- まえがき
- 第T章 自尊感情をはぐくむ道徳授業への期待
- 1 子どもたちの現状
- 2 自尊感情の概念整理
- (1) 自尊感情と「自尊心」・「セルフ・エスティーム(self-esteem)」
- (2) 自尊感情と「自己概念」
- (3) 自尊感情の定義
- @評価感情(William James)と自己価値(遠藤辰雄)
- A自己に対する肯定的または否定的態度(Rosenberg)
- 3 自尊感情をはぐくむ道徳授業のための手立て
- (1) 価値の主体的自覚を目指す授業の必要性
- (2) 価値項目の設定
- @自尊感情形成と「生命尊重」
- A自尊感情形成と「個性の伸長」
- B自尊感情形成と「人間のよさ・生きる喜び」
- C自尊感情形成と「よりよい社会の実現・集団生活の向上」
- (3) 他者とのかかわりの重要性 協同学習の設定
- 4 自尊感情変容の分析・生徒の見とり
- 5 本書に収められた授業実践
- 第U章 自尊感情の形成を促す道徳資料と指導案
- @資料 「自分のことが好きですか?」 [1年] 1−(5)
- A資料 「世界でたった一つ」〜私だけの紋章〜 [1年] 1−(5),2−(5)
- B資料 「栄光へのかけ橋」 [2年] 1−(4),1−(3)
- C資料 「何気ない言葉」 [2年] 2−(2)
- D資料 「小さな自信」 [3年] 1−(2)
- E資料 「大企業を相手に内部告発」 [3年] 1−(3)
- F資料 「おばあちゃんの写真」 [3年] 1−(4)
- G資料 「生きがいを見つける」〜神谷美恵子の生き方を通して〜 [3年] 1−(4)
- H資料 「これからの自分」 [3年] 1−(5)
- I資料 「私の顔って,こうなの?!」〜自分の表情を知り,これから何に気を付けるのかを考える〜 [3年] 1−(5)
- J資料 「君ならできる!!」 [3年] 2−(3)
- K資料 「ピアノのない歌」 [3年] 3−(3)
- L資料 「わたしのまち」 [3年] 4−(2)
- M資料 「第2日曜日の朝に…」 [3年] 4−(2)
まえがき
教師として生徒に対するとき,わたしが常に心に置いている言葉が『母港』である。これはある先輩の先生が述べられていたことだ。「子どもたちは社会の厳しさ,周囲の冷たさを,ふだんの生活やこれからの社会生活の中でいや応なしに感じていく。今感得させなければならないのは,『世の中には信頼できるあたたかな人間がいる』,『自分を心から大切に思ってくれる人がいる』という心である。これを『母港』と言うのだ」と。
この言葉は,わたしが現職派遣(教員の立場のまま大学院に在籍すること)で上越教育大学大学院在学中に,講義で聞いた言葉と重なった。「教師は生徒の『拠点』たれ」。多忙を極める学校現場でふとこのことを思うとき,教師として今,何をすべきかが見えてくる。
「母港」を道徳の授業に置き換えると,どうなるであろうか。子どもたちが大人になったときに心を支えるもの,このことだったのだなと戻れる心の置きどころ,つまずいたとき,悩んだとき,傷ついたとき,次に進める一歩を踏み出す力となるもの,そんな「母港を築くための道徳授業」が,子どもの心を耕し,自尊感情の形成を促すのではないだろうかと考えている。
わたし自身,これまでの道徳授業の実践を振り返ると,最後に自己反省を促すような,決意表明道徳,懺悔道徳,説教道徳があったように思う。授業中下を向いてしまう子ども,重い雰囲気が漂う教室。これでは,子どもの自尊感情の形成を促す道徳授業にはなっていかない。
授業が終わった後に,あたたかく笑顔があふれるような雰囲気に包まれ,相互の受容や共感,理解が進み,自己との対話を通じた自己理解が深まる。「こんなふうに生きていきたいな,今の自分もいいな」という前向きな感情が芽生えるような授業。そんな心の通い合う道徳授業を通じて,生きる希望を与えてくれる,自尊感情の形成を促せないかと考えている。
こうした刊行の趣旨を添えて,執筆者の方々へ原稿依頼をした。執筆者の方々の実践は,子どもたちに対するあたたかいまなざしと,教育者としての情熱に満ちている。この場を借りて厚く御礼申し上げたい。
また,出版にあたって多大なるご尽力をくださった明治図書出版,仁井田康義氏・近藤博氏に御礼申し上げたい。
そして,この一冊は,わたしが大学院でまとめた修士論文『自尊感情の形成を促す道徳授業』がもととなっている。ご指導いただいた林泰成教授に心より感謝申し上げたい。
愛情に満ちたあたたかな道徳授業,「母港」を築くための道徳授業を,子どもたちに届けたい。
2011年1月 /佐久間 奈々子
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- 明治図書