝利学
- ――いつもアガッて実力が出せない悩み解決プロジェクト――
- 事例4 生徒が作る学校案内パンフレットプロジェクト
- ――プロと交渉して固い枠も打ち破っちゃおう――
- 事例5 タイと日本でまったく同じ授業を展開すると
- ――お米を通した「総合的な学習」から国際交流へ意欲――
- 事例6 キャリアライセンスをとろうよプロジェクト
- ――意欲をはぐくむ各種検定の合格プロセス――
- 事例7 史上最強のラーメン学
- ――日本初,ラーメン検定のルーブリック作り――
- 事例8 日本人とは何か・日本を振り返ろうプロジェクト
- ――自分の足元をしっかり見つめる文化理解的アプローチ――
- 事例9 プレパパ・プレママ体験プロジェクト
- ――少子化は私たちが解決する――
- 事例10 人とのかかわりを良好にする生き方上手の訓練プロジェクト
- ――アサーショントレーニング「さわやかさん」になろう――
- ――ジレンマ学習・トゥールミンモデルの合意形成で歩み寄る――
- 第5章 総合的な学習の発展の方向性
- 1.自分たちでプロジェクトを企画したいです
- 2.が,しかし,ジレンマ
- 3.溥傑の家を探せプロジェクト
- 4.プロジェクト学習発進!
- おわりに
シリーズ総合的な学習で「学び」の未来を拓く
監修の趣旨
子どもが育つには,何と言っても“ゆとり”が必要です。もちろんゆとりとは,ただただのんびりすることを指すわけではありません。学ぶ気になる準備と納得のゆくまで追究するための時間的なゆとりのことです。
矢継ぎ早に浴びせられる大人からの要請に応えるだけの学びの環境には,ゆとりがありません。これまでの教育では,子どもの育ちを待てない大人の性急さから,そのゆとりが奪われてきました。不登校やいじめ,そしていわゆる学級崩壊などの現象は,そうした環境から発せられる子どもたちの悲鳴なのです。
総合的な学習の時間は,そうした状況を改善し,子どもたちのなかに確かな学びの意欲と自らの将来への見通しを何よりも大切にするために誕生したと私たちは考えています。そのために必要なことは,子どもの内側に学ぶ目的を明確にもたせることです。自分にとって何よりも重要で切実な問題のために,本気で学ぼうとする強い意志をはぐくむことです。
最近の子どもたちの様子から,多くの大人たちはそんなことは絵空事だと思うようです。そして,“鉄は熱いうちに打て”式の教育観が再び幅を利かし始めています。しかし,そう思わざるを得ない状況を作り出したのは,他ならぬ私たち大人であったことを思い知るべきです。悲しいことに,子どもたちも学校では自分たちが本当にやりたいことができないのだと思いこんでいます。学校の外ではそこそこ元気に振る舞うのに,学校に入ったとたんにシュンとしてしまうケースも決して少なくありません。
私たちは,そうした状況を改善することで,学びの意欲を再び取り戻すことが可能であると信じています。深い眠りについている子どもたちの意欲や問題意識を覚醒させる環境さえ整えれば,子どもたちが学びのステージに堂々と立つことができると信じています。
そのことを,私は過去3年にわたって“定点観測”を続けているアメリカのミネソタ・ニューカントリースクール(以下,MNCS)の生徒たちを見て確信しました。「今の悩みと言えば,やってみたいテーマがたくさんあってどれから取り組めばいいかということです」。プロジェクト学習に熱中している手を止めて,インタビューにこう答えてくれた中学生のはつらつとした表情を忘れることができません。それは,“学びからの逃走”が深刻化しているわが国の教育状況とはあまりに対照的です。むろん,MNCSがそこに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったと思われます。チャータースクールとして開校以来,10年近くの年月を費やしているのです。
総合的な学習の時間は,子どもたちを信じ,時間をかけて熟成させていくものです。私は新教育課程への移行期間である平成11年に「『総合』進化論」と名付けた一文を書きました。(『総合的学習研究1』千葉総合的学習研究会機関誌所収)その時期から,願いどおりの成果をあげるにはかなりの時間が必要であると考えていました。しかし志半ばで,すでに雲行きが怪しくなってきました。その主たる原因は,いわゆる“学力低下論”の嵐です。その余波で,教育の現場は相当に揺れています。「総合的な学習などをやっている場合ではない」という空気すら漂い始めています。
そうした混乱を察知したのでしょう。平成15年10月7日に,「初等中等教育における当面の教育課程及び指導の充実・改善方策について」と題する中央教育審議会の「答申」が発表されました。その内容は,新学習指導要領や学力についての基本的な考え方の再確認が中心となっていますが,総合的な学習の時間のあり方についても相当踏み込んだ指摘をしています。「骨子」からその点を確認しておきましょう。
(3)「総合的な学習の時間」の一層の充実
○ 「総合的な学習の時間」の趣旨に即した創意工夫あふれる取組が増加。一方で「目標」や「内容」が明確でなく検証・評価が不十分な実態や,教員の必要かつ適切な指導を欠き,教育的効果が十分上がっていない取組も。
○ 学習指導要領の記述を見直し,その趣旨を一層明確化。各教科等の学習内容との相互の関連や計画的な指導,学年間・学校間・学校段階間の連携等を明示。
○ 各学校において「学校としての全体計画」の作成,各学年の目標や内容,評価の在り方等についての自己評価の実施等により,取組内容を不断に検証。公民館,図書館,博物館,社会教育関係団体等との連携・協力や,地域の施設や経験豊かな人材など多様な教育資源を把握し,活用。
この「答申」に対して,その後の新聞報道では,特に「各教科の内容との関連」や「全体計画の作成」などが注目されています。しかし,そうしたフレームの整備よりももっと重要なことは,総合的な学習の時間における学びの質的向上をどう図るかという点です。その意味では,とりわけ「学校段階間の連携」「教員の適切な指導」「評価のあり方」の3点が重要だと思われます。
私たちは,これまでの実践や研究を通して,すでにそうした問題の所在を承知していました。そして,全4巻の本シリーズはその改善策を提言するために企画されました。いわば,中央教育審議会の「答申」に先駆けて,問題の整理と具体策の検討を行ってきたのです。
本シリーズが提案するのは,先に整理した問題に対応した次の3点です。第一は,小学校から高等学校までの12年間をかけて確かな学びと意欲をはぐくむ道筋を示すことです(第1巻)。第二は,教師の適切な役割とそれがもたらす教育的効果を検証することです(第2・3巻)。第三は,そうした道筋や学習環境を通して育つ子どもたちの「学力」を証明することです(第4巻)。
第2巻担当の佐瀬一生,第3巻担当の青木一は,いずれも平成10・11年の2年間にわたって,千葉大学大学院(社会科教育専攻)に在籍し,総合的な学習をテーマに修士論文をまとめました。第4巻担当の市川洋子も,平成11・12年に千葉大学大学院(理科教育専攻)に在籍し,ポートフォリオ評価について修士論文をまとめました。いずれも強い意志と教育への情熱を持ち合わせている千葉総合的学習研究会のメンバーです。今回の執筆はむろん大学院在籍期間中に執筆した修士論文が基盤になっていますが,その後に開発した意欲作を豊富に紹介します。
なお,監修の趣旨に照らせば高等学校編をぜひ加えたいところですが,残念ながら現時点では1冊にまとめるだけの実践例の集積ができませんでした。そのため,第1巻でできるだけ紙幅を充てて紹介しますが,そう遅くないいずれかの時期に第5巻として刊行したいと考えています。いずれにしても,子どもを至近距離から支えて奮闘している先生方にぜひともお読みいただき,教育の未来を拓く確かな第一歩を共に踏み出したいと願っています。
最後になりましたが,前シリーズ(『総合的な学習の評価〜子どもが伸びる評価の実際〜小学校編・中学校編』)に引き続き,今回もまた私どもに出版のための機会と勇気を与えてくださった明治図書の仁井田康義さんに,そして多くの貴重な実践事例を提供してくださった方々に,心から御礼申し上げます。
平成16年1月 監修者 /上杉 賢士
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- 明治図書